40話 白い美少女
深夜のコンビニで美少女に声を突然かけられる確率なんて、どれくらいだろう?
きっとそうそう無いはず、だけど僕に限ってはあってしまうのだ。
それは僕の持つブランド力のせいなのかも知れない。
僕は学校でハーレム主人公なんて呼ばれている。
可愛い義妹に美人の幼馴染
聖女と呼ばれる先輩に頭の良い副会長の先輩。
そして初めての彼女だった図書室の天使と呼ばれていたヒト。
その他にも沢山の女の子達がいた。
彼女達は皆、僕と仲良くしてくれる。
まぁ…今は誰もいないけどね…。
こんなの端から見ればそりゃ…ハーレムモノの主人公なんて言われても仕方ないのかも知れない。
しかしそのハーレム主人公としての補正なのか運命なのか知らないが僕の周りには常に美少女が出現する。
そう、ちょうど彼女の様に。
「ぐふふ…雅人君だ…雅人君だよね?ぐふ、ぐへへ」
目の前の美少女は清楚を体現したような清らかな白をイメージした服装だ。
およそ深夜のコンビニなんて場所には不釣り合いな存在。
だからこそ「ぐへへ」だとか「ぐふふ…」だとか変態みたいな発言が強い違和感となる。
白いフリルがあしらわれたブラウスを着てるが、自己主張の激しい大きな胸が内側から服を押し上げて己を誇示している。
金色の日本人ではまず見る事のない髪色と翡翠の瞳、深夜の暗い世界の中であっても決して見失う事のないだろう白くきめ細やかな肌は彼女が日本人ではない事を示していてる。
そう、僕は日本人だ、外国人の知り合いなんている訳はない。
なら彼女は誰なのか?
何故僕の名前を呼ぶのか?
「えっと…初対面だと思うんだけど…君は誰?」
「雅人君〜雅人君〜まさ………はぁ?」
これまで甘ったるい猫撫で声を発していた彼女はその声のトーンを一気に引き下げて僕を睨みつけてくる。
その目はまるで親を殺した仇に遭遇した復讐者のようだ。
「なにそれ…雅人くぅん?私の事、覚えてるよね?忘れたなんてあり得ないよね?ねえ?ねえ?」
「え…あ…と…」
正直まるで心当たりがない。
こんなに可愛い子なら僕がどんなに人の顔を覚えるのが苦手でも覚えてる筈だ…
でも記憶にない。
その容姿から見て彼女は外国人だ。
僕に外国人の知り合いなんていない。
いくらハーレム主人公とはいえ、外国人の美少女がホームステイしに来たなんて都合のよい記憶は無いし小学校の頃も中学校の頃も彼女みたいな美人と接した記憶はない。
この手の展開のお約束として昔…それこそ小学生の頃に仲の良かった男友達と色々あって離れ離れになり、今になって再会したらソイツが男ではなく、実は美少女だったってオチも無い。
だって僕は小学校の頃から男友達とは縁のない万年ボッチなんだしいる筈がないのだ。
マジで何なんだよ…
でも嘘でも知ってると答えないといけない。
知らない存じないでは駄目なんだ。
理屈ではなく本能がそう僕に警鐘を鳴らしている。
この少女はやばいと…。
「あ…うっうん、ひさしぶりだね…」
「やっぱり覚えてくれてたんだね!もう!雅人君ってば忘れてるフリするなんてイジワルだね!でもそんな所も好き!」
「え…と…あはは、ごめんね…」
「ううん!大丈夫だよ!じゃ行こっか?」
「へ?行く…?何処に?」
「決まってるよぉ!私の家だよ?」
「は?駄目だよ…今深夜だし、親御さんに迷惑…」
「大丈夫だよ!何も問題ないから!ね?」
いやいや、問題しか無いんだが?
こんな夜更けに女の子の家に男が上がり込んだらもうそれだけで御用だよ…。
彼女は僕を陥れたいのか?
いや…十分あり得る話なんじゃないのか?
彼女も大地智樹や仁ノ崎杏朱みたいに僕の事を恨んでる可能性は普通にある。
僕を貶めようとしてるのかも知れない…
「流石に駄目だよ?ね?また今度にしよ?ね?」
「また今度?」
「そうそう…あっ、僕もう帰るから、じゃ、」
「待って…」
「え…ちょ!?なっ!?」
彼女は僕の背中にしなだれかかって来た。
大きな胸が押し付けられる。
背中越しに彼女のいい匂いと温かく心地よい柔らかさが伝わってくる。
甘い声で耳元に囁かれる戯言。
しかしそれはとても甘美な色を持っていた。
「帰るって何処に?貴方の帰る場所は私の所しかないんだよ?うふふ…なのに何処に帰ろうというの?」
「それは…家族のいえに…」
「家族?雅人君に家族なんていらないよ?あんな雅人君を愛さない家族はいらないと思うけどなあ?私は雅人君を愛してあげれるよ?」
「僕を…?」
「そうだよ〜ぐふふ…骨の髄まで愛してあげる…彼女も…義妹も幼馴染も与えてくれなかった雅人君だけへの愛を私だけがあげれるの…」
「僕は…、」
心地良い。
ホントに気持ちが良い。
彼女の声を聞いてると本当に心が救われるみたいだ。
心が蕩けて流されて行く。
彼女という底なしの穴に流され吸い込まれていく。
「本当は雅人君…私の事を忘れているよね?」
「え……うん…」
「ふふ…仕方ないのかな?だって私と雅人君はお話するのこれが初めてだもんね?」
「そうな…の?」
「そうだよ〜だから雅人君が私の事を知らないのは当たり前の事なんだよ?騙す様な事をしてごめんね?」
凄い眠気が襲って来た。
立っていられない。
彼女のふくよかで温かくて良い匂いのする胸の谷間の中で眠りにつきたい気持ちが大きくなっていく。
「でも私が傷付かない様に気にして咄嗟に嘘を付いてくれた優しさ…私の胸にジーンと広がってるよぉ?」
「あ…う…すぅ~すぅ~」
「うふふ…ぐぅふふ…寝ちゃった?雅人君?寝ちゃった?ぐふ…ぬふふふ…ぐへへ!やった!雅人君雅人君雅人くぅ〜ん!いひひいひいひ!」
彼女の心地よい温もりに包まれて雅人は眠りについた、
もともと深夜だったこともあり、淡い眠気が雅人にはあったがそれでも彼女の心地よい温もりには抗いがたいモノがあった。
白い彼女は眠る雅人を自宅に連れて行こうとする。
しかし眠りについた成人間近の少年をいたいけな彼女が連れていけるはずも無い…普通なら。
「それじゃ雅人君…私に付いてきてね?」
「すぅ~すぅ~」
眠る雅人に命令する白い美少女。
雅人はその命令に合わせて立ち上がり彼女に同行する、眠っているのにだ。
眠っているのに雅人は起きているように彼女の指示に的確に従い行動する。
「ぐふふ…あの雅人君が…ぐふふ…ぐぅふふ…、」
雅人と奇妙な白い美少女はそのまま夜の街の中へと消えて行った。
その夜、雅人が家に帰ることは遂に無かった。




