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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹という仮面を外した時、彼女は最強のヒロインになった  作者: 白井 緒望


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第10話 フェチ妹、風呂に出没。

 ——朝の脱衣所。


 キュッ


 シャワーを止め、浴室の折れ戸を開けると、鈴音がいた。


 「……この匂い、好き」


 鈴音は俺のパーカーの袖をつまんで、鼻先を寄せていた。


 挿絵(By みてみん)


 不意に目が合う。


 鈴音はゆらりと視線を泳がせると、前髪をかき上げた。ちらりと見える左耳たぶが赤い。


 「べ、別に用事のついで……だし」


 「遅刻するわよ」

 母さんの声が聞こえた。


 「ママー! 今いくー」

 鈴音は、何事もなかったように脱衣所から出ていった。


 漂う柑橘系の残り香。


 香りと記憶は繋がっている——昨夜の鈴音の温もりが、頭の中に蘇った。



 ********


 AM6:00



 「おはよぉ。ふわぁ〜っ」

 部屋から出ると、鈴音に声をかけられた。


 鈴音は、モコモコの部屋着で髪をシュシュでまとめている。

 

 普段と何も変わらない朝。

 ドギマギしているのは俺だけみたいで、恥ずかしい。



 「鈴音」


 目の前にいる自信のない子を褒めて育てたい。でも、いきなり朝からは、さすがに引かれそう。


 「なに?」

 素で返された。


 「か、か、……なんでもない」


 喉元まで来ているのに、「かわいい」の言葉が出てこない。


 俺は照れ臭さを誤魔化したくて、鈴音の頭を撫でた。


 「んーっ。もっとして」

 すると、鈴音は猫のように擦り寄ってきた。


 これだけで喜んでくれるのか。

 だったら、毎日、よしよしをしてあげよう。


 今度は「可愛い」も言えるように頑張る。


 

 ススッと寄ってきて、鈴音は俺の胸の辺りに鼻を近づけた。


 「いたっ」

 俺がデコピンすると、鈴音は両手で額を押さえた。口を尖らせて不満そうな顔をしている。


 「なにスマートに嗅ごうとしてるんだよ」


 「だって。アンタの匂い好きなんだもん。1日のはじまりだし」


 1日の始まりにって、森林浴じゃないんだからさ。いつものことだけれど、鈴音は己の欲求に素直だ。


 でも、匂いの良し悪しが相対評価だとすれば、鈴音を基準にすると、世の大半の男は臭いということになりそうだ。


 「寝起きだし、汗臭いよ」

 俺がそう言うと、鈴音はスンスンと鼻を鳴らした。


 「いや、それはそれで良いっていうか。悠真のなら、むしろ、それくらいが好みっていうか……」

 我が妹ながら、なかなかのフェチっぷりだ。


 「お前、少しはそういうの隠せよ」


 鈴音は腕を腰にあてた。

 「別にいいでしょ? 匂いもアンタの一部なんだから。好きなの当然だし。そんな言い方されたら、まるでわたしが変態みたいじゃん。じゃあ、我慢するから、その代わりに下着とかちょうだい」


 いや、現に変態ですから。

 コイツ、自分を棚上げって言葉知らんのかな。

 

 「じゃあ、代わりにお前の下着くれるの?」


 すると、鈴音は俺を睨みつけた。

 「しね。変態っ」

 

 理不尽すぎる。


 「おま……」

 鈴音と目が合った。


 ドキッ


 やばい。心臓が高鳴る。顔が熱くなる。

 だが、鈴音の顔は、もっと真っ赤だった。


 「べ、別に無理にとは言わない……ケド。あ、やばい。髪の毛をまとめ直さないと。ママー。制服あるー?」


 鈴音は階段を駆け降りていった。


 「そっか。今日から学校だもんな」


 さて。

 俺も歯でも磨くか。


 

 鈴音は、あの夜の事は何も覚えていないと言い張っている。


 まぁ、いい。


 それならそれでスルーしてやるのが、兄の優しさというものだろう。



 あの日、親が帰って来てくれて良かった。

 鈴音を守るどころか、俺が傷つけてしまうところだった。


 鈴音のちょっとフェチな面は意外だったけれど、俺に関心を持ってくれるのはイヤではない。


 「ずっと兄妹してたのに、まだ知らない面ってあるんだな」


 俺は時計をみた。


 そろそろ準備しないと。

 鈴音は部活があるので、家を出るのが早い。


 うちの高校は男女ともにブレザーなのだが、鈴音は、兄の俺から見ても制服がよく似合う。だから、見れないのが残念だ。


 シャワーを浴びに脱衣所に入ると、まだ浴室に熱気が残っていた。


 「鈴音、入ったばっかりなのか」


 洗濯カゴをみると、黒パンツが無造作に置かれていた。鈴音のだ。


 ……あいつ、アレを普通に洗濯に出す気か!?


 勇者すぎだろ。

 アレを見たら母さん、たぶん彼氏できたと勘違いするぞ? 


 鈴音って昔から意外に雑なとこあるんだよなぁ。



 とはいえ、俺が隠したり代わりに洗ってあげることもできない。仕方なくそのままにすることにした。


 髪の毛を洗っていると、誰かが脱衣所に入ってきた。誰だろう。


 「母さん?」

 

 「……わたし」

 鈴音だ。まだ家にいたらしい。

 ガサガサと洗濯カゴをあさっている。

 

 「ちょっと、俺、シャワーしてるんだけど」 



 俺は折れ戸を開けて、頭だけ出した。


 すると、制服姿の鈴音と目があった。

 鈴音は、一瞬、俺の首の辺りを見ると目を逸らした。


 鈴音の指先から、俺のパーカーが落ちた。


 「別に良いでしょ。ちょっと忘れ物したの。あっ、今日は部活だから先にいくね!! また学校でね」


 鈴音は俺にバスタオルを投げつけた。


 「ママぁ。いま行く〜」


 そう言うと、慌ただしく出て行った。


 ……と、思ったら戻ってきた。


 「わたし、アンタのことちゃんと好きだから。それだけっ」 

 そう言うと、バタンとドアが閉まった。今度は本当に出て行ったらしい。



 なんなんだアイツ。


 告白って、ここぞという時にするものな気がするけれど。家出して仲直りをしたあの日以来、ほぼ毎日言ってくれる。

 

 まぁ、それはそれで嬉しいのだけれど。 


 風呂からでると、鈴音のパンツがなくなっていた。あれを回収しにきたのか。


 なんだか、先日の一件から、妙に意識されている気がする。アイツ、開き直ってるのかな。


 匂いフェチだって丸出しだし。


 まぁ、でも。

 鈴音の制服姿が見れて良かった。



 朝食を食べて、制服を着る。

 なんていうのかな。すさまじくやる気が出ない。


 終業式の時に担任が「リフレッシュして二学期から頑張ろう」とか言ってたけれど、リフレッシュしたせいで、むしろやる気がなくなったのだが。


 それはなぜか。

 本当は分かっている。


 学校が始まったら、鈴音と2人だけの時間が終わってしまうし、俺とのことで鈴音が周りのヤツらから変な目で見られるかも知れない。


 ……俺のせいで、鈴音に迷惑がかからないか不安なのだ。



 テレビからは朝のニュース番組が流れている。

 これが終わる前に家を出ないと電車に間に合わない。


 そろそろ、朝飯を食べて家を出ないと。



 朝食は目玉焼きにベーコンとソーセージ。トーストにサラダだ。新学期だからかな。ちょっとだけ豪華な気がする。


 この豪華さに無言のプレッシャーを感じる。

 面倒だから行かない、は通用しなさそうだ。


 食後にコーヒーを飲んでほうけていると、母さんに声をかけられた。


 「悠真、のんびりしていていいの?」


 「いいんよ。俺は鈴音と違って部活もないし」


 母さんは食器を片付けながら言った。


 「悠真は、もう……部活はしないの? 強かったのにもったいない。鈴音だって……」


 分かってる。


 俺は子供の頃から空手をしていた。でも、色々あって中3の時に辞めてしまった。鈴音はよく応援にきてくれていたから、俺が辞めてガッカリしたのだと思う。


 だから、鈴音は、家出して公園で庇った時に、やり返さなかった俺に「ダサすぎ」と言ったのだ。


 「そろそろいくわ」

 立ち上がると、母さんに呼び止められた。


 「これ」

 母さんは巾着袋を渡してくれた。


 弁当?


 「珍しいね」

 俺がそういうと、母さんはニヤニヤした。

 なんだよ。意味深だな。


 「これ、鈴音が渡してって。あんた達、本当に仲直りしたのね。よかったわ」


 鈴音のお手製?

 俺に暗黒物質を学校に持ち込めと?


 あまりにヤバかったら、屋上で1人で食べればいいか。


 部屋に戻って巾着の中を見てみると、おにぎり2個とゆで卵とマシュマロとメモが入っていた。おにぎりは普通だった。


 「これ作りました。まだ上手くできないからおにぎりだけでゴメンネ。お昼ごはん一緒にしない? 会えるの楽しみにしてます。学校、一緒に頑張ろう。サボっちゃダメだよ? 鈴音」


 なにこれ。

 付き合いたてのカップルみたい。


 やばい。

 ウチの妹が可愛すぎるんだけど。


 

 なんだか勇気がでてきたぞ。

 気合い入れて学校に行ったるか!



 俺は玄関で靴を履きながら叫んだ。

 「母さん、いってきます!」 


 


 ——屋上に続く塔屋。


 弁当の包みの底に小さなメモ。


 『間接キス……しちゃったね』

 顔を上げると、鈴音の視線が止まる。


 キンコーン。始業のチャイム。

 『アビスアイ』が新学期を告げる。

※※※※鈴音のご挨拶※※※※


「読んでくれてありがとっ。★★★★★で足跡、感想で一言くれたら、……もっと嬉しいかも。べ、べ、べつにそういうのなくたって、一生懸命やるんだから!」

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