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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第47話 鈴音と勉強会。

 

 ……パタン

 鈴音は教科書を閉じた。


 「んーっ。思ったより……もうちょっと頑張らないとかな?」


 鈴音はため息をついた。

 

  


 11月下旬。

 旅行を翌々週に控えた、ある金曜の夜。


 俺が通う鷺乃谷学園高校では、テスト直前だった。


 そして、いま、俺は鈴音の部屋で勉強を教えてもらっている。



 兄としては情けない限りだ。


 だが、隣の部屋に学年女子トップがいるのだ。これを利用しない手はない。


 ペンを回しながら鈴音は言った。


 「悠真に家庭教師を頼まれて仲良くできると思ってたけれど、ちょっとそれどころじゃないかも」


 「それは、お前が出来すぎるからだよ。俺だって頑張ってるし。この前のテストも斉藤よりは上だったぜ?」


 鈴音は、2度目のため息をついた。


 「斉藤君、クラスでビリっ子でしょ?」


 「いや、あいつは運動だけは得意なんだよ?」


 「悠真は運動は?」


 「……普通」


 「もうっ。負けてるじゃん。テストが終わるまで、毎日、一緒に勉強するから!」


 「お手数おかけします」


 すると、鈴音は何故か狼狽えた。


 「あ、厳しいこと言ったけど、悠真を好きな気持ちは一緒だからね? 怖い子と思われたら嫌かも」


 そう言って、俺の肩にもたれかかってくる。


 「どうしたの? 急に」


 「え、だって。わたし怖い顔してたし、嫌われちゃったらイヤだし。不安になった」


 鈴音はストイックだ。

 人に教える場合も、基本は緩くない。


 厳しくしたいけれどできない、そんなジレンマに陥っているらしい。


 「そういえば、鈴音はそろそろ部活の大会だろ? 出れそうなの?」


 鈴音は足首を撫でた。

 もう松葉杖は卒業したが、まだ湿布を貼っている。


 「足はなんとかかな。今回で最後の大会だし、出れそうだし良かったよ」


 そう言って、鈴音は微笑んだ。


 うちの弓道部は、2年生で引退だ。

 次の高校選抜が、鈴音にとっては最後の大会になる。


 「俺、応援にいくから」


 「ほんと?」


 「あぁ、絶対にいく」

 

 俺は照れ臭くて視線をそらした。


 棚の上には、大中小のクマのぬいぐるみが等間隔で並んでいた。


 (鈴音、そんなにクマ好きなんだ)


 いつもながらに良く片付いている。

 たまに漂う鈴音のいい匂い。

 

 「わたしね。悠真の試合も、また応援したい」


 「どうして?」


 鈴音は人差し指をテーブルに立てた。

 第一関節が反って、くにっとなる。


 「強くてかっこいいおにいちゃんに戻ってほしいし。あ、でも、もう戻ってるかも」

 そう言うと、左手を軽く握って、胸元に当てた。

 

 俺には密かな夢がある。

 女の子にドヤ顔で『俺のこと好きだろ?』と言ってみたい。


 だから、試すことにした。


 「鈴音って、俺のこと好きでしょ?」


 鈴音は消しゴムをコロコロと転がした。


 「べ、別にいいじゃん。わたし、思ったことは伝えるって決めたし。……好きだけど」


 「どれくらい?」

 これは、言ってみたいセリフシリーズの続編。

 

 「蛍に、悠真のこと好きって言った」


 「え? どういうこと?」

 俺の声は裏返った。


 「この前、蛍に、仲直りするなら本心を聞かせてって言われて」


 この前?

 猫カフェに行ったときか。


 「それで?」


 「『大好き。だから蛍に渡さない』って言った……」


 「そうしたら?」


 「『そっか。そんなことかと思ってた』って笑われた。他の男を薦めてゴメンって言われた」


 「蛍らしいね」


 「あとね……」


 「なに?」


 「これ、見ていいよ」


 鈴音は自分のスマホを差し出した。

 ダイアリーのアプリが開かれていた。


 「見ていいの?」


 「いいよ。悠真になら」

  

 本人に良いと言われても、さすがに全部見るのは気が引ける。


 「じゃあさ、おすすめ教えてよ」


 鈴音は頬をふくらませた。


 「ドラマじゃないんだからお薦めとかないし……じゃあ、これとか」


 鈴音は画面を指でなぞった。



 『7月◯日 蛍に「本当は兄妹じゃないんじゃない?」と聞かれて、「血が繋がってなかったら、むしろスッキリするでしょ」と答えてしまった』


 (これ、立ち聞きしてしまって、俺がショックを受けたやつだ)


 日記は続く。 

 

 『でも、わたしはずっとモヤモヤしていて。その原因はアイツと兄妹だから。ただのクラスメイトだったら、普通に告白して、普通に仲良くなれたのに。わたしはアイツと兄妹だから、永遠にそうなれない。だから、わたしは、この気持ちをずっと我慢しなきゃダメなのだ』


 鈴音は俯いている。

 前髪越しに見える鎖骨がピンクになっていた。


 そして、谷間が少しだけ見える。


 「お前って、色っぽいよな」


 「って、日記みせたのに感想が『色っぽい』とかありえないんだけど! もう見せてあげない!」


 鈴音はそういうと、俺からスマホを奪い取った。


 「ごめん」


 「許してあげないっ! 許して欲しいなら、聞かせて」


 「え?」


 鈴音は両手をついて肩をすくめた。


 顔が近い。

 

 俺の気持ちなんて決まっている。

 そういや、ずっと伝えてなかったもんな。


 なんだか、言ってしまったら。


 色んなことが、どんどん進んで。

 戻れなくなる気がして。



 「俺は、実は……」

 鼓動が速くなる。


 『す、き、だ』

 たった3音の簡単なことなのに、言葉が止まった。


 沈黙が訪れる。



 ガチャ。

 ドアが開いた。

 

 「お勉強してるから差し入れなんだけど、お邪魔だったかしら?」


 母さんだった。


 「いや、別に」

 俺は咄嗟にそう答えた。


 「ふーん。やっぱり、鈴音は頼りないなぁ。旅行で本当に同室にしちゃって良かったかしら?」


 鈴音を見ると半眼だった。


 俺が口ごもったから。

 機嫌を損ねてしまったようだ。


 「大丈夫だし。それよりも、そのお皿のそれ。『パティスリー・サラサラ』の? やったあ!」


 鈴音はお皿のケーキを見ると、目を輝かせた。


 『パティスリー・サラサラ』は最近、駅前にできた話題のケーキ屋だ。


 鈴音の声のトーンは明るい。

 すっかり機嫌が直ったみたいだ。


 俺たちは糖分でブーストして、限界まで勉強した。

  


 ********


 

 チュンチュン。

 カーテンの間から日差しが差し込む。


 「さむっ」


 肩の震えで目を開けた。

 気づけば、俺はテーブルにつっぷしていた。


 夜中にエアコンが消えてしまったらしい。

 鈴音も縮こまって絨毯で寝ている。


 「おい。起きろよ」


 何度か声をかけたが、鈴音は、すぅすぅと気持ちよさそうに寝息をたてている。


 「しかたねーな」


 俺は右手を鈴音の膝裏に入れ、ウエストを支えて持ち上げる。


 生まれて初めてのお姫様抱っこ。


 ……鈴音は太ってはいないが、力の抜けた身体は予想以上に重かった。


 ベッドまでの数歩でもキツイ。


 「食い過ぎだろ」

 

 しまった。つい本音が。

 俺は、すぐに口をすくめた。


 「……」

 鈴音に変化はない。


 大丈夫。

 セーフだ。


 よろめきながら、鈴音をベッドに下ろす。

 すると、鈴音が俺の首に腕を巻き付けた。


 膝裏の右手が抜けない。

 身体が離せない。


 中腰でかなりキツイ。


 「起きてるんだろ?」

 鈴音に声をかける。


 「……」

 だが、何も答えない。


 「ちょっと。この体勢きつい」

 鈴音の唇が動いた。


 「ウチぃ。どうせ太ってるしい」

 

 蛍の真似。

 こいつ、絶対に起きてる。


 「足が痙攣してるんだけど」


 「……すぅすぅ」

 まるで、擬音語を音読しているような寝息。

  

 結局、5分ほど我慢させられた。


 

 ドサッ。

 俺は自分の部屋に戻ってベッドに身を投げた。


 腰をとんとんと叩く。

 やばい、腰痛になりそう。


 でも、湿布を貼っていたら鈴音に笑われそうだし、母さんにも何を言われるか。



 あーあ。

 これじゃあ、外に出れないよ。


 おかげで、俺の週末は勉強漬けだった。

 


 ——試験当日。


 担当教諭が時計を見た。

 「試験終了。筆記用具を置いてください。以後、文字を書いた者は……」


 

 教室を出ると、鈴音が駆け寄ってきた。

 「どうだった? できた?」

 

 自分もテストを受けていたのに、俺の心配をしているみたいだ。


 俺は親指を立てた。


 「もちろん。鈴音にも勝っちゃったかもしれないぜ?」


 鈴音は数歩先に行くと、振り返った。


 「ふーん。本当に勝てたら、悠真のお願い何でも聞いてあげる。……だから、その前に頭を撫でて」


 俺は鈴音の頭を撫でた。

 さらさらの髪。


 鈴音は俺の手に、顔をすり寄せて笑った。


 「大好きだよ♡」


 

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