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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
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83『策略のピンク色』


荒天組の門の前には、暗闇の少女・アサギが佇んでいた。

暗く落ち込んだ夜空の下、立派な門は固く閉ざされている。


鍵は掛かっていない為、いつでも開け放つことが出来るが、アサギは少し躊躇っていた


アサギの服は所々破れ、白い肌は擦り傷だらけ。

その背からは薄く禍々しい翅が突き出し、足の一部は未だ黒光りする甲殻に覆われている


アサギは、立派な門に手を掛けられずにいた。



「こんな姿で、どうしろっていうのよ」


怪しく光る瞳を僅かに潤ませ、アサギは呟く。


すると、高い空の彼方に緑色の星がきらりと光った。


「何よアレ、緑色……?」


アサギが眼を凝らして見ようとした瞬間、頭上の空に音もなく閃光が走る。

一筋の稲妻となりてアサギの頭上を駆け抜けた閃光は、大きく弧を描いて旋回し



……固く閉ざされた門の前に着地した。



砂埃と爆風にアサギの軽い体は浮き、門の前は翡翠色の光に包まれた


『速度と位置情報を調整し、到着までの所要時間を大幅に短縮することに成功しました』


「えと、ご苦労様」


緑色の光と無機質な声。小さな翼が遠慮がちにはためいた。

とっさに翅を広げて身を守ったアサギは恐る恐る顔を覗かせ、途端に目を丸くする


「……ノワール、アンタ何してんのよ」


「あ、葱ちゃん。お昼ぶり」


背後に佇む機密の塊を余所に、ノワールは微笑んだ。

アサギは目を白黒させながらよろよろと立ち上がり、声にならない声と共にモノを指差す


「あぁ、この人ね。モノって言うんだって」


モノは光る瞳を一度だけ瞬かせ、深々と頭を下げる様な仕草を取った



「ほら、葱ちゃん。こんなとこに居ないで早く中に入ろ」


「ぇ……あ、引っ張らないでよっ」


ぐいぐいと門を押し開け中へ入る二人の少女。

そして、その後ろからは兵装を詰め込んだ箱がふよふよとついてゆく



~藤野家・脱衣所~



……ここは本当に一般家屋なんだろうか。

一言で言うと、まるで銭湯のような脱衣所である。


鏡付きの洗面台があり、服を入れるための籠があり、給水器やマッサージチェアまである。


「藤野先輩。ここって旅館か何かでしたっけ」


「あー? 俺ん家」


「いやそれはわかってますけども」


既に服を脱いでたくましい筋肉を露わにしている藤野先輩は、スタスタと大浴場へ向かう。


「いいから早く来いよ。二時間は俺らの貸切だ」


それっきり藤野先輩は大浴場に行ってしまい、俺は脱衣所に一人残されてしまった。

とりあえず適当な籠を手に取り、上着から順に放り込んでゆく。


ふと、服を脱いでゆくにつれて俺はあることに気が付いた。


右掌に、水色の雪花が浮かび上がっていたのだ。

軽く擦ってみても取れない。汚れの類では無さそうだ


「んだこれ……」


触ってみても別に冷たくは無い。単なる模様のようだが……

ついさっきまでは無かったはずだ。考えてみても謎は深まるばかりである


「まぁ、いいか……」





踏み込んだ大浴場はとても立派である。

……というより、扉の先は大きな露天風呂だった。


夏とはいえ夜は冷え込むこの時期、タオル一枚ではかなり厳しい。

俺は軽く震えながらも豪快にかけ湯をし、藤野先輩の近くに浸かった


湯加減は少し熱いくらいで丁度いい。俺は深いため息をついた


「洗い場は向こうだ。あと杉原、ちっと頭貸せ」


「え、何で……」


「いいから。ちょっと頭こっちに傾けろ」



――ぶちっ



「痛……っ!」


俺がバッと振り向くと、藤野先輩の手には一本の髪の毛。

間違いない。大事な俺の髪だ


「よし。これで準備は完了だな」


呟いた藤野先輩はニタリと笑って俺の方に拳を突き出し、ぐっと親指を立てる。

そしてどこからか見覚えのあるフラスコを取り出し、その栓を抜いた。


フラスコの中では、淡い桃色の液体がこぽこぽと泡立っている。


「そのフラスコ……まさか」


藤野先輩はニタニタと怪しい笑みを浮かべながら俺の髪をその中に入れた。

すると桃色の液体が煙を吹き出し、鮮やかなピンクの液体に変わった


「お前が持って来た面白い薬さ。ただ飲ませるだけじゃつまんねぇだろ……?」


「な、何を……」


藤野先輩はちゃぷちゃぷとフラスコを揺らし……


「さぁ、ショータイムだ」


――あろうことか、そのまま背後に放り投げた



フラスコは木でできた大きな仕切りの向こうに消え、バリンと割れる音だけが響いた


「せ、先輩……まさか、あの向こうって」


「言わなくても分かってるだろう? くく……」





「――女湯だ」

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