36話
大地友樹の通う学校には五大女神なんて全生徒から持て囃されている美少女が5人も在籍している。
いずれもその姿を視界に収めれば自然と目で追ってしまう程度には魅力的な少女達だ。
そしてこの5女神には共通した特徴が一つある。
言わずもがな…宮藤雅人に想いを寄せていたという点だろう。
しかしこれは少し前の認識だ。
今や宮藤雅人に想いを寄せている女神は一人としていない。
宮藤に至っては引き籠もりになり、学校にしばらく来ていない。
まぁ…正直無理も無いだろう…。
あれだけの事が起こったのだ。
彼からすればこんな所には二度と来たくは無いだろう。
まぁ、それはいい。
ここ最近の出来事で変わった事があった。
5大女神関連で大きな変化があったのだ。
これまで5女神の一人として一応はカウントされていた九条茜だが彼女は元々他の女神と比べて秀でた特徴が無かった。
ハッキリ言ってしまえばパッとしない印象を持たれていて、4人の女神と比べて浮いていたのが実状だ。
そこに彼氏が出来たという話題は彼女の女神たる基盤を揺るがすのに十分な効果を持っていた。
元々女神候補だとか補欠女神なんて言われていた彼女が女神の座から篩い落とされるのは仕方のない事だし、彼女自身女神だなんだと持ち上げられたところでさしたる喜びもないどころか明確に迷惑だと感じている事は本人から直接聞いている。
そんな彼女に代わり、女神の座を新たにゲットした女子がいた…それが仁ノ崎杏朱だ。
夏が迫る昨今において、この半端な時期に転校して来た元気ハツラツな体育会系女子の登場は校内で話題となった。
そう、彼女は体を動かすのが大好きな体育会系女子。
爽やかな笑顔と健康的な体躯、誰に対してもフレンドリーで溌剌とした態度、何より他の女神と遜色ない美貌を持った彼女はトントン拍子で女神の座に躍り出て、低迷していた茜を女神の座から引きずり下ろし、見事その座を勝ち取った。
まぁ九条も杏朱も女神の座なんて毛ほどの興味も無かったのが実情だが…。
そして、そんな杏朱に心惹かれた多くの男子は速攻で奈落の奥底に叩き落とされた様な絶望を感じる事となった。
「あ…あの!一目見た時から好きでした!俺と付き合って下さい!!」
「その…ごめんね、君とは付き合えないし、付き合う気もないの!」
「なっ…じゃ…やっぱりあの噂は…」
「えぇ?知ってるの?知ってるのに私に告ってくるなんて君もチャレンジャーだね〜」
「む…無理…かな?」
「うん、ごめんね?私好きな人がいるの!大地智樹君!ずっとずっと!諦められないの!」
「そ……そっか…頑張ってね…」
「うん…なんかごめんね…」
そう、彼女は中学時代の元カレ、大地智樹を今も想い続けている。
一度は宮藤雅人に惑わされたがそれは過去の話だ。
今は中学時代の時と同じ、智樹を一途に想い続ける純情ガールとなって彼女は再び智樹の元に戻ってきた。
いや、戻ろうとしている。
一度はフった過去がある事で2人の間には大きな…、大き過ぎる溝が生まれている。
他の男子は彼女に気安く話しかけても肝心の智樹は話しかけるどころか逃げ去っていく始末。
これを何とかするのが彼女の当面の目標だった。
大地智樹は中学から高校に上がる際、元カノの杏朱とは違う学校への進学を企てていた。
そして今の高校へ見事合格し、彼女から逃げる事に成功した。
なのに彼女は転校という手段をもって再び彼の前に現れた。
大地智樹は彼女の登場に宮藤のハーレムパワーは人の人生すらも操るのかと驚愕したがそうではない。
たまたま彼女の父がこの辺りに転勤する事になり、ならばとそれに同行した彼女は智樹のいるこの学校を転校先に選んだのだ。
そう、全てたまたまなのだ。
もしかしたら宮藤のハーレム主人公パワーが彼女を引き寄せた可能性も無くは無いが彼女の頭の中は智樹とのより戻しに一貫している。
恐らくだがその強靭な思いはハーレムの呪いすらも跳ね返してしまえたかも知れない。
そして彼女は今日も諦めずに大地智樹へと話かけていた。
「おはよぉ~智樹、今日もいい天気だねぇ!」
「………」
「そこは天気ネタとはボキャブラリーの無い奴めぇって突っ込む所でしょ!」
「……」
「……、えっとね、私の前いた学校でね、友達の香織って子がいたんだけどね、その子と和也君が付き合い出したの、覚えてる?和也君、智樹と中学の頃仲良かったよね!」
「……はぁ…脈絡が無いな」
「え?」
「話の繋がりに脈絡なさ過ぎだろ?お前そんな話し下手だっけ?」
「そ…それは智樹が!」
「悪かったな…お前は何も悪くないのに…俺はいつまでも逃げてばかりでさ……」
「ち…違うわよ…悪いのは私で…智樹が、いるのに…わた、私…が…浮気みたいな事をした…から…」
「ああ…だからお前は悪くないんだよ…」
「どうしてよ!私智樹を裏切ったのよ!なのにどうして悪く無いって…そんな事が言えるのよ!怒ってよ…責めてよ…うぅ…」
杏朱は何も悪く無い。
彼女が俺をフッたのは宮藤の呪いが原因とみて間違い無いだろう。
なら彼女は自分の意思で俺をフッた訳では無くなる…それを無視してお前が悪いとは言えないし言える筈もない。
なら全て丸っと水に流してハイ!解決!……と、また彼女と付き合える様になるかと言えばそんな訳はない。
彼女は悪くない…そう頭では解ってても、どうしようもない事だってある。
俺をフッて宮藤を選んだのは間違いなく呪いが原因だとしても、彼女自身なんだ…。
俺の目の前で最愛の人から存在否定に近い言葉をかけられるのは辛い。
どうも彼女の顔を見ると逃げたくなるくらいにはトラウマになってしまってるみたいだ。
宮藤をハメるための原動力が彼女を失った喪失感からくる復讐心だったんだ。
トラウマにもそれなりの年季と念が籠もっている。
つまり気にしないと自分に言い聞かせた所で本能的に彼女から逃げる選択を自然と選んでしまうのだ。
「実際にお前は何も悪くない…これは俺の問題だから…」
「本当に私は悪くないって思ってくれてるの…?じゃあさ…私は今まで通り…智樹の彼女でいていいんだよね…?」
「え…?それは…」
「…好きな人がいるの…?もしかして…蔵王先輩…?」
「はあ?なんであの人がそこで出て来るんだよ…」
「だって、智樹と蔵王先輩ってよく一緒にいるじゃん…?仲良さそうにわざわざ学校から離れたファミレスにいってさ?あれって隠れて付き合ってたって事でしょ?」
「な…なんで知ってるんだよ…」
あれから…宮藤が引き籠もってからあの人とは会ってない…おそらくだが俺に玩具としての価値が無くなったからだろう…
蔵王先輩に飽きられたのが原因だろうが、そこにわだかまりや後悔はぶっちゃけない。
頭の良い人間は何を考えてるのか解らないがあの人の場合そんなレベルの話でもない。
一緒にいて分かったのは底の知れない怖さみたいのがあの人にはあるって事だ。
元々付き合うとか付き合わないとかそんな次元の話にもなっていないんだ。
いや、それにしてもだ…。
いや…本当になんで知ってる…
俺とあの人が会ってた事を…
誰にも知られてない自信あったのに…
「私…ずっと智樹の事を見てたもん…智樹の事ならなんでもわかるもん…」
見られてた…?…いや、わざわざ学校の外で待ち合わせしてファミレスに行ってたんだ…
偶然とかではないよな…
コイツ…つけてやがったな…
しかし…
「なんでも…ねえ…」
「ううぅ…」
「なら俺がお前を避ける理由だってわかるだろ…もう俺のことなんか忘れて…」
「無理だよ…」
「………」
「宮藤に一目惚れして智樹の事を裏切って私は宮藤の所に行ったよ…でもそこには何もなかった…全部を智樹と比べて智樹ならこんな事しない…智樹ならこうする…智樹は凄いって…宮藤と一緒にいても智樹の事ばかり考えて…智樹が私の事を避けてそのまま自然消滅して、高校に上がった後も何も変わらなかった…何人かの男の子が言い寄ってきて、智樹を忘れる為に付き合ってみたけど駄目なの…結局私は智樹がいないと駄目なの…」
「なんで…俺なんかにそこまで…」
「お願い!なんでも…なんでもじますがら!また!また!私とづぎあって!!ひぐっ…ぐす…」
マジで何故そこまで俺に…
どうするのが正解なんだ…
俺にはわからない…。




