表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/64

第44話 39℃と夢

 翌日、ベッドに転がっているとスマホが光った。開くと写真が送られてきていた。


 鈴音と蛍と猫の写真。

 猫を真ん中で抱いて、満面の笑みだ。


 「悠真のおかげだよ。ありがとう!」


 すごく良い写真だ。


 ったく、世話が焼ける。

 普通に仲良さそうじゃねーか。


 俺は、上半身をベッドに預けた。


 

 ピピピピ

 小気味いいビート。


 右脇に手を伸ばし、見てみる。


 「39.0℃」  

 これは体温計。


 そう、俺は熱で寝込んでいる。

 そして、生憎、両親は用事で家にいない。


 鈴音が家を出る時、「ちょっと顔が赤くない? 蛍との約束、キャンセルしようか?」と言われたのだが、断ってしまった。


 まさか、こんなに熱が上がると思わなかった。トイレに行くために立ち上がると、視界が二重になった。


 「はぁはぁ」  

 ちょっとヤバいかも。


 病院にいくか?

 でも、外に出るのすらダルい。


 まぁ、とりあえず寝るか。

 どうせ病院に行ったって、様子をみるだけだ。


 布団の重さがしんどい。

 呼吸のたび胸が押さえつけられる。

 

 寝ても辛くて、すぐに目が覚めてしまう。


 スマホのメッセンジャーで鈴音の名前に触れかけるが、やめた。


 「邪魔したくない」

 こんなことなら、強がるんじゃなかった。


 すると、着信がきた。

 斉藤だ。


 「よお。体調はどうだ? なんか鈴音姫から連絡がきてさ」


 俺を心配して、斉藤に連絡してくれたのか。

 持つべきものは、優しい妹だな。


 「はぁはぁ、体調はまぁ、最悪だな」


 「おいおい、大丈夫かよ? これからそっち行くから。何か買っていくわ。何欲しい?」


 「スポドリと、何か食えるもの」


 「え、菓子パンとかでもいいのか?」


 全然良くないが、食べたいものもない。


 「別にいいよ。玄関の鍵を開けとくから、勝手に入ってきてくれ」


 「エロ本はいるか?」


 ブツッ。


 俺は通話を切り、スマホを掛け布団の上に放り投げた。


 良かった。

 とりあえず、生き残ることはできそうだ。



 お日様の匂い。

 両脇に体温と自重を感じて、俺は手足をバタバタとさせた。手がすごく小さい。赤ちゃんみたいだ。


 ……これは夢か。


 鎖骨のあたりにギュッとした感覚があって、じんわりと体温が伝わってくる。


 さらりとした黒髪が、頬にかかる。


 「悠真、悠真。ねぇ、あなた。この子、自分の名前を分かってるのかしら」


 「あー、あー」

 俺はうまく発音することができない。


 ママの手。

 あったかい。




 「ママっ!!」


 そう叫びながら目を開けると、目の前に大きな瞳があった。まつ毛が長くて、ラメが入っている。甘くて大人の良い匂い。


 ……澪母さん?


 更紗さんは、艶々な前髪を上げたまま顔を離した。額にひんやりとした更紗さんの感覚が残る。


 「さ、更紗さん」


 「んっ。さっきより熱っぽさは引いてるかな。ごめんね、体温計がどこにあるか分からなくて」


 テーブルを見たが、体温計がなくなっている。

  

 「え、あ。すいません。あれ、そこに置いてたハズなんだけれど。あれ、斉藤は?」


 「んっ。翔太はデートの誘いとかでどこかにいっちゃった。ほんと、薄情なヤツよね。わたしがしめといたから」


 「仕事あるのに、わざわざすいません」


 更紗さんはウィンクした。


 「ついでだし、全然。おかゆ作ったから、持ってくるよ。お台所を勝手に借りちゃってごめん」

 

 そういうと、更紗さんはエプロン姿のまま階段を降りて行った。


 ピピッ。スマホが光った。

 画面を開くと、斉藤だった。


 「ごめん、篠宮。ねーちゃんが自分が行くって聞かなくて、俺はボコられた」


 ったく、頼りないヤツだ。

 そう言いつつも、俺の口角は上がっていた。


 心配かけたな。



 更紗さんがお粥を持ってきてくれた。  

 ふぅふぅしながら食べさせてくれる。


 ちゃんと米から作ってくれたらしく、自然な甘さが胃に優しい。白湯が喉に染み込む。


 気づけば、体が少し楽になっていた。


 「ありがとうございます」


 更紗さんはエプロンを畳んだ。

 髪の毛がさらりと滑り落ちて、鎖骨を隠した。


 「おやすいご用。それよりも、ママって言ってたけれど、もしかして、そういうプレイが好きなの?」


 「実は……という訳でなんです」


 優しくされたからだろうか。

 俺は斉藤にも話していない澪母さんのことを話した。


 更紗さんの目は充血していた。


 「悠真」


 「なんですか?」


 「わたしがママになってあげようか?」


 俺は高校生だぞ?

 さすがに無理があるだろう。


 母さんならいるし。


 「こんな若くて綺麗だったら、ママじゃなくて恋人だと思われちゃいますよ」


 更紗さんは視線を上に向けた。

 少しだけ寂しそうに見えた。


 「恋人かあ。わたしには結婚も無理だろうし」


 俺は詳しくないが、社会制度の壁があるのだろう。でも、こんなに”良い女”。きっと良い人見つかると思うけど。


 「知り合い方とか歳が違ったら。俺が立候補したいくらいっす」


 もちろん、鈴音を裏切るつもりはない。

 でも、正直な気持ちだ。


 すると、更紗さんは微笑んだ。


 「……ありがとう」

 マジで綺麗だな、この人。


 「わたしも、あと10年くらい後に生まれたかったかも。あと普通の女の子だったら……って、たちのわるい冗談だね」


 更紗さんはスマホの画面に目を落とすと、カバンを肩に掛けた。


 「色んな経験してきたから、更紗さんはカッコカワイイんじゃないですか」


 更紗さんは目尻を拭った。

 フリで拭ったはずの指先は、なぜか光っていた。


 「熱のせいかな? 今日の悠真はキザすぎ。これ、お仕置きだから!」


 更紗さんは屈むと、俺の前髪を持ち上げた。


 チュッ。


 額にキスされた。


 「なっ、風邪うつりますよ!」


 「わたし空手4段だし、大丈夫! そろそろ本命の妹さんが帰ってくるみたい。わたしはそろそろ帰るね」


 空手4段でも風邪にはなると思うけれど。


 「あの、更紗さん。今度、道場に行っていいですか。そろそろ、ちゃんと再開したいなって」


 「大歓迎! それなら、なおさらお大事に!」


 そう言うと更紗さんは階段を降りて行った。

 ほぼ同時に玄関のドアが開いて、鈴音の声が聞こえた。


 (更紗さん、ありがとうございました!)


 タタッと足音がして、鈴音が上がってきた。

 鈴音だ。早く話がしたい。


 鈴音はドアを開けると言った。

 何故か眉が吊り上がっている。


 「これ、更紗ちゃんに、斉藤くんからの差し入れだから渡しといてって頼まれたんだけど!」


 鈴音は左手に薄いコンビニの袋を持っていた。

 薄いビニール袋からは、女性のヌードと思われる雑誌の表紙が透けている。


 斉藤のやつ!

 本当にエロ本を送り込みやがった。


 「もうっ。こんなの読んでないで、早く元気になりなさいっ!」


 ……冤罪でまた熱が出そう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ