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第29話 【ザネリSide】無能リーダーは焦りはじめる

 翌日。

 ザネリはアルディンの居場所を掴むため、レネギスの冒険者ギルドへ行って職員に話を聞くことに。


 先にアパートを訪ねてみるもすでに退去済みだったからだ。


(ギルドで話を聞けば分かることさ。どうせ金のないあいつのことだ。格安のボロアパートにでも移り住んで、惨めにどこかのパーティーでこき使われてるに違いない)


「あぁ坊ちゃん。お疲れ様です」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はい。なんでしょうか?」


 ギルド職員の男がカウンターに出てくる。


「ちょっと前まで僕とパーティーを組んでた男のことを覚えているかい?」

「ええ。あの冴えない感じの」

「そいつが今どのパーティーに入ってるか分かるか?」

「そういえば……ここ最近顔を見てない気がしますねぇ。まぁあんな感じの冴えない顔ですし。気づかなかっただけかもしれませんがね。ははは」


 レネギスの冒険者ギルドは規模が大きいためその分出入りが激しい。

 ザネリ自身も気づかないうちにすれ違っている可能性があった。


「たしかギルドカードから調べることができただろう?」

「すみません坊ちゃん。ギルドカードを勝手に検索することはギルド協会の規定で禁止されてまして。ギルマスからもきつく注意されているんですよ……へへ」

「なんだと? 僕はいずれこの街の領主となる男だぞ。僕の言うことが聞けないっていうのか」

「い、いえ……! すみませんっ! すぐにお調べいたしますっ……!」


(まったく。次期領主様に対する態度じゃないぞ。僕が領主になったら一からギルド職員を教育し直さなくちゃいけない)


 そんなことを考えながら、ザネリがしばらく待っていると。

 職員の男が慌てながらカウンターから姿を現す。


「お、お待たせました坊ちゃん! 大変なことが分かりましたっ!」

「どうした?」

「そ、それが……」

「分かったから。落ち着いて話すんだ」

「は、はい……。アルディンは今ファルナイツにある冒険者ギルドに登録を移してるようでして……」

「なに? ファルナイツ?」


 ファルナイツはレネギスからほど近い距離にある隣領の田舎街だ。

 

(たしかにファルナイツならここからも近い。アパートを引き払ってそんな田舎に逃げたのか、あいつは)


「……は、はい……。それでここからが驚きなのですが……」


 職員の男は声をひそめると周りを気にしつつこう続ける。


「なんでもファルナイツのギルドで彼は筆頭冒険者として登録されているようでして……」

「! なんだって!?」


 筆頭冒険者とはそのギルドの顔となった者にのみ許される称号でほとんどがAランク以上の冒険者である。


(Fランクだったあいつが筆頭冒険者? あり得ないっ!)


 どうせ何かズルをしたに違いないとザネリは決めつける。


「ヤツの住所はどこに登録されてる? 僕が直接行って確かめてやる」

「す、すぐにお調べいたします……!」


 その後、ザネリはアルディンの住所を手に入れるのだった。




 ◆◆◆



 

 どうやらアルディンはファルナイツへ移り住んだわけではないらしく、依然としてバイエフォン領内で暮らしているようだ。


(本当にこんなところに住んでいるのか?)


 職員の男の情報を頼りにやって来たのは見るからに金持ちが暮らしている豪邸だった。

 その豪華絢爛な建造物を見上げてザネリは驚く。


(なんだよここ……。父上の邸宅よりも大きいぞ……)


 あの小さなボロアパートで貧乏たらしく暮らしていたアルディンが、たった一週間ばかりのうちにこんな大きな屋敷に移り込んでいたことに驚きが隠せないザネリ。


「信じられない。どうしてあいつが」


 手入れの行き届いた美しい庭園を通りすぎ、玄関までやって来るとザネリはひとまずチャイムを鳴らした。

 すると、中からメイド衣装の美少女が姿を現す。


「はーい」

「君。ちょっといいかな」

「どちら様でしょうか?」

「僕はバイエフォン領次期領主のザネリ=バイエフォンだ。父上の名はもちろんご存じだよね?」

「え……。領主様の息子さんですか?」


 リズが驚いていると「どうしたの?」と奥からルーシィがやって来る。


「お姉ちゃん~! 領主様の息子さんがお越しになられて……」

「え?」


 ここでルーシィはすぐに警戒の目でザネリを見る。


「領主様の息子さんがうちの屋敷にいったいなんの用かしら?」

「友人に会いに来てね。ここでアルディンって男が暮らしてるはずなんだけど」


 どうせ身寄りのない金持ちの老人にでも泣きついて居候させてもらっているのだろうと思うザネリだったが、予想外の言葉が返ってくる。


「あー。ご主人様にご用でしたか~」

「ご、ご主人様……?」

「そういうことならアルディンは今留守よ」

「はい。今は王都へ行かれてますよ~。国王様と面会しに行ったんです♪」

「陛下との面会だって……!? それは本当なのか!?」

「ええそうよ。もうすぐ帰って来ると思うけど」


(僕だって陛下との面会はおろかまだ直接話したこともないのに……。あんなヤツが面会だなんて……あり得ないぞ!)


 だが、ザネリが何度確かめてみても2人の口調に変わりはなかった。

 嘘をついている様子もない。


「どういう用件で国王とお会いになってるのか、詳しくは私たちも分かってないのよ」

「中でお待ちいだだくこともできますよ? いかがしましょうか?」

「あ、あぁ……。そうだね。せっかくだから上がらせてもらうよ……」


 どこか焦燥感を抱きながらザネリは屋敷の中へと招かれるのだった。




 ◆◆◆




(なんて広い屋敷だ……)


 辺りを物珍しそうに見渡しながらザネリはルーシィとリズの後についていく。


(認められた者以外は結界で中へ入れないなんて。かなり厳重に管理されてるな)


 前を歩くリズにザネリは訊ねる。


「君。さっきアルディンのことをご主人様と言ったかい?」

「はい。アルディン様はこの屋敷の主様ですから♪」

「な……なんだって?」

「ここは元々ヴォルフ=ローレンス様の屋敷だったんだけどね。いろいろあって今はアルディンが主なのよ」

「ヴォルフ=ローレンス……?」


 その名前ならザネリも父親から聞いたことがあった。


(たしかカード1枚でものすごい財産を築いた老人だったか)


 けれど、どうして今はアルディンが主をやっているのかそれが分からない。


(いったいどういうことなんだ?)


 疑問に思いながら廊下を歩いていると3人はある一室の前を通過する。


「この部屋は? どうしてこんなにカードが」

「ここはアルディンが拾ってきたカードを展示してるの」

「元々はヴォルフ様のコレクション部屋だったんですけど。ご主人様はその意志を継いで今もこうしてさまざまなカードを飾られてるんです。うふふ、律儀な御方ですよね~♪」


 そこには多種多様なカードが飾られていた。


(これをあいつが全部集めたっていうのか?)


 そのほとんどがUR以上の激レアカードだ。


 以前は1日に1枚Nカードが見つけられるかどうかという感じだったのに。

 いったいどうして……とザネリの疑問は尽きない。


(やっぱり絶対何かズルをしているんだ。そうに違いない!)


 だがこれでアルディンが利用できるということをザネリは再認識する。


(なんとしても引き入れてやる……)


 そんなことを考えながらザネリは大きな客間へと通されるのだった。

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