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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
90/114

80『喚ばれたモノ』

――パタン。


俺は手帳を閉じ、ふっと窓の外へ目を向けた。

忙しなく庭を駆け回るお兄さん方と、あちこちから聞こえてくる怒声が気になるが


……俺の胸には、何とも言えない気持ちが溢れていた。


手帳に込められた想い、シャーロットという女性の名。

そして、箱庭に生息していたという純白の魔物。


どこかで、何かが俺の心をチクチクと刺している気がした


「……」


ひらり、と手帳から一枚の写真が落ちた。


所々欠けている、古びた写真だ。俺がそっと手に取って見てみると、それは……

……幼い少女を抱いて微笑む、綺麗な女性の写真だった。


その写真を見た瞬間、俺の身体は金縛りにあったかのように硬直した


女性に抱かれ、恥ずかしげに笑う少女。

俺はその姿に見覚えがあった。


白銀の髪、血のような紅い瞳、もふもふの尻尾と狼の耳。

白っぽいぼろきれを身に纏うその少女は、まさしく――




「…………ユイ……」






~クロノ炭鉱・地下収容所~



暗い縦穴の最下層。

土壁に鉄の格子で隔離されたその場所に、ノワールは座り込んでいた。


「どうして、こんなことに……」


呆然と俯くノワールの胸には、薄汚れた小包が抱かれている。

何があっても、これだけは手放さないと心に誓っていたノワールは、地下へ運ばれる最中乱雑な運搬をされても決して小包を離そうとはしなかった。


牢に押し込まれた際に武器となる筆は没収され、ノワールは完全に脱出する術を失ってしまった


「誰か……」


鉄の格子を汚れた手で掴み、がしゃんと揺する。

しかし、ノワールの腕力でこじ開けられるようなものでは無い


ノワールが人としての体と理性を捨て去り、邪龍としての本能のままに力を振るえば、牢どころか炭鉱ごと木端微塵にできるだろう。しかし心根の優しいノワールは汚れながら働く獣人たちの事を想い、行動に踏み切れずにいた。


このままではどこに売り飛ばされるか分かったもんじゃない。

どうにか状況を打開せねばと考えてみても、混乱した頭ではロクな案が浮かばない。


「どうしよう、どうしよう……えぇと」


それなりに広い牢の中、ノワールはおろおろと辺りを見渡す。

そして、大きく息を吸い込み……深い、深い、深呼吸。



「……」


――ガリッ


土の床に、輝く紅色の雫が滴る。

ふわりと広がる紅い液体は滲むことなく形を変え、やがて大きな魔法陣に変わった



――『喚』



『……誰か、助けて』







バチン


暗い部屋の中、一筋の電流が走る。

電流を引き金にパッと光を宿した二つの『眼』が、空中に半透明の文字を打ち出した


【コード007819確認】

【再起動許可】

【システムオールグリーン】

【『自立式兵装制御システム-MONO-』起動します】


すると、大きな格納スペースに固定された正方形の機械に光が宿り、音もなくその形を変え、機械に覆われた手で『自ら』を固定する配線や金具をバチンバチンと外してゆく。


機械や配線が絡み合った部屋の床には、ぼんやりと光る魔方陣がある。

配線からバチバチと火花を散らしつつ、何者かは機械音と共に格納スペースから這い出した


何者かはぺたぺたと柔らかい足音を立てて移動し、その無機質に光る瞳はじっと魔方陣を見据えている





『……モノはまた、誰かのモノになれるの……?』





「組長! 裏山に魔神が!!」


「……あー?」


暁先生と共に一升瓶を煽っていた組長と呼ばれた女性は、男性をぎろりと睨む。


「うふふ。うちの生徒がお騒がせしているようですねぇ」


「あぁ、暁んとこのガキかい。ほっとけ」


組長はしなやかな手で男性を軽くあしらい、再び一升瓶を傾ける。

暁先生はほんのりと紅く染めた頬を軽く擦り、辺りに転がる数本の酒瓶を尻尾で弄る。


「し、しかし……裏山が……」


「――ほっとけって言ってるんだ。聞こえねぇのか」



「す、すいません」


男性はぺこりと頭を下げ、そのまま姿を消した。

まったりと上機嫌な暁はふと奥の扉に目を向け、舌足らずな口調で呟いた


「あの中……空っぽになってませんかぁ?」


「そんなわけないだろう暁。お前の物を見る目は確かなはずだぞ」


ごろんと空の一升瓶を転がし、組長はゆっくりと立ち上がり扉の方へ歩み寄る

そして慣れた手つきで電子キーボードを操作し、やがて扉は白煙を吹き出し開け放たれた


……部屋の中には、乱雑に引きちぎられた配線や金具が散らばっていた。



「……!」


組長はさっと青ざめて大きな格納スペースをバッと覗き込んだ。

しかしそこはもぬけの空。切れた配線が、バチバチと火花を散らしていた


「やられた……くそっ」


「おやおや、逃げられちゃったみたいですねぇ」


組長の肩越しに暁先生がひょっこりと顔を出し、くすりと微笑む。

その優しげな瞳はいつしか紅色に染まっていた



「……出すかどうかは任せると言ったが、お前の眼はやはり全てを見据えているのか」



組長は背後に佇む暁に問いかける。

しかし返事の代わりに返ってきたのは、クスクスと笑う声のみであった

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