ひと騒動の後
「副ギルド長ーー!」
アイラはエレミレの姿を見るとマモルから離れ駆け寄る。
「アイラさん怪我とかないですか?」
「はい……マモルが助けてくれました」
アイラの無事が確認取れて安堵するエレミレ。
「マモルさん、アイラさんを助けて頂きありがとうございます。それで……この状況はいったい……」
エレミレは瞬きせずにぴくりとも動かないドーガをちらっと見た後マモルに尋ねる。
「少し、動きを止めただけです」
「……え? 動きを? どうやって……」
マモルが言っていること理解できていないエレミレは聞き返す。
「どうやってって、こうやって」
マモルはドーガに掛かっている魔法を解く。
「引っ込んでいろ! ……て、あれ?」
胸ぐらを掴んでいたと思ったドーガは目の前に誰もいないことに戸惑う。そんなドーガにもう一度マモルは唱えると再び動かなくなる。
「こんな感じです」
「そんな魔法が……」
エレミレはマモルが使う未知の魔法に一段と興味を持つ。。
「マモルさん、後でその魔法の事――」
「エレミレさん、そんなことよりもどうするんですか?」
エレミレの言葉を遮り、ベラとアイラに酷いことをしたドーガをどうするのか尋ねる。
「そうですね……ドーガさんの処遇はギルドマスターが決めます。今ギルドマスターは不在なので戻ってくるまで牢屋に入ってもらい、戻ってからになります。まぁ今回の件ですとランク降格は間違えかと思います」
「そうですか……」
ベラとアイラが痛い目にあったのにそれだけかとマモルは思う。
「マモルさん、ドーガさんを捕縛するのでもう一度魔法を解いてもらって良いですか?」
「分かりました」
マモルが解くとドーガは動き出した。
「あれ、どうなってんだ?」
ドーガは何が起こっているか理解できていなかった。そりゃそうだ。そんなドーガの前にエレミレはものすごい形相で腕を組み仁王立ちする。
「ドーガさん! 職員に暴行した件により、捕縛させていただきます! 衛兵の皆さんお願いします」
「っは!」
衛兵たちはあっという間にドーガを紐でぐるぐる巻きにする。
「離せぇー! 俺が何したっていうんだ!」
「話は牢屋で聞きます!」
衛兵たちはドーガを連れて冒険者ギルドを去っていく。エレミレは振り返りマモルたちに言う。
「大体の事は職員から聞いていますから、マモルさん、宿泊先が同じ方向ならアイラさんを送ってもらってもいいですか?」
「アイラの家に宿泊しているんで、そのつもりです。行くよアイラ」
「うん」
マモルはアイラの手を取り、ベラはフードに入り、ククリとクロは後ろかついてくる形で冒険者ギルドを出る。
「え、アイラさんの家に? なんで……」
後ろからそんなつぶやきをするエレミレだがマモルたちの耳には届いていなかった。
冒険者ギルドを出たマモルたちは真っ直ぐアイラの家にに向かった。マモルは気づいていない冒険者ギルドを出てからずっとアイラと手を繋いでいることを。そして、そのまま家に着く。入るとアイラの父親のパイウスが座って待っていた。
「お帰り二人とも……何かあったのか?」
「お父さん……」
アイラは父のパイウスに駆け寄り、静かに父親の胸で泣く。
パイウスは安心させるように頭を撫でる。
「実は――」
泣いているアイラの代わりにマモルが冒険者ギルドで起きことを話す。パイウスの顔がみるみるうちに険しくなっていく。話終わったマモルは変な汗をかいていた。
「以上です……」
しばらく沈黙が続く。そしてパイウスが口を開く。
「そうか。アイラを休ませてくる。少し待ってろ」
そう言いパイウスはアイラを連れアイラの部屋に向かう。
マモルは椅子に座り待つことにした。すると、ククリはマモルの膝に頭を乗せ撫でて欲しそうにマモルを見つめていくるからマモルは撫でる。
「わふ!」
ククリが気持ちよさそうに撫でられている様子をみたクロも撫でて欲しく鳴く。
「ん? クロも撫でて欲しいのか?」
「わふ!」
マモルはククリとクロの毛並みを堪能して待っていると扉が開きパイウスが戻ってくる。
「アイラは?」
アイラの様子が気になりマモルは尋ねる。
「泣いて疲れたんだろう。今寝てる。明日には元気になってるさ」
「そうですか」
パイウスの言葉を聞き安心するマモル。
「アイラを助けてくれてありがとなマモル」
パイウスはマモルと肩を組みながらお礼を言う。
その時、マモルの腹の音が鳴り、恥ずかしく顔を赤くする。
「なんだ、まだ飯食っていなかったか?」
「はい……」
「お前がまだってことは犬っころとベラもまだだろ? 用意するから待ってろ」
パイウスはすぐ料理を運びマモルたちはやっとご飯にありつけるのだった。
翌日、目を覚ましたマモルは居間に行くと少し目の周りが赤かったアイラが朝食を並べていた。
「あ、おはようマモル」
マモルに気づいたアイラが先に挨拶をする。
「おはよう」
「アイラさんおはようございます!」
マモルが挨拶を返すと肩に座っていたベラが挨拶する。
「おはようベラちゃん! 昨日は大丈夫だった?」
「はい! あれぐらい大丈夫です!」
ベラは力こぶを作り元気アピールする。
「よかった。ククリとクロも昨日はありがとうね」
マモルの足元にいるククリとクロに向けて言う。
「ワフ!」
「わふ!」
ククリとクロはアイラに駆け寄りじゃれ合う。
そんな様子を見ながらマモルは椅子に座り静かに「頂きます」っと言い食べ始める。
「じゃあ私仕事行くから、食べ終わったらちゃんと流しに置いておいてね!」
丁度口に含んでいたため頷きで返事をする。
「あ、忘れ物があったんだ!」
アイラはそう言いマモルに近づき膨らんでいる右頬にチュッと軽くキスをする。
「昨日のお礼、助けてくれてありがとうマモル」
アイラはニコッと笑顔になりながらお礼を言う。
「じゃ行ってきます!」
耳が赤くなっているのをマモルに見せないようにアイラは駆け足で家を出ていく。
何されたか頭がようやく追いついたマモルは顔を赤くさせる。
「マモルさん、やるじゃないですか~」
一部始終を見ていたベラが肘で突っつき揶揄い始める。
「揶揄うなよ、ベラ。お礼だって言ってたろ?」
「そうですかね?」
ベラはニヤニヤする。
「ほら、さっさと食べて冒険者ギルドに行くぞ」
「はーい」
食べ終えたマモルたちは冒険者ギルドに向かうのだった。




