第19話 巨大水晶をぶっ壊してしまう
「キャルさん。ちょっと気になることがあるんですけど訊いてもいいですか?」
「どうしたんだにゃん?」
「あの張り紙に張り出されてるクエストって今募集中のものですよね?」
「そうにゃん。今日は『セカンド』のクエストが珍しく張り出されたんだにゃん♪」
「じゃあ、あの☆が10個ある『ノーフューチャー』ってクエストは……」
「『ノーフューチャー』? いったいお兄さんは何を言ってるんだにゃん? 今張り出されてるクエストは『セカンド』が最高難易度なんだにゃん。そもそも☆が10個なんて難易度は用意されてないにゃん?」
キャルさんはきょとんとした表情だ。
ほかのギルド職員の女の子も不思議そうに首を傾げる。
(あれ? ひょっとして職員の人には知らされてないのかな)
そんな風に戸惑っていると。
「ちょっと待ってくれ」
カウンターの奥から白銀ストレートヘアの美人が現れる。
年齢は20代前半といったところだろうか。
間違いなく俺よりも年上だ。
背筋もぴしっとしていて身長は男の俺よりも高い。
それに女の人はなかなか奇抜な恰好をしていた。
正面は白を基調とした無骨な鎧を身につけているけど、背中は無防備に肌が広く露出してしまっている。
(いったいどういう服装なんだ?)
「ギルドマスター! お疲れさまですにゃん!」
「うん。君たち今日もいい挨拶だ」
美人の女性を見るキャルさんたち職員の目はキラキラとしている。
憧れそのものだ。
館内の冒険者たちも尊敬するように視線を送っていた。
(この人がギルマス?)
ギルドマスターといえばマッチョな大男が務めているものだとばかり思ってたから正直驚きだった。
なんか妖艶なオーラが全身から発せられていて大人の色気ムンムンって感じだ。
ギルマスの女性は俺の前に立つとこんなことを訊ねてくる。
「キミ。あの張り紙に『ノーフューチャー』が張ってあるって今そう言ったかい?」
「はい。あれって今も募集中のクエストなんですか?」
「なるほどね……そうか。ついに現れたんだ」
「え?」
ギルマスの女性はこっちの戸惑いも気にせずといった様子でマイペースに話を進める。
「私の名前はシエラ。この館でギルドマスターを務めているよ」
「アルディンです。バイエフォン領からやって来ました」
「バイエフォン領? どうりで見ない顔だと思ったよ。今日はどうしてうちのギルドへ来たのかな」
「〈魔素カード〉を換金しに来たんです。元々はレネギスのギルドに登録してたんですけど」
「ふむ。わざわざうちのギルドまで〈魔素カード〉を換金しに来たと。いろいろと事情があるようだね。まあいい。深くはつっこまないよ」
そこでシエラさんは亜空間魔素ホールド装置に目を向ける。
「どれくらいの〈魔素カード〉が入ったんだい?」
「すごいんだにゃん! お兄さんが200枚近い〈魔素カード〉を持ってきたんだにゃん~♪」
「200枚だって? それは本当かい?」
「うちの近くの土地で拾ったんです」
「まさかこの量を1人で拾ったわけじゃないよね?」
「相棒に手伝ってもらいました。昨日一日がかりで……おっ、戻って来たな。おかえり」
「すら!」
シエラさんは姿を見せたスラまるを見て目を丸くさせる。
「こいつは……召喚獣じゃないか」
「スラまるっていうんです」
「すらぁ~!」
「すごいねキミは。召喚獣を連れてギルドへやって来た冒険者なんて初めて見たよ。たった一日でそんな大量の〈魔素カード〉を。それも召喚獣と一緒に……か」
そこでシエラさんはふと柔らかな笑みをこぼした。
「ふふ、なるほどね。俄然キミに興味が出てきたよ」
「?」
「ちょっと来てもらってもいいかい? 水晶を使って君のステータスを計りたいんだ」
「俺のステータスですか?」
「君たち。巨大水晶の準備をお願いできるか?」
「巨大水晶? でもお兄さんはFランクなんだにゃん」
「Fランク……? そうなのかい?」
「はい。だから計っても意味ないと思うんですけど」
巨大水晶の存在自体は俺も知ってる。
ギルドが冒険者をSランク認定する際に使用するもので、ほとんど使う機会もなかったはず。
実際に計測するのも、巨大水晶を見るのも初めてのことだった。
「そうか。なおさらキミのステータスを計ってみたくなったよ」
「えぇ……」
「とりあえず準備の方はよろしくね」
「わ、分かったにゃん……!」
キャルさんたちがせわしなく準備を始める。
俺はそれを呆気にとられながら見守るのだった。
◆◆◆
しばらくして準備が整ったようだ。
「さてアルディン君。これに触れてみてもらってもいいかな?」
「分かりました」
〈魔素カード〉を換金したらすぐに帰るつもりだったけど。
ここまで言われたらさすがに帰るわけにもいかず。
それに『ノーフューチャー』ってクエストが正直気になっていた。
ゆっくりと巨大水晶に手をかざすと水晶は暖かな光を放ちながら発光する。
しかし次の瞬間。
バリィバリィバリィバリィ~~~~~!!
大きな音を立てて巨大水晶は壊れてしまう。
「「「ええええええええぇぇっ!?」」」
声を上げてキャルさんたちギルド職員が大きく驚く。
その場にいた冒険者たちも何事かといった様子で集まり始めた。
「水晶が壊れただって? 信じられないよ……」
この結果にはシエラさんも驚きを隠せないようだ。
Sランクの冒険者が計測して、ごく稀に小さなヒビが入ることはあるみたいだけど。
水晶がぶっ壊れたなんて話は俺もこれまで聞いたことがない。
「キミ……本当にFランクなんだよね?」
「そのはずなんですけど」
騒然とする館内で俺も何が起ったのか分からなかった。
(ひょっとして今朝『アビリティ』を上げまくったせいか?)
にしても俺のレベルは0なわけで。
水晶が割れるような要因はないはずなんだけどな。
「けど、これで確信が持てたよ。言い伝えは本当だったんだって」
「あの……俺を誰かと勘違いしてないですかね?」
「ううん。キミで間違いないよ。詳しいことを話したいからちょっと奥の部屋まで来てもらってもいいかい?」
「まぁ、いいですけど……」
乗りかかった船だと思い、俺とスラまるはシエラさんのあとについて行くことに。




