45話 探偵、能力を組み合わせる(ここまでが3章の問題編)
剣の魔王を倒すことができる3つの能力。
その各能力の単体でのテストは終わった。
後は、能力を複数組み合わせた場合のテストをするだけである。
3つの能力を、あらためて紹介しよう。
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能力1
『剣の決闘』
剣による決闘を強制的におこなうことができる。
決闘相手は、能力使用者が会ったことのある相手であれば、自由に選べる。
※どちらかが死ぬまで決闘は終わらない。
※剣を持っていない相手には、決闘を挑めない。
※決闘中は、相手から100メートル以上離れることができない。
※5分以内に決着が付かない場合、双方共に死ぬ。
※この能力は1回使用すると消滅する。
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能力2
『しがみつき』
人や岩などに5秒間しがみつくことができる。
しがみつくことで能力使用者は動けなくなるが、しがみつかれた相手も動けなくなる。
しがみつく対象は、能力使用者の視界に入るものであれば、自由に選べる。
※能力を使用してから1秒以内にしがみつくことになる。
※しがみついてから5秒後、能力使用者は元の場所に1秒以内に戻る。
※この能力は1回使用すると消滅する。
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能力3
『身体性能アップ』
10秒の間、腕力、脚力のどちらか1つを向上させることができる。
※この能力を使っている間は、もう一度『身体性能アップ』を使用するなどして、使用者の身体に大きな変化を生じさせることができなくなる。
※この能力は、2回使用すると消滅する。
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さて、この3つの能力だが、組み合わせは全部で12パターンある。
まず、
「『剣の決闘』を使った後で『身体性能アップ』を使う」
というように、能力を2つ組み合わせたものが6パターンある。
それから、
「『身体性能アップ』を使った後で『しがみつき』を使い、さらにその後『剣の決闘』を使う」
というように、能力を3つ組み合わせたものが6パターンある。
6+6で、全部で12パターンというわけだ。
これら12パターン全てについて、実験した。
もっとも、能力を3つ組み合わせる実験では、何も新しいことは発見できなかった。
よって、2つ組み合わせた実験結果だけを時系列順に語ろう。
とはいえ、それでも6パターンある。
詳細に話すと長くなるので、なるたけ簡便に語る。
◇
パターン1.『しがみつき』を使った後で『身体性能アップ』を使う
しがみつきながら、腕力や脚力を上げるという実験である。
今回は、木にしがみつくことにした。
アマミがアイテムボックスから木の幹を取り出す。以前、森で見つけた枯れて倒れている木を、適度な長さに切ったものである。
赤っぽい木だ。ゴツゴツしている。
この木の幹を地面に立たせた。俺の肩ほどの高さである。
俺はまず、立ったまま、木の幹に対してしがみつき能力を使った。
能力が発動し、俺は木の幹に抱きついた。
そうやって抱きついた状態で、『身体性能アップ』で腕力を上げたのだ。
しがみついている間は体を動かすことはできないが、『身体性能アップ』は、『しがみつき』・『剣の決闘』と同様、念じるだけで一瞬で発動する。
無事、発動した。
しかし、効果はなかった。
腕力を上げれば、しがみつく力が強くなるかと思ったが、少しも強くならない。
脚力を上げても同じである。
何も変わらない。
パターン1の実験は以上である。
なお、念のため言っておくと、特に俺が何も触れていない点については、能力は今までと同じように発動したということである。
たとえば、今回のパターン1の実験では、しがみつく時間は今までと同じく5秒だった。
これは今回のパターン1だけの話ではなく、今後語るパターン2や3でも同じである。
◇
パターン2.『身体性能アップ』を使った後で『しがみつき』を使う
パターン1の順番を逆にしたものである。
あらかじめ、腕力や脚力を上げた状態で木の幹にしがみついてみたのだ。
結果は、パターン1の時と同じであった。
しがみつく力は変わらないし、特に目新しいことも起きない。
どうも、しがみつく力というのは、自分の腕力とは関係がなく、一定の決まった力になってしまうらしい。
(しがみつく対象が変われば、何か変わるかもしれねえ)
そう思い、今までしがみついたもの全部に対して、あらためて身体性能を上げたうえで、しがみつき能力を使ってみた。
もちろん、アマミと『二度と死なないこと』と約束したことは忘れていない(もっとも高熱を発している黒い岩は、アマミが魔法で適度に冷やしているので、誰がどうしがみついても安全なのだが)。
ともかく、今までしがみついたもの全部に対して、身体性能を上げたうえで5秒ずつ、死ぬこともなく、しがみついた。
結果、やはり、しがみつく力は変わらなかった。
◇
パターン3.『しがみつき』を使った後で『剣の決闘』を使う
俺とメイとで、剣の決闘をすることにした。
いつもの決闘と1つだけ違うのは、『俺が木の幹にしがみついた状態で決闘を始める』という点である。
しがみついたまま、決闘能力を発動させたらどうなるのだろうか?
決闘能力を使うと、俺は決闘相手の正面に『瞬間移動する』。
一方で、しがみつき能力使用中は、俺は『動くことができない』。
能力が競合しているのだ。
しがみついていて動けない時に、決闘能力を使って瞬間移動しようとしたら、どうなるのだろう?
動けないから瞬間移動は発動しない?
それとも瞬間移動する? 瞬間移動するとして、俺1人で瞬間移動する? それとも、しがみついている木の幹も一緒に瞬間移動する?
さあ、どうなる?
やってみた。
まず、木の幹にしがみつく。決闘能力は、決闘する者同士が手に剣を握っていないと発動しないので、右手に剣を握ったまま、木の幹に対して、しがみつき能力を使う。
そしてすぐ、剣の決闘能力を発動させてみたのだ。
するとどうだろう。
初めて見られる現象が起きた。
瞬間移動が発生したのだ。それも、俺が木の幹にしがみついたまま、である。
結果、真横から見るとこういう位置関係になった。■は地面である。
俺 メイ
■■■■■■■■■■
←5メートル→
メイの正面から手前5メートルの位置に、木の幹にしがみついた俺がいる、という位置関係になったのだ。
これには、俺もアマミもメイも驚いた。
もっとも、驚きはしたものの、バカバカしくもなった。
何しろ俺は、しがみつき能力を使っているため、自分の体を動かすことができないのだ。
自分から決闘を挑んでおきながら、俺は一歩も動けないのだ。ただのバカである。
5秒後、しがみつき能力が解除された。
俺は、能力が解除されるとすぐ、ようやく動くようになった体をほぐす。
ずっと驚いていたメイも我に返り、俺がずっと体をほぐし続けているのを脇目に、剣の決闘の初期位置まで歩いて戻る。
その後、現実世界に帰ってから、また裏世界に来て、再度テストをする。
先ほどは一切実験には干渉しなかったアマミだが、今回は参加してもらう。
木の幹の代わりにアマミにしがみつき能力を使い、同じ実験をしてみることにしたのだ。
つまり、『俺がアマミにしがみついた状態で決闘能力を使う』という実験である。
もし、俺とアマミがそろって瞬間移動したら、『2人同時に瞬間移動』という現象が初めて見られることになる。
結果は、木の幹の時と同じだった。
瞬間移動が発生した。俺がアマミにしがみついたまま、である。そして下図のような位置関係になったのだ。
俺・アマミ メイ
■■■■■■■■■■■■■■
←5メートル→
それから何度か実験を繰り返したが、特に目新しいことはわからなかった。
◇
パターン4.『剣の決闘』を使った後で『しがみつき』を使う
パターン3の順番を逆にしたものである。
剣の決闘能力を使った後で、しがみつきを使ってみたのだ。
興味深いことがわかった。
剣の決闘能力を使うと、決闘中は相手から100メートル以上『離れることができない』。
一方で、しがみつき能力を使うと、100メートル以上離れた人や物に対しても、『瞬間移動して』しがみつく。
かたや、100メートル以上離れられない能力。
かたや、100メートル以上移動できる能力。
能力の競合である。
はたして、どうなるのだろうか?
やってみた。
決闘中、150メートル離れた木の幹に対し、しがみつき能力を使ってみたのだ。
すると、しがみつき能力が優先された。
決闘中であるにもかかわらず、俺は決闘相手であるアマミから150メートル離れた木の幹に瞬間移動して、しがみつくことができたのだ。アマミは、その場に置き去りにされた。
このようにして色々試してみたところ、次のことがわかった。
・しがみつき能力を使うと、瞬間移動が2回起きる。しがみつく時と、元の位置に戻る時である。
いずれの瞬間移動も『決闘中は相手から100メートル以上離れることはできない』という制約には引っかからない。
瞬間移動先が、決闘相手から100メートル以上離れていても、必ず瞬間移動する。
決闘相手は、必ずその場に置き去りにされる。
・『しがみつき』→『剣の決闘』という順で能力を使っても、同様に瞬間移動の制約はない。
元の位置に戻る瞬間移動で、決闘相手から100メートル以上離れることになろうとも、必ず瞬間移動するし、決闘相手は置き去りにされる。
◇
パターン5.『身体性能アップ』を使った後で『剣の決闘』を使う
あらかじめ腕力や脚力を上げた状態で、剣の決闘能力を使ってみた。
すると、腕力や脚力が上がった状態で、そのまま決闘を行うことができた。
当たり前と言えば当たり前の結果だった。
◇
パターン6.『剣の決闘』を使った後で『身体性能アップ』を使う
パターン5の順番を逆にしたものである。
剣の決闘中に、腕力や脚力を上げてみたのだ。
能力は普通に発動した。
そして、腕力や脚力が上がった状態で、そのまま決闘できた。
◇
こうしてすべての実験は終わった。
俺は1つの答えを得ていた。
こうやれば剣の魔王を倒せる、という答えである。
頭の中で答えを検証する。
本当にこの方法で魔王を倒せるのか?
高確率で勝てるか?
左右白黒スーツのズボンに左手を突っ込み、右手で中折れ帽を深くかぶり直しながら、思考を突き詰めていく。
「先生、どうしたの?」
「あれは推理中なんです。ああやって、魔王の倒し方を推理しているんですよ」
メイとアマミが何か言っているが、構わず脳裏で論理を展開していく。
やがて……。
「よしっ!」
俺は自分の推理に確信を得ていた。
間違いない。
この方法なら勝てる。
「先生、剣の魔王の倒し方、わかったの?」
「ああ」
「すごい! わたし、ぜんぜんわからなかったよ」
メイは感嘆するが、彼女がわからないのも無理はない。
今回、俺たちは数多くの実験をし、数多くの事実を発見したが、役に立たないノイズ情報も多いからだ。
ノイズがある中から、どうやって答えを見つけるか?
俺が伯爵領に来てから語ってきたこと……今まさにこうして語っていることを、もし全部聞いている人間がいれば、そこに無視できない物理的な矛盾が3つもあることに気づくだろう。
その矛盾をとっかかりにすればいいのだ。
俺はメイにこう言った。
「なあに、聞いてしまえばなんてことはねえ。魔王の倒し方ってのは……」
「あっ、ちょっと待って。わたしも考える!」
メイはそう言って、「うーん」と頭を悩ます。
「先生の3つの能力を使って魔王を倒すんだよね?」
「ああ、そうだ。能力を1つだけ単独で使うか、2つ組み合わせて使うか、3つ全部組み合わせて使うかは、まだ言えねえが、いずれかの方法で倒す」
メイはまだ答えを言って欲しくないようなので、俺はあえて曖昧な回答をする。
俺の返事に、メイは「うーん、そっか……」とまた考え込む。
するとアマミが突然、念話で俺に話しかけてきた。
≪ねえ、ジュニッツさん≫
≪うん?≫
≪1つ教えてください。メイさんの裏世界スキルは、魔王戦では使いますか?≫
≪どうした、急に?≫
すでに話した通り、メイの裏世界スキルとはこういうものである。
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『裏世界』
裏世界に行くことができる。
裏世界に行ってから1分後、元の世界に戻る。戻った時は、裏世界に行った人間の記憶以外、何もかも元通りになる。たとえ、誰かが死んだとしても、元通りに生き返る。
※裏世界は、この世界とまったく同じである。ただし、生命がいない。
※裏世界に行くことができるのは能力使用者と、能力使用者が許可した人間(本人の承諾も必要)のみ。
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このスキルの特徴は、物理的な効果は期待できない、という点にある。
なにしろ『戻った時は、裏世界に行った人間の記憶以外、何もかも元通りになる』。
つまり、裏世界で何があっても、全部無かったことになるのだ。
たとえば、剣の決闘能力を魔王相手に現実世界で使ったとする。
そして4分30秒後に、裏世界に行く。
決闘能力は『5分以内に決着が付かない場合、双方共に死ぬ』。
よって、裏世界に行く直前は、『30秒後に俺は死ぬ』状態である。
当然、俺は30秒後に裏世界で死ぬ。
すると、現実世界に戻ってきた時に、どうなるか?
俺は既に裏世界で1回死んでいるから、もう死なない? そして魔王だけが30秒後に死ぬ?
そんなことはない。
裏世界から現実世界に帰ってくると『何もかも元通りになる』のだ。
裏世界に行く直前に『30秒後に俺は死ぬ』状態なら、裏世界で何があろうと、現実世界に帰ってくれば『30秒後に俺は死ぬ』状態に戻るのだ。
要するに、現実世界で30秒にまた俺が死ぬだけである。
無論、俺は現実世界で死ぬ気はないから、このような作戦を立てるつもりはない。
というより、裏世界でも、もう死ぬ気はない。アマミと『二度と死なない』と約束しているからだ。事実、彼女と約束してから、俺はケガひとつ負っていないし、自分の服や持ち物すら少しも傷つけていない。
いずれにせよ、裏世界スキルの本領は『能力の実験』のような情報収集であり、物理的な効果は期待できないのだ。
≪できれば魔王戦で裏世界スキルは使わないで欲しいですね≫
≪なんでだ?≫
≪ジュニッツさんも気づいていると思いますけれども、メイさん、本番に弱い可能性が高いですから≫
≪まあな≫
俺はうなずいた。
≪やっぱり気づいていましたか。メイさんは、緊張すると手足が震えますし、驚くと全身が固まって一歩も動けなくなりますし、怖いと目をつぶってしまいます。これまで見てきた限り、いつもそうでした≫
アマミの言うことは事実である。
実際メイは、これまでこういう行動を取っている。
――が、いきなりの決闘に緊張しているのか彼女の手足は震えて動かない。
――メイが小さな体をびくりとさせて、驚く。驚きのあまり、足が固まって動かなくなる。
――メイは剣が怖いのか、剣をぶつけるたびに目をつぶることが判明しただけである。
何度もこういう行動を取っている。
メイの癖のようなものだろうか。
俺も考え事をする時にズボンのポケットに手を突っ込んだり、落ち着かないと右足で地面をトントンしたり、深呼吸をする時に天を仰いだり、そういう癖がある。
≪まあ、誰でもジュニッツさんみたいに、魔王相手に図太く平然と立ち向かえるわけではないってことですね≫
≪誰が図太いんだ、誰が≫
≪ふふふ≫
≪まあいい。それで「魔王戦で裏世界スキルを使うか?」って質問だったな。答えはノーだ。明日、魔王と戦闘する時、裏世界スキルは使わねえ≫
一応言っておくと、俺が今まで『今回は、俺・アマミ・メイの3人で魔王を倒す』と言ってきたのは、3人そろって魔王と直接戦う、という意味ではない。
俺は、戦いというものは、準備も含めて戦いであると……むしろ、準備こそが戦いの主軸であると考えている。準備が9割、本番が1割。万全の準備ができていれば、本番はおまけである。
今回、アマミもメイも、十分に準備段階で協力してくれた。
だから、仮に魔王と直接戦うのが俺1人であったとしても、『3人で魔王と戦った』ことになると俺は思っている。
そんなことを考えていると、メイがこんな質問をしてきた。
「そういえば、魔王ってどういう風に現れるの?」
「エヴァンスは、こう言っていたな。『半月の夜の日、魔王の檻が消えて、いつのまにか魔王が現れている。この時、生け贄たちも、得体のしれない力で魔王の足下に運ばれる。そして、10秒後、魔王による殺戮が始まる』と」
『生け贄たちも、得体のしれない力で魔王の足下に運ばれる』とは、どういう意味か?
エヴァンスから聞いた話によると、魔王が生け贄を殺す様子を、時おり、伯爵たちが近くの岩山から見学して楽しむらしい。
だが、生け贄が穴の底にいたままでは、生け贄が殺される様子を楽しむことはできない。
何しろ、穴は縦横10メートル、深さ20メートルという深いものである。俺の身長は2メートルもない。アマミとメイは俺よりさらに小さい。要するに普通の体格の人間である。今までの生け贄たちもそうだっただろう。穴に比べてあまりにも小さい。
そんな小さな生け贄が深い穴の底にいても、岩山から生け贄の姿は見えない。生け贄が殺される姿を見て楽しむことはできないのだ。
にもかかわらず、伯爵たちは『魔王が生け贄を殺す様子』を見にやってくるという。
わざわざやってくるということは、生け贄は『確実に伯爵たちに見える形』で殺されるということだ。
「ようするに、魔王が現れる時、生け贄たちは魔王によって、ご丁寧にも『穴の外』まで運ばれるってことさ。穴の外なら、伯爵どもにもよく見えるだろうしな」
そして、魔王は生け贄を10秒観察した後、殺す。
――魔王は生け贄たちをじっと観察する。
――脅える人間たち、震えながらも立ち向かおうとする人間たち、必死で逃げようとする人間たちをおおよそ10秒間、ギロリと眺める。
――そして10秒が過ぎると、皆殺しにする。
つまり、明日の魔王戦でも、俺たちはまず穴の外に出されるのだろう。
そして、姿を現した剣の魔王によって、ギロリと10秒にらまれた後、攻撃される。
エヴァンスの話によると、魔王は常に右手に剣を握っている。
その剣によって、攻撃されるのだ。
と、こんな話を俺がしていた時である。
「あっ」
アマミが声を上げた。
「ん?」
俺は、アマミの視線の先を追う。
そこにはメイがいた。
目を怖そうにぎゅっとつぶり、手足を震わせているメイがいた。
あっ、と俺は思った。
メイは、怖いと目をつぶる。緊張すると手足が震える。
ついさっき、俺はアマミとそんな話をしたばかりである。
そんなメイの目の前で、俺たちは『魔王に殺される生け贄』の話をしてしまった。
それで怖くて、震えてしまったのだろう。
「ご、ごめんね……話を振ったのは、わたしなのに……」
メイはぶるぶると震えながら、謝る。
これまでもメイは実験で、怖くなったら少しの間目をつぶったり、緊張すると少し手足を震わせたりしたことはあった。
だが、今はこれまで以上に、震えている。
怖がっている。
実験ならともかく、魔王の生け贄になっている今、よりにもよって『魔王に殺される生け贄』の話をされてしまったのだ。
アマミみたいな図太いやつならともかく、普通の12歳の少女なら、怖くなっても不思議ではない。
俺はアマミと一緒に、メイを落ち着かせながら、目の前の震える少女を見た。
彼女がこんなにも脅えているのも、そもそも伯爵どもによって生け贄にされてしまったからである。
(見てろ、伯爵どもめ。お前たちの崇拝する剣の魔王を、明日、叩きのめしてやる)
俺はそう決意を固めるのだった。
剣の魔王が倒され、伯爵たちが罰を受けるまで、あと1日。
3章の問題編はここまでです。
次話から解答編です。




