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レベル1の俺が魔王を倒すと言ったら、みんな笑った。でも、前世が名探偵だったおかげで本当に倒してしまい……  作者: からくらり
4章 ジュニッツを罠にかけようとしたエリート冒険者を返り討ちにする話
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55話 探偵、エリート冒険者を目撃する

 本作では、各章の謎は、過去の章を読み返さなくても解けるように作っています。

 たとえば4章の謎は、1~3章を読み返さなくても解けます。

 もし、過去の章に出てきたアイテムやスキルを、今の章の謎解きに使う場合は、必ず今の章でもう一度そのアイテムやスキルを紹介します。


<三人称視点>


 暗い部屋の中、1人の男が笑っていた。


「うふふ、これでジュニッツを罠にかける準備は完璧です」


 男の名はナルリスという。

 年齢は27歳。冒険者の最高ランクである『S級』の称号を持つ。


 そして、ジュニッツを嫌っていた。


 もっともナルリスはジュニッツに会ったことはない。顔も知らない。

 だが、とにかく毛嫌いしている。


 何しろエリート冒険者であるナルリスでさえ、まだ魔王を1体も倒せていないのに、ジュニッツはレベル1の底辺冒険者でありながら、すでに3体も魔王を討伐しているのだ。

『神』によって全世界に毎日通知されている世界活躍ランキングというものでも、ジュニッツは自分より圧倒的に活躍した人間だと評されている。

 自分の上に『クズ』がいるのが、ナルリスには許せないのだ。


「どうせまぐれで魔王に勝てただけでしょうに、今ごろは調子に乗っているに違いありません……。底辺の分際で偉そうに! 許せませんよ!」


 そんな怒りの感情が、ナルリスの心の内にあふれている。

 ジュニッツが魔王を討伐するたびに、「全世界にお知らせです。住所不定のジュニッツ(レベル1、G級冒険者)が剣の魔王を倒しました」というように、『神の知らせ』と呼ばれている声が全人類に届くのだが、そのたびにナルリスは発狂しそうなほどの怒りに身を震わせていたのだ。


 それゆえ、ナルリスは『復讐』を考えていた。

 彼の住む国には魔王がいる。

 その魔王を倒しに、ジュニッツが近々やってくる可能性がある。


 そこに、罠をしかけるつもりなのだ。


「私は強いだけでなく、賢い男です。愚かなジュニッツなど、私の用意したあの罠に簡単に引っかかってくれるでしょう。捕まえたら、たっぷり痛めつけてあげます。まずは拷問にかけて死ぬほどつらい目にあわせて……それからどうしましょうかねえ。うふふふふ」


 ナルリスは、ジュニッツをバカにしながら、楽しそうに笑った。

 彼は自分が失敗することなど考えてもいなかった。

『まぐれで魔王を倒せただけの底辺冒険者』に、自分の罠が破られるはずがないと思っていたのだ。


 ナルリスはまだ知らない。

 近い将来、そのジュニッツから返り討ちにあうことを。

 そして自分が、自業自得ともいうべき罰を受けてしまうということを。


 ◇


<ジュニッツ視点>


 俺が剣の魔王を倒してから、1ヶ月が過ぎた。

 俺とアマミは、南西に向けて歩いていた。


 目指すは隣国である。

 俺たちは、世界各地の魔王を倒して回る旅をしている。

 カルスラ王国にいた剣の魔王はもう倒してしまったため、次の魔王の手がかりを求めて、まずは隣の国に行こうというのである。


 その日の夜、俺とアマミは森の中で野営をしていた。

 食事を取りながら、今日の道中の出来事や、明日の予定についてあれこれ話す。

 それらが一段落した頃、ふとアマミがこんなことを言った。


「やっぱり、ジュニッツさんは全然すごい人には見えませんねえ」

「ああん? いきなり何をぬかしやがる」


 いつものアマミのからかう口調に、俺はわざと怖い顔をしてみせる。

 が、アマミはまるで気にした様子もなく、くすりと笑ってこう言う。


「いえね、魔王討伐者であるジュニッツさんは、一応偉人なんですよ?

 何しろ世界中の人々にとって、最大の偉業は魔王を倒すことですからね。魔王がいなくなれば、魔王を中心とした半径数百キロの地域で、魔物が弱体化します。広大な地域が安全になり、繁栄するんです。すさまじい恩恵ですよ。

 しかも、その魔王討伐の難易度は異常に高い。国が本気になって倒そうとしても、めったに成功しないくらいです。

 要するに、何よりも高難易度で、何よりも人類に恩恵を与えるのが魔王討伐なんです。それを3度もジュニッツさんは成し遂げました。偉人と呼んで差し支えはないでしょう」

「俺が偉人ねえ……」


 まるでピンとこない言葉に、俺は首をかしげる。


「ええ、偉人です。ですから、もうちょっと世の人々は、ジュニッツさんの業績に感謝と敬意を払ってもいいと思うんですけど……」


 アマミの言葉に、俺は肩をすくめた。


 これまで、いくつもの町に立ち寄ってきたが、俺に対する世間の反応は様々である。

 ある者は「くそっ、ジュニッツのやつめ! レベル1の分際で偉そうに魔王を倒しやがって!」と、怒りをあらわにする。

 また、ある者は「ジュニッツの話なんてやめてくれ! 話題に出したくもない!」と嫌そうな顔をして無視する。


 だが、共通している点が1つある。

 皆、俺を認めようとしないのだ。

『レベルの高い人間が偉い。低いやつはゴミ』と考え、レベル1の俺のことを決して認めようとしない。

 俺が魔王を倒したことも、「あ、あ、あんなのはまぐれだ! ま、まぐれに決まっているんだ!」と言い張る。

 まぐれで魔王に3度も勝てるはずがないのだが、彼らとしてはそう言い張るより他はないのだろう。

 とにかく俺を認めない。


 その結果、ある者は、認められない存在である俺が活躍することが許せず、怒りを燃やす。

 また、ある者は、俺のことを認められないから、話題に出すことも嫌がり、無視するのだ。


 無論、世の中は広い。

 俺の価値を認めている連中も、少数ではあるが、いると思う。

 だが、そんなことを口にすれば、「レベルが低くても魔王は倒せる」と認めるのと同じになってしまう。世間の多数派であるレベル至上主義者達から反感を買い、袋だたきにあう。口にはできない。

 それゆえ、俺の耳に聞こえてくるのは、俺を認めない連中の声ばかりなのである。


「まあ、いつまでも今のままにさせやしねえさ。いずれ世間の連中には思い知らせてやる」

「何か策があるのですか?」

「まあな」


 魔王討伐の功績をまぐれ扱いされては、俺もいい気分ではない。

 いずれ……という気持ちはある。

 世界活躍ランキングで俺が歴代1位を目指す理由の1つも、その策のためである。


「とはいえ、今すぐどうこうはできねえ。当分先の話だ。それより、まずは俺たちの身の安全を守ることさ」


 たとえば、俺を殺そうとするやつらだって、いるだろう。

 さっきも言ったように、俺に対して一方的に怒りを燃やしている人間は、世の中に大勢いる。

 中には、怒りがヒートアップするあまり、俺を探し出して殺そうとしているやつらがいても、おかしくない。


 あるいは、俺を利用しようと(たくら)んでいる連中もいるだろう。

 たとえば、この世界では、魔物を倒すとポイントが手に入る。ポイントを消費すると、神の祝福と呼ばれている恩恵が手に入る。


 例を挙げれば、転移門という、2つの門の間を一瞬で行き来できる道具が手に入る。実際、この門を使って、俺は以前助けた妖精たちに時々会いに行っている。門の1つは妖精の森に設置し、もう1つの門は必要な時に取り出して設置することで(門は異界と呼ばれる空間から自由に取り出せるし、自分の近くにある門なら異界に収納もできる)、いつでもどこでも妖精の森と行き来できるのだ。

 他にも、若返ることができたり、人のスキルを限定的に見抜くことができたりと、恩恵は様々だ。


 そして、魔王を3体倒した俺は莫大なポイントを保有している。

 であれば、俺を捕まえて拷問し、無理やり「私を若返らせろ!」などと、私利私欲のためにポイントを使わせようと考えている連中がいてもおかしくない。


(そんなクソみてえな連中の好きにされてたまるか)と俺は思っている。

 クソ連中から身を守るための対策が必要である。


 無論、現時点でも、いくつか対策は立てている。


 たとえば、俺とアマミは、こまめに進路を変えながら旅をしている。

 最初に魔王を倒した後、俺たちは西に向かった。

 次に魔王を倒すと、今度は北へ。

 そして、3度目の魔王討伐後の今は、南西に向けて歩いている。


 進路がジグザグなのは、自分たちの居場所を隠すためである。

 何しろ、俺が魔王を倒すたびに、どの魔王を倒したかが『神の知らせ』によって世界中にアナウンスされるのだ。魔王は基本的に動かないから、アナウンスの瞬間、俺がどこにいるかが世界中に通知されていることになる。

 何度もアナウンスされれば、俺がどういう進路で魔王を倒して回っているかは、簡単にわかる。

 もし、その進路が、まっすぐ一直線だったら、『次にジュニッツがどの魔王を倒しに来るか』が丸わかりである。

 それゆえ、俺たちはジグザグに移動しているのだ。


 だが、対策は多いに越したことはない。

 何か他に出来ることはないだろうか?


「……変装、というのはどうだろう?」


 俺は、ふと思い浮かんだ考えを口にした。


 この世界では、レベルボードという自分の名前やレベルや職業が書かれた半透明の板を、誰でも空中に出したり消したりでき、これが身分証代わりになっている。そして俺とアマミは、このレベルボードを偽造する(すべ)を、数ヶ月前に発見している。

 レベルボードが偽造できるなど、世間では知られていない。言い換えれば、レベルボードさえ問題なければ、世間は怪しまない。

 それゆえ、俺たちは下手な素人変装などはせず、堂々と身分を偽ってきたのだ。


 だが、用心のレベルを上げるに越したことはない。

 きちんとした変装ができるなら、やってみるのも悪くないのではないかと思ったのだ。


 けれども、アマミは首を横に振った。


「やめたほうがいいと思いますよ」

「なぜだ?」

「変装に使えるスキルや道具って、ほとんどないんですよ。髪の色を変えるのがあるくらいですね。目や肌の色は変えられませんし、顔つきだって化粧とかで多少変えられる程度です」

「ふむ……」

「後は、かつらをかぶるとか、上げ底の靴をはくとか、服に詰め物をするとかでしょうか。でも、衛兵もプロですから、丁寧に変装したつもりでも、やっぱり見破ってくるんですよ。かえって怪しまれます」

「そういうものか」


 俺はアマミの言葉にうなずいた。

 元より適当な思いつきである。


(まあ、そう上手くはいかないか)


 その後は話題を変え、適当に雑談をした後、眠りについた。


 ◇


 翌日、俺とアマミは、昨日までと同様、森の中を歩いていた。

 薄暗い中、地面に張り出した木の根やら、ところどころに転がっている大きめの石やらをよけながら、土を踏みしめて歩いていく。


 しばらく進むと、前方が明るくなってくる。

 そろそろ森を抜けることができそうである。

 近道だから、という理由で、街道を外れて森の中を歩いていたのだが、何日も暗い森を歩いていると、それなりに気が滅入ってきて、太陽の光が懐かしくなるものである。

 その懐かしい陽の光を、あと少し歩けば浴びることができる。

 そう思うと、駆け出すほどのことではないが、歩調が少しだけ早くなる。


 そして、いよいよ森から出ようというその時である。

 突然、アマミが俺の腕を引っ張って、大きな木の陰へと引き込んだのだ。


≪どうした、アマミ?≫


 何かあったのかと疑問に思い、余計な音を出さないように念話を使ってアマミにたずねる。

 念話とは、声を出さないで会話ができるスキルで、アマミが保持している。2人のうち1人がこのスキルを持っていれば、お互いに頭の中だけで会話ができるのだ。


 俺の問いかけに、アマミもまた念話で答えた。


≪……嫌な雰囲気の集団が近づいてきています≫

≪嫌な雰囲気?≫

≪うーん……うまく言えないんですが……ともかく森の外を見てください。左のほうです。そっとですよ?≫


 俺はレベル1ということもあり、気配を消すのは下手だ。

 が、アマミが定期的に気配隠蔽の魔法をかけてくれているおかげで、派手な動きをしたり、近づきすぎたりしない限りは、それなりに気配を隠せる。


 もっとも、生命探知の魔法(周囲の生命の存在を探知する魔法)を使われれば、存在はバレてしまうが、アマミが言うには、あれは古い時代のスキルらしい。

 アマミが生まれた112年前(アマミは呪いでネコになっていた100年間、歳を取っていない)は、誰でも取得できるスキルだった。

 が、今の時代の人間はどういうわけか取得できない。

 スキルボード(レベルボードと同じく自分の意思で空中に表示できる半透明の板。スキル取得や、スキルの詳細情報確認に使う)の『取得可能スキル一覧』から生命探知が消えてしまい、取得できなくなってしまったそうだ。

 アマミいわく、「理由はわかりませんが、時代によって取得できるスキルは少しずつ変わっていきます。今ではもう、生命探知を使えるのは、わたしのようなよほどの特殊な人間くらいですよ」とのことである。


 俺は身を潜めている大木から、そっと顔を出した。

 そして、森の外をうかがう。


 広がる平野。

 左から右に向かって真っ直ぐに伸びている街道。

 これといって、異常があるようには見えない。


 だが、アマミが言うのだから何かあるはずだ。

 そう思って意識して目を凝らす。


 すると、ほどなくして街道の向こうから集団が現れた。

 人目をひく集団である。


 まず何より、巨大な荷車を引いている。

 しかも、荷車の上には、大きな魔物――おおよそ家くらいのサイズのドラゴンが載っている。

 ドラゴンは血だらけで、体のあちこちがえぐり取られており、ぴくりとも動かない。おそらく死んでいるのだろう。

 その死んだドラゴンを、ガラガラと車輪の音を立てながら運んでいるのだから目立つ。


 加えて、人数が多い。

 おおよそ150人ほどだろう。男女比は半々ずつくらいか。

 皆、そろってサファイアのような深い青色の服を身にまとい、エメラルドのような緑色の髪を風になびかせている。そして、遠くてはっきりとはわからないが、全員、胸元にルビーのように赤い何かが光っている。


≪アマミ、あの胸元の赤いのは何だ?≫

≪あれは宝石ですね。胸に埋め込まれていて、体の一部になっています≫


 アマミが答えた。目のいい彼女は、俺では見えない遠くの細かいものも見分けることができるのだ。


≪宝石?≫

≪ええ、彼らは宝石人(ほうせきじん)です。エルフやドワーフのような、わたしたち人間に近い(しゅ)の1つですよ≫


 俺は宝石人達に目を向ける。種族の名前だけは知っていたが、見るのは初めてである。皆、見た目は、ほっそりとした人間である。体が細く、胸元に宝石がある他は、普通の人間と変わらない。


≪ただ、ちょっと変ですね≫

≪変?≫

≪ええ。なんと言うか……みんな無表情なんですよね。喜びも悲しみもないというか、魂が抜け落ちたみたいというか……。宝石人が、そんな廃人みたいだなんて聞いたことがないです≫

≪ふむ?≫


 と、その時である。

 俺は1人の男に気がついた。


 集団の中央にいるその男は、1人だけ異質であった。

 青い簡素な服を着た宝石人達と異なり、輝くような黄色いきらびやかな服を身にまとっている。髪も宝石人達と違って緑色ではなく淡いブラウンだし、胸元に赤い宝石もない。

 そして、ただ1人、馬に乗っている。馬上で、得意げな様子で胸を張っている。


≪あの乗馬している派手なやつはなんだ? 宝石人じゃないよな?≫

≪あれは……わたしたちと同じ人間ですね≫

≪どんなやつだ?≫

≪若い男ですね。育ちは良さそうです。かなりの高レベルのように見えます。生まれつき才能に恵まれているタイプなんでしょうね。それから……ニヤついています≫

≪ニヤついている?≫

≪ええ。周りが無表情な中、あの男だけがニヤニヤと笑いながら、宝石人たちを見下ろしています≫


 5日後、俺はこのニヤけた男ナルリスが仕掛けた罠に出くわし、そして返り討ちにすることになる。

2022/5/14 細かい文章の修正

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[一言] 野暮な事ぁ言いたくないが、一から攻略法を作り出すのって推理って言うのかしら。探偵っていうより軍師な気がする
[良い点] 久しぶりの更新だ! 第四章楽しみにしてます
[一言] 再開お疲れ様です。 無理せず週一くらいでのんびり続けて下さい。楽しみにしておますので。
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