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米国企業連合体による戦時賠償への妨害行動

ファウラーが東芝の収支計算報告書を通して、様々な金融関係の状況を整理すると、ついにGEに渡る予定のライセンス料がどこにあるか突き止めることができた。


GEへのパテント料はなんと横浜正金銀行にて保管されていたのだ。


横浜正金銀行。

これは表向き外貨獲得のために現金でもって貿易を行う貿易金融などを行う銀行であったが、実は高橋是清が頭取となった頃ともなると、軍事予算を裏で処理するもう1つの日本銀行、もとい日本裏銀行とも呼ぶべき存在となっていた。


例えば戦艦三笠を購入する際の資金はこの横浜正金銀行を通して処理されており、特に海軍によって日常的にマネーロンダリングなどが行われた組織である。


実は高橋是清がこの横浜正金銀行の頭取になった理由は日露戦争において彼が日銀副総裁の立場としてイギリスで様々な話術で獲得した外貨を処理するため、兼任して頭取となったのだのだが、


GEに渡る予定のパテント料については、紆余曲折を経てこの横浜正金銀行に流れ込んでいた。

実を言うと、これは太平洋戦争時において日本が海軍戦力補強などのために使おうと強制徴収に近い形で保有していたのだが、莫大な金額ではあったものの、ドルではなく日本円であったために使い道が無く、そのままの状態で終戦となったのである。


ファウラーはここに行き着くまでの債権の経路と、保管されている金額を掴み、それが東芝がGEに本来支払う予定であったライセンス料であると確証を得ると、それらについての資料を全て本国のGE本社へ、IGECを通して送達するのだった。


その上で「彼らは約束を守った。我々が東京芝浦電気についてどうするかは、あの時結んだ協定通り行うべき」――と、資本を投入することも踏まえ、東芝を東芝として存続させるべきであるとGE本社に伝えるのだった。


爆撃調査員による日本国内での各種状況を掴んだGEは次の行動に移る。

それは「戦争賠償」そして「占領政策」への対応であった。


少し日本から視点をズラしてみて見たい。

日本国と同じく敗戦したドイツ。


日本国と同様、重工業によって高い技術力を持つドイツは敗戦してどうなったか。

それはイギリス、フランス、そしてソ連による略奪に近い戦争賠償であった。


wikipediaなどでは「第二次大戦の引き金となったために戦争賠償は和らいだ」などと記載されているが、実態は異なる。

これについては非常に長くなるので、モーゲンソー・プランという項目について是非調べてみていただきたいのだが、ドイツの工業は工場の8割以上が1950年までに閉鎖され、それらの工業機器については根こそぎ特許技術などを含めて没収されている。


フォルクスワーゲンの自動車生産工場などではその略奪行為がいかにひどいものかを資料館などを作って公開するぐらいであるが、


これはサンフランシスコ条約で定めたものが「軍需産業」と限定されている中、その解釈を拡大解釈したためである。

(ようは、ヒトラーが関わったものは全て軍事とみなして何もかも奪おうとしたのだ)


そして信じられないことに熟練工の人間を国外追放に追い込むまで徹底されていた。


実際には西ドイツが復興した要因は米国含めた西側各国の投資家が、技術力を持つ会社に投資することで生産を再開させた「民業による再生」が中心であって、実態としては西も東も何もかも奪われ、草1本残らないといった状況に一度陥っているのだ。(政策の緩和により国外追放された熟練工はなんとか戻ってくるが、1945年から5年間のドイツはモヒカンと肩パッドが必要な無法遅滞であった)


その状況を知っていたGEは、GHQによる占領政策の状況と合わせて米国が日本に対し、どういった戦争賠償を行わせるのかについての実態把握を開始するが、トルーマンの意図とは関係なく行動し、占領政策を行うGHQは、コーデル・ハルよりも利益勘定が出来ない者達であった。


ウィルソンは当初の計画を「これならソ連にくれてやったほうがマシだ」と言い張るほどである。


米国議会へ圧力をかけたGEであったが、GHQに所属する者達は反日感情ばかり優先し、GEなど、日本に対して資本を再投入して早期に戦時不況を乗り越えたい米国企業の要望を曲解していたのだった。


米国企業側は「日本市場は大切なので、早期にその市場を復活させたい」と答申で申していたのに対し、GHQは「日本は工業国から農業小国とし、特許法なども米国法に加えて強制ライセンス制度を設けたものに改正し、東芝といった企業は全て米国企業の傘下として戦争賠償の名の下に株式などを全て引き上げさせ非上場という形で米国企業が資本を没収する」といったものを計画する。


GEにとっては、今後とも日本はパートナーシップを結んでライセンス契約やグローバルな商業展開を行いたいと考えていたが、資本を没収された方がGEにとっては損害であった。


一見すると「日本企業の土地やら何やら手に入ればいいのだから十分では?」と思うかもしれないが、これはGHQと同じ考えである。


独占禁止法などの概念から考えると、同一企業となってしまうとライセンス契約というのは法的に不公正な取引となってしまう。


GEの主とする利益は東京芝浦電気の株と彼らが生産するライセンス料であり、GEに完全に組み込んだとしても「企業」としての売上総額が上がるだけで、「利益」として手に入るのは純益しかない。


だが、この純益よりも、1939年に51%を獲得し、現在の状態まで成長した株やライセンス料の方がよっぽど高額なのだ。


今後も成長が見込める企業なら投資家によるマネーゲームが展開されてもおかしくはなく、上がった頃に売り払って利益確定しつつも、51%の比率は変更させないようにすればそれだけでGEに莫大な利益が入るのだ。


だが、GHQはとりあえず「二度と国家としてまともに機能できないようにする」ということしか考えておらず、その行動はどう考えても「第一次大戦のドイツ」に対して行った行動そのものであった。



爆撃調査の後、極東担当として引き続き日本国で活動するファウラーは「GHQは日本郵政などの貿易関係についても資本を取り上げ、貿易すら不可能な状態へとさせようとしている」と報告してきており、それはウィルソンからすると「このままGHQに任せるぐらいなら、早くスターリンに渡した方がいい。彼の方がよほど日本の価値と向かわせるべき方向性を理解している。きっとスターリンは日本に足りない資源を投入して3年以内に再び日本を戦闘可能な状態へと復興させるだろう。その時2度目の真珠湾の悲劇が訪れるが、私はその状況を自業自得だと言い切る自信がある」と憂うほどであった。


実はこの政策にスターリン自体は反対の姿勢を強く示していたが、ようは感情論ででしか動くことができないGHQよりもスターリンの方が日本国の特性と能力を理解していたわけである。


この政策を評価していたのはチャーチルなどのイギリス、フランス、そして棚ボタ勝利の中華勢などであったが、ウィルソンはこれも気に入らなかった。


そもそもが米国は元々植民地であり、独立のために大量の血を流してまで自由を獲得した国であり、

そして今日まで植民地政策はやらず、それなりの歴史をアジアにてもつ日本とはそれなりの関係でやってきた国家であった。(ハワイなどについては米国編入という解釈がが正しい)


ドイツに徹底的に攻められ、泣き喚いて米国に縋ってくるだけで自国の防衛だけで手一杯で、殆ど日本国と戦わなかった英国や仏国が、現在も石油権益などを振りかざして米国を揺さぶってくる姿に吐き気がするほどであった。


何よりも今回の戦争の大義名分は「日本を帝国主義から開放する」であるにも関わらず、GHQのソレは明らかに「植民地政策そのもの」であった。


こうなった原因は「コーデル・ハル」や「ルーズヴェルト」といった、米国の利益といって何の利益も勘定できない馬鹿者共が引き起こしたにも関わらず、さらに彼らの愚行を手助けするかのようなGHQの姿に、愛国者を自認するウィルソンは真の米国を汚すような行為に感じ、彼の魂に火が灯ったのだった。


状況を見かねたウィルソンはこのままだと莫大な利益を失うばかりか、混乱する間に確実にソ連に飲み込まれ第三次世界大戦が10年以内に勃発する可能性を見出すが、GEだけで行動してもGHQは理解を示さないため、次の一手に打って出ることにした。


それは今まで日本に資本を投入していなかったライバル企業も巻き込み、米国企業による企業連合体を形成してGHQへ圧力をかけるというものだった。


資本を投入した東京芝浦電気こと東芝などを例に、日本におけるこれからの生産活動はライバル企業にも利益があると宣伝していたが、ライバル企業は利益という観点だけでなくGHQの姿勢を不快に感じており、日本へ資本を投入した企業だけでなく投入しなかった企業も議会などを通して圧力をかけるようになっていく。


最終的にこの行動は見事に実るのだが、それは次回以降に後述する。



企業連合体はまず手始めに、戦争賠償について徹底抗戦の構えを見せる。

それはつまり、めぼしい技術をなんでもかんでも「軍需産業」と決め付け、米国政府が強制没収する行動の妨害である。


具体的に何をしたのかというと、一体誰が考えたのか、ドイツで発生した拡大解釈による没収行為を逆手に取ったのだ。


それはつまり、資本が少しでも入っていれば「自社の所有権」を主張し、米国の名の下に政府が没収しようとした工業機械などを「自社のもの」として米国政府に没収できなくしたのである。


特にそれにおいて強く主張できたのは、当然にしてあらゆる製品に東京芝浦電気の部品が使われているGEで、この行動にGHQと米軍、そして米国は頭を抱えることになる。


信じられないことにこれは海軍や陸軍に卸した製品にまで及び、GEは「帝国海軍の軍艦のタービンなども我々が資本を持つ企業が卸したのだから」と簡単に手を出させなかったのだ。

(後にこれによって解体保留で処分手続きが遅れていた海防艦などが朝鮮戦争時に復帰し、日本国を守るために巡視船として活動することになる)


この一連の行動を企業連合体全体でもって行ったものだから、米国は戦時賠償について「帝国海軍や帝国陸軍の兵器」などに限定した形でしか没収することが出来なくなった。


帝国海軍や帝国陸軍が開発した最新鋭技術の塊の殆どは差し押さえることができたものの、軍需産業で成立していた民間企業などへの直接介入が難しくなり、


本来は最新鋭の技術なども回収する予定が、「それらは我々の技術の改良品で協定によって我々に特許出願の権利もあるが、米国政府は米国特許法の方概念や法治国家としての威厳、そして知的財産権そのものを否定するつもりか?」といったスタンスで圧力をかけてくるため、容易に手が出せなくなってしまった。


この行動によってGHQは日本における戦時賠償においては本当に軍需生産関係にしか手を出すことが出来ず、日立や三菱電機といった会社は軍需生産部門にかなりの被害を受けたが根こそぎ全て奪われるといったことはなかった。


一方これは米国と国としては崩壊してしまったドイツ系に限った話なので、イギリスやフランスといった関連のものは容赦なく没収された。


しかしそれは米国企業から言わすと機会的損失であった。


戦時の損害のために工業機械を没収したところで二束三文であり、それらを本国に持ち帰っても生産能力が上がるわけではなくもてあますだけ。


金属の塊に価値を算定したところで日本の生産能力を削るだけで自国の生産能力を増加させ、利益を生むわけではないというのが米国投資家や企業経営者たちの考えであったが、(生産のための工業機械というのは生産行為も行って初めて価値が生まれる)この短絡的な行動は現代の日本においてドイツや米国系の工業製品が未だに多く使われている一方、英国や仏国といった工業製品は殆ど使われていない状態にまで至る結果となった。


これは反英や反仏といった感情論ではなく、操作方法などを次の世代へ教えていく関係上、他社の工業製品への切り替えが難しいという実態が存在するからである。


この時の没収行為に対し、むしろ米国投資家は没収された企業に対して戦後すぐさま日本へ資本を投入し、大量の米国製の生産用工業機械を導入したので、同じく大量に残されたドイツの工業機械と、元々日本で独自に開発された工業機械の3種を中心に日本の工業は復興していくこととなる。



また、この製品が残されたというのはドイツの日本支社などにとっては幸運であった。

本国では草1本残されない状況が、アジアの島国にて失いたくない存在が残される例が少なくなかったからである。


戦後、日本から一旦それらをドイツ本国に送り、ドイツ本国でそれらを基に再生産して日本に送り返したり、日本でそういったドイツ本国で没収されてしまった製品の代替品を製造して本国に送り、本国の生産能力を回復するといったことが行われるが、これらの行動ができたのも各国の投資家が資本を投入したのと、日本にそういったことが可能な技術力があったからである。



一応GHQとしては「公職追放」などを行い、日本企業に対してダメージを加えようとしたが、公職追放は米国資本の入った企業には殆ど効果がなかった。

元々経営者の3割~4割が米国人であるといったことが珍しくないこれらの企業においては、米国より再来日した者達が再び活動をしはじめていたからである。


だが、この「公職追放」。明らかに日本国に与えた影響力が大きく、企業連合体は「民主主義の否定」と叫んで「反GHQ」を展開し、トルーマン自体も「本来の目的を逸脱している」とマッカーサーとの確執を生むことになる。(トルーマン自体は政府参謀がウィルソンなどの米国大企業であるため、日本の農業小国化には反対のスタンスであり、後にチャーチルなどと交渉を行う事になる)


日立製作所など、日本独自の資本で成長した企業は度を越えた権利の乱用行為によって5年ほど迷走することになるが、この行動によって企業連合体の米国内での勢いが増すこととなったのだった――

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