85話 探偵、魔王とナルリスの攻略法を語る 6
“――”で始まる文章は過去の話からの引用です。
「魔王の居場所を突き止める方法、それはこれだ」
俺はそう言うと、スキルボードを出した。
そして、俺の唯一のスキル『月替わりスキル』の能力の1つを見せた。
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『強制チェスリル』
指名した相手と、金・アイテム・スキルを賭けて、ボードゲーム『チェスリル』で決闘ができる。
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「こいつで魔王の居場所が分かる」
アマミとルチルは「え?」という顔をした。
「え? チェ、チェスリルですか?」
「こ、これでどうやって居場所が分かるというのじゃ!?」
疑問を浮かべる2人。
そんな彼女たちに向けて、俺はこう言った。
「難しい話じゃねえさ。この強制チェスリルをナルリスに使うんだ。文字通り、強制的にチェスリルの決闘ができる能力だ。するとどうなる、アマミ?」
「どうなるって……もちろんナルリスと決闘をすることになりますよね? でも……それで一体どうなると言うんです?」
「思い出してみろ。強制チェスリルは、パターン22の決闘作法に従っておこなうんだ」
強制チェスリルの能力の内容を確認した時、俺はこう言っている。
――質問2.
――決闘に決まり事はあるの?
――質問2の回答.
――正式な『決闘作法(パターン22)』を守ってください。
「パターン22で決闘をする場合、決闘の流れはどうなる?」
「ええっと……ざっと言うとこんな感じですね」
1.決闘を申し込む
2.お互いが賭けるものを決める
3.勝負の場所を決める
4.勝負の場所に移動する
5.チェスリルの勝負をする
6.賭けの清算をする
「そうだ。これを見て何か気づかないか?」
「えっと……?」
「『3.勝負の場所を決める』だよ。ここで、場所を決められるんだ」
「あっ!」
アマミが声を上げる。
そう、チェスリルでは勝負の場所を決められるのだ。
誰が決めるか?
決闘を申し込む側……つまり今回で言えば俺である。
アマミとチェスリルの模擬戦をした時、俺はこう言っている。
――場所は挑戦者(つまり決闘を申し込む側)が決める。
「つまり、俺はナルリスにこう言えばいい。『チェスリルの勝負の場所は、魔王の玉のある部屋だ』とな」
魔王の部屋だと、さすがに危険である。
魔王の玉の部屋なら、魔王本体はいないし、魔王の玉に触れればすぐに魔王のところに行けるし、ちょうどいいだろう。
「じゃ、じゃが、ジュニッツ殿は魔王の玉の場所など知らぬのじゃろう? そんなところを勝負の場所にしてよいのか?」
ルチルが、そうたずねてくる。
「問題ねえ。勝負の場所は、挑戦者か対戦相手……今回なら俺かナルリスのどちらか1人が知っている場所なら可能だからな」
模擬戦の時、勝負の場所について、俺はこう言った。
――場所自体はどこでもいいが、挑戦者も対戦相手も知らない場所だとか、魔物が襲いかかってくるような危険な場所とか、そういう現実的に考えて勝負できないような場所はダメである。
「俺とナルリスが2人とも知らない場所は、勝負の場所にできない。言い換えれば、2人のうち1人が知っている場所なら、勝負の場所にできる。そしてナルリスは魔王の玉の場所を知っている。だから問題ねえってことさ」
「な、なるほどなのじゃ!」
実際、書庫で読んだ『チェスリル決闘こぼれ話集』では、富豪Cが富豪Dにパターン22の決闘を申し込んだ時、Cは自分の屋敷を勝負の場所に指定した。
だが、屋敷の場所を知っているのはCだけだった。
そのため、Cが道中の危険を排除しつつ、Dを案内したのだ。
それが決闘作法なのである。
――DはCの屋敷の場所を知らなかったが、Cは当然知っている。決闘の作法として、知っている側が道中の危険を排除しつつ、案内する。
「当然、今回の場合も、町の名士ナルリス様が、わざわざ道中の危険を排除しながら俺を案内してくれるってことさ」
「しかし……ナルリスのやつは大人しく案内してくれるじゃろうか?」
「するさ。案内しないとやつは死ぬんだからな」
パターン22の決闘作法は、とにかく違反したら死罪が待っている。
たとえば、先程述べた通り、決闘の流れはこうである。
1.決闘を申し込む
2.お互いが賭けるものを決める
3.場所を決める
4.勝負の場所に移動する
5.チェスリルの勝負をする
6.賭けの清算をする
より具体的に書くとこうなる(模擬戦の時に説明した)。
――1.挑戦者が対戦相手を直接訪れ、決闘を申し込む。対戦相手は拒否できない。
――2.挑戦者、対戦相手の順に、決闘で賭けるものを10分以内に宣言する。お互い拒否できない。
――3.挑戦者が勝負の場所を1分以内に決める。対戦相手は拒否できない。
――4.即座に2人一緒に勝負の場所に移動する。
――5.勝負の場所に着いたらすぐにチェスリルの勝負を開始する。1手は1分以内。反則、降参、試合放棄、時間切れによる負けは死んで償うこと。
――6.勝負がついたら、負けた側はすぐ賭けたものを支払う。
――この1~6までが決闘である。
この1~6の流れに少しでも逆らったら、どうなるか?
死ぬのだ。
――そして1~6に書いてあることに、どれか1つでも反したら、死罪である。
――たとえば、決闘で賭けるものを10分以内に宣言しなければ死罪だ。
通常の決闘の場合、死罪にするのは国だが、俺の能力『強制チェスリル』の場合は能力の力で死罪にする。
能力の説明には、こう書いてあった。
――質問4.
――決闘作法を守らないとどうなるの?
――質問4の回答.
――絶対に守らせます。
――正確には、能力の効果が発動している間、決闘作法を厳格に遵守できるよう、決闘する2人には身体に制約がかかります。
能力の力により、決闘作法は絶対に守らさせられる。
違反した場合は死ぬ。
そういう体になってしまうのだ。
――質問5.
――身体に制約がかかる?
――質問5の回答.
――例えば決闘作法には『対局中に席を立った者は、不作法の罰として死ななければならない』とあります。
――この記述通り、席を立つと、その瞬間に死ぬ体になります。
当然、勝負の場所への移動を拒否しても死ぬ。
繰り返すが、決闘作法で『4.即座に2人一緒に勝負の場所に移動する』と決まっており、なおかつ『1~6に書いてあることに、どれか1つでも反したら、死罪である』のだ。
即座に移動しなければ、ナルリスは死ぬ。
「分かるな? ナルリスは黙って案内するしかねえのさ」
「じゃ、じゃが、決闘中にナルリスは暴れるかもしれぬぞ?」
「それも死罪さ」
模擬戦の時、アマミはこう説明してくれた。
――決闘に関係なく次の行為のうちどれか1つでもしたら、神聖な決闘をけがした罰として、死んで償わなければならない。
――・私語
――・暴力
――・妨害
――・離脱
内容は以前に説明した。
4つとも言葉通りである。さほど複雑な意味はない。
私語は、決闘に関係のない余計なコミュニケーション。
暴力は、本人や仲間や部下が振るう暴力。
妨害は、決闘の邪魔をすること。
離脱は、勝負の場所に行く途中で寄り道をしたり、勝負の最中に逃げたりすること。
これらは全て禁止である。
正当防衛など、真っ当な理由があるならともかく、そうでないものは一切が禁じられている。
違反したら死罪だ。
「分かるな? ナルリスが決闘中に暴れようものなら、たちまち暴力か妨害に引っかかって死ぬ。やつとしては黙っておとなしく俺を案内するしかねえのさ」
ちなみに、強制チェスリルの能力の効果は、決闘の間ずっと続く。
能力の説明にもこう書いてあった。
――効果の開始は、念じて決闘が始まった瞬間です。
――効果の終了は、決闘が終わるか、時間切れ(決闘開始から8時間経っても決着がつかない)になった時です。
先ほども言ったように、決闘とは『賭けの内容や勝負の場所を決めて、移動して、勝負して、賭けの清算をする』という一連の行動すべてが決闘に含まれる。
その間、ずっと強制チェスリルの効果が続くのだ。
当然、その期間は、私語や暴力は死罪であり、ナルリスとしては素直に俺を案内するしかない、というわけだ。
「そういうわけさ。納得したか?」
だが、アマミもルチルも、まだ完全には納得していなかった。
まずルチルが疑問を発した。
「ナルリスが、おとなしく強制チェスリルにかかってくれるじゃろうか? 強制チェスリルをかける前に攻撃してくるかもしれぬぞ?
それに、ナルリスは町の名士なのじゃろう? そんなやつに決闘を挑んだら、町の住民たちが騒ぎ立てるのではないか? そうなると、その者達が決闘の邪魔をするかもしれぬじゃろう?
そして何より……身内の話で申し訳ないが、ナルリスがわらわの仲間たちを操って何かしてくるかもしれぬ……」
アマミもまた反論を口にする。
「魔王の玉の部屋で、ナルリスとチェスリルの勝負をしたとして……その後はどうするんですか? つまり、決闘が終わった後です。
たしかに決闘中は、強制チェスリルの効果で、『暴力は死罪』とかの規制がかかりますから、ナルリスも何もできません。大人しく決闘するしかありません。
でも、決闘が終わったら、そんな規制はなくなっちゃいます。何をやっても死罪になりません。ナルリスは暴れ放題です。彼はきっと怒り狂っていることでしょう。
わたしより強いナルリスがそんなことになったら、命の保証はできないですよ?」
アマミとルチルの疑問をまとめるとこうである。
・ナルリスに強制チェスリルなんてかけられるの?
・町の住民が邪魔しない?
・ナルリスが宝石人達を操って何かしてこない?
・決闘後にナルリスが暴れない?
俺はこう告げた。
「どれももっともな疑問だ。が、問題ねえ。全てクリアできる。その方法は……」




