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第7話 リズのお風呂でご奉仕!?

 屋敷には本当に多種多様な部屋が存在した。

 

 応接間を出てすぐのところには迎賓用の客間がずらりと並んでいて、多目的に使用可能な広間もいくつかあった。


 そのほかにも食堂室や厨房、洗濯室に娯楽室、書庫や画廊なんてものもある。


(いったいどうなってるんだ。この屋敷は……)


 広すぎてリズの案内がなければ迷子になってたに違いない。


 それからしばらく見てまわった後、3階にある大広間の一室へと案内される。

 なんでもここを私室として使っていいらしい。


「本当にここ使っていいの?」

「もちろんです♪ ご主人様のお好きなようにお使いください」


 人が10人並んで寝ても大丈夫そうなふかふかのベッドが部屋の中央に鎮座していた。

 そのほかにも煌びやかな黄金のテーブルや長椅子がいくつか設置されている。

 

 テーブルの上には新鮮なフルーツが置かれていて、まさに至れり尽くせりといった感じ。


「こんな広い部屋を1人で使うとか、なんか気が引けるんだけど」

「遠慮なさらないでください。見ていただいたとおり、このほかにもお部屋はたくさんありますので。もちろんこの大広間が一番大きな部屋となりますよ~。ご主人様のためにご用意させていただきました」

「はぁ」

「あとは慣れですよ~ご主人様♪」


 これまでボロくて狭いアパートで暮らしてきたから、ここが俺の私室だって言われてもぜんぜん実感が湧かないんだよなぁ。


 ずっとふわふわしていて夢を見てるような感じだ。


「何か気になることがあればなんでもおっしゃってくださいね? 新しい主様には誠意をもって尽くすようにとヴォルフ様にも言われておりますので」

「分かったよ」

 

 けど……慣れの問題か。


 たしかにここでこれから暮らしていくわけだし、俺もきちんと順応しないと。

 その方がメイドとしてルーシィもリズも仕えやすいはずだ。


「一度ベッドに横になってみてもいい?」

「どうぞどうぞ~」


 リズに断りを入れてからベッドに寝そべってみる。


 ぽわ~~ん!


(うわぁ、なんだこのベッド! ふかふかすぎるっ!)


 世の中にこんな豪華なベッドがあったなんて衝撃だ。

 このままゆっくり寝ちゃいそう。


「ご主人様。もしお疲れでしたらこのまま朝までお休みになられますか?」

「いや。さすがにこのまま寝るわけにはいかないかな」


 ちょっとだけ目をこすりながら起き上がる。


「せっかくルーシィが夕食を作ってくれてるんだし。その好意を無下にするわけにはいかないよ」

「そうですね。お姉ちゃんの料理はホント絶品なので。ご主人様にはいち早く食べていただきたいです~」

「それは楽しみ」


 そこでリズはよれたベッドをさりげなく直すとこう訊ねてくる。


「では夕食の前にお風呂に入ってきてはいかがでしょうか?」

「あーあ。たしかに入りたいかも」

「大浴場はちょうどこのフロアにあります。大広間を出て廊下をまっすぐ進んだ先にありますよ」

「大浴場? そんなものが屋敷にあるの?」

「ヴォルフ様がお風呂好きだったんです。私たちメイド専用の浴場や迎客用の浴場もありますね」

「はぁ……。世の中にはすごい人がいるんだなぁ」


 屋敷の中に浴場を三つも作ってしまうなんてどれだけお金がかかるかちょっと想像できない。

 金持ちって感覚が違うのかも。


「うふふ♪ 今度からはご主人様がそう言われる番ですね」

「俺には無理だよ。そもそもお金の使い方もぜんぜん分からないし」

「これも慣れですよ。ご主人様~」


 まあ、今後いろいろと慣れていけばいっか。


 その後。

 部屋を出るとリズと一緒に大浴場へと向かった。




 ◆◆◆




(いったい部屋がいくつあるんだ)


 手入れの行き届いた広い廊下を歩きながらやっぱり俺は驚きを隠せない。

 100人は寝泊まりできそうな規模の屋敷だ。


「ん?」


 そこでふとある一室が目に入る。


「この部屋は?」

「ここはヴォルフ様が拾ったカードをコレクションしていた部屋なんです」

「コレクションか。すごいね」

「とても多趣味な御方でしたので。カードの収集もそのうちの一つだったんですよ」


 部屋には500枚近いカードが額に入れられてずらりと並んでいた。

 ほとんどがSRカード以上だ。


 これだけのカードを集めるのにどれくらいかかったんだろうな。

  

 リズに確認してみると彼女も詳しくは分からないらしく、とにかく生涯かけて集めたって話だ。


「世界中を渡り歩いて集めたみたいですね」

「へぇ。すごいなぁ」

「カードと契約はしていないので実際に使う機会はなかったみたいですけど」


 いったいなんのために集めてたのか気になるところだけど。


 まぁ趣味ってのは大抵がそういうものだし。

 特に意味はなかったのかもしれない。


「ですがよく考えれば、ここにあるカードもすべてご主人様のものということになりますね。もし契約されたいカードがあればお持ちになられても大丈夫ですよ~」

「いや、さすがにヴォルフさんが生涯かけて集めたカードを俺が使うわけにはいかないよ」


 そもそも俺はFランクだからNカードとしか契約ができない。

 見たところこの中にNカードは1枚もないから、もしカードを受け取っても使うことはできないし。


「本当によろしいんですか?」

「うん。俺には父さんのカードがあるし。あとは自分で拾ったカードで十分だよ」

「そうですか……」


 なぜかリズは残念そうだ。

 きっと俺がもっと喜ぶものだろうって思ってたのかもしれない。


 でも今の言葉に偽りはない。

 

 父さんのカードを受け継ぐのとはわけが違うから。

 いち決闘者デュエリストとして誰かの大切なカードを使うことはできなかった。


 そんな風にコレクション部屋を通り過ぎると、ようやく大浴場の前へと到着した。




 ◆◆◆




「ご主人様。ここが大浴場となります」

「おぉっ! すごいね」


 本当に屋敷の中に大浴場があったよ。


 この屋敷がどういう構造をしてるのか本当に気になってしまう。

 まわれていないフロアもまだぜんぜんあるみたいだし。


「では一緒に浴場へ入りましょう」

「は…………?」

「ご主人様のお体を私が綺麗にして差し上げます~♪」

「いやいや! さすがにそれは……」

「もぉ~。こんなことまで遠慮なさらないでください。ご主人様にきちんとお仕えするのがメイドの務めなんですから」

「てかそのままの格好で入ったら濡れるでしょ」

「? 私も裸で入るので問題ありませんよ?」

「裸!?」


 さらっとすごいことを口にするリズ。

 思わず純白の胸の谷間に目がいってしまう。


「では、きちんとご奉仕させていただきますね~♪」

「えええっ!?」


 何も疑問に思っていないところが恐ろしい。


(というかここに至るまでの間、リズはずっと無防備だったんだよなぁ)


 自分がエロい格好で男の隣りを歩いてることにもまるで気にしてない様子だったし。

 内心気が気じゃなかった。


 まぁこれも慣れの問題なんだろうけどさ。

 

「あのさ。一応確認のために聞きたいんだけど……リズって成人を迎えてるよね?」


 体は抜群のプロポーションなリズだけど顔はまだどこか幼さがあった。

 それはルーシィにも言えることで。


 2人とも双子なんだから似ていて当然なんだけど。


「その点はご安心ください。ちょうど1年前に成人の儀を終えましたから」

「てことは16歳か。俺とタメだね」

「やっぱりご主人様と同い年なんですね~! お父様のお話を聞いてそうだと思ってましたが、こうして改めて確認できるとすごく嬉しいですっ♪」


 けど、よくよく考えれば同い年の女の子にメイドとして仕えてもらってるってことだよなぁ。


 王立学院の同級生――たとえば、ナタリアにメイドとして奉仕してもらうってのと同じことなわけで。


(これってけっこうな背徳感がある気がするぞ)

 

 うん。

 あまり深く考えないことにしよう。


「お姉ちゃんと私はヴォルフ様が亡くなってすぐに成人を迎えましたので、こんな風に大人のご奉仕をするのは初めてのことで緊張するんですけど……でも、頑張ります!」

「やっぱそうなるんだ」

「いろいろと拙い部分もあるかと思いますがきちんと奉仕させていただきますね♪」


 満面の笑みで口にするリズにこんなこと言うのは若干気が引けたけど。

 

(でもここできちんと言っておかないと。後々とんでもないことになりそうだし)


 俺は意を決して本心を伝えることにした。


「ごめんリズ。悪いんだけどそういうのは大丈夫だよ」

「え、ですが……」

「風呂は1人でゆっくり入りたいんだ」

「あっ」


 そこでリズはなぜか顔を赤くさせて手をパタパタとさせる。


「ご、ごめんなさい! 私ご主人様のお気持ちをまったく考えてませんでした! たまにはそういう日もありますよねっ!? お風呂の中でいろいろしたいことも……」

「……ん? まあ、そういうこと」


 一瞬、危険な発言が聞えたような気がしたけどスルーすることに。


「分かりました。ではガウンだけ脱衣所に用意しておきますので。ごゆるりとお寛ぎください♪」


 リズがぺこりと頭を下げて立ち去るのを見届けると、俺は「ふぅ」とため息をついた。


(年頃の女の子と一緒に暮らすのっていろいろと大変なんだ)


 ナタリアとパーティーが一緒だったけど、宿屋に泊まる際は別々の部屋だったしテントも別だった。


 だからこうして誰かと一緒に生活を送るってのは本当に久しぶりだったりする。

 なんとなく父さんがいた時のことを思い出して少しだけ嬉しい気分となった。


(まあこういうのも悪くないかもな)


 そんなことを思いながら浴場へと足を踏み入れた。

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