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わたしって最低

先輩視点です

 夏が終わる。


 カレンダーに指を滑らせた。もう後数える程しかない。宿題は夏休みが始まる前に終わらせたし、勉強もちゃんとしてる。新学期に不安があるわけじゃない。名残惜しいことがあるとすればそれは……


「結局拓海君とぎこちなくなっちゃったことだよね」


 プールに行った後から、ずっと拓海君と連絡を取れずにいた。


 夏休み、楽しいものにしようねって言ったのに。拓海君と一緒に楽しいものにするって決めてたのにさ。

 蓋を開けてみればそんな約束も守れなかった。しかも、それもわたしのせいでさ。


 わたしの中じゃ、一博とのことはもう終わったことだった。一応小中おなじ幼馴染。だけど、恋愛感情はやっぱり抱けなくて。ちょうどよく騒動があったから、終わりにしようと思ってみんなを振った。それですべて終わり。ちょっと離れた高校だったからそんな過去も全部捨てられると思ってたのに。


 だけど一博からしたらそんなことはなかったんだろうな。それは、わたしと他の人との違いだと思う。わたしは誰かに恋い焦がれたことがない。だからわからなかったんだと思う。一博からしてみれば、わたしに振られたところで諦めきれるわけじゃなかった。人をからかって恋愛感情を向けさせるのには慣れてるくせに、最後にその感情がどっちに向くのか、そんなことに興味がわかなかったんだ。わたしにはそれが理解できなかった。


 だから一博は追ってきた。わたしがちゃんと終わらせておけばよかったのに。ちゃんと全部終わらせておけばそんなことはなかったはずなのに。わたしの甘い見通しのせいで。


 拓海君に嫌な思いをさせちゃった。デート中に好きな人の元カレを名乗る人物が現れるってすごく嫌だよね。男の人って独占欲強いらしいし。しかも、その後も拓海君に気を使わせてしまった。本当ならわたしがフォローしないといけなかったのに、拓海君が必死になってわたしを励まそうとしてくれていた。楽しかった、なんて嘘を吐いてさ。いつもと違うわたしといて楽しいなんて。


 そしてすごく嫌な気持ちになった。わたしって最低なやつだなって。ちゃんとわたしが終わらせておけば拓海君を嫌な思いさせなかったのに、しかもその上フォローまでさせるなんてなんて酷いやつなんだって。


 スマホを手に取る度、メールに返信しようと思う度、自己嫌悪で胸が痛くなる。真っすぐですごく優しい拓海君に対してわたしはなんて醜いんだって。連絡なんて取る権利なんかないんじゃないかって。こんなわたし、ふさわしくない。助けなんか求めちゃダメ。そんなことを思ってしまう。


 心配なんてさせない方がいいに決まってる。だけど、連絡を取ってしまうと助けを求めてそうで、泣き叫んでしまいそうで。そんなの出来ない。


「やっぱり、全部最初からかなあ」


 そんな独り言が出て愕然とした。


 酷い。本当に酷い。わたしは、拓海君を捨てるつもりだったのか!? 一博みたいに必要なくなったらポイって。


 最初に見たとき、この人ならって思った。それからずっと距離を縮めてきて、拓海君がわたしを好きなのも知ってた。夏休みも一緒に遊びに行ってこれならって。ひょっとしたら、もう少しで好きっていう感情を知ることができるかもしれないって思ったのに。少なくとも一博たちの時はそんなことは思わなかったはずなのに。


 なのに、そんな簡単に捨てることを考えられるなんて。そんな考えをしてる自分が嫌になる。


 『欠陥品』そんなことが頭に思い浮かぶ。わたしは人を好きになれない。手に入れられそうだった愛も簡単に捨ててしまえる。そんな欠陥品だって。


 そんな自分が嫌になって、スマホを蹴飛ばした。


 ピコンピコン


 びくっとする。スマホが鳴いた。わたしが蹴飛ばしたからかと思ってびっくりして身構える。まさか、拓海君から!?


『文乃へ。文乃はもう俺のことが嫌いかもしれないが、最後にもう一度だけ会ってきちんと話がしたい。それで、2人の間の誤解を解きたい。その上で話ができたらすっぱり諦める。だから最後にもう一度だけ会って納得させてくれ。その方がお互いのためにもいいと思ってる』


 一博からだった。


 誤解、誤解か。でも、それが結果的に拓海君に飛び火してしまったんだよね。そんなことを考える。


 本音を言えば会いたくなかった。このままふさぎ込んでしまいたい。


 でも、原因を作った一端として、せめて過去のことは清算させておきたかった。新しいことをしたくてもそれじゃあ、前に進めない。


 ……新しいことなんて考えてる時点で酷いと思うけど。だけど、せめて人としてその線は守らなきゃ。そんなことを思った。


「『わかりました』っと」


 送信ボタンを押す手がとても重かった。

今回は難産でした……そして多分次回も

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