第10話 《神眼》の検証
「……はぁ……はぁ、はぁ……。やっぱりだ……」
光の線を追って走っていくと着地点にカードが落ちてくる瞬間をはっきりと目撃する。
すごい。
カードが落ちてくる場所が分かるなんて。
俺は空を見上げながら思った。
(たぶんこれも《神眼》のおかげなんだろうな)
昨日光の線が見えなかったのは夜だったからかもしれない。
そのまま落ちてきたカードに近づいていくともう一つ気づくことがあった。
「あれ? なんか中身が見えるんだけど」
どのカードもすべて裏面の状態で落ちてくる。
だからオープンするまではどんな内容のカードか分からないはずなんだけど。
まさかこれも《神眼》のおかげってこと?
(有能すぎるでしょ!)
カードをオープンする前からその中身が分かるってことは、わざわざ罠対策用のカードを持たなくてもいいわけで。
今まで【Nシーホースの麟粉】を持ってたから経験値が一切入らなかった。
(けどこれを持たなくていいなら俺もレベルを上げることができるぞ)
さっそくカードを破棄することに。
『【Nシーホースの麟粉】を破棄します。よろしいですか?(Y/N)』
立ち上げた光のウィンドウに触れてYESを選択する。
『【Nシーホースの麟粉】を破棄しました。』
「よし。これでホルダーの空きは5個になったな」
決闘者は5枚のカードを水晶ホルダーに入れることができる。
カードを水晶ホルダーに入れておけば、どこでもカードの効果を発動させることができるようになる。
ただし。
水晶ホルダーは5個しかないからその都合上、決闘者は5枚までしかカードと契約を結ぶことができない。
どうしても契約したいカードがある場合は、水晶ホルダーに入ってるカードを1枚選んで破棄する必要が出てくるわけだ。
(まぁ俺のレベルは0でFランクだから。今ここで【Nシーホースの麟粉】を破棄したところでNカード以外とは契約できないわけだけど)
ちなみにカードは全部で7種類存在する。
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〇武具カード
戦士職のみ使用可能。
武器や防具を発現させることができるカード。
〇魔法カード
魔法職のみ使用可能。
魔法を発動させることができるカード。
〇召喚カード
聖職のみ使用可能。
召喚獣を呼び出すことができるカード。
〇アイテムカード
すべてのジョブで使用可能。
さまざまな効果を持つアイテムを使うことができるカード。
〇アビリティカード
すべてのジョブで使用可能。
アビリティを追加・上昇させることができるカード。
〇魔素カード
すべてのジョブで使用可能。
使用することでレベルダウンを一時的に防ぐことができるカード。
〇罠カード
オープンと同時にさまざまなデメリットがふりかかるカード。
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それにカードには『永続』と『インスタント』っていう2種類のタイプがあって、『永続』の場合は何度もカードを使うことができるけど『インスタント』の場合は使ったらその場でカードは消えてしまう。
〈召喚カード〉と〈アビリティカード〉はどっちも『インスタント』だ。
だからこれらのカードを使えば自然と水晶ホルダーに空きを作ることができる。
また、カードは契約しなくちゃ水晶ホルダーに入れることができないわけだけど〈魔素カード〉だけは例外だったりする。
〈魔素カード〉には専用の魔素ホルダーってものがあって、特に契約を結ぶことなくホルダーに入れることができる。
ホルダー数も10個と水晶ホルダーの倍だ。
そんなこともあって〈魔素カード〉ならただ魔素ホルダーに入れるだけだから楽なんだけど。
目の前に落ちていたのはNカードだった。
◇◇
【N閃駆の走馬灯】
[レア度] ★(1)
[カテゴリ]アイテムカード
[タイプ]インスタント
[効果]通常の3倍の速度で移動することができる。発動時間10分。
◇◇
「うーん。特別ほしいカードってわけじゃないな」
でもせっかくの機会だ。
一度契約できるか試してみてもいいかもしれない。
基本的にカードの契約は聖職の者しか行えない。
パーティーでは聖職のナタリアがこの役割を担っていた。
(これまで俺は普通職だったからカードの契約は自分1人じゃできなかったけど)
上位複合職となった今カードの契約も自分で行えるってことになる。
ひとまず俺は落ちているカードに手を向けた。
「〝オープンカード〟」
こうして裏面のカードをオープンすることは誰でも可能だ。
オープンして〈罠カード〉じゃなければカードを拾うことができる。
もちろん、ただ拾っただけじゃカードを使うことはできない。
ここで聖職の出番ってわけだ。
王立学院ではカードの契約手順をひととおり学ぶ。
「えっと。たしかこのあとに祝詞を唱えるんだったな」
王立学院で学んだこととナタリアが実際にやっていたことを思い出して祝詞を唱えてみる。
「〝天光満つる御名のもと壮麗たるは我と汝あり。魔符を此処に賜らんことを欲し、契約者の名において命ず。この理に従うならば、応えよ――リーミティ・エステールニ〟」
ピカーーン!
その瞬間。
カードは光り輝き、俺は無事にカードと契約を結ぶことに成功する。
「やった。上手くいった」
一回できてしまえばあとは安心だ。
「ひとまずカードを拾うだけ拾ってみようかな」
空から落ちてきたカードはオープンしなければ一定時間経つと消えてしまう。
たとえ使えなくても拾うだけならタダだし。
その後。
俺は広大な土地を歩き回り、落ちてくるカードを集めることにした。
◆◆◆
「こんなもんかな」
ふと気づけば夕方になっていた。
夢中で探していたらもうこんな時間だ。
「光の線も見えづらくなってきたし。そろそろ引き上げようか」
今日だけで拾ったカードは20枚。
Nカード8枚、Uカード4枚、Rカード2枚、SRカード1枚、魔素カード5枚というのが内訳だ。
ちなみに契約できなかったカードはデッキケースに収納することができる。
ヴォルフさんのようにカードを特殊な額に入れて保管しておくこともできるんだけど、盗まれる危険があるからああいうのは珍しかったりする。
魔法ポーチとは違ってこっちにはカードしか入れることができない。
でも決闘者ならデッキケースは誰でも所有しているものだ。
「これまでは拾ったカードはぜんぶザネリに渡してたからな」
実はこんなにたくさんのカードを所有するのは初めてだったりする。
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【アルディン=ギルバート】
種族:人族 年齢:16歳
ランク:F
Lv.0
攻撃力 0
防御力 0
魔法攻撃力 0
魔法防御力 0
敏捷性 0
運 0
[ジョブ]
上位複合職/魔符術士
[才能]
《神眼》
[パッシブスキル]
[アビリティ]
[所持カード]
〈水晶ホルダー〉
5枚
(N5枚)
〈魔素ホルダー〉
5枚
〈デッキケース〉
10枚
(N3枚、U4枚、R2枚、SR1枚、HR0枚、UR0枚、SSR0枚、魔素0枚)
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「たった半日でこれだけのカードを集められたんだから上出来だよね」
ふつう冒険者パーティーが1日に見つけられるカードは1枚、2枚といったところだ。
しかもそのほとんどが〈罠カード〉。
(運よく〈罠カード〉じゃなくてもNカードかUカードだし)
そう考えると脅威的な成果だと言える。
自分の足で拾ってるからこれくらいしか拾えなかっただけで、光の線はそれ以上に何本も見えてるし。
もし大人数で手分けしてカードを拾っていたら、とんでもない量のカードが手に入れられるに違いなかった。
このほかにも気づいたことがあった。
それは土地にもランクが存在してその土地のランクによっていいカードが落ちるかもしれないってこと。
「これもすべて《神眼》のおかげだよなぁ」
土地のランクが高いところほどカードが落ちやすくいいカードが見つかる。
これは俺が発見した新たな法則だった。
それで半日かけて歩き回って分かったことは、ヴォルフさんが所有していたこの土地は偶然にもいいカードが落ちやすい土地だってことだ。
土地のほとんどはAランクって表示されていたから。
(まだ他所の土地と比べてないけどめちゃくちゃいい部類に入るはず)
カードは法則など何もなくランダムで落ちてくるものだって考えられているから、この発見は革新的だと言えた。
自分で言うのもなんだけど。
「光の線が見えるからカードがどこに落ちてるのか見つけるのが簡単だし。〈罠カード〉にも引っかからなくて済むし。ほんと《神眼》さまさまだよ」
たった半日でSRカードが1枚見つかったわけで。
このまま数日かけて歩き回れば、HRカードやURカードだって見つかるかもしれない。
だから【UR金の壺】なんてものが見つかったのかも。
「それじゃそろそろ戻ろう」
ルーシィを残して飛び出して来ちゃったから今頃心配してるに違いない。
そんなことを考えながら屋敷へ戻ろうとしていると。
(あれ、なんだろう?)
変な光り方をしているカードがちょっと先に落ちているのが目に入った。




