88話 探偵、魔王とナルリスの攻略法を語る 9
<前回のあらすじ>
・魔王はどこか?
・宝石人達をどうやって助けるか?
この2つの謎の答えを、推理で導き出したジュニッツ。感謝するルチル。
残る謎は『魔王をどうやって倒すか?』だけである。
■魔王について
ルチルの感謝がひとしきりおさまると、俺は深く息を吸って吐いた。
静かな妖精の森の一角。
夜の闇を光魔法がそっと照らす中、推理は最終局面に入ろうとしていた。
「さて、今から魔王の倒し方を語るわけだが……アマミ」
「はい」
「まずは一度、魔王について振り返っておきたい。今回の魔王はどんなやつか、簡単に説明してくれ」
「わかりました」
アマミはうなずくと、魔王の特徴を紙に書いてまとめた。
◇見た目
巨大なイカ
◇動き
宙に少し浮いている。
動かない。
近づくと攻撃してくる。
◇攻撃
『人を操るスミ』
ある程度近づくとスミを放ってくる。
『風の刃』
逃げる時に風の刃を放ってくる。
『破壊の粒子』
魔王の上下前後左右をぶ厚く囲む粒子。
S級冒険者の魔法も、オリハルコンの矢も防ぐ。
◇備考
1時間触り続けると倒せる。
「以上が魔王の特徴です」
「いいぞ。この数日間で俺たちが調べた魔王の特徴が、簡潔にまとまっているじゃないか」
「えへへ」
アマミは嬉しそうに笑う。
「さて、このイカ型の魔王。アマミならどうやって倒す?」
「うーん……」
アマミはしばし考え込んだが、やがて首を横に振った。
「……ダメです。さっぱり分かりません」
「つまり勝てねえってことか」
「ええ。この魔王に勝つ方法が思いつきません。何が厄介って、破壊の粒子ですよ」
そう言うと、アマミは説明をした。
魔王の全身は、破壊の粒子で守られている。
隙間なんてない。破壊の粒子は、魔王の上下前後左右を常に隙間なく覆っている。
そして、この粒子は極めて強力である。
S級冒険者であるレコのあらゆる魔法を消し去り、同じくS級冒険者であるキーロックの矢すらも粉砕した。
アマミが魔法や矢を放ったとしても、やはり破壊の粒子に消されてしまうだけだろう。
といって、近づいて剣や槍で攻撃しようにも、破壊の粒子があるから近づくことすらできない。
事実、一級品の防具で身を固めたキーロックも、破壊の粒子によって一瞬で全身を粉砕されてしまった。
一応、魔王には『1時間触り続けるだけで死ぬ』という弱点はあるが、破壊の粒子に覆われている以上、近づくことすらできないのだから、この弱点を突くこともできない。
要するに、魔王には近距離攻撃も遠距離攻撃も効かないのだ。
「となると搦め手くらいしかありませんけど……」
搦め手といっても何をすればいいのか?
魔王の周りに土砂を積み上げて生き埋めにするか?
ダメだ。
タスマンはこう言っていた。
――「どうも魔王は、自分の周辺の地形が大きく変わると、元に戻してしまうみたいッスね」
積み上げた土砂も、元に戻されてしまうだろう。
じゃあ、魔王のいる部屋で火をおこして、部屋全体を酸欠にして魔王を窒息死させるか?
ダメだ。
魔王は呼吸をしない。
――「魔王は呼吸をしないらしいッスから、埋められても窒息死することはないですし」
だったら、有毒な気体を発生させて、部屋を毒でいっぱいにして、魔王を毒殺するか?
ダメだ。
魔王に毒が効くかは不明だし、破壊の粒子で覆われている魔王に毒が届くかも分からない。
だいいち、何が魔王にとって有毒なんだ? そして、有毒な気体を発生させる方法ってなんだ? そんなもの、俺もアマミもルチルも一度も話に出したことがない。知らないものを推理の材料になどできない。
「そういったわけで、色々と考えましたけれども、さっぱりです。ジュニッツさんが自信を持って『魔王を倒せる』と断言するからには、れっきとした根拠があるはずなんでしょうけれども、わたしにはちんぷんかんぷんですよ」
アマミはそう言って、降参するように両手を左右に広げる。
「ルチルはどうだ? 魔王の倒し方と言われて、何か考えはあるか?」
「む? わらわか? ……ううむ……いや、わらわもさっきから考えてはいるのじゃが、まるで分からぬ。わらわの自爆が効けばよいな、と思う程度じゃ」
「さすがに自爆なんて、させやしねえさ」
4日前、アマミは自爆の威力について、こう語った。
――かつて、とある宝石人の村に魔王が現れた時に自爆攻撃をしたところ、魔王は無傷だったらしい。
魔王に自爆が効く可能性は低い。
だいいち、あれこれ手を尽くして宝石人を救出しようとしているのに、その宝石人を自爆させたら、何がしたいのか分からないではないか。
「むう……自爆の他は、何も思い浮かばぬ……」
どうやらルチルも降参のようである。
俺は魔王の倒し方を明かすことにした。
◇
■記録の矛盾
「さて、では魔王の倒し方だが……最初に見ておきたいのは、レコの記録だ」
レコが魔王と戦った時の記録。
そこには、おかしな矛盾があるのだ。
「矛盾ですか?」
「ああ。まずはここを見てくれ」
レコの記録の序盤のシーンである。
――さて、その相棒のキーロックは筋肉むきむきの男である。
――わたしより頭半分背が高く、横幅は更にでかい。
「これは、魔王の部屋に入る前のシーンで、レコが普段のキーロックについて書いた文章だ。ここから分かるのは、キーロックの身長は、レコより頭半分高い、ということだ」
頭半分というのは、どれくらいの高さだろうか?
先ほど推理したように、レコは人間、キーロックは宝石人である。
そして、宝石人の外見は人間とほとんど同じだ。見た目の違いと言えば、髪の色、目の色、胸元の赤い宝石くらいである。
――宝石人というのは、人間に近い種の1つである。エルフやドワーフのようなもの、と言えばいいか。
――外見は人間とほぼ同じだが、いくつか違いがある。
だから、レコもキーロックも頭の縦幅は人間サイズ。20~25センチ程度ということだ。
頭半分というのは12センチくらいになるだろう。
「だから、仮にレコの身長を170センチとすれば、キーロックは182センチくらいだったということだ。ここまではいいな?」
「え、ええ、まあ」
アマミは話がどこに向かっているかが分からないのか、困惑気味にうなずく。
「じゃあ、次はこれを見てくれ」
先ほどと同じく、レコの記録からの抜粋である。
今度は魔王の部屋に入った後のシーンだ。
――少し先の話になるが、魔王の攻撃を食らったわたしたちは、回復の時間稼ぎのため、魔法のバリアの中に閉じこもっていた。
――その時も、キーロックは笑っていた。
――たくましい体に、赤く逆立った髪、鋭い目を持つ彼は、絶望的にピンチな状況であっても、わたしより頭半分高い視線から「大丈夫、なんとかなるさ」と言って、安心させるようにニヤリと笑みを浮かべていた。
「魔法のバリアの中で、キーロックはレコより頭半分高い視線から笑みを浮かべているな?」
「え、ええ……」
「おかしいと思わねえか?」
「え? ど、どこがです? キーロックさんはレコさんより頭半分背が高いんでしょう? なら、おかしな描写ではないのでは?」
「いや、おかしいんだよ。なぜなら、キーロックは魔法のバリアの中にいる間、ずっと岩の上に乗っていたんだから」
「あっ!」
レコの記録には、こう書いてある。
――そう言うと、キーロックは剣を構えた。
――先ほども書いたが、彼はバリアの中に入ってからずっと威嚇のため、直立して、左腕を斜め上に伸ばして、目と口を大きく開け、岩の上に乗るという格好をしていた。
――その格好を「やれやれ、やっと動ける」と言わんばかりに崩し、剣を構えたのだ。
――同時にバリアが消える。
「キーロックは、バリアの中では、ずっと岩の上に乗っていた。当然、岩の高さの分だけキーロックの視線は高くなるはずだ」
普段のキーロック :レコより頭半分高い
岩に乗ったキーロック:レコより頭半分+岩の高さのぶん高い
「にも関わらず、岩に乗ったキーロックの視線は『レコより頭半分高い』だけだった。岩の高さが無視されている。おかしいだろ?」
「う、うーん……」
アマミはしばらく考え込んだ後、こう言った。
「……岩がすごく低かったということはないでしょうか? 高さ1センチくらいだったとか」
「岩の高さは20センチだ。全然低くねえ」
レコ自身がそう記述している。
――おまけに、地面に転がっている高さ20センチばかりの岩の上に乗っている。
つまり、こうなっていないとおかしいのだ。
岩に乗ったキーロック:レコより頭半分+岩の高さだけ高い
だが、現実はこうであった。
岩に乗ったキーロック:レコより頭半分高い
「20センチの岩に乗っているのに、レコとの視線の高さの差が普段と変わらないんだ。おかしいだろ?」
「うーん……キーロックさんが膝を曲げていたというのはどうでしょう? 膝を曲げれば、そのぶん視線も低くなりますよ?」
「それはない。バリアの中にいる間、キーロックはずっと直立していたんだ」
――先ほども書いたが、彼はバリアの中に入ってからずっと威嚇のため、直立して、左腕を斜め上に伸ばして、目と口を大きく開け、岩の上に乗るという格好をしていた。
膝を曲げる姿勢のことを直立していたとは言わない。
そもそもキーロックは、自分を大きく見せるために岩の上に乗っていたのだ。膝を曲げて自分を小さく見せたら、意味がない。
「じゃあ……あっ、そうだ! レコさんも高さ20センチの岩に乗っていたというのはどうです? 2人とも岩に乗っていれば、2人の視線の高さの差も普段通りです!」
「それもありえない。レコは地面を直接踏みしめているんだ」
レコの記録にそう書いてある。
――わたしも地面をしっかりと両足で踏みしめ、まっすぐに立ち、その体勢で治療をする。
「うーん……じゃ、じゃあ、岩じゃなくて、レコさんが高さ20センチの厚底の靴を履いていた、という考えはどうでしょうか?」
「それも違う。レコは、いつも底の薄い靴を履いていた」
書庫で見つけた老人の日記には、こう書いてあった。
――その後も老人は日記で、レコとキーロックはいつも底の薄い歩きやすい靴を履いていたが、(後略)。
「そ、それじゃあ……そうだ! 地面がデコボコしていたというのはどうでしょう? レコさんはたまたま地面が20センチくらい高く盛り上がっているところに立っていたんです」
「それもありえない。部屋は真っ平らだったからな」
レコは魔王の部屋について、こう書いている。
――部屋の中は、基本的に何もない。
――きれいに真っ平らな土の床が広がっているだけである。
「……ううん、レコさんがスキルとかアイテムで背を高くした……というわけでもないですよね?」
「そうだな。ないな」
アマミ自身がこう言っている。
――「残念ながら、体型を変えるスキルも祝福もアイテムも、世の中には存在していないですねえ」
「えっと、じゃあ、じゃあ……」
アマミはそう言うと黙りこくった。
これ以上、何も思い浮かばないようである。
俺は答えを言うことにした。
◇
■矛盾の答え
「キーロックが高さ20センチの岩に乗っていたにもかかわらず、レコとの視線の高さの差が、普段と変わらなかった理由は何か? 地面がデコボコしていたわけでも、膝を曲げていたわけでもない。残る可能性はただ1つ。キーロックの背が20センチ縮んだんだよ」
アマミは目をパチクリさせた。
二度、三度とまばたきする。
そして、こう言った。
「い、いやいや、な、何を言っているんです! そんな、急に背が縮んだだなんて……」
「たしかに、背を縮めるスキルやアイテムはない。だが、種族としての性質なら別だ」
「性質?」
「思い出せ。キーロックは宝石人だ。そして、宝石人は故郷から離れるとどうなる?」
「あっ!」
「そうだ、足が短くなるんだ」
宝石人は、故郷から離れるほど足が短くなっていく。
たとえば、500キロ離れれば3センチ短くなる。
――まず故郷から5キロ離れると、その瞬間、足の長さが突然1センチ短くなる。さらに、髪も突然30センチ短くなる。
――要するに、短足で短髪になるのだ。
――この現象は、故郷のダイヤからの距離が10倍になるごとに発生する。
――故郷から50キロ離れると、故郷にいた時と比べて、足は2センチ短くなり、髪は60センチ短くなる。
――故郷から500キロ離れると、故郷にいた頃と比べて、足は3センチ短くなり、髪は90センチ短くなる。
「足が短くなれば、当然そのぶん背も低くなるだろ?」
「え、ええ」
「それが答えさ。魔王の玉に触れることで、キーロックは魔王の部屋に転移した。転移した距離の分だけ故郷から遠く離れ、そのぶん背が低くなった。具体的には20センチ低くなったのさ」
キーロックの故郷と、エルンデールの町が何キロ離れているかは分からないが、仮に500キロ離れているとしよう。
するとキーロックは、エルンデールの町にいる時点で、故郷にいた頃より3センチ背が縮んでいることになる。
そして、エルンデールの町の地下迷宮から、魔王の部屋に転移したら、さらに20センチ縮んだ。
ということは、トータルで故郷にいた頃より3+20で23センチ、キーロックの身長が縮んだことになる。
故郷にいる時 :本来の身長
エルンデールにいる時:3センチ縮んだ
魔王の部屋にいる時 :23センチ縮んだ
「ちょ、ちょっと待ってください! 背が23センチ縮んだって、魔王の部屋はどれだけ遠いんですか!?」
「難しい話じゃねえさ」
さきほどの繰り返しになるが、あらためて見てみよう。
まず、故郷から5キロ離れると、キーロックの背が1センチ縮む。
――まず故郷から5キロ離れると、その瞬間、足の長さが突然1センチ短くなる。
以降は、故郷からの距離が50キロ、500キロ、5000キロ、と10倍になるごとに1センチずつ短くなっていく。
――この現象は、故郷のダイヤからの距離が10倍になるごとに発生する。
――故郷から50キロ離れると、故郷にいた時と比べて、足は2センチ短くなり、髪は60センチ短くなる。
――故郷から500キロ離れると、故郷にいた頃と比べて、足は3センチ短くなり、髪は90センチ短くなる。
故郷から5000キロ離れれば、背は4センチ縮む。
故郷から50000キロ離れれば、背は5センチ縮む。
故郷から500000キロ離れれば、背は6センチ縮む。
「ま、待ってください、ジュニッツさん。じゃあ、23センチ背が縮むということは……」
「そうだ。故郷からの距離は、50000000000000000000000キロ(50000000000兆キロ)ということになるな」
つまり、魔王の部屋は、キーロックの故郷から50000000000兆キロ離れているということである。
「え、え、えええーーっ!? な、なんです、そのメチャクチャな距離は!」
「メチャクチャか?」
「メチャクチャですよ! わたしたちがいる大陸の全長より、はるかに長いじゃないですか!」
たしかに、昨日、大陸の端から端までおおよそ15000キロある、という話をした。
50000000000兆キロというのは、そんな大陸がゴミ粒に見える距離である。
「そ、そんなメチャクチャな距離、ありえないですよ!」
「ありえるさ。難しく考えることはねえ。つまりな、こう考えればいいのさ。魔王の部屋は別の星にある、と。別の星なら、50000000000兆キロ離れていてもおかしくねえだろ? レコとキーロックは、魔王の玉に触れた時、別の星に転移したんだよ」
レコとキーロックは魔王の部屋で、巨大なイカの姿をした魔王と戦った。
スミと風の刃を放つ魔王と必死で戦い、最後はキーロックは死に、レコも致命傷を負った。
あの戦いは、別の星で起きたことだったのだ。
魔王は別の星にいたのだ。
まとめると、こうだ。
俺達の住む星には地下迷宮がある。
迷宮の中には魔王の玉がある。
<俺たちの住む星>
□□地下迷宮□□□
□ □
□ 魔王の玉 □
□ □
□□□□□□□□□
魔王の玉に触れると、別の星の魔王の部屋に転移する。
魔王の部屋には魔王がいる。
レコとキーロックは、ここで戦ったというわけだ。
<別の星>
□□魔王の部屋□□
□ □
□ 魔王 □
□ □
□□□□□□□□□
◇
■アマミの疑問
ふと見ると、アマミは絶句していた。
ルチルも絶句している。
おおよそ1分ほど経った頃、ようやくアマミが言葉を発した。
「い、いやいや、そんな、だって別の星だなんて……」
「レコとキーロックは魔王の玉に触れて、魔王の部屋に転移したんだ。言ってしまえば、魔王の部屋がどこにあるかなんて分からない。だったら、別の星にあってもおかしくねえだろ?」
「で、でも、魔王が別の星にいるなんて……」
「魔王はどんな異常な場所にも出現する、と言ったのはアマミだぞ?」
アマミは昨日、こう言っている。
――≪魔王ってのはどんな異常な場所に現れてもおかしくない存在なんです≫
遠い別の星に魔王が出現してもおかしくない。
「で、ですが、魔王と、魔王の玉があまりにも離れすぎてますよ?」
「その2つがどれだけ遠く離れても問題ない、と言ったのもアマミだぞ?」
アマミは昨日、こう言っている。
――≪ええ、魔王はどれだけ遠く離れたところにも玉を作り出せると言われていますし、やっかいです≫
「で、でも……そ、そうだ! キーロックさんは魔王と戦ってましたよね? 全力で走ったり、風の刃を防いだりしていました。でも、いきなり足が20センチも短くなったら、そもそも体がうまく動かせなくてまともに戦えませんよ!」
「普通はな。だが、キーロックは違ったんだ」
キーロックは、レコにこう言っている。
――「それに、オレは体に異常や異変があっても、すぐに適応することができる。昔からそういうのが得意だったんだ。よく知ってるだろ?」
「キーロックは体に異変があってもすぐに適応できるのさ。だから、背が急に縮んでも、問題なく体を動かすことができたんだよ」
レコの記録では、魔王の部屋に転移した直後の場面が欠落している。
そして、欠落した箇所の次のシーンではこう書いてある。
――さて、バタつきはしたが、ここで状況を整理するためにも、わたしたちが今いる魔王の部屋の構造について書いておこう。
なぜバタついたのか?
キーロックの背が急に縮んだからだろう。
いきなり相方の身長が20センチも縮めば、当然バタつく。
レコは混乱しただろう。「どうして縮んだんだ!?」とか、「そんなに縮んだら、まともに戦えないではないか!? 撤退すべきだ!」とか叫んだだろう。
それに対して、キーロックは、背が縮んでも問題ないことを示してみせたのだろう。
魔法のバリアの中にいるシーンで、キーロックは、自分が体に異変があってもすぐに適応できることを「よく知ってるだろ?」とレコに言っていた。
なぜ、レコが『よく知っている』と確信しているかと言えば、この時に適応力を見せたからだ。
「な、なるほど……」
「他に疑問はあるか?」
「そうですね。細かい話ですが、宝石人って故郷から離れると髪も短くなるんですよね? そんな遠い星まで行って、キーロックさんの髪は大丈夫だったのでしょうか?」
「大丈夫さ。どれだけ故郷から離れても、宝石人の髪は5センチよりは短くならねえ」
――「ああ、どれだけ遠く離れても、髪は5センチより短くはならないらしいです」
「あっ! そ、そうでしたね。わたし自身が説明したことでした。恥ずかしいなあ……」
「納得したか?」
「ええ。相変わらずジュニッツさんは異常な推理力というか、よくそんなこと思いつくなあと感心しますよ。ふふっ、実はジュニッツさん、推理の神様が人間に化けているんじゃないですか?」
「何をわけの分からねえこと言いやがる」
それから、俺はルチルの方を向いた。
「ルチルはどうだ? 何か疑問はねえか?」
「うむ……ではひとつだけ。ジュニッツ殿の推理は、一言でいうと『魔王は別の星にいる』ということじゃよな? 言い換えれば『エルンデールの地下迷宮に魔王はいない』ということじゃよな?」
「ああ、そうなる」
「じゃが、エルンデールの住民達は、地下迷宮に魔王がいると信じておる。なぜそんな勘違いを?」
「魔王の玉が、地下迷宮にあるからさ」
今日の昼、俺とアマミはこんな会話をした。
――「そういや、アマミは前に、この町の地下に魔王がいるのが感覚で分かるって言ってたよな?」
――「ええ、なんというか、ある程度のレベルになると分かるんですよね。魔王からも、魔王の玉からも、全く同じ嫌な雰囲気が漂っていて、多少離れていても、この嫌な雰囲気は分かるんですよ。もっとも、迷宮の存在のせいか、雰囲気はぼやけてて、たとえば『地下15階の北西の端の部屋』みたいな具体的な場所までは特定できませんが」
「魔王と、魔王の玉は、全く同じ嫌な雰囲気がある。おまけに、その雰囲気は、地下迷宮のどこにあるかも分からないくらいにぼやけているんだ。
だから、迷宮内に『魔王』と『魔王の玉』が両方存在するのか、それとも『魔王の玉』しか存在しないのかなんて、区別がつかなかったんだろうさ」
「なるほど……」
「疑問は解消されたか?」
ルチルはうなずいた。
「うむ。相変わらず見事な推理力なのじゃ。小さな矛盾からここまで分かるとは……。じゃが……」
「ん?」
「魔王が遠い別の星にいるとして……それがいったいどういう風に魔王の倒し方につながってくるのじゃろうか?」
なるほど、ルチルの疑問はもっともである。
「安心しろ。ちゃんと魔王の倒し方につながってくるさ。そいつをこれから解き明かそう」




