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第4話 カード覚醒

 『勇気の心を確認しました。これにより【N水滴石穿】は特異点を迎え、魔符昇格モードへと移行します。』


 次の瞬間、そんな光のウィンドウが立ち上がる。


(いったい何が起こってるんだ?)


 こんなこと初めてだ。

 神々しい光に包まれる俺を見て、男たちはその場に尻もちをついて唖然としていた。


 『【N水滴石穿】は【LKG冠を戴く神威の権能ティアラメンツ・エルシャダイ】へとカード昇格――認めます。』


 『【LKG冠を戴く神威の権能】のカード永続効果が発動――認めます。』


 『【LKG冠を戴く神威の権能】のカード永続効果により、才能ギフト《鷹の目》は《神眼》へと覚醒――認めます。』


 『【LKG冠を戴く神威の権能】のカード永続効果により、普通職は上位複合職へと昇格――認めます。』


 『【LKG冠を戴く神威の権能】のカード永続効果により、職業ジョブ魔符術士(カードマスター)〉が解放――認めます。』


 『以上の結果、所有者アルディン=ギルバートが〈神話級改変者(ルールブレイカー)〉の基点に達したことを認めます。』


 最後にその一文がウィンドウに表示されると、カードは煌めきとともに消滅してしまう。

 突然の出来事にわけが分からない。


「こいつ……。何したッスか?」

「関係ねぇ。さっさと殺しちまうぞ。お前らも援護しろ!」

「了解っでせ」


 リーダー格の男の言葉に子分2人が反応する。

 すばやく陣形を組むと一気に水晶ホルダーを展開させてカードを宙に浮かせた。


「魔法カード発動インヴォーク――【U雷術Ⅱ】」

「アイテムカード発動――【R逆巻く炎の奇襲(アサルトバーニング)】」



 バヂィバヂィバヂィーーーン!

 ヴォォオオオォオオオーーン!



 子分たちが発動した攻撃が連なるようにして向かってくる。

 その背後から大斧を振り回しながらリーダーの男が飛び込んできた。


「しねぇぇぇぇえ!」


 丸腰の俺にとっては絶体絶命の場面のはず。

 なんだけど。


(あれ? なんか見えるぞ)


 不思議なことに相手が繰り出してくる攻撃の軌道が手に取るように分かった。

 

 魔法がどこに着弾するのか、斧の刃先がどこを捉えようとしてるのかも。


(すごい。相手の狙いが分かる)


 その時。

 斧の刃先にきらりと映った自分の瞳を見て驚いた。


 どういうわけか瞳が黄金色に輝いていた。


(完全に動きが読める……ここか!)


 放たれた魔法と〈アイテムカード〉による爆撃を素早く回避すると、突っ込んできたリーダー男の背後にくるりと回り込んで斧を奪い取った。


「なにぃ!?」

「ほい。ほい。ほいっと」

「ぶはぁ!?」


 斧の握り(グリップ)部分で脇腹に峰打ちすると、リーダー男はその場で悶えるように気絶する。


「アニキ!?」

「こいつオイラらたちの攻撃を二度も避けったッスよ!?」


 テンパる子分のもとに素早く切り込むと俺は同じ要領で峰打ちを叩き込む。


「「ごふぅっ!?」」


 2人も同じようにその場でうずくまりながら気絶した。




 ◆◆◆




「昔、父さんに教わった武術が少し役立ったかな」


 実は毎日ちょっとずつ鍛えてるから膂力には自信があったりするんだよね。


 にしても。

 夜の草原でぶっ倒れてる男たちに目を向けながら思う。


(不思議な感覚だったな。あんな風に攻撃の軌道がぜんぶ見えるなんて……なんでだろう?)

 

 それに自分の瞳が黄金色に輝いたのも気になった。

 今は収まってるようだけど。


 光のウィンドウがいきなり立ち上がった理由もよく分からない。


(【N水滴石穿】がカード昇格したとかなんとか表示されてたけど)


 なんだったんだあれは。


 ぶっちゃけ、突然のことすぎてそこに表示された内容もうる覚えだ。


「念のため確認しておくか」


 「ステータスオープン」と唱えると、俺は改めて自分のステータスを確認してみる。


====================


【アルディン=ギルバート】

種族:人族 年齢:16歳

ランク:F


Lv.0

攻撃力 0

防御力 0

魔法攻撃力 0

魔法防御力 0

敏捷性 0

運 0


[ジョブ]

上位複合職/魔符術士


[ギフト]

《神眼》


[パッシブスキル]


[アビリティ]


[所持カード]

〈水晶ホルダー〉

1枚

(N1枚)


〈魔素ホルダー〉

0枚


〈デッキケース〉

0枚

(N0枚、U0枚、R0枚、SR0枚、HR0枚、UR0枚、SSR0枚、魔素0枚)


====================

 

「え、ちょっと待って」


 なんかいろいろ変わってるんですけど。


 最初に目についたのは上位複合職の文字だ。

 

(これって父さんも授かったジョブだよな?)


 上位複合職を宣告される者はほとんどいないはず。

 それがなんで俺に……。


 次に気になったのは〈魔符術士〉っていう役職だ。

 これは初めて見る名前だった。


 こんなにいろいろと変わっちゃって……いったいどういうこと?

 

 続けてギフトの項目に目を向けると、《鷹の目》が《神眼》っていう能力に変わっていることに気づく。


「たしかギフトが覚醒したとか表示されてたよな」


 《神眼》。

 いったいどんなギフトなんだろう。


 ひょっとしてこの能力のおかげで相手の動きが分かったとか?

 

 そんなことを考えていると。


「やるじゃない」

「うわっ?」


 突然うしろから声をかけられる。

 そこにいたのはメイド衣装の女の子2人だ。


「君たち逃げたんじゃなかったの?」

「さすがに助けてもらったのにあなたを置いて逃げるわけにはいかないわ」

「安全な場所に下がって戦況を見守っていたんです。本当にありがとうございました♪」


 ピンク髪の女の子がぺこりと頭を下げる。


「私からも礼を言わせて。ヤバいところだったからあなたが現れてくれて助かったわ」


 そう言ってツインテールの女の子が手を差し出してくる。


「私はルーシィよ。こっちは双子の妹のリズ。よろしくね」

「わざわざありがとう。俺はアルディン。レネギスから来たんだ」

「アルディン様ですね。とても素晴らしいお名前です~」


 ピンク髪の女の子――リズが手を握ってくる。

 どうやら彼女たちは俺のことを命の恩人と思ってくれてるみたいだ。


「それで2人はどうしてこんなところにいたの? 護衛役がどうとかって聞えてきたけど」

「はい。私たちはあの方たちに護衛役をお願いしてたんです」

「いつもそうなのよ。レネギスへ買い出しに行く際は念のために護衛をつけてるの。盗人に襲われることもあるから」

「でも、まさか雇った側に襲われちゃうなんて……正直驚きました」


 どうやら2人はこの近くの屋敷に住んでいるらしく、週に一度レネギスへ買い出しに出かけているらしい。


(けっこう大胆な格好してるからね)


 メイド衣装のスカートは際どいくらいに短い。

 胸元も大きく開いてて、純白の谷間が覗けてしまっていた。


(てか、かなりエロい服だよな)

 

 それでいて姉妹揃って巨乳ときてる。

 2人ともとびっきりの美少女で、なおかつグラマーなこの体つき。


 きっとべつの意味でも護衛役は必要なんだろう。


「レネギスの冒険者ギルドを通じて依頼したからすっかり安心しちゃってたわ。もっと雇う人間をちゃんと見ておけばよかった」

「ううん。お姉ちゃんのせいじゃないよ~。まさか裏切られるなんて思わないし」

「ギルドを通じての依頼だったんだ。同じギルド出身として恥ずかしいよ。俺からも謝らせてくれ」


 深く頭を下げると慌てたようにリズが止める。


「はわわぁ~! アルディン様はぜんぜん関係ないですよぉ~! 顔を上げてください~!」

「いやでも……」

「そうよ。あなたはまったく関係ないわ。むしろ助けてもらったんだし。こっちが頭を下げるべきね」

「うんうんっ! 本当に助けていただきありがとうございました!」


 となぜか3人でお辞儀をしてしまう。


「にしても……アルディン。あなた本当に強いのね。冒険者って言われて納得だわ」

「人数的にも不利な状況のはずでしたのにほんとすごいですよ、アルディン様♪」

「あんな風に助けに入るなんてふつうできないわよ」

「俺はただ父さんの教えを守って行動しただけだから」

「お父様ですか?」

「うん。『困っている人がいたら必ず助けるように』って。ずっとそう教えられてきたんだ」

「へぇ、そうだったのね。きっとものすごく立派な方なんでしょうね」

「父さんも俺と同じ冒険者なんだ。でもある日、クエストに出かけたっきり帰って来なくて」

「え?」


 そこでルーシィとリズは顔を見合わせる。


「それっていつのことですか?」

「俺が11歳の頃だから……もう5年前になるかな」

「5年前……」

「ギルド職員の人は、ダンジョンで冒険者が命を落とすのはよくあることだって取り合ってくれなかったけど。父さんがクエストに失敗して命を落としたとはどうしても思えないんだ」

「あなたのお父様って強いの?」

「そりゃもちろん。Sランク冒険者だったから」

「お姉ちゃん……」


 ルーシィとリズが何やら声をひそめて話し始める。

 

 なんだろう?

 何か気になることでもあるのかな。


 俺がそんな風に考えているとルーシィが真剣な表情で口にする。


「アルディン。ちょっとあなたに見てもらいたいものがあるの」

「見てもらいたいもの?」

「ひょっとしたら、あれはあなたのお父様と何か関係があるのかもしれないわ」

「え?」


 ずいぶんと意味深な言葉だ。


(父さんと関係があるものを知ってるってこと? どういうことだろう?)


「見に行くのはいいけどどこに行くの?」

「私たちの屋敷になります。ここから歩いて30分もかからない距離にあります」

「それにお礼もかねて料理もご馳走したいわ。どうかしら?」

「うん。特にこれといって予定もないし。2人がいいなら俺はぜんぜんオッケーだよ」

「ありがとうアルディン。こっちよ。案内するからついて来て」


 こうして俺はなりゆきでメイドの女の子たちと屋敷へ向かうことになった。

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