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第32話 【ザネリSide】謎のローブ男と取引をしてしまう

「フフフ。なに怪しい者じゃあーりませんよ。余は貴方の敵ではありまーせん」


 その不気味なオーラを放つ男に一瞬圧倒されそうになるザネリ。


(なんだこいつ?)


 ギラギラとした赤黒い目と不健康そうな紫色の肌がローブ越しに覗けて見える。

 やせ型で背はザネリよりもひと回り高い。

 

 直感的に関わってはいけない相手だと思うも。

 なぜか得体の知れない魅力があってザネリは男の言葉に耳を傾けてしまう。


「……僕に何か用か?」

「いやなーに。力がほしいのではないかーと思いましてーね」

「力だって?」

「フフフ。打ち負かしーたい相手がいるのではないでーすか?」

「なぜそんなことが分かる?」

「貴方からは強い怨念の波動を感じーるのですよ。それに余は力を与えーることができるのでーす」

「力……」


 その言葉に一瞬反応する。

 邪悪な笑みを浮かべるローブの男を警戒するもどこかで彼の話を信じたいと思うザネリ。


「今一度問いまーす。力がほしいのではないでーすか?」

「……ああ。僕は……力がほしい……」

「フフフ、そうですか。でしたら授けーましょう。カードなどという幻想に頼らーずとも永劫に生きていけーる闇の力を!」

「!?」


 男がザネリの頭を掴んだ瞬間。

 黒い光がザネリの全身を包み込む。


「受け取るがいーいです! これが暗黒の力。今こそ貴方の中に眠る邪心を解放すーるのでーす――《黒闇闇の継承ブラックホール・バースデイ》!」

「ッ!? ぐぅあああああああああぁぁぁっ~~~!?」


 その場で跪き大声でザネリは絶叫する。

 

 が。


 しばらくして黒い光が収まると、ザネリは自身の奥底から無限の力が湧き出てくることに気づく。


 その額には赤黒い紋章が刻印されていた。


「……すごい! これが暗黒の力なのか……? 全身からパワーが漲ってくるようだ!」

「その力があれーば、貴方の望みは叶えられるでーしょう。フフフ」

「そうか……。僕は望みを叶えることができるんだね? はははは! よし今に見てろアルディン! 僕の誘いを断ったからにはそれ相当の報いを受けさせてやるぞ!」


 ザネリが高笑いを浮かべるその背後で。

 ローブ姿の男は笑みを浮かべながら消え去るのだった。




 ◆◆◆




 その日の深夜。

 ザネリはあっさりと屋敷へ忍び込むことに成功する。


 暗黒の力を得たザネリは壁をすり抜けることも空中に浮くこともできた。


(くくく。まさかこんな易々と侵入できるなんてね。すごいぞこの力は)


 それから真っ先にコレクションの部屋へと向かった。

 もちろんその目的はカードを破壊することだ。


「こんなカード……すべて粉々にぶち壊してやる! 暗黒の力よ! その力を主の前に示せ!」


 ザネリがカード全体に手をかざした瞬間。



 バギバギバギバギィィィィーーーーッ!!



 部屋に飾られていたカードはすべて粉々に吹き飛ばされてしまう。


「ひゃははっ! ざまぁみろアルディン! 僕の誘いを断った報いだよぉ! ハハハッ!」


 これまでカードやランクなんてものに踊らされていたのがバカらしいとザネリは思う。


(今なら領主どころかミハグサール王国――いや、世界を統べる王にまで僕はなれるに違いない!)


 ふたたび宙に浮かぶとザネリは両手を掲げた。


「まだまだこんなもんじゃ終わらせないよアルディン。そうだな。また大切なものを奪ってやろう! 泣きそうな顔をもう一度拝むとしようかぁ!」


 そのまま壁をすり抜けると、ザネリはルーシィとリズが眠る部屋を探し始めた。




 ◆◆◆




(いたいた。くくく。すやすやと気持ちよさそうに寝てるぞ)


 天井から壁をすり抜けて降り立つとザネリはルーシィとリズが眠るベッドへ静かに近寄る。

 2人は仲良く同じベッドで眠りについていた。


(この女どもを血祭りに上げれば僕の復讐も完成する。アルディン。君だけいい思いをさせるものか)


 これから殺されることも知らずに呑気なものだと思いながら、ゆっくりと2人に近づいていく。

 そこで物音に気づいたルーシィがハッと目を覚ました。


「!? あなたは……」

「おっと。目を覚ましてしまったようだねぇ」

「……んんぅっ……お姉……ちゃん……?」


 とここでリズも目を覚ます。

 すぐに部屋の異変に気づいたようだ。


「えっ? なんで領主様の息子さんが……」


 瞬時に姉妹はザネリの違和感を察知する。


「あれ……なんか違う……? 本当に領主様の息子さんですか?」

「よく見なさいリズ。この男の額……」

「額?」


 そこでリズはザネリの額に浮かび上がった紋章に気づいた。


「ヴォルフ様から聞いたことがあるわ。額に赤黒い紋章……。これは悪魔と契約を結んだ者の証だって」

「悪魔の紋章!? うそっ……」


 彼女たちのそんな会話に耳を傾けることもなく。

 ザネリは勝ちを確信したように高笑いを浮かべる。


「くくく! 今の僕は領主の息子なんてくだらない身分じゃないのさ! 僕はこの世界を統べる王になる男なんだからね! ひゃははっ!」

「あんたどうやってここまで入ったの?」

「そうです。【N活路への天秤】のカード効果で部外者は中へ入れないはずです」

「あぁーあれのことぉ? ハハハッ! カードなんてものに頼ってるから分からないんだよねぇ~。この暗黒の力のすごさが!!」

「お、お姉ちゃん……」


 身の危険を感じたのか、リズはベットからゆっくり後退る。

 ルーシィは妹を庇うように前へ身を乗り出していた。


「いったい何をするつもり?」

「面白い質問だ。くくく。またアルディンの大切なものを奪ってやろうと思ってね」

「アルディンですって……」

「だって君たち。アルディンのお気に入りなんだろぉ~? そういうの僕。だーーい嫌いだからさ! 奪って壊したくなるんだよねぇ。ヒャハハハ!」


 ザネリは闇のオーラを発しながら面白おかしそうに高笑いを浮かべる。

 その姿を見てルーシィとリズは彼がとんでもない力を手に入れてしまったことを悟った。


「リズ逃げて!」


 ルーシィが1人でザネリに体当たりを食らわせようとするも。


「おっと。妹だけ逃がそうとするなんて健気だねぇ」


 ザネリは簡単に避けてしまう。


「……っ、お姉ちゃんっ!」

「リズ……!」


 醜い笑みを浮かべながらさらに姉妹に近づいていくザネリ。


「君たちはアルディンのために犠牲となれ。これでご主人様への奉仕から解放されるわけだから僕に感謝して死んでほしいねぇ。暗黒の力よ! その力を主の前に示せ!」


 ザネリがそう唱えた瞬間。


「魔法カード発動インヴォーク――【SR秘奥義ギアスの計略】」


 どこからかともなくそんな声が響く。


(なに!?)


 その刹那。

 ザネリの体は一瞬のうちにして屋敷前の庭園へと飛ばされる。

 

 そして。


 目の前にアルディンの姿があることに気づくのだった。

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