長く感じた一日が終わる
教会を出たマモルたちは駆け足で街道を走る。あちこちの屋台や食事処で賑わっているのを横目で見ながら人の波に沿って道を進んでいると、波をかき分けてきた子供たちの一人とぶつかる。
「大丈夫?」
尻もちしている子供を心配して手を差し伸べるマモル。
「あ、はい。ごめんなさい……」
声が高めの肩まで伸びた髪をした子供が謝る。
「怪我無いですか?」
フードから飛び出したベラも声を掛ける。
「わああ、妖精さんだ!」
ベラを見た子供は目をキラキラさせる。
何処かで聞いたようだなと内心思うマモル。
「私の名前はベラです。あなたの名前はなんて言うんですか?」
「わ、私はイーアです! ベラちゃん私と友達になってください!」
ベラは目を丸くしてぱちぱちさせた後微笑む。
「はい、私と友達になりましょうイーアちゃん!」
「うん!」
嬉しそう笑い合う子供改めイーアとベラ。マモルはそんな様子を見守っていた時短髪の男の子がやってくる。
「遅いよイーア! みんな先に――」
男の子はイーアの近くにいるベラを見た後、すぐ後ろにいるマモルを見た瞬間目をキラキラさせる。
「え、えええ、街の英雄だあああ!!」
「……え?」
突然英雄と言われたマモルは思考が止まる。
「「「「え?」」」」
男の子が大声でマモルの事を英雄と呼んだため周囲の人たちの視線が一斉にマモルに集まる。
「おおお、英雄だ!」
「この街を救ってくれた英雄だ!」
「俺たちと飲もうぜに英雄さんよ!」
「いや、俺たちとだ!」
「握手してください!」
「私も握手してください!」
大勢の人々がマモルの周りに集まる。マモルは揉みくちゃになる寸前に子供たちを抱き寄せる。
「フリーズ」
広範囲に時を止める魔法を唱え騒いでいた街に静寂が訪れた。
「二人とも大丈夫?」
「うん……」
「はい……」
突然起きたことに頭が追いつけてない二人は虚ろ気に返事をする。
「マモルさん、早く移動しましょう」
「そうだな。って言ってもなぁ……」
マモルたちの周りには止まった人たちが囲っている為通れる隙間は一切ない。
「マモルさん」
ベラは上を指しながらマモルを呼ぶ。
「あ、そうか! ディメンションウォール」
ダークネスウルフのダビルの背に乗って空を駆けたことを思い出し空中に壁を作る。
上りやすく階段状にしてから二人の手を取り空の空中散歩をする。後ろからククリとクロが付いてきて、ベラはフードの中へ。
「うわー、すごい!」
「すっげぇ! 流石街を救った英雄だぜ!」
子供たちは普段味わえない体験に興奮する中、男の子に英雄と言われ困った表情するマモル。
「あの、さ、英雄って呼ぶのやめて欲しいんだけど……」
「えー、カッコイイじゃん!」
「えーじゃせめて名前で呼んでくれない?」
英雄って呼ばれるのがよっぽど気恥ずかしいのかマモルは妥協案を伝える。
「うーん……わかった、マモル!」
「いきなり呼び捨てか……まぁいいけど。そろそろ降りるよ」
マモルたちは人が集まっていない所に降りる。
「たのしかった!」
「うん、楽しかったね!」
少しの間の空中散歩を思い出し語り合う二人。
「あ、そうだ友達を待たせてたんだ、イーア行かないと!」
「う、うん」
「じゃあな、マモル!」
「ばいばい!」
二人はマモルたちに手を振り駆けていく。マモルとベラは後姿が見えなくなるまで手を振っているとマモルの腹の音が鳴る。
「お腹空いた……」
「そうですね、結構寄り道してしまいましたし急いで帰りましょう。その前にマモル耳を」
「ん?」
ごにょごにょと耳元でベラがささやく。
「それで大丈夫なの?」
「大丈夫です!」
「わかった」
マモルは広範囲でかけたフリーズを解くと。静寂は一瞬で終り一気に騒がしくなる。
「あれ、英雄がいないぞ?」
「本当だ、どこへ行った?」
集まっていた人々は周囲を探すがマモルの姿はいなかった。
「おい、あれはなんだ?」
そのうちの一人が樽の上に目立つ色の紙と何かが入っている袋に気づく。
袋の中には貨幣が入っており、手紙にはやんわりと断りつつ、皆で飲んでくださいと記されていた。
「おお、英雄様のおごりだぞ!」
「流石だぜ! 皆飲むぞ!」
「おおおおおお!」
その夜の一日はスーリンガの街で一番騒がしく、最も酒が飲まれた一日になったそうだ。
ところ変わってマモルはようやくアイラの家に辿り着く。扉を開けて家に入った瞬間涎が垂れそうになるほど匂いが迎えた。
急いで居間に行くとエプロン姿のアイラがテーブルの上に料理を並べている。マモルたちに気づいたアイラは振り向く。
「皆、お帰りー」
「ただいま」
「遅くなりましたアイラさん」
「ワフ!」 「わふわふ!」
ククリとクロは尻尾を振りながらアイラの足元に行きアイラに撫でてもらう。
「丁度料理ができたから座って」
「うん」
「はーい」
マモルは手を洗い席に座り、ベラはテーブルの上に正座で座り、ククリとクロはマモルの足元に待機。
席に座ったマモルはパイウスがいないことに気づく。
「アイラ、パイウスさんは?」
並び終わり座ったアイラにマモルは尋ねる。
「さっきお父さんの友人が来て飲みに行っちゃった。朝まで帰ってこないから早くに食べよ!」
「わかった」
マモルは手を合わせ「いただきます」と呟くと続けてベラも呟く。ククリとクロはそれに合わせて食べ始める。
「前から気になっていたけど、それ何?」
普段していること尋ねられマモルは答える。
「いただきますっていうのは素材と料理を作ってくれた人に感謝を込めて言う言葉だよ」
「へーそうなんだ。素晴らしい言葉ね。えっと……」
アイラもマモルと同じように手を合わせる。
「いただきます。……こんな感じいいのかな?」
「うん、そんな感じ。じゃ皆で言おうか」
マモルとベラとアイラは手を合わせ、食べていたククリとクロは一旦止まる。
「「「いただきます!」」」
三人の声が重なる。
「ワフ!」「わふ!」
口周りに食べかすを付けながら鳴く二匹。
談笑しながらマモルたちは食事を楽しみあっという間に食べ終わる。
アイラと別れ自室に戻ったマモルはククリとクロのもふもふの毛皮を堪能していると自然に瞼が重くなりマモルはいつの間にか夢の世界に旅立つのだった。




