女盗賊再び
マモルはエレミレに参加することを伝え冒険者ギルドを後にする。エレンも警備隊本部に戻るため途中で別れる。
まだ日も傾いたばかりなのでマモルは昼食をとったあと森に向かった。主な目的は気分転換だが、ダークネスウルフのダビルに会えたらいいなとマモルは森の中を歩いていた。
「クロ楽しそうですね」
木々や岩の影をはしゃぎながら移動するクロをみてベラが言う。
「そうだな。ククリも走りたかったら走っていいんだよ?」
目線でクロを見ながらマモルの隣にいるククリにマモルは尋ねる。
「ワフ」
ククリは返事だけするがマモルの隣から離れようとしなかった。
そんなククリの頭をマモルは優しく撫でる。
「ベラ、ダビルがいる場所ってわかる?」
そんな二匹を見ていたらダビルに会いたくなったマモルは尋ねる。
「えっと……あ、大木の所にいますよ」
ベラはワールドマップでダビルの場所を特定する。
「大木……ってこっちだっけ?」
指をさして進む方向を確認するマモル。
「はい、そのまま真っ直ぐです」
「了解。クロ!」
遠くにいるクロを呼ぶと影を経由してマモルの胸元に飛び込んでくる。
「わふ!」
「元気良すぎ。ほら、ダビルの所にいくよ」
「わふわふ!」
クロを地面に降ろし歩き始めるマモルたち。
しばらく歩くとククリの耳がぴくぴくと動き後ろを確認し始める。
「ベラ、ワールドマップに――」
「ガウ!」
異変に気付いたマモルがベラに聞こうとしたそのとき、マモル目掛けて一本の矢が飛来するがククリが咥え止める。
「あら、やるわね」
聞き覚えのある声を聞いたマモル眉をひそめる。
「久しぶりねマモル。探したわよ」
「イア……!」
マモルたちを騙し殺そうとした盗賊の女頭イアはマモルの隣にいるククリを見つめている。
マモルはククリの前に出て、ククリを隠す。
「まだククリを狙っているのか?」
「ふふ、もう狙っていないわ。今わね」
イアが指を鳴らすと何もないところから盗賊が大勢現れマモルたちを囲む。
「貴方が逃げ出したことで大金は得れず、壊した檻の弁償に私がどれだけ苦労したか……」
マモルは内心で自業自得だろと思う。
「貴方が憎くて憎くて憎くて……殺したいほど憎い!」
イアの両目が不気味な赤色の光を放つ。
「だから私ね……悪魔と契約しちゃった」
イアから黒い風が生まれ、晴れていた空が曇り出す。
黒い風に触れた盗賊たちは次々と口は裂き、目は赤く、肌は黒く角と黒い羽を生やした悍ましい姿に変わる。
「あは、あはは……あはははははははは! どう、この力? この姿? 最高でしょう?」
黒い風が収まるとイアの姿も悍ましい姿に変わる。
マモルは周りを見渡し、ククリとクロは威嚇する。
「それと、私のとっておきを見せてあげるわ!」
イアの指示で四体の悪魔が赤い石を嵌めたブレスレットを掲げる。
「このブレスレットの内側にいる者の魔力を封じるのよ? これであなたは魔法が使えなくなるの! これで終わりねマモル! あはははははは! 怖くて声も出ねいのね!」
狂ったように言うイアにマモルはため息をつきもう一度周りを隅々まで見渡す。
「逃げ道なんて探しても無駄! 貴方はここで死ぬのよ!」
マモルは落ち着いた声で言う。
「逃げようなんて思っていない。ただ、範囲を指定していただけだよ」
「は?」
「お前に教える気はないよ」
その一言にイアは怒りぷるぷると震える。
「それが、貴方の最後の言葉ね……さようなら」
イアの指示で悪魔たちは一斉に動き出しマモルを襲う。だがマモルはそれよりも早く魔法名を唱える。
「フリーズ」
マモルが範囲を指定している空間内にいるイアを含む悪魔たちは動きを止める。
「ふぅー急に姿が変わって焦ったけど、ベラありがとうな」
「いえいえ」
姿が変わった時ベラは耳元で囁きマモルを落ち着かせていたのだ。
「ベラ、イアが言っていた悪魔ってなに?」
「悪魔って言うのはデーモン種の魔物のことです。悪魔と契約すると強大な力を得るんですが代償があります」
「代償?……魂、とか?」
昔観たオカルト映画の事を思い出すマモル。
「はい、そうです。契約を果たすと魂は悪魔に捕縛され永遠に囚われてしまいます」
マモルは動きが止まったイアを見る。耳元でベラは話を続ける。
「悪魔の姿になってしまったらもう元の姿には戻れません。悪魔の傀儡になってしまいます」
「傀儡になるとどうなるの?」
「わかりません。悪魔次第です。ただ言えるのは倒さないと被害が増えます。マモルさんの大切な人達にもいつか被害が出ると思います」
魔物なら倒せるけど悍ましい姿をしているが元が人だと知っているマモルは倒すことにに躊躇してしまう。だが、ベラの言葉でマモルは覚悟を決める。
「……わかった」
マモルは範囲の指定内にいるイアたち全員に向かって魔法名を唱える。
「ディメンション、カッター!」
マモルの魔法でイアたちは真っ二つになりフリーズを解除すると次々に砂に変わっていく。マモルはその光景に目を逸らさなかった。
砂は森に吹いている風によっていつの間にか晴れた夕焼け空に運ばれていく。
「帰るか……」
マモルたちは街に続く道にそって歩いて行く。
皆が寝静まった中マモルは寝れないでいた。一緒に寝てるベラとククリ、クロを起こさないよう部屋を出て普段いかない屋根の上に向かう梯子を使い、落ちないように屋根に座り星空を眺める。
「マモル? 何しているの?」
しばらく眺めていたらアイラが梯子を上って屋根上にくる。
「星空を見てただけだよ」
「そうなんだ。私も一緒に見てていい?」
「うん」
屋根上に来たアイラはマモルの隣に座り星空を眺める。そして、マモルの手を握りながらアイラは言う。
「マモル元気出た?」
「へ?」
アイラの行動に驚くマモル。
「どうしたのアイラ?」
口を尖らせ恥ずかしいそうにアイラは答える。
「……だってマモル。夕食の時からなんか元気ないように見たから。手を繋げば元気出るかなって」
本音はただ繋ぎたかっただけのアイラだった。
そんなアイラにマモルは微笑みながら言う。
「ふふ、元気でたよアイラ。ありがとう」
「ん。じゃ、じゃあ私は戻るね。お、おやすみ」
顔が赤くなっているのをマモルに見れたくなかったアイラは急いで戻っていく。
再び一人になったマモルは少し星空を見たあと部屋に戻り直ぐに眠りに就けたのだった。




