第15話 ギガ盛りのアビリティ
翌日。
朝食を食べ終えると、俺は私室へ戻って昨日拾ったNカードをすべて契約して使用できる状態にしていた。
「〝天光満つる御名のもと壮麗たるは我と汝あり。魔符を此処に賜らんことを欲し、契約者の名において命ず。この理に従うならば、応えよ――リーミティ・エステールニ〟」
最後のカードを契約し終えるとベッドに体を投げ出す。
「はぁ~……疲れたぁ……」
「すら」
スラまるがぽんぽんと頭を叩いてくれる。
1回1回祝詞を唱えるのはかなりしんどかった。
「ありがとう。でもこれで〈アビリティカード〉が使えるようになったよ」
幸いにも〈アビリティカード〉はすべてNカードだ。
きちんと数えてないけど200枚くらいはあった気がする。
これだけで数十人の冒険者が一生のうちに使う〈アビリティカード〉の量を余裕で越えてしまっていた。
1枚1枚の効果は微々たるものだけど重ねがけが可能だから、ひょっとすると強力な効果が得られるかもしれない。
(塵も積もれば山となるってね)
俺は体を起こすと、さまざまな種類の〈アビリティカード〉を目の前に展開させる。
【N攻撃力増加+3%(微小)】
【N防御力増加+3%(微小)】
【N魔法攻撃力増加+3%(微小)】
【N魔法防御力増加+3%(微小)】
【N敏捷性増加+1%(微小)】
【N運増加+1%(微小)】
【N炎属性耐性+3%(微弱)】
【N氷属性耐性+3%(微弱)】
【N雷属性耐性+3%(微弱)】
【N風属性耐性+3%(微弱)】
【N光属性耐性+1%(微弱)】
【N闇属性耐性+1%(微弱)】
【N毒耐性+2%(微弱)】
【N麻痺耐性+2%(微弱)】
【N石化耐性+2%(微弱)】
【N混乱耐性+2%(微弱)】
【N凍結耐性+2%(微弱)】
【N誘惑耐性+2%(微弱)】
【N病気耐性+2%(微弱)】
【N痛覚耐性+2%(微弱)】
【N被物理ダメージ耐性+3%(微弱)】
【N被魔法ダメージ耐性+3%(微弱)】
【Nレベルダウン制限(微小)】
【Nレベルアシスト+1%(微小)】
その後、それを一気に使ってしまう。
すると。
突然光のウィンドウが起動した。
『複数の〈アビリティカード〉の使用を確認しました。【LKG冠を戴く神威の権能】の発動により、カード効果が無限乗算されます。』
キラリーーン!
200枚近い〈アビリティカード〉が煌びやかな光をまとったかと思えば。
次の瞬間、燃え滾るような熱い闘志が胸の奥から湧き起こってくることに気づく。
すぐにステータスを確認するとそれは歪な内容を表示していた。
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【アルディン=ギルバート】
種族:人族 年齢:16歳
ランク:F
Lv.0
攻撃力 0
防御力 0
魔法攻撃力 0
魔法防御力 0
敏捷性 0
運 0
[職業]
上位複合職/魔符術士
[才能]
《神眼》
[パッシブスキル]
《無限収納》
[アビリティ]
攻撃力増加+999%(神)
防御力増加+999%(神)
魔法攻撃力増加+999%(神)
魔法防御力増加+999%(神)
敏捷性増加+999%(神)
運増加+999%(神)
炎属性無効
氷属性無効
雷属性無効
風属性無効
光属性無効
闇属性無効
毒無効
麻痺無効
石化無効
混乱無効
凍結無効
誘惑無効
病気無効
痛覚無効
被物理ダメージ無効
被魔法ダメージ無効
レベルダウン無効
レベル上限突破
[所持カード]
〈水晶ホルダー〉
71枚
(N71枚)
〈魔素ホルダー〉
178枚
〈デッキケース〉
63枚
(N0枚、U40枚、R13枚、SR6枚、HR3枚、UR1枚、SSR0枚、魔素0枚)
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「うおおぉっ!? なんだこのステータスは!?」
「すらぁぁ!?」
スラまると一緒に大きく驚く。
レベル0だから基本ステータスは最弱のままなんだけど『アビリティ』の項目がギガ盛り状態となっていた。
つか(神)ってなんですか?
たぶんレベルが上がった瞬間とんでもない数値が上昇するに違いない。
「おいおいっ!? これマジ……?」
さりげなく『痛覚無効』『被物理ダメージ無効』『被魔法ダメージ無効』『レベルダウン無効』っていういかつい無効効果も獲得しちゃってるし。
中でも目を引くのが『レベルダウン無効』だ。
レベルは何もしなければふつうは下がっていく。
それはこの世界の普遍的な掟の一つでもある。
例外はなくて、これまでに多くの冒険者がそれで悩んでいる姿を俺はこの目で何度も見てきた。
せっかくモンスターを倒して上げたレベルも〈魔素カード〉を定期的に使ってキープしないとどんどん下がっていく。
この『レベルダウン無効』は世界の掟をぶち壊してしまうような効果だった。
(やれやれ。また世界の掟を壊しちまったのか、俺は)
その時、ふと思い出す。
そういえば【N水滴石穿】がカード昇格した時、〈神話級改変者〉の基点に達したとかなんとか、ウィンドウに表示されてたっけ?
意味がよく分からなかったけど、つまりこういうことなのかな。
なんにしても。
これもぜんぶ〈アビリティカード〉を集めてくれたスラまるのおかげだ。
「ありがとな。スラまる」
ぽよんぽよんと頭を撫でてやる。
「すら~~!」
スラまるは嬉しそうに飛び跳ねた。
◆◆◆
スラまると一緒に玄関ホールへ出ると、ちょうど掃除中のルーシィとリズとばったり会う。
「ちょうどよかった」
「あれ? その格好どうしたの?」
今俺は冒険者服に着替えていた。
これはアパートを去る際に一緒に持ってきたものだ。
「どこかおでかけになられるんですか?」
「うん。今日は冒険者ギルドで〈魔素カード〉の換金をしようと思って。この近くで冒険者ギルドがあるところって知らない? できればレネギスのギルドじゃないと嬉しいんだけど」
基本的に冒険者ギルドは首府などの比較的大きな街に置かれていることが多い。
「それでしたら、ダリ領のファルナイツに冒険者ギルドがあったと思います。レネギスのギルド以外で一番近いのはそちらですね。屋敷を出て西にまっすぐ進んでいくと大きな川がありますのでそれを渡った先がファルナイツです」
「けどアルディン。知ってると思うけど領を越えて別の領に入るには認可状がいるわ」
「たしかにそうだね」
「どうしてレネギスじゃダメなの?」
俺は父さんのカードを奪って自分をパーティーから追い出したザネリのことをまだ許していなかった。
レネギスの冒険者ギルドはザネリのお膝元だ。
そんなところで〈魔素カード〉を大量に換金すればその話がザネリにいくに違いない。
今度はどんないちゃもんをつけられるか分からないし。
この屋敷まで押し寄せて来て、そんなに〈魔素カード〉が見つかるならこの土地にさらに税を課すなんてことも言いかねなかった。
「ちょっといろいろ事情があってさ」
「そう。まぁでも分からなくもないわ。私たちもあのギルドに依頼してあんな裏切者みたいなパーティーを護衛役にされちゃったわけだし」
これまで俺はバイエフォン領から出たことがない。
ダンジョンもバイエフォン領が管理下におくダンジョンしか入ったことがなかった。
ここミハグサール王国では領主が領地全域の法律を決めている。
ミハグサール王国には五つの領があって、それそれが独立した独自の生活圏を築いているからだ。
だから、その土地で生まれ育った者は王立学院でその領地の歴史や法律を学ぶことになる。
他領を行き来する機会のある行商人以外だと一生のうちを生まれた領内で終えることもぜんぜん珍しくない。
冒険者にしてもそうだ。
ギルドは自分たちの領地で活躍する冒険者を確保するため、他領ギルドへの移籍を基本的に認めていない。
ギルマスの判断で登録が可能なこともあるみたいだけど基本的にはNGだ。
それが分かっているからルーシィはなんでレネギスじゃダメなのかって聞いたんだろうな。
(でも今回は冒険者として登録するわけじゃないし。換金しに行くだけだから)
他領から他領へ入る場合、この認可状を得ない限り入ってはいけないっていうのがミハグサール王国の決まりだ。
認可状を得るには関所で上等護兵の試験を受けなければならない。
試験は全問正解じゃなきゃ入領が許されず、もし間違えれば向こう1年間は入領を許されないっていう厳しい決まりもある。
「ご主人様。ダリ領についての知識はあるんでしょうか?」
「いやまったく」
「でしょうね」
王立学院で学ぶのは基本的に生まれ育った領地でのことばかりだ。
他領のことはほとんど学ぶ機会はない。
それはどの領の王立学院でも同じことだ。
「今から勉強するとなるとけっこう時間がかかるわよ」
「そうですね。たしかに出題される問題に決まりはなかったと思います。まんべんなく領史を勉強しておかないと認可状を得るのはちょっと難しいんです」
「その点なら問題ないと思うよ。聞きたいんだけどさ。初めて来た日に書庫を紹介してもらったと思うんだけど、あそこにダリ領について書かれた書物とか置いてあったりしないかな?」
「それでしたらあると思いますよ。ミハグサール王国の建国史やそれにまつわる古い書物も多く保管されていたと思いますから」
「ヴォルフ様は勉強熱心な方だったからね。リズの言うとおりたしかにあったはずよ」
「そっか。じゃあちょっと書庫の鍵を借りてもいい?」
「はいご主人様。どうぞご自由にお使いください」
リズから鍵を借りる。
「もしかして本当に今から勉強するつもり? 一夜漬けでどうにかなるってレベルじゃないわよ?」
「大丈夫。たぶんすぐ終わると思うから」
「?」
頭にハテナマークを浮かべるルーシィを置いて俺はスラまると一緒に書庫へと向かった。




