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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第56話 お嬢様降臨。

 「はぁはぁ」


 全力で教室に戻ると、……いた。

 ショートボブで、黒いセーラー服の女の子。胸元の剣のマーク。


 聖レイピア学園の制服だ。

 さっそく、クラスの男どもに囲まれている。


 女の子は俺を見つけると、駆け寄ってきて、俺の腕に抱きついた。


 「……お兄様?」

 

 見た目は随分と変わっていて分からなかったが。甘えたようなこの声。よく覚えている。


 俺の従姉妹の美岬朱音だ。


 「朱音?」


 すると、朱音は涙袋のあたりをゴシゴシこすった。


 「酷い。あんなに激しい関係だったのに。わたしを捨てるの?」

 口を尖らせて、そう言い放った。



 たしかに、こいつとの思い出は激しい。

 子供の頃の朱音は、とんでもない乱暴者で、俺の事を『肉団子』と呼び、殴る蹴るの狼藉。


 最後に会ったのは、5年前。

 小6の時だった。


 「次に会ったらトドメをさす」とか言われて、別れ際に石を投げつけられたのだ。


 石の痛さが、今では左肘の柔らかい感触に変わった。そう思うと感慨深いものはある。


 俺は、改めて朱音を見下ろした。


 

 丸い二重の目に、色白な頬。

 ぷりっとした小ぶりな唇。


 さらりと髪が揺れるたびに漂うシャボンのような清潔感あふれる匂い。


 丸みを帯びた優しそうな眉。

 黙っていれば、聡明そうな女の子そのもの。


 もはや、子供の頃とは別人レベルだ。


 ふと顔を上げると、クラスの男どもの熱視線で針のむしろだった。


 「篠宮のやつ、鈴音ちゃんと北条(蛍)じゃ満足できねーのかよ。さらに美形を持って行くなっつーの」


 そこかしこから、不満そうな声が聞こえる。


 俺はどうやら、二股男から三股男にバージョンアップしたらしい。


 「んで、うちの学校に何の用?」


 「転校の手続きだよ」


 「は? いつから?」

 この悪魔の申し子と同じ学校になるのか?

 マジでイヤなんだが。


 「え。年明けから」


 朱音は目を細めて、言葉を続けた。


 「つか、悠真、その髪型なに? 伸びすぎじゃん。ダサっ。わたしが美容院に連れていってあげるから」


 さっそくマウント取ってきやがった。


 「髪は知り合いに切ってもらうから必要ない。用事済んだなら早く帰れよ」


 朱音は舌を出した。


 「鈴ねえが、悠真が超カッコいいって言うから少しは期待してたのに。前より薄くなってるし」


 「は? フサフサだろ」


 「存在のことだよ」


 こいつ……。

 

 「なんでもいいから、離れろよ」


 「……冷たい」


 「は?」


 「悠真が冷たいっ。会えるの楽しみにしてたのに。ヤダヤダヤダぁ!」


 朱音は、また涙袋に手を当てている。

 泣き真似だ。わざとらしすぎる。


 「楽しみって、トドメをだろ?」


 俺の言葉に、朱音は口を尖らせた。


 「だから放課後、つきあって」


 久しぶりに会ったのに、わがまま放題だ。


 「いや、俺、約束があるから無理。放課後に更紗……師匠の道場で教えてもらうんだ」


 そう言って、俺は机に置かれた道着袋を指差した。


 「へぇ。悠真。空手またするの?」

 朱音は含み笑いをした。


 「そのつもりだけど。お前には関係ないだろ」


 「わたしも、いく」


 「は?」


 「ドライバーさんは帰らせるから。悠真とデートするつもりだったのに、フレンチの店とかキャンセルしないと」


 ……コイツ、学生服でフレンチに連れて行くつもりだったのか?


 朱音は、眉間にしわを寄せている。


 横で見ていた斉藤が手をあげた。

 「質問! ドライバーさん? 朱音ちゃんはお嬢様なんですか?」


 俺は斉藤に言った。


 「こいつの家。すげー金持ちなんだよ。そして、性格がキツイから、気をつけて」


 「悠真。こいつ誰?」

 朱音は目を細めている。


 「親友の斉藤。挨拶くらいしろよ」


 すると、朱音はスカートの両端を軽くあげた。


 「こほん。わたくし。美岬家の長女……次期当主候補筆頭、朱音と申します。以後お見知りおきを」


 朱音はぺこりと頭を下げた。


 斉藤は後ずさった。

 「美岬家って、△△グループ創業家の? この前、なんとかの流儀っていうテレビで見かけました。サインください!」


 「ふふふっ。いいですよ? 跪きなさい」

 朱音はドヤ顔だ。


 ペシッ。

 俺は朱音にデコピンをした。


 「ひっどーい。なにすんのよ!」

 朱音は涙目で額を押さえた。


 「お前、三女でしょ? しかも兄貴もいるし。当主にならない候補筆頭の間違いだろ」


 「ぶーっ!! みんなの前で恥かかせるなんて、酷い」

 朱音は口を尖らせて、ポカポカと俺を叩いた。


 その様子をみて、斉藤は苦笑した。


 俺は朱音に言った。

 「つかさ、お前、年下なのに呼び捨てにするなよ」


 「肉団子よりはいいでしょ?」

 朱音は、口角をあげた。


 「肉団子とか、俺のこと嫌いすぎでしょ?」


 すると、朱音は首を傾げた。


 「肉団子って、酷い言い方なの? わたしの好物だから、好ましい表現なんだけれど」


 「いや、イジメるヤツの典型的なやり口だな」


 「知らない……」


 「え?」


 「『肉団子』? そんな酷い呼び方をする子なんて知らない。お兄様。きっと、他の可愛い女の子と間違えているんですわよ?」


 (は? さっき、その口で言ってただろ?)


 朱音はまた腕に抱きついてきた。


 端々にマウントが混ざってるのが、すごく気になる。


 「っていうか、お前が来るのって、月末の予定じゃなかったっけ?」


 「お父様の予定が早まって、すぐに発つことになったの。だから、今日から悠真の家にお世話になるつもり。叔母さんのOKももらってあるから」


 「はぁ!?」



 ググっ。

 不意に反対の腕を引っ張られた。


 「はぁはぁ」

 鈴音だ。息を切らしている。


 「鈴音、どうした?」


 「わたしも放課後、一緒に行く! ちょっと悠真」


 鈴音は俺の耳元に口を近づけた。


 「なんだよ」


 俺の質問に、鈴音は小声で言った。


 「浮気はダメだから」


 「いや、どう見てもそんな感じじゃないだろ」


 「わたし、知ってるし。この子、気づいてないだけで、絶対に悠真のこと好きだし」


 すると、朱音が苦笑した。

 「わたしがこの肉団子を? あり得ないことですわ」


 「……はぁ」

 俺は、また特大のため息をついた。


 面倒なことになる予感しかしない。


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ハーレム爆誕ですかねぇ(ニヤリ)
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