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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
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79『各自の任務』

ノワールの前に現れたのは、5mはあろうかという巨大な機械。


複雑に絡み合ったコードとススで汚れた装甲、シャベルのようなアーム。

その中心には女性と思わしき人物が乗り込んでおり、ぼんやりと赤く光る単眼がぎゅるりとノワールを見つめている


「えっと……」


『ふん、余所者か……こっちへ来い』


機械は巨大なアームを動かし、華奢なノワールの体を地面の土ごと掬い上げた

黒っぽい土と岩と共に掬われたノワールは小包をしっかりと抱きしめ、大きく揺れるアームに振り落とされないよう必死にしがみ付いた。


トンネルを移動する機械に獣人たちは怯え、恐れる様に見つめながら道を開けてゆく。


「あ、あのっ……私、届け物を頼まれてて、だから、そのっ……えぇと」


ノワールは機械音に負けないよう声を掛けるが、操縦する女性は見向きもしない。


『静かにしろ。お前は牢に放り込んで奴隷商に売りさばいてやる』


「え……?」




~浩二宅・裏山~



重厚な地響きと共に、木々が薙ぎ倒される。

揺れる地面と倒れる木々の隙間をすり抜け、マシューは駆け回っていた。


その額には汗が滲み、服は所々ちぎれてボロボロになっている。


「ったく、あんなにでかくなるなんて聞いてないよ」


崩れる崖を飛び越え、マシューはギッと頭上を見上げた。

ザラザラと舞い落ちる木の葉の先には巨大な水色の眼が光っている


ギャリギャリと響く異質な轟音と共に、巨大な蟲が地に足を着いた


その瞬間にも地面は大きく揺れ動き、山の自然は崩壊してゆく


濡れたように黒く光る歪な刃が、無造作に山を削り取る。

大きく開かれた薄い翅が降り注ぐ陽光を遮り、山を薄闇が支配していた



『シャアァァァァァァァァァアアア!!』



耳をつんざく鋭い咆哮が、マシューの体の自由を奪っていく。

その咆哮にマシューはついによろめき倒木に倒れかかった



マシューの頭をズキズキと蝕む咆哮はまるで、バインドボイスの如くビリビリと余韻を残しつつ虚空に消えた。


「ぐ………ふざけた声出しやがるねぇ」


マシューは霞む視界を正面に定め、力の限り胞子をばら撒き続ける。

しかし、山に喰らいつく怪物に効果は無かった


魔物の頭部と思わしき場所には、一本の鋭い角が突き出している。

半月の如く大きく湾曲したその角は、見た者にとある人物を連想させるだろう


「(あのお嬢ちゃんは夜の魔物だ、長くは持たないはず……潰れるのを待つか)」


倒木を飛び越え、マシューは大きな岩の陰に身を隠した。

相変わらず魔物は無造作に巨大な刃を振るい続け、山を切り刻んでいる


「……やっぱり。力を解放したせいでほとんど理性が消し飛んでるんだ」


――勝てる。マシューはニタリと笑みを零した


『……ッ』


突然、魔物の動きが鈍くなる。

マシューがハッと目を向けると、直射日光を浴び続けた薄い翅が朽ち始めていた


魔物は苦しげに叫びつつ、それでもなお刃を振り下ろす



……マシューが身を隠す、大岩に向けて。





屋敷のとある一室。涼やかに風が通り抜ける部屋の中に、浩二は居た。

その手には一枚のメモ用紙。そして浩二の傍らには青い人魂が浮いている


「なぁ姉貴。肝試しと海水浴ならどっちがいいと思う?」


『♪』


人魂はふわふわと漂うばかりだ。浩二はやれやれと息を吐いてメモ用紙を見た


「ノワールはガラクタ屋、アサギは裏山で薪拾い。杉原と犬は物置。スミレは確か浜辺で貝殻拾い。チビは待機だったかな? 我ながら適当な仕事やらせたもんだぜ……さて、明日の予定は……っと」


浩二は光の差し込む窓から空を見上げ、ふっと笑った。




「……せっかくの()()合宿だ。本番はこれからだぜお前ら」







輝く白い砂浜に、一人佇む少女。

どこまでも青い海の彼方をじっと見つめるその瞳もまた、深い青色に輝いていた


ざぁ……っと少女の頬を撫でる風に、淡い紫色の髪が靡く。

どこか寂しげなその佇まいは……海辺の柔らかな雰囲気に身を任せ、泣いているようにも見える



少女の足元では、鮫のような魔物が砂に埋もれて幽かにうめき声を上げている




『――お嬢様。あまり長く風に当たっていると風邪を引きますよ』




少女の背後に音もなく現れた黒マントの魔物が、そっと少女を包み込む。

魔物には身体が無く、頭部にあたる場所には漆黒に煌めく仮面が浮いていた


黒いマントが一度風に舞い、少女を包んでくるんと一回転。


ふわりと金色の髪が風に揺れ、黒い仮面の奥に青い瞳が光る


マントが再び風に舞いあがった時、浜辺に佇んでいた少女はおらず、

そこには唯一の特殊科二年生。灸連寺 スミレが立っていた。


「……ありがと。フェイス」


舞い上がったマントは風と共に姿を消し、スミレは足元の鮫を一瞥し踵を返した




「……私の役目はおしまい。七天も案外、大したことないのね……」

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