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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第63話 名コーチのプランニング。


 「あらあら。3人で仲が良いわね」


 道着姿の更紗さんが戻ってきた。

 

 更紗さんは3人の顔を順に見た。

 心の中まで見透かすような視線。

 

 俺、更紗さんに、からかわれているみたいだ。



 すると、朱音が鈴音に抱きついた。

 鈴音は朱音の頭を撫でている。


 なんだかんだいっても、この2人、仲が良いんだよな。いや、鈴音が寛容なのか。


 さすが、俺の癒しの『天使』だぜ。


 朱音は半眼で言った。

 「鈴音ちゃん。あの更紗って人。すごい綺麗なんだけど。あの人、悠真のなに?」


 なにやら、すごく非難めいたニュアンスを感じる。


 すると、鈴音が答えた。

 たのむぜ。マイハニー。


 「更紗さんはね。カッコよくて強くて、綺麗で。高校の先輩で悠真の空手のお師匠なの。前に悠真がね。『俺、更紗さんのこと尊敬してる』って言ってた」


 その言葉で、朱音の顔が赤くなった。

 怒ってるみたいだ。


 俺は、鈴音の口元が緩んだのを見逃さなかった。


 いや、そうだよ。

 どれも本当の話だよ。


 でも、伝え方ってあるじゃん?


 これ、確実にアタックだ。

 ……天使にしてやられた。


 すると、更紗さんが状況を飲み込んだらしく、助け舟。


 「部屋割りでもめてるの? じゃあ、悠真はウチくる? そしたら解決でしょ? ウチのマンション、広すぎて1人だと寂しいのよ。前にわたしの料理を好きっていってたでしょ?」


 更紗さんは湾岸エリアのタワマンに住んでいる。そして、希代の料理上手。


 ごくり。

 俺は胃袋が動くのを感じた。


 って、ちがーう。

 全然、助け舟じゃない。


 アタッカーが増えただけじゃないか。


 俺は見逃さなかった。

 更紗さん、さっきペロッと舌をだしたのだ。


 鈴音にしても、更紗さんにしても。

 何一つ、嘘をついていない。


 真実だけで、俺を追い詰めてくる。


 そして、朱音の顔は、りんご飴くらい赤くなってるし。なんか可哀想すぎて、同室を受け入れてあげたくなる。


 って、俺はこんな話しをするために、ここに来たわけじゃない。


 「あの、空手の話に戻したいです」


 俺は更紗さんにそう言った。

 

 決して、この修羅場から逃げ出そうとしてるわけじゃないのだ。うん。


 更紗さんは帯を締めなおした。


 「そうね。じゃあ、身体を動かす前に、方向性を確認しておきたいんだけど。悠真はどこまでやりたいの?」


 俺は正座した。


 「俺、本気でやりたいです。来年のインターハイに出たいって思ってます」


 俺の言葉に頷くと、更紗さんは声のトーンを下げた。


 「今のまま出たら、……大怪我するよ? まさかとは思うけれど、防具があると思って軽く考えてないよね?」


 鈴音が俯いてしまった。


 「分かってます。実際に俺は相手に大怪我をさせてしまったのだし。油断すれば、大事故につながる競技って理解してます。だから、更紗さんの時間をください」

 

 更紗さんは、少しだけ天井を見て薬指を唇に添えた。


 「それって、プロポーズしてるみたいに聞こえるんだけど?」


 「あ、いや。そんなつもりは」

 

 だって、やり手の経営者さんの時間を奪うのだ。すごく有り難くて、申し訳ないことだ。


 でも、他の師匠は考えられない。


 更紗さんは元トップクラスの選手で、俺の空手を知り尽くしている。短期なら、更紗さん以上の師匠はいない。

 

 すると、更紗さんは微笑んだ。


 「ほんと、悠真は人たらしだね。分かった。わたしも悠真が空手をやめたって聞いた時、すごく悔しかったんだ。でも、次のインターハイ、悠真はすごく不利だよ?」

 

 「どうしてですか?」


 「悠真は、良くも悪くも中学空手で有名人だから。色々陰口も言われるだろうし、きっとマークもされる。現役のときのわたしと渡り合えるくらいの腕にはなってもらわないと、多分、勝ち抜けないよ?」

 

 「はい」


 「ブランクがある貴方には、すごく大変なことだよ? どうしてそこまで思うの?」


 「俺、自分の中の時間があの瞬間で止まってるんです。右の足の甲から相手の骨が砕ける感覚が消えなくて、怖くて。でも、何かを変えたいし、好きな子を守れるようになりたいんです」


 俺は鈴音の方を見た。

 鈴音の潤んだ瞳と視線が交際する。


 んっ。

 なにやら、隣の朱音も瞳を潤ませているのだが。


 なんで?


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