嵐のような騎士団長
「では、始めようか!」
裏庭に着いた早々、蒼生聖竜騎士団団長のアスカは開始宣言をすると白ローブをがばっと脱ぎ捨てると装備しているオーロラのような輝きを放つ弓を構える。
「権限せよ、蒼き嵐を纏いし聖竜よ!」
空が曇り出し地上にいるアスカを中心に渦ができる。
「グオァアーーーー!!」
渦の中心からドラゴンの咆哮が聞こえ、やがて弓と同じようなオーロラのような輝きを放つドラゴンが現れアスカの後ろに降り立つ。
「こいつは我が騎士団の誇りにして我の相棒のメイルだ」
ドラゴンはマモルを見定めるように鋭い眼光を向ける。
その迫力にマモルは少し怯むもその威厳に満ちた姿にときめく。ククリとクロはそんなマモルの後ろに隠れる。
「さて、お主の実力を確かめるとしよか」
「グオァアーーーーー!!」
ニヤリとアスカが笑うとドラゴンは咆哮と共に支えなしでは立てない程の強風が吹く。まるで嵐のようだ。
マモルは地面に伏せ拭き飛ばされないようにしていると黒い影が伸びマモルとククリを覆う。
「この影は?」
「わふ!」
いつの間にか隣にいるクロにマモルは顔を向ける。
「クロの影か、助かる」
「わふわふ!」
風のせいで視界が悪くなるがマモルはアスカがいる方を見据える。
「この中を掻い潜って我の元まで来れたら認めよう!」
強風の中なのにアスカの声ははっきりと聞こえる。
「アスカ団長ーーやり過ぎですーーー!!」
風が発生したと同時に近くにいたエレミレを庇い地面に伏せるヴァーナルが叫ぶ。
「この風は裏庭にしか発生していないから安心しろ!」
高らかにアスカは言う。
「そう言うことじゃ……――おーいマモル、さっさと終らせてくれ!」
ヴァーナルの声を耳に入れマモルは強風に耐えながら範囲を指定しようとするが絞り切れずにいる。
マモルの表情を察したベラが指示を出す。
「マモルさん、フリーズの範囲指定を諦めて、自身を中心に範囲して壁を作って囲ってください」
「やってみる、ディメンションウォール!」
周囲に壁が生まれ風は吹き止む。だが、状況はそこまで変わっていない。
「影ありがとな、クロ」
「わふ!」
マモルはクロの頭を撫でる。
「マモルさん壁を前に作りながら進んでいきましょう!」
「了解」
壁を作り風を遮りマモルたちは進む。
シュッー……ドン!ドン!ドン!
「うわ! な、なんだ!?」
順調に進んでいた時マモルの目の前で突然爆発が止まずに何度も起きる。
「遅い! いつまでちんたらしている! さっさと来ぬか!」
風が急に止み視界がはっきりとなったマモルはアスカを見ると弓を構えていた。
「内容変更だ。今から我が放つ一撃を受け止めてみよ!」
アスカは弓を構え直す。
「え! っちょっと待っ――」
「待たん! やるぞメイル!」
「グオァアーーー!」
ドラゴンが鳴くと弓に吸い込まれていく。すると、より激しく光を放つ。
「この攻撃は本来、災害級の魔物に放つ一撃だが、アビスエンドウルフを討伐したお主なら構わぬだろ」
弦を引き始めると矢が生まれマモルを狙い定めるアスカ。
「全てを呑み込む蒼き嵐となりて吹き飛ばせ! ジャッジメント・テンペスト!」
矢を中心に嵐のような爆風がマモル目掛けて放たれる。
「フリーズ!!」
物凄い速さで飛翔してきた矢はマモルの時を止める魔法フリーズにより目の前で止まる。
「あ、危なかった……」
マモルの額から汗が垂れる。
「団長さんが風を止めたおかげですねマモルさん」
「そうだな」
矢を避けアスカを見た後マモルは溜息をつく。
「普通の人間に災害級に放つ一撃ってあり得ないだろう……」
「ですね、私もやり過ぎだと思います」
思わず苦笑いをするベラ。
「とりあえず、止めることは出来たけど……このままの状態でフリーズ解いたら矢は当たらない代わりにギルドの壁を破壊して街までに被害が拡大する、よな……ほんと何考えいるんだあの人は……」
「ただ、撃ちたかっただけじゃないんですか? 」
「え?」
何言ってんのみたいな表情見せるマモル。
「ほら、あの表情見てみてください」
アスカを見ると嬉々とした表情をしていた。こいつはダメな奴だと内心思うのだった。
「ディメンションウォールであの一撃受け止めれる?」
しばし考えベラは言う。
「受け止めれるかもしれませんが、やってみないと……あ、そうだ! マモルさんこの前教えたディメンションキューブを使いましょう!」
この数日間でマモルはいくつか新しい魔法を習得している。そのうちの一つがディメンションキューブ。相手の近接攻撃以外を亜空間に一時的に閉じ込める魔法だ。この魔法は他の魔法とは違う部分がある。それは範囲指定が自分の掌のみという微妙に使いずらい魔法だ。だが、今回はこの魔法が最適だとベラは思いついたのだ。
「それがいいかもな。よし、ディメンションキューブ」
掌に収まるぐらいの正方形の物体が現れ、アスカが放った矢に近づけ攻撃を亜空間に閉じ込める。
「これでいいのかな?」
教わっていたが実際に使ったのが今回が初めてのマモル。
「はい、大丈夫です」
上手く行ったことに安堵したマモルはフリーズを解除する。
「どうだ! 流石に受け止め――はっ?」
自ら放った一撃が突然消えたことに驚きを隠せないアスカ。避難していたヴァーナルとエレミレも同じ反応が聞こえる。
「き、貴様何をした!?」
鬼の形相したアスカが近づく、マモルは少し後ずさる。そしてマモルは胸ぐらを掴まれる。
「ひ、秘密、です!」
「秘密、だとう!?」
マモルは殴られると思い目を瞑るが、アスカは掴んでいた胸ぐらを離す。
「あははは! そうだな、冒険者はむやみやたらに秘密を話さないのが鉄則だったな! なら仕方ないか! あははは!」
アスカは清々しいまでの笑いをする。
「マモルと言ったな、お主の実力は確かなものだ。我の権限によりAランクと認めよう! 後は任せたぞヴァーナルギルド長! メイル!」
「グオァアーーー!」
何処かに消えていたドラゴンは突然現れ、アスカは背に乗りスーリンガの街を飛んでいく。マモルは飛び立ち雲の中に隠れる姿を見ながら「疲れた……」と零すのであった。




