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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第15話 妹との映画はハンカチが欠かせない。

 映画はシアター10で上映される。 


 「Eの11はどこかな。あった。この席だ」

 俺は、鈴音に横に座るように促した。


 スマホの電源を落とさないとな。

 俺がスマホを手に取ると、鈴音の声が聞こえた。


 「アーン」

 横の席をみると、なにやら鈴音が口を開けている。


 「なに? 眠いの?」

 俺がそう言うと、鈴音はジト目になった。


 「アーンで食べさせて欲しいに決まってるじゃん。いじわるしないで」


 あ、そうなの?

 素で分からなかった。


 「ほれ、あーん」

 俺はフライドポテトを一本つかんだ。


 (そうだ、いつかのお返しをしてやれ)


 俺はポテトにキスをするフリをしてから、鈴音の口に放り込んだ。


 すると、鈴音の頬は真っ赤になった。


 「か、間接キスだ。この変態っ。こんなんちょっとしか嬉しくないんだからぁ!!」


 いやいや、どこのツンデレ娘だよ。

 しかも微妙に素直だし。


 っていうか、以前、あなたもお弁当の唐揚げにキスしてたでしょ。



 ……この人、上映前なのにノリノリだな。


 「あ、ビックリした? フリだよ。安心して」 

 

 俺がそう言うと、鈴音は頬を膨らませた。


 「はぁ? なにそれ、詐欺じゃん。わたしのドキドキ返して」


 「ドキドキしてたの?」


 「すっごくした。っていうか、会うといつもしてるし。今もしてる。ねぇねぇ、そんなことより、ちゃんとキスしてから食べさせてよぉ」


 鈴音は、すごく甘えた声を出している。


 「わーったよ。ってか、ご機嫌だね」


 「だって、映画館デート嬉しいにゃん」

 鈴音は、右手で猫の手の真似をした。


 「デートで映画館って、わりかし普通じゃない?」


 「そんなことない。わたしは初めてだから」


 「……えっ?」


 

 すると、シアター内が暗くなった。


 「あ、そろそろ始まるのかも」

 俺がそう言うと、鈴音はまた口を開けた。

  

 「ポテトは?」

 鈴音は胸の前で両手を握り合わせている。


 「んっ。マナー違反だし、お預けかな」


 「……イジメっ子」

 口を尖らせると、鈴音は拗ねてしまった。

 目を合わせてくれないが、拗ねた横顔も良い。


 さて、映画だ。


 映画は、恋愛とタイムリープを組み合わせたような内容だった。主人公とヒロインが数年の時を経て、夢の中で入れ替わるという設定が、斬新なのだと思う。


 金曜の夜の回なので、ほぼ満席だ。周りの席をみると、意外にも客層は老若男女問わずという感じだった。ヒロインは田舎育ちという設定なので、きっと幅広い層に観やすいのだろう。


 鈴音の横顔を見ると、すごく映画に集中していた。アニメだったから少し心配だったのだが、気に入ってくれたようだ。


 クライマックス近くになり、主人公とヒロインは何回もすれ違ってキスをできないまま、ヒロインは災害に巻き込まれてしまう。ここからストーリーは急速に展開していくのだろう。


 鈴音が手を握ってきた。

 力がギューっと強くなって。


 「うぅ」

 鈴音は、泣き出してしまった。


 一斉に注目が集まる。

 (周りのお客さん、すんません!!)


 「ちょっとごめん」

 俺は鈴音の口を押さえた。


 なんとか泣きやんでくれたが、それからラストまでの20分間、俺は鈴音がまた泣かないか心配すぎて、生きた心地がしなかった。


 最後のシーンでは、主人公とヒロインが再会してキスをして終わった。


 (なんか鈴音が、目を瞑ってキス顔になってるんだが)


 本編が終わると、数人が席を立った。俺はエンディングロールまで見たい派なのだけれど……。


 鈴音はどうかな?


 「うぅ……」

 鈴音の方を見ると、また泣いていて、俺はまた冷や汗が出てしまった。


 でも、冷たい視線は感じないかも。

 周囲を見渡すと、他の観客も泣いていた。


 (今回は、……セーフ!!)

 



 「浄化されたぁ」

 周りからそんな会話が聞こえてくる。


 映画のエンディングロールが終わって、シアター内が明るくなると、鈴音の目は真っ赤だった。


 「いこっか」

 俺が手を出すと、鈴音は手を掴んだ。


 (くそ、冷や汗で背中が気持ち悪い)


 「なんか、めっちゃ浄化されたかも。ねっ、面白いの選んでくれてありがとう!!」

 鈴音はご機嫌だ。   


 正直なところ、俺はヒヤヒヤで浄化どころではなかったけれど。鈴音が満足してくれたのなら良かった。


 歩いていると、鈴音が前に回り込んでこっちを見た。


 「悠真は感動しなかったの?」


 「いや、それどころじゃなかったっていうか」


 すると、鈴音はニヤリとした。


 「ふーん。悠真、つめたいぞっ」


 うっわ〜。

 貴女のせいなんですけど。


 このクソガキっ!!



 シアターを出たところで、ポップコーン等のゴミを出していると、周りの視線を集めていることに気づいた。


 原因は間違いなく、隣で目を真っ赤にしている美少女だろう。


 「あんな可愛い子を泣かせて、酷いわねぇ」などという声がチラホラ聞こえる。みんな映画に浄化されて、天使のように優しい心になっているみたいだ。


 それにしても、鈴音って、こんなに泣き虫だったっけ。


 映画館を出て、すぐ近くのカフェに寄った。

 カウンター席の背の高い椅子に並んで座る。


 「映画、面白かったね」

 映画館デートの後といえば、感想会だ。


 「うん、すごい良かった。特に最後のシーン。ちゃんと再会できて、キスできて良かった」

 鈴音は嬉しそうだ。意外にも感情移入するタイプらしい。


 「ああいう恋に憧れるの?」


 すると、鈴音は姫毛に触ってから、少しモジモジした。


 「わたしたちだって、ロマンティックだよ」


 「どうして?」

 正直、どこにそんな要素があるのか分からない。


 「だって。兄妹だと思って、ずっと好きなの諦めてたんだもん。それが義理だって分かって、きちんと気持ちを伝えられるようになった」   


 たしかに、別れと再会に似ているか。


 「そうだな」 

 

 それで鈴音は、映画で大泣きだったのか。

 ようやく分かった。


 鈴音は、少し申し訳なさそうな顔をした。

 「あのね。毎日、好き好き言っててごめんね。でも、わたしは一杯伝えたいの。今まで我慢してた分も」


 「ううん。こっちこそ、なんかゴメン」

 俺はハッキリしていない自分が申し訳ない。さっきのキスだってそうだ。


 鈴音が手を握ってきた。

 テーブルの下で、指を互い違いにして手を重ねる。


 「大丈夫。わたし、分かってるから。悠真ゆうまが、わたしのこと考えてくれてるって。血が繋がってないって言っても、パパとママのこととか、まだ色々あるもんね」


 「……不安になったりしない?」


 「ううん。大丈夫。チョコの時に、悠真がわたしを女の子って思ってくれてるの分かったから」   


 鈴音は恥ずかしそうに俯いた。  


 遠回しだけど、俺が鈴音に欲情してしまったことを言ってるのだろう。


 (やっぱ、この人、あの時の事を覚えてるじゃん)


 思い切って聞いてみるか。

 「欲情されるのはイヤ?」


 「よ、欲……っ……。そんなわけない。好きな人にそうなってもらえるのは、嬉しいし」


 (それも嬉しいんだ? こっちがドキドキしちゃうよ)


 「そろそろ帰る?」


 店を出ると、鈴音は俺の手を引っ張った。

 なにやら、また映画館の方に行きたいらしい。


 「こっち。まだ決めてない」

 鈴音は俺の手を引きながら言った、


 「決めてないって、何を?」


 「次に来た時に何を観るか、まだ決めてない」

 鈴音はそう言うと口を尖らせた。


 なるほど。

 鈴音はまた映画館に来たいらしい。


 俺が予告のチラシを数枚手に取ると、鈴音が身体をすり寄せてくる。


 「悠真。他の子と映画来たことあるのかな。イヤだな」  

 独り言? なんか鈴音っぽくない。

 

 「鈴音。もしかして、心の声が漏れてない?」

 すると、鈴音はハッとした顔になって、口を手で押さえた。


 「わたし男の子と映画にくるの初めてだったから」


 「俺も初めてだよ。気になるなら聞けよ」

 俺がそういうと、鈴音は小声になった。


 「だって、ウザいと思われたらイヤだし」


 「そんなんで、嫌いになるわけないよ」

 俺は鈴音の頭を撫でた。

 すると、鈴音は撫でる俺の手に、頬をすり寄せてきた。


 「エヘヘ。優しくて、おにいちゃんみたい。映画、わたしとだけにして欲しいの」


 (実際に兄なんだけどなっ!!)


 「鈴音としかいかないよ」


 すると、鈴音は幸せそうに目を瞑った。


 「ねっ。もう一回、撫でて」


 (こうして外にいると、義理の兄妹でもなんでもない普通の恋人になったみたいだ。もう少し一緒にいたいな)



 あっ、そういえば……。


 「鈴音。うちの近所で、お祭りの前夜祭やってるみたいなんだけど、帰りに寄って行かない?」


 「うん。いく!!」

 鈴音は、ぱあっと目を開けると、向日葵ひまわりのように笑った。

 

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