第34話 魔王と対峙する
俺はすぐにザネリのもとへと駆け寄る。
体はぐちゃぐちゃに引き裂かれてもはや原型を留めていない。
辺りは一面血の海だ。
念のため【UR完全超魔水】のカードを使ってみるもまるで効果はなかった。
「無駄でーす。その者はすでに死んでいまーす。余が【地獄門の棍棒】をお見舞いーしたのです。この攻撃を受けーて生きていた者はいーませんよ」
その場にザネリの亡骸をゆっくり置くと目の前の男を見る。
「あんたが魔王?」
「いかにーも」
「……」
「フフフ。震えて声も出なーいようですね」
《神眼》を使おうとするも未来を視ることができない。
どうやら氷剣竜ミラジェネシスの時と同じようにはいかないみたいだ。
「アルディン気をつけて! そいつ只者じゃないわ……」
「ご主人様っ!」
「俺は大丈夫だよ。2人は安全な場所まで下がってくれ」
サークルはいとも簡単に魔王の手によって破壊されてしまっていた。
(【R聖なるバリア-ミラーサークレット-】の効果を破って入り込んできたのか。なんてヤツだ)
ひとまず〈武具カード〉を2枚発現させて即座に装備する。
◇◇
【URニーベルングの聖槍】
[レア度] ★★★★★★★★★★(10)
[カテゴリ]武具カード
[タイプ]永続
[効果]遠国の寓話に登場する戦姫が扱った聖なる槍。攻撃力+6500、守備力+800、敏捷性+600、運+2500。
◇◇
◇◇
【UR蒼炎星崩しの盾】
[レア度] ★★★★★★★★★★★(10)
[カテゴリ]武具カード
[タイプ]永続
[効果]星の重みを宿し守備力と敏捷性を極限まで追及した盾。攻撃力+0、守備力+5600、敏捷性+4500、運+0。
◇◇
一方の魔王はというと【地獄門の棍棒】を握り締めつつ、ザネリの血をすすりながら口元をつりあげた。
「ようやく完全体となるこーとができましーた。長い間この時を待ってましたーよ。フフフ」
「どうしてザネリを殺した?」
俺はわずかながら怒りを覚える。
(ザネリが酷いことをしたのはたしかだけど。それでももとは友だちだ)
「その男はこーの異世界で一番強い怨念を持ってまーした。だから余の復活のたーめの犠牲となってもらいーました」
「どういう意味?」
「フフフ。特別に教えーて差し上げましょう。余が完全な肉体を手に入れーるためには、強い怨念を持った者の血を浴びーる必要があったーのです。これまで様々な者の血で試してきーましたが上手くいきませーんでしてーね? 復活を前に最高の怨念で満ちーた血を浴びるこーとができてよかったです」
「つまり、あんたの欲望のためにザネリを殺したんだ」
「その者かーら力を求めてきたのーです。余はただ与えただけーです。血はそーの見返りに過ぎまーせん」
魔王の言っていることは半分以上分からなかったけど。
目の前の男が古文書に登場する『悪魔』だってことを俺は《神眼》を使って見抜いた。
(こいつがザネリに暗黒の力を与えたのか)
「そしーて余は運がーいい。ちょうど『宿命の器』が目の前にいまーす。わざわーざ探して出向く必要もなくなったわけーです」
「なんだって?」
「余がこのように完全体となったーのは……『宿命の器』。すべて貴方を闇に葬ーるためでーす。300年間この時を待ってーいました」
(どういうこと? 俺を倒すために300年間待ってた?)
「まさか氷剣竜を倒すとーは思っていませんでしーた。その点はさすーがと褒めまーしょう」
「ミラジェネシスを討伐したからあんたはまだ完全体になれなかったんじゃないの?」
「ほうほう。その話を知っていーるとは。妖精族から聞いたーのですね? そのとーりです。氷剣竜が倒されーたことで余の復活は遅れざーるを得なくなりーました。だからこそこの者の血を浴びるこーとができーた意味は大きいのでーす。氷剣竜の分、余に力を与えーてくれたわけですからーね。フフフ」
ミラジェネシスが倒されて一時的には弱体化したけどザネリの血を浴びたおかげでどうやら完全体となることができたってことらしい。
「これから鋼炎竜レッドアイズと超雷竜サンダードラゴンを倒す予定だったんだけどね」
「それも承知の上でーす。だからこうしーて予定を早めーて余は完全体となりました。二竜がいなくなってーは困るのでーね」
どうやら先手を打たれたようだ。
だけど。
俺は特に焦っていなかった。
むしろこっちも好都合だって言える。
わざわざ魔王からやって来てくれたわけだから。
(フェイとの約束を果たす手間が省けたよ)
「さてーと。話もこれくーらいにしましょう。そろそーろこの異世界を余のものとすーる時間でーす!」
不気味に微笑むヒトシュラ。
再度、《神眼》を使って相手のステータスを確認しようとするも。
(やっぱダメか。完全に封殺されてるな)
どうやら先が読めない中で戦うしかなさそうだ。
「貴方たーち人族はカードが無けーれば何もできーないことはすでに把握済みでーす。完全体となった余の力を初披露するこーとにしまーしょう。《地獄招来》!」
魔王が両手を挙げてそう唱えた瞬間、突如として辺りは暗黒に包まれた。
「な、なによこれ……?」
「ひぃ~~! お姉ちゃぁーんっ!」
ルーシィとリズはお互いに手を取り合って怯えている。
「フフフ。こーれで貴方はカードを使って余に攻撃を与えーることができなくーなりましーた。さてさて。どうやって余を倒すーかな? 『宿命の器』よ」
実はこの時。
俺は《神眼》を使ってある事実を確認していた。
(なるほど。あの種類のカードならヒトシュラ相手にもダメージを与えることができるみたいだな)
俺はふと回想する。
それは昨日の夜の出来事だった。
◆◆◆
夕食後。
国王との面会に備えて私室で準備をしていると部屋がノックされる。
「アルディン。今ちょっと話いいかしら?」
「どうしたの?」
「これからあなたもいろいろと忙しくなりそうだから。この機会にぜんぶ話しておこうと思ってね。ちょっとついて来てもらえる?」
(いったいなんだろう)
そう思いながら後について行くとルーシィはある一室の前で立ち止まった。
そこにはリズの姿もあった。
「ご主人様。わざわざありがとうございます」
「うん。それはいいんだけど……この部屋は?」
まだこの屋敷に移り住んでから一週間くらいしか経ってないからすべての部屋を把握してるわけじゃなかった。
「ここはね。地下室へと繋がってるの」
「へぇ。地下室なんてあったんだ」
「このドアには小さな結界が張ってあって無断で入ることができないんです。それで……地下室にはヴォルフ様が本当にコレクションされていたカードが保管されています」
「え? コレクション部屋ってあの部屋だけじゃなかったの?」
「あれはいわば替え玉の部屋なのよ」
「替え玉……」
「あのような部屋を作っておけば、もし盗人が侵入してきたとしても騙すことができますから」
「そうだったんだ」
(だから無防備にもあんな風にカードを展示してたのか)
万が一盗人が入った時。
あれだけのカードが展示してあればそっちに意識が向くってもんだ。
なかなか考えたなヴォルフさんは。
「ヴォルフ様にはね。新しい主様にはいずれこのことを話すようにって言われてたの」
「そっか。それを俺に見せてくれるんだね」
「はい。そうです」
そこで2人はそれぞれ【N重奏認証】のカードを取り出す。
「「アイテムカード発動――【N重奏認証】」」
前回と同じようにルーシィとリズが声を揃えてそう口にすると、扉前の結界が静かに消えた。
「私たちが先に行くわ」
2人が先頭を進む形で階段を降りていく。
俺もその後に続いた。




