ボス部屋
マモルたちがボス部屋に入ると唯一の扉が重たい音を立て閉まる。するとイビルトレントの目が赤く光りだすと地面が揺れ始める。
「ティシュ、フラッシュだ!」
「は、はい。光よ、彼の者を惑わせ! フラッシュ!」
すかさずエレンが指示を出すとティシュ強い光で目を眩ませる魔法を使う。するとイビルトレントは腕で顔を隠し光を遮り、揺れも止まる。
「マモル、これでいいか?」
「大丈夫! クイック!」
ティシュのフラッシュはイビルトレントの視界を奪う目的と、もう一つ暗い部屋を照らしマモルが範囲を指定できるようにするが目的だ。これも事前に打ち合わせをしたことだ。
光が収まりイビルトレントは体を揺らしながら怒り出す。そして、また地面が揺れ、地面から木の根がマモルたちを襲う。
「はっ!」
「おらぁあああ!」
エレンとガイルが次々と迫りくる根を高速で切っていく。
「二人たも伏せて! 行きなさい、フレイムランス!」
詠唱が終わったアナンマが五本の炎の槍がイビルトレントに向かって飛翔する。イビルトレントは根を纏め壁を作る。
「ディメンションカッター!」
空間を切断する魔法を唱えたマモルは根の壁を切断をし、炎の槍が全て当たりイビルトレントは燃え盛る。イビルトレントは悲鳴を上げながら暴れだしたせいで天井が崩落し始める。
「俺の後ろに集まれ! フォートレス!」
全員がエレンの後ろに集まり、すかさずエレンは目に見えない壁を作る。
天井は崩落しボス部屋は土煙で満たされる。
「倒せたの?」
土煙が晴れ、アナンマが黒焦げになり倒れているイビルトレントをみて尋ねた。
「いいや、まだだ。扉が開いていないだろ?」
エレンに言われ、全員が扉を見ると閉まったままだ。
「! 皆油断するなよ!」
その時倒れたイビルトレントの姿が霧散していき、何一つ傷を負っていないイビルトレントが現れる。
そして、口から黒い球体を放出し、周囲に拡散する。
「ダークボールか……厄介な。皆、球体には触れるなよ!」
エレンが注意を促す。
ダークボール。黒い球体に触れたものは心を蝕まれ自我が保てなくなり狂暴化してしまう闇魔法だ。
イビルトレントは黒い球体をマモルたちに飛ばす。エレンはフォートレスで受けながら指示を出す。
「ティシュ、行けるか?」
「はい! 光の加護よ、我らを守り給え。ホーリーベール」
暖かい光がマモルたちを包む。
ホーリーベール。闇魔法から身を守る為の光魔法だ。
弾幕が終わり、エレンはフォートレスを解除しイビルトレントに駆ける。その後ろからガイルとククリが追従する。
イビルトレントは再びダークボールを放とうと溜めに入る。
「やらせない! ディメンションカッター!」
マモルはダークボールに向かって魔法を使う。そのせいでダークボールは切断され、闇魔法が中断した。
「畳み掛けろ!」
「はあああああ!」
「ワーーーン!!」
隙を見せたイビルトレントの顔の部分にエレンは剣で切りつけ、ガイルは腕力と遠心力で大斧を振り回し叩き割り、ククリは体を横回転させイビルトレントの身体を貫通する。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
イビルトレントは悲鳴を上げ、体を捻り枝で近づいた二人と一匹を攻撃する。
「させない! ディメンションカッター!」
マモルは魔法で全ての枝を切断する。勢いがなくなった枝は地面に落ちる。
「みんな、お待たせ! 顕現せよ、劫火なる祖よ、黒炎の支配者よ、黙示録の業火よ。契約のもと我は命ずる。我と汝の敵を穿て! ドライエクスプロージョン!」
アナンマが魔法を唱えると白き炎と黒き炎、そして青き炎が出現してイビルトレントを燃やし尽くす。
「ディメンションプレス!」
三色の炎を消そうと暴れまわるイビルトレントにマモルは空間圧縮させ動けなくさせる。
しばらく抵抗していたイビルトレントはやがて動かなくなり炎と共に消滅する。それに合わせて閉じていた扉がゆっくりと開き始め、イビルトレントが消滅した場所に宝箱が出現する。
「イビルトレントを討伐したぞおおおお!」
エレンが大声で叫び、勝利したことを理解したマモルたちは大いに喜ぶ。そして、緊張の糸が切れその場に座り込んだ。
「皆怪我とかしてないな?」
マモルたちは頷く。
「少し休憩後宝箱を確認する」
そして数分休憩をし、宝箱を開けるとそこには大量の金貨が入っている。
「分配は後だ。まずはギルドに帰還するぞ。マモル一旦金貨を預かってくれ」
「わかった。ディメンションボックス」
大量にあった金貨が一瞬でなくなる。
「よし、戻るぞ!」
マモルたちは立ち上がり、唯一の扉に向かって進む。その時、開いていた扉が急に閉まりマモルたちは閉じ込められる。力自慢のガイルがこじ開けるがびくともしない。
「ダメだ。全く動かない」
「何がどうなっているのよ、これ」
「分からぬ。普通なら閉まらないはずなんだが――」
その時、マモルたちがいる場合からちょうど反対側から拍手が聞こえ、マモルたちに緊張が走る。
「イビルトレント討伐おめでとうございます。自己紹介が遅くなりました。私はラースと申します。いやあ、驚きました。私が折角手塩に掛けていた魔物がこうもあっさりやられるとは……」
一瞬でラースはマモルの後ろ移動し、マモルを背後から手で突き刺す。辺り一面にマモルの血が飛び散る。
「私とっても怒っているんですよ?」
「この!」
「おっと」
エレンが剣で切りつけるもラースは軽く避ける。マモルは力抜く地面に倒れる。
「はああああ!」
ガイルが追撃で大斧を振り回す。
「ははは、そんな大振り――ん?」
急に足が動かなくなったラースは足元を見ると影が捉えている。
「わふ!」
「くらえぇぇぇ!」
大斧がラースに直撃し土煙が巻き上がる。
「ふう、危ない危ない」
土煙から出てきたラースは無傷だった。
マモルを庇うようにエレンたちはラースと睨み合う。
「エ、エレンさん! 傷が治りません!」
回復魔法を掛けても傷が治らないことにティシュは焦る。
「なんだと!?」
「ど、どうしましょう……エレンさん。このままじゃマモルさんが……!」
「くっ……貴様! マモルに何をした!」
エレンの問いにラースが愉快そうに言う。
「くくく。ただ回復魔法を阻害する魔法を刺した時に掛けただけですよ? その傷を治すためには私を倒さないと治りませんよ」
「クソが……!」
険しい表情をするエレン。
「皆さん、私が何とかします。少しの間だけ時間を稼いでください」
エレンたちは頷く。
「ありがとうございます。ティシュさんは引き続き回復魔法をお願いします」
「はい!」
ベラはマモルの額に手をかざし、魔法を掛ける。
「よし、あいつを倒す勢いでやるぞ!」
「おう!」
「わかってるわよ!」
「ガウガウ!」
「わふ!」
ガイルとククリが特攻し、サポートにはアナンマとクロ。エレンは無謀なティシュとベラのもとに。
「……ベ、ベラ……がはっ」
薄れていく意識の中マモルはベラの名前を呼ぶ。
「貴方をここでなんか死なせません。絶対助けます」
その言葉を最後にマモルの意識は完全に途切れた。




