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27話 外道王国、罰を受ける 前編

 三人称視点です。

 その日、ゲルダー王国軍は妖精の森に攻め込んだ。

 ジュニッツが王国の騎士たちを蹴散らしてから1ヶ月後のことである。


 王国軍の面々は次の通りである。


 まずは国守(くにもり)筆頭のゴルドンと、彼の部下である国守四天王。

 国守とは『国家の守り手』と言われている国の最高戦力である。

 強い。


 次に主席大臣を中心とした、上級大臣6人。

 大臣はみな、貴族の家の当主である。

 貴族というのは、一族の中から最も才能に恵まれた高レベルの者が当主になるのが慣例だ。

 そして、そんな貴族の中でも、さらにレベルが上位クラスの人間が大臣になる。

 強い。


 そして、近衛騎士団長に率いられた近衛騎士団1000人。

 近衛騎士団は、王を直々に守る任を帯びた騎士たちであり、高レベルの騎士から選ばれる。

 強い。


 要するに皆が皆、陽の当たるエリート街道を歩んできた高レベル者ばかりなのである。


 そんなエリート達を率いるのが、国王ゾルグ14世である。

 王は、王限定のスキル『支配者の力』により、人間相手であればレベル100の力を発揮する。

『人間相手』というのは、厳密な人類ではなく、人類に近い種族が相手でもいい。たとえば、妖精が相手でもレベル100の力が出せる。

 今回、ゲルダ―王国が戦うのは、人間2人(ジュニッツとアマミ)と妖精200人であるから、王は存分にレベル100相当の力を発揮することができるのだ。


 強くなるのは王だけではない。『支配者の力』は、王に忠誠を誓った家臣たちの対人レベルも10~30ほど上げることができる。

 レベル121の国守筆頭ゴルドンも、人間相手であればレベル148相当の実力が出るのである。


「つまるところ、我々は無敵ということじゃな」


 国王ゾルグ14世は、太った体をゆらしながら満足そうに言った。


 王自身は、黄金色のきらびやかな鎧に身を包んでいる。頭上には王たる証である王冠が輝いている。

 妖精を虐殺し、麻薬を売って得た金で新調した自慢の装備である。

 その体は馬上にはない。

 太りすぎて馬に乗れぬ王は、30人もの人足(にんそく)たち(戦闘員ではなく、荷運びや馬の世話などをする雑用係)に担がれ、荘厳な施しがされた豪華な神輿(みこし)のごときものの上に身を置いていたのだ。


 王の家臣たちも華やかな装いである。

 国守たちは純白に赤をあしらった、堂々たる衣装。

 大臣たちは銀を基調とした、華美な鎧。

 近衛騎士団は黒地に銀刺繍という、荘厳さと華麗さを同居させた鎧。

 いずれも華々しい。


 そんな家臣たちを見て、王は満足げにうなずく。


「どうじゃ、ゴルドン。我々は最強ではないか?」


 話しかけられた(いわお)のごとき顔をした40歳の国守筆頭は、重々しくうなずいた。


「さようでございますな。向かうところ敵無しでございましょう」

「ドラゴンはゴブリンを狩るにも全力を尽くすと申すからのう。自称ジュニッツには、我らをなめた報いをたっぷり受けてもらわねばなるまいて」

「無論でございます。死ぬよりも苦しい目にあわせてやるべきでしょうな」

「ははは。どんな哀れな目にあわせるか、楽しみじゃ。のう、お前たち」


 王がそう言うと、家臣たちも追従して笑う。


「まったくでございますな。たかだか、いち冒険者の分際で我らに逆らうとは、まったく愚かしいですなあ」

「聞くところによるとクズ妖精を守って、いい気になっているとか。ゴミを守って得意げになるなんて、頭がおかしいのでしょうねえ」

「アハハハハハ。この国守四天王にして大呪術師のオレ様が、呪いでそのバカのスキルを全て封印してあげますぜ」

「ついでに、その自称ジュニッツの目の前で妖精たちを20匹ばかり、生きたまま切り裂いてやってはどうですかな。きっと泣き叫びながら『やめてくれ! やめてくれ!』とみっともなく(わめ)くことでしょう。いやあ、楽しみですなあ」


 王もまた、家臣たちの軽口に呼応して「わはははは」と愉快げに笑う。

 美食で肥えた腹をゆらしながら、ゲラゲラと笑う。


 それから表情を厳しくして、自身が乗る神輿を担ぐ人足たちに言う。


「のう、お前たちも楽しみじゃろう?」


 人足たちは「はっ……」とうなずいた。


 彼らはただの人足ではない。

 騎士である。

 1ヶ月前、妖精の森でジュニッツたちに蹴散らされた30名の騎士たちである。

 王の怒りを買った彼らは、ひと月のあいだ牢屋に入れられていたが、このたび罪を一等減じられ、人足としての同行を許されたのだ。


「お前たちに、わしが戦い方の見本を示してやる。しっかりと見ておくのじゃぞ」


 王の言葉に、元騎士たちはうなだれつつも「光栄でございます……」と謝意を示すのだった。


 ◇


 結界がゆるんだ頃、王たちは妖精の森の中へと侵入した。


 侵入したのは戦闘人員である王、国守、大臣、近衛騎士たち。それに元騎士の人足30名も「戦いぶりを見ておくがよい」という王の言葉と共に同行した。残りの人足たちは戦闘の邪魔ということで、森の外で待機である。


 今、森の中に侵入したのは、みな、王のお気に入りの者たちばかりである。

 元騎士30名だけは元お気に入りとでも言うべきか。

 ともあれ、ここにいるのはみな、王国内でも特に妖精の虐殺に賛同し、妖精の虐殺を主導し、妖精の虐殺から甘い汁を吸ってきた者たちである。

 いわば、妖精虐殺の主犯であり、利権集団とでも言うべき者たちだった。


 森の中では馬は使いづらい。

 人足たちに馬を預け、徒歩で森の中を進む。


「うふふふぅ、自称ジュニッツは今ごろガタガタ震えていますよ。だって、ボクの魔法で見ても、さっきからピクリとも動きませんもん。今ごろ泣いているんじゃないですかぁ?」


 そう言ったのは、国守四天王の1人、魔術師ミールだった。


 細身で長い黒髪を持つミールは、生命探知魔法でジュニッツの位置を正確に把握していた。

 人間と妖精の生命反応は明確に違うので、すぐわかる。

 それによると、ジュニッツと、もう1人仲間と思われる人間が、妖精200人といっしょに妖精の森の一角に固まっているのだ。


「意外じゃな。てっきり結界が緩むのに乗じて逃げ出すかと思ったのじゃのう。ま、無論逃がすつもりはないがのう」


 王は拍子抜けしたように言う。

 その言葉の通り、王はジュニッツを逃がすつもりは無い。


 ゲルダー王国軍は、森全体を自身の軍でぐるりと円状に囲み、全方向からジュニッツを包み込むように進軍している。

 妖精の森は全周6キロ少ししかないので、1000人少しの軍であれば十分に包囲できるのだ。

 仮にジュニッツがどこか1点を強行突破しようとしても、支配者の力で強化された騎士たちが体を張って足止めをし、その間に要所要所に配置された国守や騎士団幹部といった強者が追いつき、最後には殺到してきた王国軍によって押しつぶされてしまうだろう。


 王は既に勝利を確信していた。

 すでに思考は、どれだけジュニッツをみじめな形で見せしめにしてやるかということに傾いている。


 王の家臣たちも同じである。

 彼らの頭の中は、敗北という文字は欠片も無かった。

 あるのは、絶対的な勝利への確信と、愚かなジュニッツへの嘲笑である。


「さあて、どういじめてやろうかのう。泣いて土下座させ、許してやる振りをするのがいいのう。そうして希望を持ったところで、ズドンと地獄に落としてやるのじゃ。わははは、楽しみじゃのう」


 ◇


 王国軍による包囲はあっけなく完了した。

 ゲルダ―王国軍は今、ジュニッツとアマミ、それに200人の妖精をぐるりと遠巻きに囲んでいる。

 そこは、草も木も生えていない直径200メートルほどの空き地であった。


「ほう、森にこんなところが」


 王はつぶやく。


 実のところ、戦いで草木に被害が出ないよう、妖精たちが新魔法で草木を一時的に異界に消し去っているのだが、王はそんなことは知らない。

「まあよい」と言うと、空き地の真ん中に立つ男に向けて大声で叫んだ。


「そちが自称ジュニッツか?」

「ああ、そうだ」


 左右白黒のスーツという奇妙な格好の若い男はそう答えた。

 彼の隣には、艶やかな銀髪をなびかせる11、2歳の幼くも美しい少女が1人。

 そして周囲には妖精たちが200人ばかりいる。


「余が何をしに来たかわかっておるな?」

「報復だろ。おたくの騎士たちを、俺たちがボコボコにしてやったからな」

「ふん。わかっておるなら話は早い。単刀直入に言おう。降伏せよ。しからば、うぬの処分も少しは考えてやってもよいぞ?」


 そんな王の要求に対し、ジュニッツはただこう答えた。


「断る」

「ほう、今おぬし、なんと申した?」

「断る。誰が降伏なんてするか」

「んー? つまりこのわしと戦うと申すのか? 虫けらのうぬがこのわしに逆らうと申すのか?」

「当たり前だ。聞こえなかったのか」


 王の反応は爆笑だった。


「ぷっ、ぷぷぷっ、ぶわっははははは! 皆の者、聞け。このバカは断ると申したぞ! 1000人もの軍に囲まれていながら、せっかくの助かるチャンスを自ら棒に振ったぞ!」


 臣下たちも王に併せて笑う。


「さすがはジュニッツを自称するだけあって、頭がイっちゃっていますなぁ。わはははは」

 と、国守筆頭のゴルドンが、大きな口を開けて笑う。


「アハハ。なあ、そこの偽ジュニッツちゃんよう。これからお前は、ボコボコにされるんだぜ。そして抵抗できなくなったところを、この呪術師のオレ様がお前のスキルを全部封じてやるんだ。それから鎖につないで一生強制労働だぜ。ほーら、それが嫌なら今すぐ土下座して謝っちゃいなよ。そうしたら考えてやるかもしれないぜぇ?」

 と、国守にして呪術師の男が、陰気な顔で笑う。


「あーあ、バカだなぁ、自称ジュニッツ君は。キミ、もうおしまいなんだよぉ? これから先一生悲惨な未来が待っているんだよぉ? わかってるのぉ? きゃはははは、バカだからわかんないかぁ」

 と、国守の魔術師ミールが、黒髪をかき上げながら笑う。


「てめぇ、あの時はよくもやってくれたな! てめぇの前で妖精を1人1人、八つ裂きにしてバラバラにしてやるからな! それからてめぇもボコボコにしてやる。覚悟しておけ! ぎゃはははは!」

 と、1ヶ月前にジュニッツにひどい目にあわされた元騎士隊長が笑う。


 大臣も笑う。

 近衛騎士団も笑う。

 皆、笑う。


 彼らは絶対的な優位を確信していた。

 ここにいる者たちは、その半数が対人レベル110を越えている。

 対人レベルが120を越えている者すら50名以上いる。

 国守たちに到っては、全員が対人レベル130を越えており、国守筆頭のゴルドンなどは147もある。


 ジュニッツともう1人の少女が、仮に両者ともS級冒険者最高クラスのレベル120だとしても、ゴルドン1人で叩きのめせるだろう。

 人間2人を倒せば、残りはゴブリンより弱いザコ妖精どもである。勝負にすらならない。


「さあ、やれ」


 圧倒的優越感に包まれながら、王は命令を下すのだった。


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