表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
91/114

81『日暮れ』



薄暗い炭鉱の最深部。


鉄と土の匂いに彩られたその場所に、ノワールは座り込んでいた。

困惑と畏怖を込めたその視線の先には、鈍く光る正方形。


『自立式兵装制御システム・モノと申します。以後、お見知りおきを……』


無機質な声でモノと名乗った立方体は緑色の光を纏い、土壁に稲妻を走らせる。

そしてカシャカシャと不規則に形を変え、光り輝く七芒星となった。


「あわわ……」


ノワールは怯えたような表情で立方体から距離を取る。

呼び出したのは自分だと分かっていても、ノワールは距離を取らずにはいられなかった



『このような狭苦しい場所にいては気を病んでしまいます。少しばかり広くしましょう』



モノは鋭い金属音と共に輝く『何か』を飛ばし、ノワールは慌ててしゃがみ込む。


目も眩む閃光と、一瞬遅れて響く轟音。



舞い上がる土埃が風に消えたとき、そこは巨大な空洞だった


「ぇ……?」


状況が飲み込めず、ノワールはおろおろと辺りを見渡す。

上下左右数百メートルはあろうかという空洞。その所々に空いた穴から僅かな光が差しこんでいる。


緑色の稲妻を纏うモノは再び形を変え、不規則にくるくると回る正方形になった。



『モノは貴女のモノです。さぁ、ご命令を』






「さぁて、どうすっかな」


屋敷の屋根の上、浩二はどこか遠くを見つめていた。


裏山には、陽の光を浴びて黒煙を吹き出す蟲。山に倒れ掛かるその蟲の眼に光は無い。

そして屋敷の庭では、白い少女が主の元へ向かうべくとてとてと歩いている。

少し離れた海岸には、遠目でも分かる禍々しい気配。


浩二はそれぞれを交互に見つめ、それから軽いため息をついた。


「姉貴が帰ってくるまで、俺にできることは無いな」


浩二は屋敷の屋根から飛び降り、スタスタと屋敷の中へ踏み込んでいった





……俺は、しばらくの間呆然としていた。

あの写真に写っていたのは、何度見ても間違いなく俺の相棒。ユイだ


でも、あれがユイだとしたら。

手帳に書いてあることが事実だとしたら。


ユイの正体は……



「ただいま帰りました」

「!」


襖が開け放たれ、聞きなれた甘い声が俺の心を抉る。


「ユイ……」


「どうしたのですか。何だか様子が変ですよ?」


ユイは不思議そうな顔をして首を傾げ、俺の隣に身を寄せてきた。

ほんの少しだけ心配しているような顔で俺を見つめる、紅い瞳。


俺の頭の中で渦巻く疑問が、喉元で絡まって消えてゆく


「ぁ……え、と……」


気が付くと俺は、ユイの柔らかな髪を撫でていた。


「えっと……怪我、無いか?」


「?」


ユイは少しむっとして俺を見つめ、僅かに尻尾を動かす。

間近で見るとより一層際立つ幼い顔は、未だ穢れを知らない無垢な子供に見えた


あの手帳に書いてあった白い魔物がユイなら、大いなる哀しみを知っているはずだ。


よくよく考えてみたら、俺はユイの笑顔を見たことが無い気がした。


「なんだか退屈です。少し、構ってください」


ユイはもやもやした俺の気持ちを汲んでくれないらしい。

俺がどんな思いでいるかも知らずに俺の手を弄り始めやがった


かといって振り払うわけにもいかない。


「あ、あまり乱暴にしないでくださ……」


こうなったらヤケだ、とことん構っ――




「おう杉原ァ、ちっと頼みたいことが……」












「……すまん。またあとで来るわ」

「違うんですよ先輩ッ! これには訳が!」




♦♦♦♦♦



それから数時間。陽も沈みかけた頃、俺はとても広い部屋の中で夕飯を食べていた。

怖いお兄さん方とユイとスミレ先輩と一緒だ。アサギとノワールは居ない。


暁先生は刀を腰に差した美人とどこかへ行ってしまった。


そんなこんなでうやむやのうちに夕食である。

俺には焼き鮭の定食。スミレ先輩には量を調節した会席膳が出された。

ちなみにユイは懐石料理である。


改めて考えてみてもひどい格差だ。美味いから文句を言うつもりは無いが。

食事を割り振ったのは藤野先輩だというが……幾らなんでも物申したくなってしまう。


「おいてめーら。飯食ったら風呂の準備だ! 今日は女子が居るんだ。気合入れろッ」

「ウィッス」


夕飯にがっつくお兄さん方に怒鳴って回る藤野先輩。

こうしてみると頼りがいがありそうなのだが……たまに出るサドな一面が玉に傷だ


そういや、この屋敷に居るのは男の人ばかりだ……まぁ当然かもしれんが。

というよりノワールとアサギは大丈夫だろうか。

いつも藤野先輩にべったりな静華さんも居ないし……



ふと縁側から外を見ると、淡い三日月が夜空を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ