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第28話 【ザネリSide】仲間割れ

 その頃。

 ザネリは予想に反して〈魔素カード〉集めに苦労していた。


 カード発見役として新たな仲間を雇うもまるで話にならず、すぐクビにしてしまう。


(あいつがいとも簡単に見つけてたから簡単だと思ってたのに……くそ)


 こんなにも見つからないものなのかと、ザネリは今さらながらアルディンの重要さに気づく。


 〈魔素カード〉が思うように集まらないため、日に日にザネリのレベルはダウンしていた。

 Bランクだったザネリはあっという間にCランクへとランクダウンしてしまう。


 一応領主である父親は大量の〈魔素カード〉を所有しているわけだが。

 〈魔素カード〉がほしいと頼み込めば叱られるに違いないと思い、ザネリはそれができない。


(僕の力でなんとかしないと……)


 一方でナタリアはというと、アルディンが抜けた途端にザネリの自力の無さが露呈し、愛想を尽かし始めていた。


 些細なことで口喧嘩する機会も増え、今ザネリとナタリアの関係は最悪に。




 ◆◆◆




 ここはトランシル閃洞というダンジョンの最下層。


「ねぇザネリ君。私疲れたよ。私にだけ宝箱を探させるのは違くない? 少しは自分でも見つけられるように努力したらどうなの?」

「なんだって?」

「カードを見つけるのだってそうだよ。ここのところずっと私に任せっきりじゃん」

「僕はモンスターとの戦闘で疲れてるんだ。誰のおかげでこれまで報酬が貰えてたと思ってるんだい」


 カード集めだけでなくダンジョンの攻略も思うように進まず、ナタリアのイライラはピークに達していた。


「はぁ……。ザネリ君と付き合えば将来は領主のお嫁さんになって楽できるって思ったのに。苦労しっぱなしだよ。あーあ。こんなことならアルディン君を追い出すなんて真似しなきゃよかったよ……」

「今さらそんなこと言うのか? 君だって賛成したはずだろ」

「私はザネリ君がもっときちんとしてるって思ったから。なのにぜんぜん。今はCランクになっちゃったわけでしょ? いつになったら領主になれるの? もうほんとがっかりだよ」

「そんなこと思ってたとか最低だな、君は。君の顔なんかもう見たくない」

「私もザネリ君の顔なんかもう見たくないよ。ぜんぜんイケメンじゃないし、領主の息子ってだけでこれまで付き合ってただけで……もう限界!」

「それが本性ってわけか」


 そこでザネリはぴたりと足を止める。


「君とはここでお別れだ」

「は……?」


 ここはダンジョンの中だ。

 モンスターがうじゃうじゃいるためナタリア1人では帰れない。


「それが恋人に向かって言うセリフっ?」

「君なんか恋人でもなんでもない。うぬぼれるな」

「ひ、ひどい……! ふざけないでよ! こんなところに私を置いていくの?」

「そうだとも。僕のランクの心配をしてくれるなら君の持ってるカードをぜんぶここに置いていくといいよ」

「なんて……?」

「それを〈魔素カード〉に変換すればちょっとはレベルダウンが防げるからね」

「待ってよ! こんなところでカードまで奪われたら……私本当に戻れないよ!」

「知ったことか! アイテムカード発動インヴォーク――【SRサウロマタイの鎖使い】!」


 ここでザネリはナタリアのカードをすべて奪い取ってしまう。


「いやあああああぁぁぁっ!」

「モンスターに喰われてこのダンジョンで野垂れ死ぬといいよ。さよならクソ女」


 捨てセリフを言い残してザネリはその場を後にする。

 最後にはナタリアの悲鳴が木霊するのだった。




 ◆◆◆




 なんとか1人でダンジョンを抜け出すことに成功したザネリはレネギスへと戻りながら考えていた。


(くそ……。これからどうすればいい?)


 プライドの高いザネリにとってほかのパーティーに入るという選択肢はない。

 かといって領主の息子であることを嫌がってか、自分とパーティーを組みたがる者がいないことにザネリは気づいていた。


(もとはと言えば、あいつをパーティーから追い出してからいろいろとおかしくなったんだ。僕の判断が間違っていたっていうのか?)


 ここでザネリは回想する。


(ずっとあいつが嫌いだったんだ)


 昔からなんでもそつなくこなすアルディンの存在がザネリには邪魔で仕方がなかった。

 それを鼻にかけるわけでもなく、皆の輪に加わっていることも気に入らなかった。


 自分は領主の息子で尊敬されるべき立場なのに。

 王立学院のクラスでいつも注目を浴びていたのはアルディンだ。


 面目を潰された気分だったのだ。


 だから、いつか立場が違うことを分からせるために卒業後はあえてアルディンをパーティーに誘った。


(あいつが【HR英雄王の鎧】なんてレアカード持ってるのも気に入らなかった)


 ナタリアをパーティーに誘ったのだって算段のうちだ。


 恋人同士になったのだってそう。

 アルディンがナタリアに好意を寄せているのを知っていたから。

 

 そもそもザネリにはナタリアに対する愛情はなかった。


(そうだ。僕にはもっとふさわしい相手がいる。王女と結婚していずれミハグサールの王となる男だ。僕は)


 そのためには今はなんとしても領主となって、王女に相応しい男であると国王に認められる必要があった。

 今は自分のプライドに構っている暇はないとザネリは思う。


(あいつのことは心底嫌だけど。また頼むしかない)


 あの男は単純でお人好しだからこっちが戻って来てほしいと頭を下げれば戻ってくるに違いないとザネリはほくそ笑む。


(Aランクとなって父上に領主と認められた後はまた同じように斬り捨てればいいさ。僕の輝かしい未来のための踏み台となれ、アルディン)

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