第16話 《神眼》で試験を簡単にクリアする
書庫にはほこりの匂いが充満していた。
ルーシィとリズが常に手入れをしてるってことだけど、それでもこの匂いは染み付いてしまっているらしい。
見るとミハグサール王国五領の歴史が書かれた書物がぎっしりと棚に保管されていた。
ミハグサール王国だけじゃなくてオルブス帝国やトゥーン自由市国についての書物も散見される。
「世界中を旅してカードを見つけたって言ってたし。ヴォルフさんは相当な勉強家だったんだろうな」
「すら!」
よーし。
さっさと終わらせちゃおう。
「スタンバイフェイズ。カード解放」
お決まりのセリフを口にすると、輝く長方形の水晶ホルダーが横並びでずらっと展開される。
その中の2個に手をかざすと2枚のカードが輝き始めた。
「アイテムカード発動――【N豪腕動力】。続けて魔法カード発動――【N速読の奇術師】」
◇◇
【N豪腕動力】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]インスタント
[効果]近くに存在する複数の物体をある地点まで動かすことができる。
◇◇
◇◇
【N速読の奇術師】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]魔法カード
[タイプ]インスタント
[効果]書物を自動でめくる奇術を披露する。1秒間に100ページめくることが可能。
◇◇
カード効果で大量の書物をテーブルに置くと、それが自動でパラパラと見開かれてさっそく速読を開始する。
発動させるのはもちろん《神眼》だ。
「《神眼》――発動」
ここ数日で俺は自分の才能の使い方を完全に理解していた。
《神眼》は勝手に発動することもあるけど、自分の意思で発動させることもできるって気づいたのだ。
パラパラパラパラ~~!!
ものすごいスピードでめくられる書物に黄金色の瞳で目を通していく。
「すらぁ!?」
スラまるはそんな俺の姿にさすがに驚いた様子だ。
そして、5分もしないうちに山のように積み上がった書物にすべて目を通してしまう。
「たぶんこれで問題ないはずだ。行こうスラまる」
◆◆◆
玄関ホールに戻ると、ルーシィとリズは引き続き忙しそうにパタパタと掃除をしていた。
なんか自分だけ何もせずにいるのが心苦しく思えるけど。
何か手伝おうかって訊けばまた止められるんだろうなぁ。
「リズ。鍵ありがとう」
「あっ、ご主人様。もうよろしいのですか?」
「うん。役に立ったよ」
「まさかこんな短時間でぜんぶ記憶したの?」
ルーシィが驚いたように訊ねてくる。
「《神眼》に文字を記憶させたんだ。だから関所での試験も突破できるはずだよ」
「へぇ。そんな使い方もできるのね」
「まだ試してないから分からないけどね。でもたぶん大丈夫だと思う」
「すら!」
「まあアルディンがとんでもないってことはもう十分に分かってるから。あなたの言葉信じるわ」
「いつの間にかスラまるちゃんともすっかり仲良しですね~♪」
「もう親友だよ」
「すらぁ~」
「うふふ♪ スラまるちゃん~。何かあったらご主人様を守ってくださいね?」
「すら!」
ぴょんと飛び跳ねるスラまる。
その姿にリズはどこか嬉しそうだ。
「それじゃ行ってきまーす」
「ご主人様。お気をつけていってらっしゃいませ」
「夕食までには帰ってくるのよー」
そんな風にして2人に見送られる。
屋敷を出た途端、眩しい陽の光が迎え入れてくれた。
「なんかこういうの家族みたいでいいな」
「すら~」
「俺が兄でルーシィとリズが姉妹で。それでスラまる。お前はローレンス家の子供ってところだな」
「すらすら~!」
「家族っていいよなぁ」
これまでずっと1人で暮らしてきたから。
ちょっとだけ父さんと暮らしていた当時が懐かしく思えてくる。
ほんのちょっぴりと幸せを感じながら歩いていく。
冒険者ギルドへ向かうのにこんな穏やかな気持ちになるのは初めてのことだった。
◆◆◆
ファルナイツまでは歩くと結構な距離があるから馬車を使って移動することに。
昨日拾ったNカードの中に【N大道具『ニゲの馬車』】っていうちょうどいいカードがあったからそれを使おう。
◇◇
【N大道具『ニゲの馬車』】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]永続
[効果]馬車シリーズの中で一番足が遅いが坂路ではたしかな脚力を発揮する。
◇◇
一番足が遅いみたいだけど使わないよりはマシだよね。
カードを発動させて馬車を呼び出すと乗馬してそのまま進んでいく。
しばらくすると、リズに言われたとおり大きな川が見えてくる。
橋を渡ると遠くに街が見えるのが確認できた。
この間、俺は《神眼》を使って土地のランクを確認していた。
そのほとんどがEランクの土地だった。
(やっぱりヴォルフさんの土地は特別みたいだな)
落ちてるカードもNカードばかり。
一応〈魔素カード〉だけはスラまるに回収させながら進んで行くと。
領境の要路に設けられた大きな関所が見えてくる。
「スラまる。ちょっと悪いんだけど隠れてくれないか?」
「すら?」
馬車から降りると俺はそうお願いした。
召喚獣を連れていると分かれば上等護兵に何か言われるかもしれない。
すっかり当たり前になってるけど、スラまるが常時召喚されてるこの状況はかなりおかしい。
俺の言いたいことを理解したんだろう。
デッキケースから俺が【Uレデュシオの小槌】のカードを取り出すと、スラまるはそれをぱくりと食べてくれる。
◇◇
【Uレデュシオの小槌】
[レア度] ★★(2)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]インスタント
[効果]対象相手を一定時間縮小させることができる。
◇◇
スラまるはすぐに手の平サイズまで縮小した。
なんかかわいい。
癒されるなぁ。
「ちょっとの間ガマンしててくれ」
「すらぁ~」
そのまま服の内ポケットに入れると俺は関所へ向けて歩き出した。
◆◆◆
「こんにちは。ダリ領へ入りたくて寄りました」
「こんにちは。今回はどのようなご用件でしょうか?」
「ファルナイツの冒険者ギルドに用がありまして」
「認可状はお持ちでしょうか?」
「いえ。入領は今回が初めてになります」
「でしたら、本領規定の試験を受けていただく必要があります」
「分かりました」
上等護兵は皮の紙を手にすると、そこに書かれた問題を読み上げていく。
もちろん、その前にさりげなく《神眼》を使うことを忘れなかった。
「では第一問です。領暦186年、首府ルフドで当時領主の座に就いた人物の名前をお答えください」
「ラインハット=パパス卿です」
「正解です。では第二問……」
こんな感じで。
その後に出題された問題もすべて俺はすらすらと答えた。
一応、試験内容はこんな感じだ。
『領暦76年、ファルナイツの冒険者パーティー【紅の鴉】が遠征して発見した歴史的ダンジョンの名は?』
『領暦155年、当時の領主ヴォルラーンが所有していたカードをすべて答えよ』
『グルデノの村を宿泊する際に決められているルールを三つすべて答えよ』
『領暦113年、領主ノッティオに逆らい裁判で処刑された叛逆者の名前は?』
『領暦201年、ダリ領で急激に不足した穀物の名前を答えよ』
『ファルナイツで収穫される農作物で一番消費量が多いのは何か?』
『領暦233年、首府ルフドで締結され、第二回リブルアーチ同盟が解消されるきっかけとなった和約の名は?』
『領暦98年、当時の領主が掲げた政策の三本柱を答えよ』
『首府ルフドにおける普通職の人口比率を答えよ』
『ファルナイツとグルデノにかかる一級河川の名を答えよ』
『領暦256年、当時ファイルナイツで武器屋、鍛冶屋、宿屋を同時経営していた人物の名は?』
『領暦107年、首府ルフドに落ちてきた当時の最高レアリティであるSSRカードの名を答えよ』
『ダリ領における1年間の降水雨量を答えよ』
『グルデノの村を歩く際に禁止されている五つのルールをすべて答えよ』
『首府ルフドの冒険者ギルドで歴代最大難易度とされるクエストの内容は?』
ぶっちゃけ、俺も《神眼》を使わなければ何がなんだか分からなかった。
ぜんぶ有能なこの才能のおかげだ。
「素晴らしい。全問正解です。こちらがダリ領の認可状となります」
「ありがとうございます」
「どうぞ本領へとお入りください。よい旅となることをお祈りしております」
上等護兵に見送られて領内へと足を踏み入れる。
「なんとかなったな。もういいぞスラまる」
「すら!」
内ポケットから出してやると、スラまるはすぐに元どおりの姿に戻る。
こうして俺たちは正午を迎える前にはファルナイツへと到着した。




