第3話 女の子たちを助ける
レネギスを出てからしばらく草原を歩く。
辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
「今日は野宿かな」
基本的にモンスターはダンジョンの中にしか現れないからこのまま歩き続けて村へ向かってもいいんだけど。
出現しない可能性はゼロじゃない。
稀にスタンピードを起こしてダンジョンからモンスターが溢れ出てきて人を襲うことだってある。
だから冒険者ギルドは冒険者にモンスター討伐を依頼してたりするわけだ。
(それに俺、カードぜんぜん持ってないし)
これまで見つけたカードはリーダーであるザネリにほとんど渡してた。
ちなみに今俺が持っているのは【Nシーホースの麟粉】と【N水滴石穿】っていうカードの2枚だけ。
◇◇
【N水滴石穿】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]永続
[効果]小さな勇気を積み重ねることでやがて大きな勇気に繋がるというおまじないのカード。
◇◇
ちなみに【N水滴石穿】は【HR英雄王の鎧】と同じで父さんから受け継いだものだ。
特にこれといった効果もないカードなんだけど、父さんも両親から受け継いだものらしい。
お守りの代わりに持っておけって言われて渡されたっけ。
「ステータスオープン」
目の前に光のウィンドウを表示させると一度自分のステータスを確認してみた。
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【アルディン=ギルバート】
種族:人族 年齢:16歳
ランク:F
Lv.0
攻撃力 0
防御力 0
魔法攻撃力 0
魔法防御力 0
敏捷性 0
運 0
[職業]
普通職
[才能]
《鷹の目》
[パッシブスキル]
[アビリティ]
[所持カード]
〈水晶ホルダー〉
2枚
(N2枚)
〈魔素ホルダー〉
0枚
〈デッキケース〉
0枚
(N0枚、U0枚、R0枚、SR0枚、HR0枚、UR0枚、SSR0枚、魔素0枚)
====================
特にこれといった変化はない。
ふだんと変わらない見慣れたステータスだ。
こんな最弱なステータスでモンスターに襲われたら目も当てられない。
まぁべつに急いでるわけでもないからいっか。
「さてと……。この辺りでキャンプでもしようかな」
念のために《鷹の目》を使って周囲にモンスターが潜んでいないのを確認すると、俺は魔法ポーチの中からテントを取り出した。
この魔法ポーチは便利な代物で異次元空間と繋がってるから荷物を入れて運ぶことができたりする。
「ふふーん♪」
こんな風に1人で野宿するのは初めての経験だ。
これまではずっとザネリやナタリアと一緒だったけど、こういうのも新鮮で悪くないかな。
鼻歌混じりにテントを組み立てていると。
「……ん?」
どこか遠くの方から叫び声のようなものが聞えてくる。
(女の子の声?)
それも一つじゃない。
何か言い争いをするような声が折り重なるようにして聞えてきた。
(何かあったのかもしれない)
俺は無意識のうちに声のする方へと走っていた。
◆◆◆
月明りが照らす大樹の下でうごめく複数の影が見える。
さっと近くの茂みに隠れると、俺は《鷹の目》を使ってその方を覗き見た。
「いったいどういうつもり?」
「だから有り金すべてよこせって言ってんだよ」
「あんたら、私たちの護衛役として雇われたってこと忘れたの? 自分たちが今何してるか分かってるんでしょうね? ギルド規定違反よこれは」
「お、お姉ちゃんっ……」
どうやら揉めごとのようだ。
野蛮な男どもに女の子2人が囲まれて何か言い争いをしている。
女の子たちはメイド衣装を着ていた。
1人は派手な金髪のツインテールで、もう1人は鮮やかなピンク色のセミロングヘアが特徴的だ。
遠目に見ても、2人ともびっくりするくらいの美少女だってすぐに分かった。
ツインテールの女の子が先頭に立って話をしている。
お姉ちゃんって言葉が聞こえたし、ひょっとするとあの子が姉なのかもしれない。
「ハッ。んなの知ったことじゃねぇ。ここで大金が手に入りゃ冒険者稼業を続ける意味もねーからな」
「ヘヘヘ。ちまちまとクエストこなして稼ぐのがバカらしくなったぜ」
「あんな豪邸に住んでいるくらいッス。一生遊んで暮らせるほどの金持ってるに違いないッスよ」
「ど、どうしようぉ……」
「リズは下がってなさい」
男どもは3人か。
全員が筋肉ムキムキのマッチョだ。
相手が冒険者なのは体格を見れば一発で分かった。
あんな風に女の子を囲って暴言吐くなんて男として許せない。
「アニキ。強引に奪ってやりましょうぜ」
「そうッス。こんな時間にこんなところ通るヤツなんていないッスよ」
「おうおう! そのつもりよ。何もできないメイドの分際で調子に乗りやがって……この女ども!」
「きゃっ」
「リズっ!」
男の1人がピンク髪の女の子の手を掴むのがはっきりと確認できた。
もうこんなところで様子を見てる必要なんてない。
すぐに助けないと!
『いいかアルディン。どんなときも大切なのは勇気だ。困っている人がいたら絶対に助けるんだぞ。見逃しちゃいけない。その目できちんと見るんだ』
俺は幼い頃から父さんにそうやって教えられてきた。
たとえどんなに弱くたって、大切なのは勇気なんだ。
女の子たちが逃げる時間くらい俺にだって稼げるはず。
近くに落ちていた木片を拾うと、とっさに物影から飛び出した。
「やめろおぉぉぉぉーーー!!」
「な、なんだ……?」
「アニキ! 男が走ってきますぜ」
「まさか仲間ッスか?」
木片を男3人に向けて投げつけると俺はすぐに女の子たちの前に立った。
「俺が時間を稼ぐから。君たちは今のうちに逃げて」
「えっ、でも……」
「早く!」
「わ、分かったわ! 誰だか知らないけどお言葉に甘えさせてもらうわ。リズ、行くわよ!」
「お姉ちゃんっ!?」
メイド服の女の子2人が走っていくのを確認すると俺は前に向き直った。
「おいおい。ふざけんなよてめえ。誰だ」
「女の子に手を出すなんて卑怯じゃないか」
「んだと?」
「彼女たちに用があるなら俺が相手になる」
リーダー格の男の横で、子分の男が素早く水晶ホルダーを展開させる。
そのうちの1個に手をかざすと1枚のカードが宙に浮かび上がった。
「アイテムカード発動――【R強引な検問】!」
◇◇
【R強引な検問】
[レア度] ★★★★★(5)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]インスタント
[効果]対象を決闘者にして使用することができる。相手のステータスを確認する。
◇◇
「アニキ。こいつFランクでっせ」
「しかもレベル0じゃないッスか? ぷぷぷ」
「ほぉ~。最弱のFランクの分際でオレサマにケンカ売るとはいい度胸じゃねーか! 正義のヒーロー気取りかぁ? オレサマはな、邪魔されるのが一番嫌いなんだよ。ぶっ殺してやる」
リーダー格の男が大声で唱える。
「スタンバイフェイズ! カード解放!」
目の前に展開した5個の水晶ホルダーから1個を選んで手を当てると、カードが宙に浮かび上がった。
「武具カード発動――【SR大鷲の鉄斧】!」
◇◇
【SR大鷲の鉄斧】
[レア度] ★★★★★★(6)
[カテゴリ]武具カード
[タイプ]永続
[効果]古代より伝わる山賊直伝の大斧。攻撃力+2900、守備力+1700、敏捷性+300、運+200。
◇◇
カードはすぐに形を変えて武器に生まれ変わる。
それを手にしてリーダー格の男はにやりと笑った。
「FランクならNカード以外使うことができねぇからな。雑魚がかっこつけて調子に乗るとどうなるか、痛い目に遭わせてやる!」
ヘラヘラと笑いながら男どこもが近寄ってくる。
(SRカードが発動できるってことは……相手はCランク以上か)
実力的にも人数的にもこっちが劣ってるのは間違いない。
だけど俺は逃げなかった。
(俺はどうなってもいい。あの子たちが遠くへ逃げるまで少しでも時間を稼ぐんだ)
両手を大きく広げると男3人の前に立ち塞がる。
「アニキ。こいつの顔引き攣ってますぜ~」
「オイラたちの邪魔をするからこうなるッスよ」
「今さら後悔しても遅せーんだよ雑魚が! 死ねぇぇぇぇーーーー!!」
相手が振り抜く斧がものすごい勢いで飛んでくる。
その刃が俺の体を抉ろうとしたちょうどそのタイミングで。
シュルリィィィーーーーン!!!
突然、煌びやかな光とともに俺の目の前に水晶ホルダーがずらっと展開された。
「うおっ!? なんでっせ!?」
「ひゃあぁ~~! 眩しいッスぅ~~!」
「ぐっ……な、何しやがった……!?」
そして。
その中から1枚のカードが眩い輝きをもって浮かび上がる。
(発動させていないのに。なんで勝手に……)
それは父さんから受け継いだ【N水滴石穿】のカードだった。




