66話 探偵、3つの能力について考える 後編
「さあ、最後の能力『スキル復元』を見るぞ」
俺はそう言うと、スキルボードに表示されている『スキル復元』の説明文に視線を向けた。
そこには、こう書かれていた。
『スキルの状態を24時間前のものに戻せる』
簡素な説明文である。
右下には『詳細説明』と書かれている。
俺はそこを押した。能力の詳しい説明文が出てくる。
例によって堅苦しい文章だったので、質問&回答形式で読みやすく書き直した。
それがこれである。
質問1.
『スキルの状態を24時間前のものに戻せる』ってあるけど、スキルの状態って何?
質問1の回答.
・スキル点
・スキルの有無
・スキルの各能力の残り使用可能回数
の3つです。
質問2.
1つ目の『スキル点』って?
質問2の回答.
レベルアップするともらえる点数です。
点数を消費することで、スキルが手に入ります。
たとえば10点使うと、スキル『回復魔法(初級)』を取得できます。
質問3.
2つ目の『スキルの有無』って?
質問3の回答.
スキル『回復魔法(初級)』は取得済で、『身体強化(初級)』は未取得で、『水魔法(初級)』は取得済で……といったような各スキルの取得状態のことです。
質問4.
3つ目の『スキルの各能力の残り使用可能回数』って?
質問4の回答.
能力をあと何回使えるかです。
たとえば、月替わりスキルの能力『強制チェスリル』が、あと1回しか使えない状態なら、強制チェスリルの『残り使用可能回数』は1回ということです。
質問5.
ということは、スキル復元を使うと、スキル復元自体の残り使用可能回数も戻るってこと?
何度でもスキル復元できるってこと?
質問5の回答.
さすがにそれはないです。
スキル復元の残り使用可能回数だけは戻りません。
質問6.
この能力、どうやって使うの?
質問6の回答.
「スキル復元発動!」と大きな声で叫べば発動します。
質問6.
誰のスキルの状態を戻せるの?
質問6の回答.
この能力を使った人自身のスキル状態だけを戻せます。
他の人に使うことはできません。
質問7.
この能力は何回使えるの?
質問7の回答.
1回使うと消滅します。
質問8.
あと何かある?
質問8の回答.
スキルの状態を戻す日時を予約できます。
たとえば、明日の午後3時0分0秒に予約すれば、その日時にスキルが『予約日時の24時間前の状態』に戻ります。予約した人が死なない限り、何があっても絶対に戻ります。
質問9.
どうやれば予約できるの?
質問9の回答.
能力を使う時、「スキル復元予約!」と叫んだ後すぐに、予約する日時を叫んでください。
ただし、予約できる日時は、今月末までです。
「ふうむ」
とルチルは、しばらく説明文をじっと見る。
やがて、こう言った。
「つまるところ、スキルを何もかも元通りに戻せるということじゃな?」
「まあ、だいたいそんな感じだな」
俺はうなずく。
「じゃが、戻して何か意味があるのじゃろうか?」
ルチルは首をかしげる。
俺は答えた。
「ざっと2つ使い道が思いつくな」
「2つも?」
「ああ。1つは、能力の使用可能回数を増やすことだ」
俺は、月替わりスキルを持っている。
このスキルがあると、複数の能力が使えるようになる。
ただし、各能力の使用可能回数には、制限がかかっていることが多い。
たとえば、強制チェスリルという能力は1回しか使えない。
ところが『スキル復元』を使うと、この使用可能回数を24時間前の状態に戻せる。
つまり、
1.強制チェスリルを使う
2.スキル復元を24時間以内に使う(強制チェスリルの使用可能回数が、0回から1回に戻る)
3.強制チェスリルを使う
という順にやれば、本来1回しか使えない強制チェスリルを2回使うことができるのだ。
もっとも、さすがに、
1.強制チェスリルを使う
2.スキル復元を24時間以内に使う
3.強制チェスリルを使う
4.スキル復元を24時間以内に使う
5.強制チェスリルを使う
というように、強制チェスリルを3回も4回も使うことはできない。
能力の説明文にあったように、スキル復元はどうやっても1回しか使うことができないからだ。
だが、強制チェスリルのように、本来1回しか使えない能力を2回使えるのは、かなりのメリットだ。
「なるほどなのじゃ」
ルチルは感心したようにうなずく。
「もう1つの使い道は何なのじゃ?」
「スキルの暫定取得さ」
スキルを取るには、スキル点を消費する必要がある。
たとえば、残りスキル点が10点しかなかったら、
・身体強化(初級):8点
・回復魔法(初級):10点
という2つのスキルのうち片方しか取得できない。
そして、1度スキルを取ってしまったら、「やっぱなし。このスキルいらないから、スキル点返して」ということはできない。
使ってしまったスキル点は戻らないし、取ってしまったスキルは外せない。普通はそんなことはできないのだ。
だが、スキル復元を使えば、それができる。
たとえば、
1.回復魔法(初級)を取得する。スキル点が10点から0点に減る。
2.スキル復元を24時間以内に使う。回復魔法(初級)を取得しなかったことになり、スキル点が10点に戻る。
3.身体強化(初級)を取得する。
という使い方ができる。
こうすれば、ケガをしている上に魔物に追われている時、まずは回復魔法のスキルを取って傷を癒やし、そのあとスキル復元でスキル点を戻した後、身体強化のスキルを取って、強化した身体で戦うことができる。
もっともレベル1の俺のスキル点は0であり、取れるスキルなどないので、この使い道はできそうにないのだが……。
◇
「さて、これで一通り能力は見終わったな」
俺は改めて、今回使う予定の3つの能力をながめる。
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1.強制チェスリル
指名した相手と、金・アイテム・スキルを賭けて、ボードゲーム『チェスリル』で決闘ができる。
2.死神対戦
死神を呼び出して、チェスリルの決闘ができる。
3.スキル復元
スキルの状態を24時間前のものに戻せる。
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そんな俺に、アマミがこうたずねる。
「ジュニッツさんは、この3つの能力で魔王を倒して、ルチルさんの仲間たちも助けるつもりなんですよね?」
「そうだな」
「うーん、一体全体どう能力を使えばそんなことができるのか、わたしにはさっぱりですよ」
アマミがそう言うと、ルチルも、
「わらわにも、ちんぷんかんぷんなのじゃ。チェスリルをしたり、死神を呼びつけたりして、一体何の役に立つのか、わけがわからないのじゃ」
と困った声で言う。
そんな2人に対し、俺はこう告げる。
「そうかい? 俺は、半分くらい答えが見えてきたがな」
えっ、という声が、アマミとルチルの2人から上がる。
2人とも驚いて目を丸くする。
「なんと!? これだけでもう半分もわかったというのか? びっくりなのじゃ! すごいのじゃ!」
「ジュニッツさんは相変わらず変態的な推理力ですねえ」
ルチルはストレートに、アマミは普段通りの感じで俺をほめる。
「それで、いったいどうやれば良いのじゃ? 教えて欲しいのじゃ!」
「今は言えねえさ。わかったっつってもまだ半分。まだまだ情報不足だ。調べないと、ちゃんとしたことは言えねえ」
そう、まだ情報が不足しているのだ。
決闘作法とはどういうものか?
チェスリルが弱い俺が勝つための裏技はないか?
死神についてもう少し詳しい情報はないか?
魔王が潜んでいる地下迷宮はどういうところか?
人を操るアイテムは存在するか?
とはいえ調べる量としては、多そうに見えて、実のところさほど多くはない。
ぱぱっと一瞬で調べられるほど少ないわけでもないが、長くはかからないだろう。
「まずはチェスリル・ギルドに行こう。そこで、決闘作法と、勝つための裏技的な方法を調べるんだ」
答えが見えてきたことで、気持ちも明るくなってきたのだろう。
俺は、やや弾んだ声でそう言った。




