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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第38話 鈴音はもらってほしい。

 月明かりに照らされ、白い肌が映える。

 鈴音は少しだけ身じろぎして言った。


 「まだ渡してないプレゼントがあるの」 


 ********


 帰宅後。

 

 家に帰ると、両親が出迎えてくれた。

 父さんも早く帰ってきてくれたらしい。


 (もしかして、誕生日のお祝いしてくれるのかな?)


 だが、席につくとケーキが出てくる訳じゃなく、飾り付けもない。いつも通りの食卓だった。


 少しだけ寂しい。


 母さんがキッチンにいるのはいつものことだが、今日は珍しく父さんもキッチンにいた。


 父さんはオーブンを開けると、ミトンで鉄鍋を持ってきた。なにやら、トマトの良い匂いがする。


 「ほら、2人とも少し下がって」


 ドンとテーブルに置いて、蓋を開ける。

  

 湯気が立ちのぼり、鍋一面のチーズが現れた。

 焦げたチーズの端からは、ひき肉とトマトソースが見える。


 香ばしくて甘くて少し酸味のある香り。

 なんだろ、少しだけ懐かしい。


 「なになに、めっちゃ美味しそう!」

 鈴音が身を乗り出した。


 「ほら、鈴音ちゃん座って」

 母さんに注意され、鈴音は頬を膨らませた。


 「だってー、誰かさんがアップルパイ全部食べちゃったから、お腹すいてるしー」

 そう言うと、足をブラブラさせ口を尖らせた。


 んっ?

 アップルパイ……だと?


 「今日は、誕生日だからな。まずは悠真が食べてみろ」

 父さんが、俺に取り分けてくれた。


 揚げた米茄子の間にミートソースが何層にも重なっていて、一番上のチーズが溶けている。


 一口食べてみた。


 「すっげー、うまい! なにこれ。父さん、料理できたんだ?」


 うますぎて、俺は手が止まらなかった。


 「母さん、おかわり!」


 俺が皿を差し出すと、母さんは目を細めた。


 「それね。実は、みおの得意料理だったの。悠真が大きくなったら食べさせてあげてって。生前に澪がレシピを残してくれたのよ。……おいしい?」


 「あぁ、美味しい」


 父さんも俺が食べる姿をただ眺めている。


 「ほんとは、去年に出すつもりだったんだが色々あったからな。成人する前に作れて良かったよ」


 「そっか、ありがとう」


 俺は夢中で食べた。

 すると母さんが、目の下を拭いてくれた。


 「ほら、悠真。チーズが熱いの? 目から汗が出てるわよ?」


 これは……2人分の母の味だ。



 ********



 11月11日 PM11:50。


 

 「まだ渡してないプレゼントがあるの」 


 部屋のドアがノックされた。


 ごくり。

 俺は唾を飲み込んだ。


 「なんだよ、こんな夜中に」


 ドアを開けると予想以上の光景だった。


 鈴音が部屋の前に立っていた。


 月明かりが逆光のようになって、白い肌が青白く照らされている。鎖骨だけが、こぼれた月光に縁取られて。


 ……俺は思わず息を呑んだ。

 


 パジャマなのに首にはうちの制服のリボンタイが巻かれて、なにやらもじもじしている。


 「これが本当のプレゼント。あのね、……やっぱ無理ぃ」


 「と、とにかく中に入れよ!」


 こんな場面を父さんに見られたら、それだけで有罪確定だ。


 鈴音はどこからか猫耳のカチューシャをつけて、軽く拳を握った。


 「あのね、……うん、がんばる」


 「なに?」


 「わたしを自由にしていいにゃん」


 「……ぶはは。なにそれ?」

 俺は鈴音の必死な姿があまりに可愛くて、爆笑してしまった。


 「うぅ。しにたい」


 「いや、気持ちだけで嬉しいよ。でも、そのアイディアは、どこで仕入れたの?」


 「斉藤くんだし。だって、どうしたら悠真が喜んでくれるか聞いたら、こうしろって」

 

 「そかそか。まぁ、とにかく自分の部屋に帰れよ」


 「え、でも。わたし中に何も履いてないし」


 「で?」


 「だから、道中で襲われたりしちゃうかも」


 「家の中だからね。心配しなくても大丈夫だから」


 「だって、不安なんだもん」


 「なにが?」


 「わたしより可愛い子に告白されたら、悠真とられちゃうかもしれないし。安心したいの」


 「とられないから大丈夫だよ。おれ、モテないし」


 「だって、蛍、色っぽいし。わたし、蛍にくらべたら経験ないお子様だし」


 最近、やたら蛍にこだわるな。


 鈴音は泣き出してしまった。

 こういう言い方は良くないのかも知れないけれど。


 「ここだけの話、鈴音の方が全然可愛い。だから、安心して」


 「じゃあさ、わたしが100だったら、蛍はいくつくらい?」


 答えにくい質問だ。


 「うーん。98くらい?」


 「そんなの誤差の範囲じゃん! 四捨五入したら一緒だし!」


 「でも、テストだったら100点と98点は天と地ほど違うぞ? なんせ100点にはそれより上がないからな」


 「それって、わたしが世界一ってこと?」


 「まぁ、そういうことになるな」

 俺は鼻先をかいた。


 「じゃあさ、世界一の美少女に夜伽よとぎを誘われてる心境は?」


 夜伽って、江戸時代?


 「そろそろ鼻血がでそうだから、自室に戻ってほしい」


 「悠真、かわいい!」


 鈴音が俺の顔を抱きしめてきた。

 心臓の音がよく聞こえる……下着がないというのはどうやら本当らしい。

 

 「ち、ちょっとお」


 俺は背中を押して鈴音を部屋から追い出した。

 

 時計を見ると、ちょうど時計の短針が12を指していた。



 俺はベッドに座った。


 「はぁ」


 鈴音みたいな子に連日せまられて、少しは耐える方の身にもなってほしい。


 俺は頭を抱えた。

 髪をくしゃくしゃにする。


 鈴音が一途なのは分かってるけれど。

 でも、本来は俺なんかの違う届く女の子じゃないのだから。



 俺は壁越しにノックした。


 「なに?」

 鈴音の声だ。少し拗ねているらしい。


 「次の休み空いてる?」


 一拍遅れで鈴音は答えた。

 「蛍と予定してたんだけど、なくなっちゃったし……。うん、いいよ」


 「そっか。先約あるなら俺はまたでも構わないけど、大丈夫なのか?」


 「うん。はっきり約束した訳じゃないし。連絡も来ないし、いいの。大丈夫」

 鈴音の声は寂しそうだった。


 「そっか。なら、リボンのシューズを直しにいこうよ。高尾山で壊れちゃったからな」


 「それって、デートのお誘い?」


 「そのつもりだけど」


 「ふーん。仕方ないから行ってあげてもいいよ」

 鈴音の声が弾んだ。


 感情がコロコロ変わる。

 こういうところは、猫みたいだ。


 「あのさ、もしそういうことになっても、鈴音は、ニャン語なの?」


 「悠真が望むなら、頑張るにゃあん……」



 すると、階段の下から母さんの声がした。


 「2人とも、明日は学校でしょ? 早く寝ないとダメよー」


 「ごめん。おやすみなさ〜い」

 俺と鈴音は、叫んだ。


 

 少し不自由で、少し自由。

 全部はできないけれど、大切にはできる。


 家族に誕生日会をしてもらって、誕生日の終わりを鈴音と過ごせて。


 俺は今の環境が心地いい。


 いずれ、嫌でも大人になるのだ。

 今は、もう少しこの環境で過ごしたい。



 

 布団に入るとスマホに通知が来た。


 鈴音かな?


 しかし、違った。

 メッセージは蛍からだった。


 「鈴音と仲直りしたいから、手伝って」


 妹の親友の頼みだ。

 仕方ねーな。


 

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