100話 ナルリス、罰を受ける 1
<三人称視点>
妖精の森の片隅に、縛り上げられたまま放置されていたナルリス。
その現状を確認するため、ジュニッツは妖精の族長リリィと共に、ナルリスのところへと向かう。
森は広くない。
ほどなくして、ナルリスのもとへとたどり着く。
その姿を見たジュニッツは、思わず声を漏らした。
「なんだこりゃ?」
◇
話は1週間前にさかのぼる。
アマミの雷魔法で気絶させられたナルリスが、妖精の森に運び込まれた日の翌日のことである。
24時間以上ずっと意識を失っていたナルリスは、ようやく森の片隅で目を覚ました。
覚ましてすぐ、異変に気づく。
(な、なんですか、これは?)
体が動かないのだ。それどころか、何も見えない。しゃべることもできない。
「んんーー! んんーーーー!」
くぐもった声を上げることしかできない。
そうしてようやく自分の現状を理解した。
縛られ、目隠しをされ、猿ぐつわをされているのだ。
(くっ、こんなもの!)
ナルリスは身体強化のスキルを発動させ、体を縛るロープを引きちぎろうとする。
以前のナルリスなら、そんなことは簡単だっただろう。
だが……。
(ぐっ! くっ! ち、ちぎれません……)
ロープはビクともしなかった。
スキルが発動しないのだ。
(な、なぜ……どうして……あっ!)
目覚めた直後のぼんやりした頭に、ようやく昨日の記憶がよみがえる。
昨日、ナルリスは地下迷宮で、ジュニッツとチェスリルの決闘をした。
そして、ジュニッツの罠にはまり、スキルを全て封印されてしまったのだ。
そう、今のナルリスはスキルを一切使えない状態である。
レベルが高い人間がなぜ強いかといえば、レベルアップ時に様々なスキルを取得するからだ。スキルのない現在のナルリスは、新人のF級冒険者にすら勝てない。
(お、おのれ……おのれ、ジュニッツめぇ! 低レベルのカスの分際で、よくも……よくも私のスキルを! よくもよくもよくもぉっ!)
ナルリスは心の内で怒りの声を上げた。
体が自由であれば、叫び声を上げながら暴れ回っていただろうが、縛られた上に猿ぐつわをされているので、「んー、んー」とうめき声を上げながら、地面に転がった体をバタバタさせることしかできない。
(私は亜人のクズどもを利用して、いずれは世界の英雄となる男なのですよ! その私のスキルを封じて、縛り上げるなんて、絶対に許しません! 殺してやる! 絶対に殺してやる!)
ナルリスは憤怒の絶叫を心の中で上げながら、なんとか縛られた体を動かそうとするが、全身が土まみれになるだけでロクに動かせない。
それどころか、バタバタしているうちに鼻の穴から入った土の塊が、喉にまで入り、激しく咳き込んでしまう。
「うごほっ! げほっ! おごほっ!」
顔が真っ赤になるほど、ひどい咳である。ましてや猿ぐつわをされているのだから、なおのことつらい。
涙でぐしょぐしょになりながら、ナルリスは苦しみ続ける。
たっぷり1分以上苦しみ、ようやく咳がおさまった。
(……ふぅ、ふぅ、お、落ち着くのです。私は賢い男です。これくらいのピンチ、簡単に乗り切ってみせますとも。そうです、ピンチを乗り越えるための作戦を考えればいいのです。私なら朝飯前です)
ナルリスは作戦を思案する。
(まず何よりスキルの封印を解かないといけません。解く方法は……ジュニッツなら知っていそうですね)
何しろジュニッツは封印した張本人である。解除するやり方だって知っているはずだ、とナルリスは考えた。
(問題はどうやって解除させるかですが……そうだ、ジュニッツを騙すのはどうでしょう? 「封印を解けば、あなたの部下になります」と嘘を言うのです。私のような高レベルで賢い者が部下になってくれるなんて、低レベルのジュニッツは夢にも思っていないはず。感激のあまり、すぐに言う通りにしてくれるでしょう。
封印が解ければ、後はこっちのもの。ジュニッツなんて一撃で倒せます。
……おおっ、これはなかなかよい作戦ではないでしょうか)
ナルリスは自分の作戦を自画自賛した。
考えれば考えるほど良い策に思えてくる。
ジュニッツが聞けば「いや、こんなので俺を騙せるわけねえだろ」と突っ込みを入れそうであるが、ナルリスがこのような作戦を立てたのには理由がある。
第1に、ナルリスはレベル至上主義者である。
低レベルの人間を見下している。
レベル1のジュニッツのことは、特に見下している。
それゆえ、高レベルの自分は尊い存在であり、そんな自分が頭を下げて部下になりたいと言えば、レベル1のジュニッツなど感激して、ころっと騙されるに違いないと思ったのだ。
第2に、ナルリスという男は今までスキルありきで生きてきた。
何をするにもスキルがあることが前提であった。
そのため、スキルを失った今、彼はどうすればいいのか分からず、唯一残った高レベルという肩書きに頼った作戦しか立てられなかったのだ。
もっとも、こちらの理由の方は、ナルリス自身には自覚はないが。
ともあれ、作戦は決まった。
(さあ、後はジュニッツが来るのを待つだけです。早く来なさい。その瞬間、あなたを破滅させてあげますから。
ふふふ、ジュニッツを倒したらどうしましょうかねえ。当然、私をこんな目にあわせた罰として、拷問でしょうねえ。体中の骨という骨をへし折って、回復魔法で戻して、また骨をへし折って、回復して……というのを何度も何度も繰り返してあげましょう。泣こうがわめこうが絶対にやめませんよ。この世で最も尊い私のプライドを傷つけたのです。死ぬまで苦しむくらいじゃないと、釣り合いが取れません。さあ、早く来るのです。楽しみですねえ)
ナルリスは楽しい未来を空想し、ニヤニヤと笑った。
その時である。
こんな声が聞こえた。
『全世界にお知らせです。エルンデール滞在中のジュニッツ(レベル1、G級冒険者)が魔王キング・リゾックを倒しました』
ナルリスはこの声を知っている。
神の知らせである。
人類の誰かが偉大な業績を上げた時、全世界に対して『神』から通知されるメッセージである。
問題はその内容だ。
(……え? はい? な、なんですって? ジュニッツが魔王キング・リゾックを倒した? キング・リゾックって……あの恐ろしいイカの魔王ですよね? あ、あれを倒した? 嘘? あのどうやっても倒せなさそうな……私でも手も足も出なかったあの魔王を? レベル1のジュニッツが? そ、そんなバカな……)
錯乱するナルリス。
確かにジュニッツは魔王の居場所を知っている。
だが、自分が震え上がることしか出来なかった魔王を、ジュニッツがあっさり倒してしまったという事実が理解できなかったのだ。
(あ、ありえません……ありえません……)
ナルリスは呆然とする。
だが、話はこれだけでは終わらなかった。
続いてこんな声が聞こえてきたのだ。
『ナルリスへ
あなたは、今回大きな功績を挙げたジュニッツとその仲間に対し、これまで不当にひどい行為を行ってきました。
その罰を下します』
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