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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第53話 拍手なき命中。


 

 3組目——鈴音の順番だ。


 一列に並んで入場して横に並ぶ。

 鈴音は髪をいじろうとして、手を止めた。

 

 「鈴音、緊張してる……」

 蛍が心配そうにしている。


 「ここ、私語厳禁だよ?」


 「あっ、ごご、ごめん」


 「しーっ」

 俺は人差し指を立てて、自分の口に当てた。




 鈴音は3番目だ。

 前の選手が射っているが、鈴音は既に準備に入っている。


 射法八節。


 鈴音は左をわずかに開き右に寄せ、土踏まずで床を噛む。胴は糸で吊るすように真っ直ぐ。


 弓と矢を持つ。

 

 ——鈴音は、具合が決まらないらしく、右手で矢を何度か掴み直した。


 「鈴音、絶対に緊張してるし」

 蛍が小声で呟いた。

 俺の膝に置かれた蛍の手先に力が入る。



 鈴音は弓と弦に左右で等しくなるように引き、構える。


 

  一瞬の静寂が訪れる。


 

 「パシンッ」

 弦から小気味いい音


 「——タンッ!」

 通りのいい音が響き、矢が的に突き刺さった。


 会場に拍手が響く。

 予選で鈴音の矢は、4射とも的中だった。



 「以上で個人戦の予選が終了しました。10分の休憩の後に、女子個人の準決勝が開始されます……」


 会場にアナウンスが流れた。



 「ふぅーっ」

 俺ら3人は、大きく息を吐いた。

 

 「鈴音、次は準決勝? 鈴音、的のど真ん中に当たってたけれど、ボーナス追加されたりしないの?」


 蛍がキョロキョロしながら言った。


 この大会では、4射3中で機械的に勝ち残ることができる。鈴音は、一度、矢を掴み直したが、予選を勝ち抜くことができた。


 「当たりと外れだけで、追加ボーナスはないよ。小さな的に当たるだけでも、すごいことだからだよ」


 「ふーん。あんなに真ん中に当たってるのに端っこに当たった人と同じ評価ってことでしょ? へんなのっ」


 蛍は不満そうに口を尖らせた。


 「トイレいってこようかな」

 緊張のせいか、トイレが近い。


 すると、蛍も立ち上がった。


 「あっ、ウチもトイレ行ってくる。お母さんっ、ウチ、コーラとかピザとか買ってこようか?」


 俺と母さんは苦笑いをした。


 「……野球観戦じゃないんだから。飲食禁止です」



 10分後の準決勝も、鈴音は二度の揺れを飲み込み、4射3中で通過した。

 



 ——女子個人の決勝。


 決勝は射詰方式だ。

 選手は一射ずつ矢を放ち、外した者から脱落していく。それを残り1人になるまで繰り返す、いわゆるサドンデス方式だ。


 選手たちは自分の番が終わっても、的から視線を外さない。空気がピンと張り詰めている。




 鈴音の3射目。


 

 射法八節。

 足踏み。


 鈴音は、的の方を見て左足を地面に踏み開き、視線を中心に戻してから、右足で地面を踏んだ。



 「あれ、さっきまでと違う。鈴音、本気出したのかな?」

 蛍が心配そうに囁いた。


 たしかに、3射目までの鈴音の足踏みは、左足に右足を一旦寄せてから右足を地面につける一足開きだった。


 ……今のは両足で幅を決める二足開きだ。


 追い詰められて、本気を出したのだろうか。

 ルーティンを崩すなんて、鈴音らしくない。


 

 見ているだけでも心臓が痛くなる。

 会場の空気が薄い。

 


 鈴音が弦を引く。

 弓が半月の形にしなる。


 矢の後端に力がかかる。

 ギリギリという音が、ここまで聞こえてきそうだ。


 鈴音が右手を放した。


 

 バシュンッ!



 (……濁った音?)


 

 ——前に鈴音に教えてもらったことがある。

 『良い射の時はね、陽の音っていって透き通った音が鳴るの。逆に濁った陰の音は……』

 


 刹那。



 的に矢が刺さった。

 縁に刺さった矢の羽根がグラグラと揺れている。


 いつもは、あんなに揺れない。

 


 会場には拍手は起きない。



 「やった。鈴音の当たったよね? ねっ?」

 蛍はそう言うと、俺の手を握った。


 その上に母さんの手も重なる。


 ——2人の指先が冷たい。

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