20話 自己嫌悪
「なるほどね〜、やるじゃんアンタ」
足立智春の姉、足立桜花は腕を組み、満足そうにふんぞり返る。
桜花のデカいおっぱいは組まれた両腕にドカっと乗っかっている。
実に見事なまでのおっぱいである。
智春は九条茜と付き合い始めた事を話した。
その過程で九条茜が正式に宮藤ハーレムから脱退した事。
姉である桜花の持つ聖女としての権力に縋り庇護下に入れないかと考えている事等を素直に打ち明けた。
しかし一つ懸念があった。
姉が盲信する宮藤に喧嘩を売るも同然の行動に出たのだ。
姉が激怒している可能性も考えていたのだが…。
「意外だな、てっきり宮藤をコケにした事を怒ってると思ったのに?」
「そりゃまぁ何も思わないって訳ではないけどアンタの言ってた事はもっともだし、今回は雅人君に非があるって私も思うからね、あの子の為にも間違ってる事は間違ってるってちゃんと言って上げないと駄目だと私も思うわ」
「へぇ…」
「何よ?その含みのある反応は…」
「いや…姉ちゃんは宮藤の事になったら思考力が落ちるイメージがあったから意外だと思ってね…」
「あんたはあたしをなんだと思ってるのよ…」
はぁ〜と大きなタメ息をつき、姉はソファにもたれかかる。
今度は背すじを伸ばして張ってるせいかデカいおっぱいが上向きにぶるんと揺れて自己主張する。
どうあがいても目立つ脂肪の塊だな。
弟だから耐えられた。
他のクラスメイトならきっと耐えられないだろう。
と、どこぞの長男みたいな事を考えてると姉は更に思い掛けない事を言ってきた。
「正直いうとね、昼休みのあんたらのやり取りを見てたらなんで私は宮藤君に対して、ここまでのめり込んでるのかなって疑問に思ったのよね…」
「へ?」
「デリカシーの欠片もないし、女心を理解しようともしない。身勝手で我儘なくせに保身ばかり優先する、好きならそういう所を矯正してあげるのも一つの愛情だと思うんだけど…なんだかもうそこまでの熱量が無くなっちゃったのよね〜…。」
「姉ちゃん…マジかよ…」
姉がとうとう真理に辿り着いた。
少し考えれば当然の帰結なんだが宮藤にお熱な内はまともな思考が出来なくなる。
少なくとも昼休みのやり取りは姉を正気に戻す取っ掛かりとなったようだ。
「じゃ…もうハーレムからは抜けるのか?」
「毎日下級生の教室に行くのも疲れるし…もう辞めるわ…あとアンタと九条さんの事は応援して上げるから安心なさいな。」
「そっか…ありがとう…姉ちゃん」
「かわいい弟の頼みだからね。まぁ…あの九条さんの姿をみたら変な事してくる奴もそんなにいないと思うけどね。」
「は…あはは…」
昼休みの時の茜はマジでキレていた。
普段温厚な人間がキレると怖いなんて良く言うが、あれはその良い例と言えるだろう…。
まとってるオーラというか雰囲気が私今、怒ってますと言える物だった。
それでも変わらず自分本意な言葉を投げかけていた宮藤は流石と言うか何と言うか…。
自分の部屋に戻って来た俺はパソコンを起動させる。
そろそろ茜の…雨白アテナの配信がはじまる。
アテナの配信予約ページで待機し、配信が始まるのを待つ。
学生と配信者の両立は中々大変だろう。
まぁ…ガチガチの配信者でもないから気楽にやれるのが救いだとしても、俺なら続けられるメンタルはないだろうし、普通に尊敬する。
しかし今でもアテナが茜なのは意外過ぎて何処か遠い出来事の様に感じる。
「おっ、始まるな」
そうこうしてると配信が始まった。
「みんな〜こんアテナ〜雨白アテナです〜えへへ〜」
"こんアテナ"はこの配信の挨拶みたいな物だ。
Vチューバはだいたいこんにちはとかこんばんはのこんと自分の名前をかけ合わせて挨拶にする事が多い。
最初はアテナもこんにちは、こんばんはと普通の挨拶をしていたが視聴者の助言もあり、今の形に落ち着いている。
この配信の視聴者は民度が高く、配信者を不必要に攻撃したり、叩いたりしない。
ここ最近はVチューバにあるまじき恋愛相談を視聴者に投げかける等という暴挙とも取れる内容の配信までしていたが、彼女のポワポワ〜とした話し方と天然が織り成す雰囲気、また視聴者側の女子高生の恋愛相談に乗りたいというニーズが重なり奇跡的に炎上せずに配信は続いている。
そして今回彼女はまた取っておきの爆弾を投下した。
彼氏(俺)が出来た事を配信で暴露したのだ。
彼女から放たれる甘ったるい空気はそれが嘘偽りではない事をこれでもかと如実に物語っている
しかし…しかしだ…。
その彼氏に対する嫉妬や増悪もあるだろうに、視聴者は一切アテナに暴言を浴びせたりはしない。
みんな涙を飲んでこれに耐えている。
訓練されすぎだろ…。
まぁ…その彼氏に対してのデレデレの甘々トークを繰り広げている彼女はお世辞抜きで可愛いので、視聴者も悔しながらもその可愛いさを堪能している。
実際に
【く、kawaii!】
【チクショーかわいいじゃねーか!】
【彼氏とお幸せにー!くぞ〜】
という悲劇めいたコメントが後をたたない。
というか茜は俺が聞いてるのを分かってるのだろうか?
聞いてるこっちの方が恥ずかしくなってくる。
甘すぎる!
甘すぎて溶けて消えてしまいそうだ!
そんな事を思いながらも視聴を続けていると、今までよりももっと変な方向に話は反れて行く
アテナが俺の願望である彼女に膝枕をしてもらい、耳掃除をするという話を話題にし、それに対しても視聴者達は嫉妬したりネタにしたりと騒いでいる。
しかしある瞬間からASMRの話になり茜はそれに興味を持った様だ。
ASMRは配信者にとって簡単に多数の視聴者を集めるベストな方法だ。
しかしその手法ゆえ、ガチ恋ファン…真面目にVチューバに恋する視聴者を生んでしまう一定のリスクがある。
親身に応援されるのは嬉しいポイントだろうが拗らせたファンというのは何処までも自分本意で攻撃的になる。
あの宮藤みたいになったファンが生まれない保証は何処にもなく、俺としてはASMR配信は避けて欲しいところだ。
そもそもにおいて彼氏的には何処の誰かも解らない奴相手に茜が甘い声色で囁きかけているのは凄い微妙な気持ちにさせられるのだから止めて欲しいのは至極当然の要求だ、まぁ何処の誰かが解ってても嫌だが。
「はぁ…俺…キモいな…」
割りかし独占欲が強い自分に気付きちょっとだけ自己嫌悪に陥るのだった。
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