第11話 スライムと仲良くなった
(なんか一瞬光ったように見えたけど)
落ちてるカードに近づいてみるとそれは〈召喚カード〉だった。
◇◇
【Nスライム】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]召喚カード
[タイプ]インスタント
[効果]どこにでもいる普通のスライム。 召喚時間30秒。
◇◇
「スライムのカードか」
〈召喚カード〉の中ではよく見かけるものだ。
ナタリアがよくこれを使ってたことを思い出す。
〈召喚カード〉は召喚時間が決まってるから使うタイミングが難しいんだよなぁ。
今は上限いっぱいまでカードを水晶ホルダーに入れちゃってるし。
「無理に拾う必要もないか」
そんなことを思いながら通り過ぎようとするも、先ほどの光り方がなんとなく気になってしまう。
もしかするとこれも《神眼》のおかげでそんな風に見えたのかもしれない。
少し迷った末、俺は適当なNカードを1枚破棄して目の前のカードをオープンすることに。
「〝オープンカード〟」
いつもの手順でカードを開くとすぐに契約してしまう。
「〝天光満つる御名のもと壮麗たるは我と汝あり。魔符を此処に賜らんことを欲し、契約者の名において命ず。この理に従うならば、応えよ――リーミティ・エステールニ〟」
無事に契約を終えたはずなんだけど……。
「えっ?」
なぜか突然カードの効果が発動してしまう。
「ちょ、ちょっと!?」
シュルピーーン!
辺りが明るくなったかと思えば、そこにかわいらしい水色のスライムが現れた。
「すら!」
「……なんだってんだ?」
これまでナタリアが〈召喚カード〉を使う場面を何度も見てきたけど、カードが勝手に発動したのを見たのはこれが初めてだ。
なんとなくもったいないことをした気がしてその場で待っていると。
しばらくしてもスライムが消えないことに気づく。
「おかしいな。もう30秒経ってるはずなんだけど」
それからさらに3分ほど待ってみる。
うん。
やっぱりおかしい。
召喚時間はとっくに過ぎている。
こんなことも今まで一度もなかった。
なんで消えないんだろう?
「うーん。このまま放っておくわけにもいかないしなぁ」
「すら」
「なんか癒されるなお前」
「すら~」
「俺とついて来たいのか?」
「すらぁ!」
と目を輝かせるスライム。
なんか人懐っこいな、こいつ。
まったく不思議なスライムだ。
「よし。それじゃ俺と一緒に帰ろうか」
「すら!」
◆◆◆
「ご主人様お帰りなさい~♪」
「はぁ……。ようやく帰って来たのね」
「ごめん。遅くなって」
「急にどこか行っちゃうんだもの。どこ行ってたのよ?」
「お姉ちゃんってば、ずっとご主人様の帰りを心配してたんですよぉ~」
「そーゆうのは言わなくていいの」
どうやらかなり心配させてしまったみたいだ。
「ちょっと1人で見てまわりたくって。いろいろと面白いことがあったよ」
「面白いこと?」
「うん。出てこいよ」
うしろを振り返って手招くとスライムがぴょんと前に出てくる。
「すら~!」
「ええええええっ!? なになになにっ!?」
「きゃああああぁっ~~! かわいいですぅ~♪」
スライムを前にして2人の反応は正反対だ。
「このスライムどうしたのっ!?」
「ちょっと事情があって。召喚したんだけど消えなかったから連れて帰ってきたんだ」
「なんで消えないんですかぁ~? すごいですぅ~♪(すりすり)」
喜ぶリズに対して若干引き気味のルーシィ。
「よくこんなんが懐いたわね……。あんたって本当に何者なのよ?」
「俺も驚いてる」
「すらぁ!」
「まさかこのスライムを屋敷の中へ入れるつもり?」
「やっぱダメかな?」
「だってこいつ召喚獣じゃない」
「お姉ちゃんいいじゃん! こんなかわいーんだしアリだよぉ~♪」
「すら!(キラリ)」
「うぐ……」
結局、ルーシィもスライムのかわいさにやられて一緒に暮らすことを認めてくれた。
「まぁ分かったわ。主のあなたが言うんだから。メイドの私たちはそれに従うまでよ」
「ありがとう2人とも。ほらお前も挨拶して」
「すら、すら~!」
ぺこりとお辞儀するスライム。
「んんぅっ~! ほんとかわいいですねっ~♪ そうだ! せっかくなのでお名前をつけましょう」
「名前?」
「スライムと呼ぶのはかわいそうですよー。この子だけの名前をつけてあげましょうよぉ~! そうですね……スラまるちゃんというのはいかがでしょうか、ご主人様?」
「なんで?」
「丸くてかわいいからですぅ♪」
「すら!」
なぜか誇らしげなスライム。
まぁこいつが嬉しそうだしいっか。
「分かった。これからお前はスラまるだ。よろしくな」
「すらぁ~!」
こうして俺たちに新たな仲間ができた。
◆◆◆
「ふぅ~。いい湯だなぁ、スラまるー」
「すぅらぁ~~」
俺はスラまると大浴場でのんびりしていた。
あの後。
ルーシィとリズとスラまるとみんなで夕食を囲んだ。
スラまるが何を食べるのか気になるところだったけど、人と同じ食べ物を嬉しそうに食べていた。
しかも今は一緒に風呂に入ってるし。
「お前なんでも抵抗ないんだなぁ」
「すらぁ~」
「適応能力高すぎだろ」
「すら!」
ここでもなぜか誇らしげなスラまる。
まぁなんか癒されるからいいんだけどさ。
(しかし今日はいろいろと収穫があったな)
実は夕食の席でルーシィとリズにヴォルフさんが所有する土地について俺は訊ねていた。
というのもカードの所有権について気になることがあったから。
カードは基本的にはダンジョンの近い場所に落ちるっていう法則がある。
ダンジョンのモンスターがカードを引き寄せているっていう説があるけど、実際のところはよく分かっていない。
ごくたまに人が住む街や村でカードを拾うこともあるけどこの場合の所有権は領主にあって勝手に持ち出してはならないとされている。
もし見つかれば反逆罪として領主に捕縛されてしまうほどだ。
逆に街や村の外で拾ったカードは自分のものにしても構わないとされている。
冒険者にとってモンスターを倒す上でカードは必需品で、これまで制限してしまうとさすがに世界が成り立たなくなってしまうからなんだろうけど。
ちなみにこのようなルールを決めているのはすべて王家だ。
300年前、カードがこの世界に落ち始めるようになってからすべて王家がルールを決めてきた。
この世界にはミハグサール王国のほかにもオルブス帝国、トゥーン自由市国っていう二つの国が存在する。
三国のトップは世界に3枚しか存在しないとされる【SSR全方位支配の開幕】というカードを所持しており、このカードを所有していることで三国は一気に超大国となった。
◇◇
【SSR全方位支配の開幕】
[レア度] ★★★★★★★★★★★★★(13)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]永続
[効果]このカードの所有者、一族、子孫には未来永劫逆らうことができない。なおカード効果は使用と同時に永続的に発動するものとする。
◇◇
それまでの国々はこの三国によって淘汰され、三国はお互いに干渉しないような同盟を結んだ。
国王が領主を決め、領主が冒険者ギルドを管理し、冒険者ギルドがモンスター討伐を請け負う冒険者を管理下に置く。
いわばこの3枚のカードによって今日の世界が形成されることになったという経緯がある。
この土地は元々ヴォルフさんの所有地だ。
だから気になってこんな質問をしたわけだけど。
「そういうことなら安心して。ここは私有地ってことになってるから。他人がこの土地に入ってカードを手にすることはできないわ」
「そうなんだ」
つまりこの土地に落ちたカードは土地の所有者のものだと王国が認めているわけだ。
それを聞いて安心した。
「今はご主人様の土地ですから。この土地に落ちたカードはすべてご主人様のものということになりますね」
とリズが補足してくる。
てことは俺がカードを集めまくっても問題なさそうだな。
今は冒険者稼業をしてないし暇だから、ここでいろいろなカードを集めてみても面白いかもしれない。
「よーし。明日は俺と一緒にカードを探そうスラまる」
「すら?」
「お前の仲間にも出会えるかもしれないからな」
「すら、すらぁ~~!」




