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第5話 屋敷へ行こう

 ルーシィとリズの後について夜の草原を歩くこと30分。

 やがて、だだっ広い平野の真ん中に巨大な豪邸がぽつんと現れる。

 

「まさか2人が暮らしてる屋敷って……あれのこと?」

「ええ。そうよ」

「マジで?」


 その規模に驚きを隠せなかった。


(これって、屋敷っていうよりもうお城じゃん!)


 2人がメイド姿なのを見るにたぶん主がいるんだろうけど。

 

(いったいどんな主が暮らしてるんだ?)


 ちょっとだけ俺はビビっていた。

 貧乏育ちだし、礼儀とかマナーがきちんとできるか心配だ。


「ってか周りにぜんぜん家がないんだけど?」

「はい。ここら一帯で暮らしているのは私たちだけになります。でも安心してくださいアルディン様。さっきのように賊に襲われる心配はありませんから」

「屋敷は【N活路への天秤】っていうカードの効果で入場を認めた者以外は入れないようになってるのよ」

「そうなんだ」

「まぁ、だからアイツらもあんな場所で私たちを襲おうって思ったのね」


 屋敷の中へ入れないから外で襲って有り金をすべて奪おうとしたってことらしい。

 改めて冒険者の風上にも置けない卑劣な連中だと思った。


「でも、2人が仕えている主人がどんな人なのか想像もつかないよ」


 歩きながらそう口にすると予想外の言葉が返ってきた。


「いえ。私たちはどなたにもお仕えしていないんです」

「え? でも2人ともメイドじゃないの?」


 改めてルーシィとリズの格好を見る。

 どこからどう見てもメイドだ。


 それもそんじょそこらのメイドじゃなくて、明らかに高級メイドって感じだった。


「ごめんなさい。言い方が悪かったですね。〝今は〟どなたにもお仕えしていないんです」

「今は?」

「たしかに私たちはメイドよ。ヴォルフ=ローレンス様に仕えていたの」

「ヴォルフさん?」

「はい。ヴォルフ様はちょうど1年前に病で亡くなってしまったんです。それ以来、私たち2人が屋敷と土地を管理しているんです」

「土地? まさかこれぜんぶ?」

「そうよ。ここら一帯はぜんぶヴォルフ様の土地だから」


 夜にもかかわらず、俺は広大な土地のすべてを見渡すことができていた。

 たぶんこれも覚醒した《神眼》のおかげなんだろう。


 面積だけなら首府の広さを軽々と越えてしまっている。


「ヴォルフ様は幸運なことに世界に数枚しか存在しないとされている【UR金の壺】をこの周辺で見つけられたんです。ですから、お金にはほとんど困っていませんでした」

「そうなんだ。にしても亡くなった後も土地を管理してるなんてすごいね」

「もちろん無目的に管理してるわけじゃないわ。これにはちゃんとした理由があるの」

「理由?」

「とりあえず屋敷の中へ入ってもらえば分かるわ。ここまで来てもらった意味も理解してもらえると思うから」


 依然としてルーシィは意味深な言葉を口にする。

 まあ、中へ入れば分かるって言うんだ。


 俺は素直に従うことにした。




 ◆◆◆




「うぉぉぉっ! すげぇぇぇ……」


 屋敷の中は煌びやかな装飾で埋め尽くされていて、玄関ホールに廊下、階段と至るところまで光り輝いていた。


 目がキラキラして眩しい。

 めまいがしそうなほどの豪華絢爛な住いだった。


「すごいね。こんな豪華な家に招待されたのは初めてだよ」

「うふふ♪ 年に何度かヴォルフ様のご友人が遊びに来られてましたが、皆さん同じような反応をされてました」

「私たちはもうここでの暮らしに慣れちゃったけどね」

「けどこんな綺麗に保っているのはほんとすごいよ。ぜんぶ2人で掃除とかしてるの?」

「お姉ちゃんと分担して毎日手入れしてますよ~。メイドですからこれくらい当然です♪」


 なぜかリズは誇らしげだ。

 話を聞く限りリズは相当綺麗好きのようで、こんな風に屋敷を綺麗に保つことを誇りに思っているみたいだった。

 

(すごいなぁ。2人とも)


 ずっと冒険者として生きてきたから2人の仕事ぶりはどれも新鮮に聞えた。


 そんな感じでゆるく会話しながら歩いていると彼女たちはある一室の前で立ち止まる。


「ここよ。どうぞ中へ入って」

「うん。おじゃましまーす……」


 どこか緊張して部屋の中へと足を踏み入れる。

 そこは小ぎれいに整えられた応接間だった。


 ここへ来るまでがものすごく煌びやかだったから、急にこじんまりとした雰囲気の部屋でなんだか落ち着く。

 

 よかった。

 ちゃんとふつうの部屋もあるんだ。


 そんなことを思いながら室内を見まわしていると。


(ん?)


 応接間の中央にふと目を引くものがあった。

 なんだあれ?


 ダイヤモンドの額縁に入れられた1枚のカードが飾られている。


 目を凝らして俺は思わずハッとした。


(え、あれって……)


「「スタンバイフェイズ。カード解放レリーズ」」


 俺が驚いているとその横でルーシィとリズが同時に水晶ホルダーを展開させる。

 2人は声をはもらせて同じカードを宙に浮かび上がらせた。


「「アイテムカード発動インヴォーク――【N重奏認証】」」


◇◇

 【N重奏認証】

 [レア度] ★(1)

 [カテゴリ]アイテムカード

 [タイプ]永続

 [効果]2名以上で同時にカードを使用しなければ発動しない。特定の結界を解除することができる。

◇◇



 ピカーーン!



 すると、ダイヤモンドの額縁は外れて中から1枚のカードが宙に浮かび上がった。


「このカードは……」

「もしかして心当たりがあるの?」

「うん。これは父さんが持ってたカードだ」


 その言葉にルーシィとリズは確信したように顔を見合わせた。


◇◇

 【KGヘルメス・トリス・メギストス】

 [レア度] ?

 [カテゴリ]?

 [タイプ]?

 [効果]?

◇◇


 俺は宙に浮かび上がったそのカードに思わず手を伸ばす。


 やっぱり間違いない。

 俺はこのカードを父さんが持っていたのを見ている。


 カード自体ものすごく古いもので、父さんも遠方のクエストに出かけた際、行商人から譲り受けたって言ってた。


 【HR魔符図鑑(カードリスト)】の効果で調べてもらった結果、このカードは世界に1枚しか存在しないものらしい。


◇◇

 【HR魔符図鑑】

 [レア度] ★★★★★★★★★(9)

 [カテゴリ]アイテムカード

 [タイプ]永続

 [効果]世界中に存在するありとあらゆるカードの種類、枚数を調べることができる。

◇◇


 カードの詳細も一切不明でこれが何を意味するカードなのか父さんも分かってなかった。

 だけど、父さんは昔から好奇心旺盛だったから絶対いつか何かの役に立つはずだって肌身離さず持ち歩いてたっけ。


(どうしてこのカードがこの屋敷にあるんだろう)


 そんな俺の疑問に気づいたのか、リズがさっと間に入ってくる。

 

「アルディン様。なぜこのカードがここにあるのか順を追ってご説明します」


 俺はそこで思いもよらない話を聞くことになる。

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