第12話 完全万能粘体
翌日。
宣言通り俺はスラまると一緒に外に出ていた。
ルーシィとリズは朝から掃除、洗濯、炊事といろいろやることがあるみたいで忙しそうだ。
これだけの広い屋敷を管理してるわけだから当然と言えば当然だ。
もちろん、今回も何か手伝おうかって訊いたけど2人にぴしゃりと遮断されてしまう。
「主様がそんな気を遣うこと言わないの。これは私たちメイドの仕事なんだから」
「そのとおりですよご主人様。屋敷のことはこっちでやっておきますので、外を見てまわってきてはいかがでしょうか?」
「そうね。とても広いからまだぜんぜんまわりきれてないでしょ?」
「うん。それじゃお言葉に甘えて行ってくるよ」
そんな2人の好意に甘える形でスラまると一緒に外へ出てきてしまっていた。
「暇なのは俺たちだけだなぁ」
「すら~」
「昨日言ったようにいろいろと探検しようか」
「すらぁ!(キラリ)」
「とその前に。お前の能力が気になるところだな。何かできたりしないのか……ってあれ?」
なんかまた視えるんだけど。
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【スライム】
種族:粘体族 年齢:6歳
レアリティ:N
[レア度]
★(1)
[カテゴリ]
召喚カード
[タイプ]
インスタント
[効果]
どこにでもいる普通のスライム。 召喚時間30秒。
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なぜか目の前にスラまるのステータスがウィンドウとして表示されている。
これも《神眼》の力なのか?
(有能すぎるなぁ。この才能)
決闘者同士のステータスを確認する【R強引な検問】ってカードはあるけど、召喚獣やモンスターのステータスを確認できるカードは存在しないって言われている。
うーん。
でも特に何か変わった箇所はなさそうだなぁ。
「なんでずっと召喚され続けてるんだろう。マジで謎だ」
「すら?」
それに〈召喚カード〉を見つけた時に少しだけキラリと光ったことも気になっていた。
まいっか。
ひとまず昨日拾った【N閃駆の走馬灯】のカードでも使ってみよう。
「スタンバイフェイズ。カード解放」
輝く長方形の水晶ホルダーを5個目の前に展開させたところで。
スラまるが飛び跳ねて何か反応する。
「すら! すら!」
ん?
どうやらスラまるは展開したホルダーの1個が気になるようだ。
その中には1枚のカードが入っている。
「これがどうかしたの?」
「すら~すらっ!」
「何が言いたいんだろう?」
それは〈魔法カード〉の【N火術Ⅰ】だった。
◇◇
【N火術Ⅰ】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]魔法カード
[タイプ]永続
[効果]火魔法による下位攻撃を行う。詠唱時間3秒。
◇◇
特にこれといって珍しいカードじゃない。
〈魔法カード〉の中でもよく拾うカードの1枚だ。
でもスラまるの様子がこれまでとどこか違う。
なんとなくそれを使ってみることに。
よく分からないけどこいつに興味があるみたいだからな。
「ちょっと待ってろ。魔法カード発動――」
とカードを宙に浮かび上がらせたところで。
ぱくっ!
スラまるが【N火術Ⅰ】のカードを大きな口を開けて食べてしまう。
「えええっ!? お前、何食ってんだぁ!?」
呆気にとられているとスラまるの体が眩く発光していることに気づく。
『召喚獣・完全万能粘体が〈魔法カード〉を捕食しました。【N火術Ⅰ】のカード効果をパッシブスキルとしてコピーします。』
突如そんなウィンドウが立ち上がったかと思えば。
次の瞬間、信じられないことが起った。
「すらぁぁぁ~~~~!!」
なんとスラまるが炎を吐き出して飛ばしたのだ。
ズゴーーーン!!
それは近くの岩場に見事に当たって砕けた。
「おぉっ! お前そんなことができたのかよ。すごいな!」
「すら~」
「いえーい!」
飛び跳ねるスラまると一緒に喜んでいるとまたステータスが視えることに気づく。
は……?
ちょっと待ってくれ!? レアリティSSR!?
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【完全万能粘体】
種族:粘体族 年齢:6歳
レアリティ:SSR
[レア度]
★★★★★★★★★★★★★(13)
[カテゴリ]
召喚カード
[タイプ]
インスタント
[効果]
さまざまなものを吸収し、自身の能力に変換することができる最強の粘体族。召喚時間永続。
[パッシブスキル]
《火術Ⅰ》
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「お前、パーフェクトスライムだったのか!?」
「すら?」
なんか本人もよく分かってなさそうだけど。
そっか。
召喚時間が永続だったから消えなかったんだな。
召喚時間永続の召喚獣なんてこれまで聞いたことがないけどね。
(でもレアリティSSRってことは元々SSRカードだったのかな)
だがそうなると疑問が一つ残る。
俺、FランクのはずなのになんでSSRカードが使えたんだろう?
「ひょっとして、お前って隠れキラカードだったの?」
「すら、すら~!」
どうやらビンゴのようだ。
この時、俺は王立学院で学んだことを思い出していた。
カードの中にはごくまれに隠れキラカードってものが存在するということを。
たとえば見た目はNカードなのだが、実際はRカードだったみたいなこともあるのだ。
この場合、見た目はNカードなわけで。
Fランクであろうともカードと契約することはできる。
(だから光って見えたのか)
結果的にラッキーだったと言える。
「けど『さまざまなものを吸収し、自身の能力に変換することができる』ってさすがにチートすぎない?」
現にスラまるのパッシブスキルの項目には《火術Ⅰ》が追加されてるし。
どうやらカードを与えることでスラまるはそのカードの能力を会得することができるようだ。
「すごいよ、スラまる!」
「すらぁ?」
「よし。いろいろと試してみよう」
「すら~~」
この後、俺はスラまると能力の検証を行うことになった。
◆◆◆
まず最初に試したのは〈武具カード〉だ。
契約済みの【Nつきかがみの盾】のカードをスラまるに与えてみる。
◇◇
【Nつきかがみの盾】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]武具カード
[タイプ]永続
[効果]鏡を模した普通の盾。攻撃力+0、守備力+500、敏捷性+0、運+200。
◇◇
さっきと同じようにスラまるはカードをひと飲みすると体を発光させた。
『召喚獣・完全万能粘体が〈武具カード〉を捕食しました。【Nつきかがみの盾】のカード効果をパッシブスキルとしてコピーします。』
ぽんっ!
するとすぐに盾に形状を変えてみせる。
「おぉ!」
俺は思わず拍手する。
どうやら間違いないみたいだな。
本当にカードの効果を吸収できるみたいだ。
「どんどん食べさせてやるからな」
「すらぁ~~!」
ぽんっ!
スラまるはもとの姿に戻る。
どうやらカードを食べることは何にも抵抗がないみたいだ。
(むしろこっちの方が主食なのかも)
そんなことを思いながら、俺は光の線を追いかけてスラまると一緒にカードを拾っていく。




