裏庭にて一戦
マモルはエレミレが戻ってくるまでお茶を飲みながら、ククリと戯れながら待っていた。時折、上の階から激しい足音が聞こえてくる。
「騒がしいですね」
「そうだね」
のほほんとベラと会話しているマモル。「エレミレさん遅いなー」っとマモルが思っていた時に息を切らしながら何処か勝ち誇った感の表情をしたエレミレが戻ってきた。
「はぁ……はぁ……お待たせ、しましたマモルさん」
「え、ええ、大丈夫です」
息を整えエレミレはマモルの前の椅子に座る。
「ふぅー……先ほどギルドマスターと話し合いの結果当ギルドで買い取りをすることにになりました」
「え、でも……さっき払えないって」
先ほどの会話を思い出しマモルが聞くとエレミレはにっこりと笑い答える。
「えぇ、確かに。当ギルドでは一気に払えません、最大でも白金貨十枚です。なので当ギルドでは白金貨十枚でお支払いします。残りは当ギルドで責任を持ってオークションに出品を行いまして、入札されましたらマモルさんの口座に全額振り込む形にすれば今マモルさんの手元にお金が入るのですがどうでしょうか?」
「俺はそれでもいいですけど」
「ありがとうございます。では、準備してきますので」
エレミレはそう言い再び席を外す。
しばらくすると扉が開き黒髪ショートヘアの角刈りで勇まし男性が入ってくる。
「お前がクリスタルホーンラビットの角を持ってきた冒険者か?」
男性に睨まれすごむマモル。
「は、はい! マモルって言います」
マモルは席を立ち慌てて自己紹介する。
「ふーん、マモル、ね」
男性はマモルを見定めながら近づきエレミレがさっきまで座っていた椅子に座る。
「まぁ座れ」
「は、はい」
男性に促されマモルも座る。
「まずは自己紹介だな。スーリンガの冒険者ギルドマスターのヴァーナルだ。よろしく」
ギルドマスタのヴァーナルは手を差し出されマモルは握り返す。
「よろしくお願いし――いっ!」
ヴァーナルは徐々に握っている手に力を込めていく。
「どうやってうちの副ギルド長を落としたのか知らねえが。こんなひょろい奴がクリスタルホーンラビットを討伐したなんて信じてはいないぜ、俺は。どこかで――」
「何しているんですか! ギルドマスター!」
準備を整え戻ってきたエレミレはヴァーナルを睨みつける。おかげでマモルの握られていた手は解放された。
「大丈夫ですか? マモルさん」
「だ、大丈夫です」
手を押え苦痛の表情しているマモルにエレミレは近づき手を握る。
「手を離せエレミレ!」
ヴァーナルが叫ぶ。
「お父さんは黙ってて!」
「……お父さん?」
衝撃の事実にマモルは驚く。よくよく見ると似ているなとマモルは思うのだった。
「これ、私のお父さん」
渋々紹介するエレミレ。
「これとはなんだ! これとは!」
ヴァーナルは仁王立ちで文句を言う。
「俺は納得してないからな! こいつの実力が分からるまでは納得しないぞ!」
「はぁ? さっき認めたでしょう? お金も準備しているしなんなのよ!」
「こいつが俺に勝たなければ認めん!」
「……え?」
ヴァーナルはマモルに指をさす。急に話を振られマモルは戸惑う。
「言いましたね? 約束だからね!」
「よし決まりだ! 裏庭で待っている!」
ヴァーナルはそう言い部屋を出ていく。
「ぎゃふんと倒しちゃってくださいマモルさん!」
エレミレも部屋を出ていく。勝手に話が進められ、ヴァーナルと戦うことになったマモルは頭を抱える。
「なんでこうなったんだろう……」
「マモルさんの実力を侮っているギルドマスターをぎゃふんとさせましょう!」
「ワフワフ!」
ベラとククリはやる気満々だ。そんな二人の様子にマモルは覚悟を決めてエレミレの後を追う。
裏庭に着くとヴァーナルは大剣を持って待機していた。
ギルドマスターと新人のマモルが戦う噂を聞きつけ裏にはたくさんの人が集まる。
「なんでこんなに人がいるの!?」
「いいじゃねか、ほらお前はあっち行ってろ」
「ふん!」
エレミレはプンプンしながらマモルに近づき「勝ってください!」と行った後離れる。
マモルはヴァーナルと向き合う。
「お前、魔物使いだろ? ブレードウルフと来てもいいぜ!」
「俺一人で十分です」
「ほう、舐めてくれるな! ルールは一つ、どちらかが参ったと言った方負けだ。魔物使いが魔物なしでどこまでやれるか見せてもらおうか!」
ヴァーナルは駆け出し剣を振り上げマモルに振り下ろす。
「クイック」
既に裏庭を範囲指定したマモルは自分にクイックを使いヴァーナルの攻撃を避ける。
「っち! 意外と早いじゃねぇか!」
ヴァーナルは次々と攻撃を繰り出すが全ての攻撃をマモルは余裕を持って躱す。
「ちっ! 避けるばっかか?」
マモルは距離を取りヴァーナルを見据える。
「どうした? 本気出さないのか? なら……本気にさせてやるよ、身体強化!」
ヴァーナルの全身から黄色いオーラが発せられ纏う。
「ふん!」
ヴァーナルは一瞬でマモルの背後に回り大剣を振り下ろす。
ドン!と地面が割れる音が響くがそこにはマモルはいなかった。
「今の一撃を躱すとわな!」
マモルは一旦距離を取り落ち着かせている。
「ちょっと油断した……」
視界から急にヴァーナルが消えたことにマモルは自分の周りにスローを唱え攻撃を避けていたのだ。
マモルは右手をヴァーナルに向けるとまたしてもヴァーナルが視界から消える。
「もらったあああ!」
今度は一瞬で前に移動したヴァーナルは大剣を振り下ろす。
「ディメンションプレス!
「ぐはっ!!」
マモルが魔法名を唱えるとヴァーナルは見えない圧力により、地面に伏せられ、その衝撃によりヴァーナルは当たりどころが悪かったのか気絶した。
ディメンションプレス。指定した範囲の空間に圧力を掛ける魔法。マモルの想像次第では圧殺が出来るが今回は指一本動かせない威力に調整している。裏庭に向かう途中でベラにディメンションカッター以外の攻撃手段無いか相談したら教えてもらった魔法だ。
ヴァーナルが動かないのを確認するとマモルは魔法を解いた。集まった人たちは静まり返っていた。
「マモルさん!」
ベラが飛んできてマモルの顔に抱き着く。
「怪我とかないですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった……」
「ワフ!」
ベラに遅れてククリも足元に。マモルは優しく撫でた。
「マモルさん、お疲れ様でした! 流石ですね!」
エレミレも駆けつけマモルを労う。
「ヴァーナルさん大丈夫ですかね?」
エレミレはちらっと気絶しているヴァーナルを見てから言う。
「頑丈ですから大丈夫ですよ!」
「そうですか……疲れた」
ギルドマスターに無事に勝利したマモルに観戦していた人たちはその戦いぶりに次々に称賛の言葉をかけられたあと、マモル、ベラ、ククリ、エレミレは部屋に戻り手続きを始めたのだった。
ちなみに、ヴァーナルは手の空いている職員によって医務室に運ばれた。




