表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/64

第22話 妹は兄に連動して泣くらしい。

 鈴音が準備のために2階に行くと、母さんに呼び止められた。


 「悠真。ちょっといい?」

 母さんが改まって話すとは珍しい。


 俺がテーブルにつくと、母さんは紅茶を淹れてくれた。


 テーブルに置かれたマグカップから、湯気がゆらりとあがっている。


 何の話だろう。

 もしかしたら、鈴音とのことを咎められるのかも知れない。


 母さんは紅茶をひと口飲んだ。

 「あのね。昨日行った法事なんだけど」


 篠宮 初音(しのみや はつね)、母さんの名前だ。父さんの5つ年下で、俺の本当の母親とは高校時代からの付き合いだったらしい。顔立ちは整っていて鈴音とよく似ている。


 「うん」


 「実はね。法事は、あなたのお母さん……みおのだったの」 


 「そうなんだ。澪母さんの実家は伊豆だったっけ?」


 母さんは頷いた。


 「本当は悠真も誘いたかったのだけれど、先方のご都合もあるし、確認を取ったのよ。それで、今度の伊豆旅行の話になったの」


 なんだかスッと腹に落ちた気がした。


 「なるほど。そういえば、澪母さんはどんな人だったの?」


 生母の親友から、その人となりを聞けるのだ。

 きっと俺は、恵まれているのだろう。


 「わたしの親友は……。そうね、性格は鈴音とよく似ていたわ」


 母さんと鈴音は容姿こそ似ているが、性格が似ているとは思ったことはあまりない。母さんは、鈴音よりも落ち着いている。


 そうか。

 鈴音に似ているのか。


 「でも、なんでそんな話を?」


 「どうしてかしらね」

 母さんは微笑んだ。


 なんでこのタイミングで?

 意図が分からない。


 母さんは紅茶を飲むと、話を続けた。


 「わたしは悠真のことを、実の息子だと思っている。でも、血の繋がりがないし、やっぱり嫌われるのが怖いの。だから、空手の一件でも悠真に嫌われたくなくて、踏み込めなかった」


 たしかに、そうだ。

 俺が空手を辞めた時、父さんは激怒したが、母さんは、あれこれ聞かなかった。


 「でも、俺は助かったよ。父さんみたいに頭ごなしに言われなくて」


 母さんは首を横に振った。


 「そんなことない。きっと澪だったら、もっときちんと話を聞いて、諭したはず」


 母さんのおかげで、俺は本当に助かったのだ。少なくとも、父さんと2人きりの話し合いよりは、何倍もいい。


 「俺は親の気持ちはよく分からないけど、母親は母さんひとりしか知らないから。偽物も本物もないよ」


 鈴音と血が繋がってないと聞かされた後は、頭の中がぐちゃぐちゃしていたけれど、今ではそう思っている。


 生まれの親にどうしても会いたいとか、母さんに対しての気持ちが変わったということもない。


 でも、心残りはある。

 俺は言葉を続けた。


 「ただ、生みの母親のことを知らずに過ごしてきてしまったことは、澪母さんには申し訳なく感じているかな」


 母さんはハンカチを目に当てた。


 「ありがとう。それを聞いたら、きっと澪も喜ぶわ。あっ、澪とね。悠真、あなたのことについても話したことがあるの」


 「うん。どんなこと?」

 俺はまだ生まれていなかったのに、何を話したというのだろう。


 母さんは目尻を下げた。


 「直接的にってわけじゃないのだけれどね。『もし、澪とわたしに子供ができて、男の子と女の子だったら。そして、いつか恋が芽生えたら素敵だし、祝福してあげないとね』って話してたの」


 「なんだか乙女っていうか、若々しいエピソードだね」


 母さんは笑った。

 今日の笑顔は、いつもより若々しく見えた。


 「あはは、確かに。実際に2人とも若かったのよ。この話をあなたに伝えられて良かった。あなたは優しい子だから、澪の気持ちを知っておいて欲しかったの」


 「優しいと自分では思えないけど」


 「そうかな? 少なくとも鈴音はそう思っているみたいだけれど」


 母さんはまた笑った。

 今日の母さんは、よく笑う。



 「悠真。さっきから玄関で待ってるんですけれどー」

 鈴音だ。早く来いということらしい。


 「ごめん、母さん。俺、そろそろ行かないと」

  

 俺は紅茶を一気に飲み干した。

 ほどほどに冷めた熱さが、じんわりと心に沁み込んでくる気がした。


 「いってらっしゃい。あのね。母さん、悠真の味方だから!」


 母さんはそう言うと手を振ってくれた。



 玄関では、鈴音が待っていてくれた。

 「待ちくたびれちゃったんですけれど」


 頬を膨らませている。


 「ごめん、あとでクレープおごってあげるからさ」

 俺は鈴音に手を合わせた。



 家の外に出ると、鈴音が俺の顔をのぞき込んできた。後ろ手を組んで、心配そうにしている。


 「どうしたの?」


 俺はそう聞きながら、さっきの自分の感情が、数分遅れで溢れ出ているのを感じた。嬉しいのと悲しいのと寂しいのが、胸の中でごちゃ混ぜになっている。


 「いや、鈴音が可愛すぎてさ」


 うまく誤魔化せたかな?


 「そうかそうか。まぁ、当然かな? でも、どうしたの? 嫌なことでもあった?」


 鈴音はまっすぐに俺の目を見つめている。


 「いや、なんでも……。うっ、うえ」   


 なんでもないのに、溢れた気持ちがこみ上げてきて抑えられない。涙がとまらない。


 ぎゅっ。

 鈴音が抱きしめてくれた。


 「悠真。元気を出して。泣きやむまで、わたしが一緒にいてあげるから」


 「ほんと?」

 心細くて、すがりたくなる。


 「うん。ずっとだよ。一生大切にする」

 鈴音は俺を抱きしめながら、そう言った。


 あれ、なんかこれ。

 前に俺が鈴音に言ったことじゃん。


 鈴音は、ぎゅーっと力を込めた。


 なんだか優しくされて。

 どんどん涙が出てきてしまう。


 すると、鈴音は俺の頬にキスをした。


 「泣き止まないと、悠真の『悲しい』は、わたしが全部なめちゃうから」


 「汚いよ」


 「汚いわけないし。悠真のことは、わたしが守ってあげるから」


 なんだか、今日の鈴音は頼もしい。


 「こんな情けない兄貴で、嫌いにならない?」


 「なるわけない。わたし、悠真が頑張ってるの知ってるし。むしろ、毎日毎日、前より好きになってるの」


 

 チュッ。


 「大好きだよ。甘えん坊さん♡」

 鈴音は俺の額にキスをして、そう言った。


 鈴音の胸元から鼓動が伝わってくる。動くたびに、鈴音の髪が温かい空気を纏って、俺の頬にかかってくる。まるで、俺のことを撫でているみたいだ。


 すると、額にポツポツと冷たいものが落ちてきた。


 ……雨?


 見上げると、鈴音の涙だった。


 「どうしたの? 俺のせい?」


 「わからないけど、悠真の涙を見たら、自然に出てきちゃった。悠真の悲しいを舐めちゃったからかな?」


 鈴音は、はにかんだ。


 ……どうやら今日は、妹がお姉さん役らしい。

 でも、ずいぶんと泣き虫なお姉さんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ