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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第39話 本音の積み木。

 おしゃれなカフェ。

 更紗さんは、俺の顔を見つめた。


 その視線は真剣だ。


 「悠真。あなた、本当は蛍ちゃんの気持ちに気づいているでしょう?」



 ********


 その日の午前。

 


 「うわぁ。派手にいっちゃいましたね」


 俺らは今、モールのシューズショップにいる。

 シューズを受け取ってくれたのは、偶然、ピンクリボンを買った時のスタッフさんだ。


 「せっかく売ってくれたのに、すみません」

 

 鈴音がしおらしく言った。


 我が妹よ。『金払ったんだから、勝手でしょ』みたいな態度よりはすごく良いですぞ。


 鈴音の言葉にスタッフさんは微笑んだ。


 「裂けるほどの力がかかったってことは、それだけこのシューズが頑張ったってことですし。きっと、この子も持ち主さんのお役に立てて喜んでます」


 「あの、この子、直りますか?」

 鈴音は心細そうに聞いた。


 「もちろん」

 スタッフさんは笑顔で答えると、大きなファイルを広げた。

 

 「えーっと、リペア代はっと……」


 リペアって、いくらくらいかかるのだろう。

 新品より高いとか普通にありそう。


 っていうか、俺の方の靴は激安だったし、壊れたのが俺の靴だったら、確実に新品を買った方が安いと思う。


 買った時のレシートを渡すと、スタッフさんは資料をなぞる手を止めた。


 「これ、カップル割で購入なさってますね。特典で1ヶ月の保証がついています。無償で新品に交換もできますが……」


 鈴音はもう片方の靴をギュッと抱きしめた。


 「これが良いんです。この子はわたしを守ってくれたから、修理してください」


 「そうですか。わたしとしても、リペアがお勧めです。お預かりにはなりますが、保証内でリペア対応できますよ」


 「ありがとうございます」

 俺が礼を言うと、スタッフさんは笑顔になった。

 

 シューズを渡してショップから出ると、鈴音が言った。


 「悠真。悠真のプレゼントがわたしを守ってくれたみたい。もし、普通のスニーカーで行ってたら、骨折してたかも」


 たしかに、そうなのかもしれない。

 俺のプレゼントした靴が鈴音を守ったのなら、すごく嬉しい。

 


 カツン。


 鈴音はまだ松葉杖だ。

 短距離なら片足で移動できるが、少し大変そうだ。


 俺にも何か手伝えることはないのかな。

 あっ、良いこと思いついたぞ!


 「鈴音、足の爪を切るの手伝ってやるよ」


 バシッ。

 こいつ、松葉杖で太ももを殴りやがった。


 「そ、それって、アンタがわたしの足に触れるってことでしょ? この変態っ。うさにゃんより何百倍もはずかしいし!」

 鈴音は眉をつりあげている。


 「うさにゃんって何?」


 「わたしをかわいがってにゃん、のこと」

 鈴音は腰に手を当てて言った。


 ……ウサは1ミリも出てこないのだが。


 「ああっ!」

 鈴音は声を上げた。


 「どうした?」


 「この前、ツインテールにするの忘れた……。斉藤くんに絶対に忘れるなって言われたのに」

 

 「いや、忘れていいよ」


 普段と違う髪型(しかも、絶対に似合う)で責められてたら、負けてたかも知れないし。


 「むっ、わたしは似合わないってこと?」


 鈴音は足を止めた。



 俺の中の危険察知レーダーが、警報を鳴らしている。ここは、話題を変えるべきだ。


 「いや、……そういえば、蛍とはどうして喧嘩しちゃったの?」


 「言いたくない」

 鈴音は小声で答えた。


 困ったな。

 俺は首筋をかいた。

 

 「お前も仲直りしたいんだろ? だったら原因くらい把握したいんだが」


 「あんたのせい」

 小声だが、語気が強い。


 「それって、どういう?」


 「言える訳ないじゃん。バカ」

 鈴音は口を尖らせた。



 パンッ。

 

 手を叩く音がして誰かに声をかけられた。

 

 「あっ、悠真。うっわー。鈴音ちゃんの方は痛そう。2人とも、こんなところで何してるの?」


 目の前にいたのは、更紗さんだった。


 「更紗ちゃん! シューズの修理です」

 鈴音が答えた。なにやら嬉しそうだ。


 さっきまで口を尖らせていたくせに。


 更紗さんは、ライムグリーンのミニバッグを身体の前で持ち直して言った。


 「用事が終わったのなら、ランチ一緒にどう? おすすめのお店があるの」


 「ええっ。いいんですかぁ? 悠真、いこっ」

 こいつ、ほんと更紗さんのこと好きだよな。


 俺たちは、ランチに行くことになった。



 ショッピングモールを出ると、更紗さんはタクシーをつかまえた。


 「お店、そんなに遠いんですか?」


 俺が聞くと、更紗さんは笑った。

 甘くて胸の奥をくすぐる、大人の香りがする。


 「歩いて数分だけど、怪我してるレディを連れ回せないでしょ?」


 なんだかカリスマホストみたいな台詞だな。


 あぁ。そうだ。

 この人、空手で現役の頃はめっちゃモテてたんだった。



 タクシーの後部座席に、3人で並んで座る。俺は少しシートが硬い真ん中の席だ。


 右腕と左腕に2人の胸が当たっている。


 「悠真、更紗ちゃんの方に近い気がする……」


 鈴音が右からグイグイと身体を押し付けてくると、それをみた更紗さんは、左腕に手を絡めてきた。


 更紗さんは、手を繋ぐような素振りをみせつつ、鈴音に見せつけるように、俺の手の甲をツンツンとした。


 (この人、絶対に面白がってるし)


 まじで居心地が悪い。   


 すると案の定、鈴音は俺を睨みつけた。

 更紗さんは、軽く髪をかきあげて、余裕のある笑みをした。



 グリッ。

 俺は一瞬、呼吸が止まった。


 みぞおちの辺りに鈴音の左肘が入った。


 (更紗さん。ウチの妹、ほんと単純なんだから、それ以上は刺激しないでください……)


 「鈴音ちゃんは、本当に悠真のことが好きなのね」


 更紗さんは笑った。

 


 連れて行ってもらったのは、おしゃれなベーカリーだった。併設されたカフェの店内には、炒った小麦の甘く香ばしい匂いが満ちていた。

 

 塩味のクロワッサンが人気らしく、3人ともサラダとハムとクロワッサンがワンプレートになっているランチセットをオーダーした。


 「更紗さんは、この後、お店に戻るんですか?」 

 

 俺が質問すると、更紗さんはため息混じりに答えた。


 「いや、この後は翔太を締めに……いや、弟に用事があって実家に戻る予定なのよ」


 斉藤は、また何かやらかしたのか。

 友よ、骨は拾うぞ。


 更紗さんは俺ら2人を交互にみると、テーブルに両肘をついた。


 「んで、2人は何に悩んでるの?」


 すると、鈴音は更紗さんに耳打ちした。

 俺には聞かれたくない話らしい。


 更紗さんは、ため息をついた。


 「ふーん。それはそれは。鈴音ちゃんは大変ね。まぁ、悠真は鈍感だから」


 どうやら大局においてダメなのは、俺の方らしい。


 「わたし、どうしたら良いか分からなくて」

 鈴音は俯いてしまった。


 更紗さんは、鈴音の手を握った。


 「鈴音ちゃんに必要なのは、自分……いや、貴女の好きな人と、蛍ちゃんだっけ? 親友を信じることかな」


 「それってどういう」

 俺が言いかけると、更紗さんは人差し指で俺の口を塞いだ。


 「あとね。信頼って積み木なの。土台になれるのは『本当』だけ。嘘の上には本当をおいても、崩れてしまう。ま、嘘つきなわたしが言うのも変だけれど」

 

 更紗さんは舌をぺろっと出した。


 「あ、ちょっとトイレ」


 鈴音はそう言うと松葉杖に手を伸ばした。


 「手伝おうか?」

 俺が手を差し出すと、鈴音に睨まれた。


 「トイレまで付いてくるな! この変態兄貴!」


 鈴音がトイレにいくのを見届けると、更紗さんは真っ直ぐに俺の目を見た。


 「悠真。あなた、本当は蛍ちゃんの気持ちに気づいているでしょう?」

 


 ——交換とリペア。

 手放すのか結び直すのか。

 俺はその選択を突きつけられることになる。


 夜のはじまりの公園。

 蛍はベンチから立ち上がると、俺の前でスカートの汚れをはたいた。


 「篠宮。ウチ、鈴音と仲直りしたいから言わないといけないんだ。あのね、アンタのことが気になってる……」


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