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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第45話 鈴音の権謀術数。

 「体調はどう?」


 鈴音はそう言うと床に座った。


 「良くはないけど、寝てれば大丈夫だと思う」


 鈴音はテーブルの上にあるお粥の小鍋に気づくと、少しだけ寂しそうな顔をした。


 「ちょっと下げてくるね」


 待ってる間、斉藤にメッセージを送った。


 「差し入れサンキュー。でも、エロ本は本気でいらない」


 すると、すぐに返事がきた。


 「え、喜んでくれると思ったんだけど。ちゃんと鈴音姫に似てる子の選んだんだぜ?」


 俺はスマホを放り投げた。


 「さすが斉藤。女子みんなにキモイって言われてるだけのことはあるぜ」


 それにしても鈴音。

 少し機嫌が悪いか?



 5分ほどすると、鈴音が戻って来た。

 何やら俺の部屋着とハンドタオルを持っている。


 「元気になってよかった。これ、買って来たんだ」


 鈴音は笑顔だった。

 肩にかけていたバッグに手を突っ込んだ。


 「ありがとう」


 「えっと、プリンでしょ、アイスでしょ、あとゼリーと、冷えピタと」


 差し入れの内容に偏りを感じるが、何も言うまい。


 「ちょっと、失礼」


 そういうと、鈴音は俺の前髪を持ち上げた。

 冷えピタを貼ってくれる。


 額にヒヤッという感触があり、無意識に肩がすくんだ。


 「まだ、熱あるね。悠真は明日は学校を休むように」


 そう言うと、鈴音は手帳を開いた。

 

 「何してるの?」


 「え、明日、わたしも休めるか確認してるの」


 「なんで?」


 「アンタのお世話に決まってるし」


 「いや、明日は母さんいるし」


 「また変な虫つくかもしれないし!」

 鈴音は口を尖らせた。

 

 うん。

 どうやら、まだご機嫌ななめだ。


 俺は心のどこかで、少しだけ安心した。


 「そういえば、蛍とはどうだった?」


 「最初はギクシャクしてたけど。子猫が可愛くて、すぐに元通りになれたよ」


 「良かった」


 「悠真のおかげ。……ありがと」

 鈴音は、そう言うと指先で髪を揺らした。


 「ぜんぜん。俺も嬉しいよ」


 「悠真、バカだけどやっぱ好きだよ」

 鈴音は小声で言った。


 「え、なんて言ったの?」


 鈴音は大声になった。


 「好きだけど、やっぱ、悠真はバカ!って言ったの!」


 『バカ』と『好き』の前後が変わっただけで、随分とニュアンスが変わるのだが。軽く傷つきそうだ。


 「俺、鈴音だけだから」


 「……ほんと?」


 「ああ」


 「エッチ本の子が、わたしと似てるのに?」


 ……バレてら。


 「そ、そ、それはだな。会えない時も鈴音のことを想えるようにだな。っていうか、全然違うタイプの子でも、微妙じゃないか?」


 「いや、まあ、それはそうなんだけど……さ」

 鈴音は前髪で顔を隠した。


 「あっ、上半身起こして」

 鈴音はそう言うと、俺の首の後ろに手を回した。


 「え? なに?」


 「汗かいてるでしょ? 身体を拭いてあげる」


 「いや、いいよ」  

 結構、汗をかいてるし。さすがに悪い。


 「汗臭いと、モテないよ? それに湿った服だと治らないし。ほら、脱ぐのっ」


 鈴音は俺の上着を上に引っ張り上げた。

 意外なことに、鈴音は真面目に身体を拭いてくれるつもりらしい。


 濡らして固く絞ったタオルが、首筋を滑る。


 ——お互いに無言で少しだけ気まずい。


 5分ほどで拭き終わると、鈴音は着替えさせてくれた。


 「よしっ。これですぐに治っちゃうね。ズボンの方は、しなくていいの? わたし、気にしないよ?」


 「こっちが気にするんだよ。あとで自分でやっとくから」


 「そう? わたしたち、一緒に育った兄妹じゃん。悠真が気にしすぎなんだよ」


 もっともらしいことを言いながら、鈴音は俺の上着をビニール袋に入れた。


 「おい。それビニール袋に入れてどうするつもりなんだ?」


 すると鈴音は袋を大事そうに抱いた。


 「べ、別に? うつると危ないから隔離しただけ」


 隔離物質をなぜ抱いている。

 俺は念を押すことにした。


 「ふーん。絶対に嗅いだりするなよ? うつるから」


 「しないし! わたしをどんな変態と思ってるのさ」


 「頻繁に脱衣所で俺の服をあさってる変態かな」


 「ちがうし。たまにだし。普段は我慢してるし」


 鈴音は身振り手振りで必死だ。

 なんだか血の渇きを我慢できない吸血鬼っ娘みたいで、少し可愛い。


 「ふーん。月1くらいではやられてる気がするんだけど」

 


 パンッ。

 鈴音が手を叩いた。


 「あ、あとね。伊豆の家族旅行。12月に行くみたい!」

 

 来月か。わりとすぐだ。

 ってかこいつ、無理矢理に話題を変えやがった。


 「あぁ、前に母さん行ってたもんな」


 「それでね、わたしに考えあるんだけど」


 「なに?」


 「たぶん、澪さんのことで、2人きりで話したいこととかあると思うんだよね」


 「確かに」


 「んでね、邪魔したくないし。部屋割りを、わたしと悠真にしてもらおうと思うんだけど」


 「え? そんなの通らなくない?」


 特に父さんがNGだろう。

 すると、鈴音は体をクネッと揺らした。


 「実はね……もうパパにはOKもらってるの」


 は?


 「まじ? よくOKしたね」


 本気でビックリだ。

 どんな魔法を使ったのだろう。


 「パパに抱きついて、ママ、少し寂しそうだったから、たまには夫婦で仲良くして、って言ったの」


 「母さん、元気ないの?」


 鈴音はペロッと舌を出した。


 「……全然、元気だけど♡」


 軍師鈴音。恐ろしい。

 父さんの鈴音ラブを逆手にとりやがった。

 俺には絶対にできない方法だ。


 「来月かぁ。ますます楽しみだな」


 「やっぱ、あれ必要かなあ?」


 「アレって?」


 「そんなの決まってるし。赤ちゃんできなくするやつ。こ、こ、こ……」

  

 俺は鈴音の口を塞いだ。


 「言わんで宜しい」


 「え、要らないってこと?」


 「そんな風にならないってことだよ」


 「ちぇーっ。悠真のイジワル。わたしの旅の楽しみが8割減になった」


 それ、男が言ったら、どんでもないクズ発言なやつだ。

 

 「楽しみ、減りすぎだから」


 「だってぇ。悠真ともっと仲良くなりたいんだもん」


 今度はチャラ男の常套句がきたよ。


 「鈴音は可愛いんだから。もっと自分を大切にしないと」


 俺も常套句返しだ。


 「ま、まあ。悠真がそういうなら分かったよ」

 鈴音は頬を摩った。


 ふっ、チョロいぜ。

 でも、偽らざる本心でもある。


 「あ、アイス食べさせてあげるっ」


 「いや、今は別に食べたくないかも」


 俺の言うことは無視で、鈴音はアイスの蓋をめくった。


 「ほら。アーン」


 なにやら無言のプレッシャーを感じる。


 「あ、あーん」

 渋々、口を開けると、頬のあたりにスプーンが当たった。


 「おい。どんだけコントロール悪いんだよ。頬にアイスついただろ」


 ペロッ。

 鈴音が頬のアイスを舐めた。


 「ふーんだ。更紗ちゃんにチュウされて、ヤキモチやかせるのが悪いんだぞっ」


 なぜ知っている。

 さては、更紗さんが言ったのか。

 あの人、絶対に鈴音をからかって楽しんでる。


 「ごめん」


 俺の言葉に鈴音は俯いた。


 「悠真は悪くないって分かってても、やきもちが止められないの。わたしの方こそゴメンね」


 顔を上げると鈴音は笑顔に戻っていた。


 鈴音の看病のおかげだろうか。

 次の日の朝、俺の熱はすっかり下がった。


 

 ちなみに、この数日後。

 鈴音が熱を出したのは、言うまでもない。

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