49
講談社様経由で、ファンレターをいただきました!
ありがとうございます!
この場を借りて、心からの感謝を捧げます。
次を望んでくださる温かいお言葉の数々に、執筆意欲を大いに搔き立てられました。
私の宝物です。
同封されていた固形の入浴剤、大切に使わせていただきますね。
お花見をするわんちゃんのポップアップカードは、執筆する机の上に置いています。癒されます。
私のこれからのモチベーションに活力を与えてくれています。
本当に、本っっ当に、ありがとうございました!
◇◇◇
歓迎式典に先立ち、ご宿泊なさる迎賓館でアルベリート王国王弟殿下ご夫妻をお待ちしておりましたら、ほどなくしてお召し馬車が到着しました。
「遠路はるばるようこそおいでくださいました、エクリシエス殿下」
「おお、あなたは! ユリエル王太子殿下か!?」
先んじて下車されたエクリシエス・シェラ・アルベリート王弟殿下は、続いて下りられる妃殿下へ手を差し伸べたまま、ご挨拶するユリエル様をご覧になって驚きの表情から一変、破顔一笑されました。
「ご無沙汰しております。お変わりなくお過ごしのご様子で安心致しました」
「ええ、お陰様で。王太子殿下もお変わりなく――いや、変わられましたね。五年前にお会いした時はまだ稚さを宿した少年だったが、いやはや、随分とご立派になられて! あの頃も麗しい美少年でしたが、こうも色男にご成長されたとは!」
固く握手を交わされたお二人は、五年前もこの場で交流されたそうです。同じように迎賓館で王弟殿下を奉迎したのはユリエル様で、視察や訪問に同行し接待したのもユリエル様でした。
五年の空白など感じさせない和気藹々のうちに挨拶も終えられ、王弟殿下は隣に佇む妃殿下へとにこやかな視線を向けられました。
「昨年妻に迎えたユスティニアです」
「ご成婚されたこと、改めてお祝い申し上げます」
「ありがとうございます。ニア、こちらはヴェスタース王国嗣君、ユリエル王太子殿下だ」
「お初にお目にかかります、ユリエル・アイヴィー・ヴェスタースです。長旅お疲れではありませんか?」
「お気遣い痛み入ります」
右手を胸に当て、軽く腰を落とす挨拶は妃殿下の生国メル・デイン聖王国の作法です。上目遣いに目を合わせるのは、目上の方や初対面の方へ払う敬意なのだそうです。ほんのり頬を紅潮させていらっしゃるのは、我が国へ初めて訪れた緊張からかもしれません。
歓迎式典が終われば晩餐会までお部屋でゆっくりお過ごしいただけますが、それまではもっと細やかにご体調の変化に気を配らねばなりませんわね。
「メル・デイン聖王国より輿入れした第四王女、ユスティニア・ルハ・アルベリートと申します。エクリシエス様の正妃ですが、まだ言葉に不慣れなため、品位を損ねないかと緊張しております」
「とても流暢にお話しされていますよ」
どこかほっとされたご様子で、妃殿下は今一度手を胸に浅く腰を落とし、頭を少しだけ下げられました。
コインの立体的なペンダントトップが特徴のトライバルネックレスが、妃殿下の動きに合わせてしゃらりとエキゾチックな音を奏でました。華奢なお体を包むベラという衣装も生国のもので、同じ透け感のあるミントグリーンのヘッドベールには金の刺繍とビーズが縁を豪華に彩っています。
面紗のように鼻上から下に垂れ下がる黄金のフェイスアクセサリーと、同じく手の甲を華やかに装飾する黄金のハンドアクセサリーも異国情緒に溢れていて、その何とも言えない色香に胸が高鳴ります。
ほんのりと浅黒い肌がさらに滴るほどの艶を感じさせていて、傾国の美女とはこのような方を指すのではないかと、同性でありながらつい見惚れてしまいます。
なんてお美しいのかしら……。
心の中でだけお祭り状態のわたくしが秘かに心を鷲掴みにされていますと、順当に紹介とご挨拶を済ませたユリエル様が柔らかな視線をわたくしに向けられました。
今はまだ王太子妃候補でしかないわたくしの紹介が一番最後に回されるのは当然のこと。許しがあるまで言葉を発してはいけません。
「紹介します。私の婚約者で、来年には王太子妃に迎えるエメラインです」
「お初に御目もじ仕ります。エメライン・エラ・アークライトと申します。両殿下にお会いできて光栄に存じます」
「ああ、あなたがユリエル殿の初恋の君か! ははっ、ようやく会えたな!」
敬意を込めて優雅にカーテシーでご挨拶申し上げますと、王弟殿下は呵々とばかり笑われて、右手を胸にお辞儀を返されました。
茶目っ気たっぷりに細められたグレーの双眸がお人柄をよく表していると思います。
「こちらこそ、お会いできて光栄だ。五年前からユリエル殿が盛大に惚気るからどれほど美しい女性なのだろうかと思っていたが、いやはや、これほど可憐で麗しい女性であったとは。ユリエル殿が夢中になるはずだ」
「過分なお褒めをいただきまして、ありがとう存じます」
「ふふ。ようやく長年の待ち人に会えたような妙な気分だね」
「まあ」
ユリエル様を見上げれば、とても甘やかな微笑みが返されました。
まあ、本当に? 王弟殿下に惚気話をされましたの?
覚えず唖然としかけましたが、即座に漏れ出てしまいそうになった感情を無理やり抑え込みます。公式の場でそのような失態は絶対に許されません。
「本当に仲睦まじいな。わたしたちもそうありたいものだ。そうだろう、ニア?」
水を向けられた妃殿下は、じっとわたくしを見つめていらっしゃいました。いつからご覧になっていたのかしら。気づきませんでしたわ。
湖底を思わせる深い緑色の瞳をくっと見開いて、凝視といっても過言ではないご様子で見ておられます。どうされたのかしら……?
「ニア?」
今一度王弟殿下が妃殿下の愛称を呼ばれますと、ようやくそこでぴくりと肩を震わせ、見開いていた双眸を何度か瞬かれました。
過ぎった感情が何だったのか、パチパチと瞬いた後の瞳には何も窺えません。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。少しだけ疲れてしまったのかもしれません」
「それはよくありませんね。式典にはまだ時間がありますので、先に部屋へ案内させましょう」
「あ、いえ、大丈夫です。式典が終わりましたら休ませていただきますので。ご配慮くださりありがとうございます」
「本当に大丈夫なのかい?」
心配される王弟殿下に「問題ないわ」と微笑みを返しておられますが、フェイスアクセサリーの奥に見え隠れするお顔の色はやはり万全とは言えないご様子です。
長い船旅でしたから、疲労はご自身が自覚されている以上に蓄積しているのかもしれません。
ジュリアに目配せしますと、心得ていると首肯が返され、メイドのひとりに何事かを耳打ちして退室させました。正しくわたくしの意図を汲み取ってくれたようです。
ほどなくして執り行われた歓迎式典では、妃殿下のご様子に特段変わった点は見受けられず、先程お見せになった感情の揺れは綺麗に払拭されていました。
――ああ、ただ感情という観点だけで申し上げれば、魔法師団による到着に祝意を表す礼砲やアルベリート王国の国歌演奏、特に儀仗隊を閲兵した際には格段の興味を持たれたご様子でした。
儀仗隊は国の顔ですので、高身長痩躯の、容姿に優れた青年たちが選ばれます。整列した彼らを閲兵するユリエル様と王弟殿下に続いて歩かれている妃殿下は、控え目ながらも僅かに揺れる頭から、視線を忙しなく動かしているのだろうと察せられるくらいにはとても興味津々なご様子でした。
イケメン観賞は心を潤す、砂漠のオアシスのようなものだとはキティの言葉ですが、どうやら彼らの容姿は妃殿下のお気に召したようです。
なるほど、これも立派な接待の一つであると得心しました。
その後わたくしはユリエル様と、妃殿下は王弟殿下と共に儀装馬車に乗り、馬車列は騎兵乗馬連隊に守られながらパレードを行います。
滅多にお目にかかれない王族や国賓を一目見ようと、街頭には何百という人々が集まり歓声を上げています。五年ぶりの来訪である王弟殿下を歓迎する声が響く中、異国情緒溢れる妃殿下の御姿に視線と声援が集まっているようです。
わかりますわ。目を奪われますわよね!
次いで、ユリエル様に女性の黄色い声援が集中しますのは自国の麗しい王太子殿下ですから当然のことですが、それに紛れるようにわたくしの名も叫ばれていることに少々驚きました。
もちろんそんな感情の揺れなど微塵も見せず、微笑みと共に手を振ります。
「聴こえる? 国民はすでに貴女を王太子妃だと認識している」
不意にユリエル様がそう耳打ちされました。
確かにそうです。わたくしが驚いたのはまさにそこなのですから。
エメライン様、エメライン王太子妃殿下――と、そんな声があちらこちらで上がっているのです。
「国民にとって、私の伴侶は最初からずっとエメラインだということだ。彼らの声は、まさに私の心を体現してくれている。こんなに誇らしいことはないよ」
ああ、これほどまでに望まれ、愛されているわたくしこそ、誇らしさで胸がいっぱいです。
ユリエル様と国民にとって、恥じることのない礎の一助として更なる努力を重ねますわ。
膝に置いていた手を取って、指を絡めたユリエル様と微笑みを交わします。
青空広がる日差しの中、頬を紅潮させ一生懸命に手を振る観衆へと、わたくしもユリエル様と共に応えるのでした。




