39話
「ほんとにあるんだな…」
俺はちょっとした興味本位から”バグ"について調べてみる事にした。
別に使命感に駆られたとかでは無く、たんなる暇潰しと好奇心からくる物だ。
ゴーグル先生に聞いてみればわんさかとヒットするし、うーつべで検索すればその手の考察やらまとめ動画やらが沢山出て来た。
仁ノ崎さんが言う様に、バグというのがネットの海の中ではかなり浸透しているみたいだ。
「でもこれといったのが無いな」
しかし、実際に宮藤みたいにバグを持ってるかも知れない奴の証言だとか証拠映像とかは出てこない…
どれも投稿者がそれらしく作った創作映像とか話の上でバグって単語が出てくる程度のものでバグを裏付ける証拠は出てこなかった。
月の空洞説だとかNA◯AがUFOを鹵獲しているだとかの信憑性のない都市伝説とそう変わらない印象を受けた。
「所詮は都市伝説か…やっぱり嘘くさいな…」
俺は都市伝説系のチャンネルを閉じて雨白アテナのチャンネルへと向かった。
実のところ茜、雨白アテナの配信までの暇潰しにバグ関連の情報を見ていたのだが暇潰しにはなってくれたので結果オーライだ。
そしてアテナの配信だが…登録者が前よりやや減っている。
俺という彼氏がアテナにいる事が明るみになってから登録者は減り続けている。
やはりVチューバの視聴者は配信者に処女性を求めているのだろう。
茜は登録者が減った事にある程度の寂しさを感じてはいるものの今も残っているファンを大切にして行きたいと配信を続けている。
しかしまぁ収益化を目指してるわけでも無く、登録者◯◯人目指してるガチ勢とかでもないので今のスタンスも変える気は無いらしい。
まぁ今更変える事は出来ないのだが?
「お、始まった」
パソコンの前で待機しているといよいよ配信が始まったようだ。
俺は画面に集中する。
雨白アテナ
「みんなぁ〜こんアテナ〜雨白アテナだよ〜」
ヨッシー
【きたー!こんアテナ!】
amazing
【こんアテ!こんアテ!】
さすらいのロリコン
【こんあて!】
ミラクルライト
【こんこんあてあて】
常連リスナーは挨拶も忘れない。
今も変わらずアテナの配信に来る彼等は例え推しに彼氏がいる事がわかっていても変わらず推しを推し続ける事に何の躊躇も戸惑いも無い。
今も残り続けている屈強な戦士達だ。
アテナの(俺との)惚気話に彼等は血の涙を流しながらもそのドロドロのデレデレトークに脳破壊され、しかしそこに確かに実在する"可愛い”を摂取するために彼等は今日もここにくる。
昨今のVチューバは大体が付き合っていたり、あまつさえ結婚していてもそれをひた隠しにして嘘をつく。
処女だよと、未婚だよと、彼氏あるいは彼女なんていない、独り身だよと。
何人のVチューバが嘘を付き、隠しているのか、それは誰にもわからない。
わからないからこそ、視聴者はこの子ならきっと大丈夫だと信じるしかないのだ。
そんな中、彼氏がいると隠しもせず何故、隠さなければならないのかと天然を炸裂させ、しかも配信で惚気話を展開する彼女は明らかに業界内で異端の存在だ。
普通なら大荒れし、大炎上していてもおかしくは無いのだが彼女自身エンジョイ勢である事をアピールしているし、Vとしても底辺の新人でアンチ活動をするにも話題性が無く、数多いるVチューバでこんなのもいるよな〜程度の扱いだったりするのだ。
そしてそんな彼女がトークテーマにだしたのはある意味ではとてもタイムリーな話題だった。
「皆って都市伝説とか興味ありますか?」
ヨッシー
【え?都市伝説?】
amazing
【あんまり?たまに動画みる程度】
さすらいのロリコン
【全然、アテナたんは好きなん?】
「う〜ん、今日学校で友達から都市伝説のお話を聞いてね、ちょっと興味をもったの、バグって言うんだけど皆は知ってる?」
ミッチー
【全然…】
クラウド.ストロングゼロ
【興味ないね…】
あまり芳しくないみたいだ。
所詮都市伝説。
知ってる人は知ってるが逆に知らない人は知らない。
その程度なんだろう。
ミラクルライト
【聞いた事あるよ!】
水白アテナ
「何!何?教えて教えて!」
ミラクルライト
【なんか超能力者の事でしょ?】
トモゾウ
【俺も聞いた事ある、でもあれって作り話でしよ?】
それからちらほらと聞いた事あるけど的なコメントは出てくるも明確な答えとなりそうなコメントはやはり無く、作り話って線が濃厚の様だった。
結局バグの話題はそれきり特に盛り上がる事は無く、その後は茜が学校であった事や俺と学校帰りに遊びによった話とかを適当にしておひらきとなった。
ラインで茜にお疲れと文を送ると直ぐに既読が付き、今日も見てくれてありがとね~と返信が返ってくる。
その後取り留めのない話をライン上でやり取りし、そろそろ終わろうかという所で茜がバグについて打ち込んで来た。
「バグだけど、やっぱり皆そんなに知らないみたいだね」
「そりゃーな、余り知られてないから都市伝説として広まってるんだろ?」
「でも知ってる人は知ってるんだし、都市伝説って不思議だよね」
「まぁ色々想像させてくれる要素が大事なんだろな」
結局のところバグが実在してるのかはわからない。
俺達の周りでバグ持ちっぽいのは宮藤だけ。
その宮藤だってバグってやつなのかどうなのかホントの所は解らない。
それでもアイツが妙な力を持ってるのは確かな事実なんだ。
正直宮藤がバグ持ちかどうかは然して重要じゃない、いや、どうだっていいのだ。
問題はアイツが変な力を持ってるって事であって、それとどう立ち向かっていくかが大事なんだ。
近寄らなければ良いと言われてしまえばそこまでだが、幼馴染である茜は多分そうはいかない。
何かと接点があるだろう幼馴染と言う関係はそんな妥協すら許されないのだろう。
「俺がしっかりしてないとな…」
そんな事を心に誓い、明日も茜を迎えに行く為に早めの就寝をいつも通り心がけるのだった。
目を覚ます。
怠惰な生活はやはり良い。
学校なんかには行かず、ありったけの自由を謳歌する。
外は朝でも昼でも夜でも関係ない。
何故ならこの僕、宮藤雅人は引き籠もりなのだから…。
なんぴとたりともこの僕の自由は邪魔されないし邪魔させない。
口喧しい母親は随分前から諦めたのかもう学校に行けとは言わない。
父親はそんな僕等を遠巻きに見るだけで口出しはして来ない。
まぁ当然だよね。
あの人とは血の繋がりはない。
義理の父親だからね、形式的な親子の関係に情が絡む事はない。
実の父は他の女の人と浮気をし、母はそれに激怒して離婚した。
再婚の後、義理の父親と妹が出来たけど、僕はこの新しい家族の形を維持するのに躍起になっていた。
再婚前の母親はひどいものだったからね、今の家族関係を破綻させるわけにはいかなかった。
幸い義妹の花楓は僕に良く懐いてくれていた…、いや、懐き過ぎなくらいだった。
とにかく表面的には上手く行ってたと思う。
だけど母親は僕に前みたいな愛情をくれなくなった。
子供ながらに解るよ…。
浮気した元父親の影を母親は見ている。
新しい家族に僕は不必要なんだろう。
だからこそ家族の形を維持するのに躍起になった。
義妹を味方につける。
しかし心を許し過ぎてはならない。
あの子は僕のブランド力に絆されやすい。
義妹と関係なんて持ってしまえば母親から勘当されかねないのだから。
茜さえいてくれたらそれでいい、
そんな風に思っていたのにその茜すらもういない。
他人は嘘つきばかりだ。
みんな嘘で塗り固められたクズばかりだ。
反吐がでそうだ。
時計を見ると深夜だった。
喉が渇いたし小腹も減った。
自宅の冷蔵庫の中には小腹を満たせそうな物は何も無い。
「仕方ない…コンビニにいくか…」
僕は軽い外出着に着替え外に行く。
深夜は良いよね。
外を出歩いても誰かに遭遇する可能性がとても低い。
お約束ならここで茜と足立がいちゃついてる所を僕が偶然見たりするんだろうけどそんなテンプレは起こりそうにない。
はは、残念だったね。
そうしてコンビニで買い物を済ませ帰路につこうとする。
そこで…呼び止められた。
「雅人君……ふひひ…」
「へ…?」
「雅人君…あぁ…ホントに雅人君だ…運命だよ…ぐへへ…」
振り向いたさきには目を剥く程に綺麗で圧倒的な存在感を放つ美少女がそこにいた。
「やっと…会えたね……ぐへへ…」
ただその美少女は涎をたらし、鼻息を荒くさせ、目が据わっている。
綺麗な見た目が台無しになるには十分過ぎた。




