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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
92/114

82『配達龍姫』

すっかり暗くなった裏山の中腹。

もはや山と呼べるかどうかすら疑問であるその場所に、アサギは倒れていた。


辺りの木々はまとめて薙ぎ倒され、地面は抉れ、砕けた岩があちこちに散らばっている


『オキロ、アサギ』

『ダイジョブカ』


地面に倒れるアサギの周りに黒い小人がわらわらと集まり、アサギの体をつつく。


「ん……」


アサギはごろんと仰向けになり、憔悴した水色の瞳で夜空を見つめた。

ほんのりと薄青い空の彼方には星が瞬いている


『アサギ、ダイジョブカ』

『ケガシテナイカ』


黒い小人が尋ね、アサギは横目で睨みつける


「何よ。遅いのよアンタたち……もっと早く来なさいよッ」


ふん、とそっぽを向いたアサギは溜め息と共に体を起こし、身体についた土埃を払う。

そして傍に落ちていた黒光りする蟲の甲殻をひょいと拾い上げ、バリンと噛み砕く


「んぐ……やっぱ美味しいわねコレ」


自らの欠片を咀嚼するアサギの身体に薄闇が絡み、やがてその瞳は光を取り戻す。

ギャリリと薄い翅を広げ、アサギは高い空を見上げた





混沌の街の一角、建物の屋根を飛び回る者がいた。

モノは銀色の装甲に緑の稲妻を纏わせ、ノワールを抱えて屋根から屋根へ飛び移っている。


豊満な肢体を覆う装甲には多数の銃器が仕込まれ、機械に覆われた腕でノワールをお姫様抱っこするモノ。その背には世界中の最高機密を寄せ集めたような一対の翼が生えている。


風すらも追いつかない高速で移動するその姿を捉えることは、まず不可能である。


『まもなく目的地へ到着いたします。具合のほどは如何でしょう』


無機質な光を宿す瞳が、眼下のノワールに向けられる


「え、えぇと……すこぶる快適です」


ノワールは朱色の眼を潤ませ答えた。快適と答えはしたが、ノワールは内心恐怖に怯えている。

抱きかかえられているとはいえ、辺りの景色すら霞む速度で屋根の上を飛び回っているのである。


さらにモノはノワールの目の前で無機質な箱から機械的な女性へと姿を変え、半ば強引に、淡々とノワールの指示に従うため、ノワールは何とも言えない不気味さと不信感を抱き、怯えているのである



すると、モノが暗い路地裏に着地し、ノワールをそっと降ろした。


『到着いたしました』


モノは深々と頭を下げ、カシャカシャと兵装を折りたたんで再び箱の姿となった。

バチバチと緑色の稲妻を纏い、無機質な箱は路地の奥を照らす


『Junkshop』


古びた看板の横の窓からは、優しい光が漏れている。


扉にはcloseの札が下げられ、中からは微かに笑い声が聞こえてくる。

ノワールはすっかり汚れてしまった小包を抱きしめ、呼び鈴に手を伸ばした



――ちりん、ちりんっ


『誰か来たにゃ』

『善二郎を奪いに来た泥棒猫だったらどうしてくれようか』

『殺すしかないわねぇ』

『拷問……』

「やめろお前ら。テト、出てくれ」

『にゃーんっ』


扉の向こうから元気な足音が聞こえ、やがて猫耳の女の子がひょっこりと顔を覗かせた


『……どちら様にゃ?』


「えっと、あの……お届け物を」

『お客様かにゃ? 悪いけど今日は店じまいだから、また明日来てにゃん』


『ちゃんと話聞いてあげなさいよ』


妖艶な夜魔が扉を開け放ち、猫の少女を摘み上げる。


『ごめんなさいねぇ、この子少し頭が弱くて』

『テトはバカじゃないにゃ!』


じたばたと暴れる猫の少女を部屋の奥へ放り投げ、夜魔は優しく微笑む


『それで、うちに何か用かしら』


「あの、これ……」


ノワールはおずおずと汚れた小包を差し出す。

すると夜魔は目を丸くし、二秒後にはクスクスと笑みを零し始めた


『その包み紙……荒天組からの贈り物ね。まぁ入りなさいな』


「……はい」


夜魔に誘われるままに踏み込んだ扉の向こうは不思議な空間。何に使うのかよくわからないガラクタが所狭しと積み上げられていて、奥の部屋には数匹の魔物が和気藹々と談笑に勤しんでいた。


『善二郎さまぁ 貴方にお客様よ』


夜魔は椅子に座って本を読んでいた善二郎に声を掛け、クスクスと微笑む。

そして善二郎は生返事の後本を閉じ、夜魔の指差す方を見つめた


その視線の先には、好奇心に満ちた目で棚を見つめるノワールが佇んでいた。


「あぁ、松姫からか。随分と遅かったじゃないか」


善二郎はノワールが持つ小包を見て、やれやれと肩を落とす


「ぁ……ご、ごめんなさい……遅れてしまって」


「いや大丈夫さ。元々急ぎの用じゃ無かったからな」


ビクビクと縮こまりながら、ノワールは善二郎に小包を手渡す。


「そんなに怯えなくても平気さ。配達ご苦労さん」


善二郎はノワールの頭を優しく撫で、ふっと笑った。

誰かとよく似たその笑顔に、ノワールの頬は一瞬で紅く染まってしまう。


「それで、今日は泊まっていくか?」


「あ、いや……私、帰らなきゃ……」


「そうか。なら気を付けて帰るんだぞ」



ノワールは顔を真っ赤にしてこくりと頷き、軽くお辞儀して逃げるように外へ出た。


その後すぐに、緑の稲妻が空を駆け抜けたのは言うまでもない

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